個性:キングギドラ   作:ヴィーナス

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第十七話:キングギドラ・オリジン

「龍千は?」

「大人しくしてるよ。尻尾は動きまくってるがな」

 

 校長との会話後、速やかに試験を終えた彼女はそのまま大人しく他の試験を眺めていた。不機嫌そうに叩き付けられる尻尾や、閉じこもるように畳まれた翼は明らかに今までの彼女とは違う雰囲気を見せていた。

 

「普段の王様とも、怒った時の暴君とも違う……年相応の子供っぽさがある」

「何言ってんだマイク。アイツもまだ1年生の子供だぞ」

「そりゃあ分かってるけどよ……俺、アイツにスピーカー壊されたんだぜ」

「必要経費だろ」

 

 相澤は知っている。USJで心の底から楽しそうに暴れていた龍千を。グラウンドデルタに広がるコンクリートの街を更地にしてようやく気が済む程の凶暴性を。

 

 しかし、それに加えて曇らぬ精神性がある。凶暴かつ破壊的、それでいて理知的な王政を敷くだけの王の器が、彼女にはある。その精神が陰りが差している時に、俺たち大人は何をしてやれるか?

 

「……俺は龍千の今までを全て知ってる訳じゃない。だが、少なくとも、アイツの迷いに俺達が介入する事は、今のアイツにとってはすこぶる嫌なことなんだろうな」

「まぁ、それは今までの龍千を見てたら何となくわかるけどよ、それなら俺達は……」

「まだ、見守るだけだ。龍千が人の道を逸れそうになったら止める。道の歩き方が分からないなら教える。それが……教師って奴だろ」

 

 そして、不機嫌な彼女を見やる。

 

「一度、聞いてみるか」

 

▼▽▼

 

「龍千」

「……んだよ」

 

 ギドラは唸り、翼を広げ、尾を叩き付け不機嫌丸出し。声を掛けられた方を見ること無く返答するが、それでも相澤先生は恐れること無く踏み込んでくる。

 

「面談だ」

 

 誰もいなくなった教室。ミッドナイトも同席しての面談が行われることになった。椅子に腰掛け、対面に座った相澤先生を見やる。その表情は、普段の合理性を求める教師らしい顔をしている気がした。

 

「急に面談って……何、先生らしい事でもしようって?」

「そうだ。前にも言った事があるだろ」

「……そうだったね」

 

 何時だったかに、教師の云々が〜って話してたか。背凭れに体重を預けて、先の言葉を待つ。その態度に、ミッドナイトがやや眉を顰めたのが左のギドラ越しに見える。

 

 ちょっとガン飛ばしてくるね。

 

 いいけど、騒ぐなよ。

 

 はーい。

 

「最近の出来事……ヒーローの職場体験があったな。レポートは確認したが、龍千。レポートに書いていない事は無いか?」

「疑うつもり?」

「疑われるような事がありそうだな」

 

 まぁ、確かに今の言い方だとそうか。左のギドラは籠絡されて今や膝の上で幸せそうに撫でられている。お前、面談終わったら覚えておけよ。

 

 だって……。この人凄いテクニシャン……。

 

「別に。書いた通りに周りに被害を出さない戦い方の手解きを受けただけ」

「それが先の期末試験か。動きは良くなっているし、言う通りに被害は抑えられている」

「まぁね。ただ……窮屈だよ。これだけの力、振るえればどれだけ楽か」

「だが、それを選び使おうと思ったのは龍千自身だ。その選択に後悔は?」

「無いよ、当たり前じゃん」

「それは良い。それと、これは面談とは全く関係ない話なんだが……」

 

 相澤先生が一呼吸置くのが分かった。

 

「何でヒーローになりたい?」

 

 その質問が来るか。

 

 ヒーローを目指したのは私の意思だ。

 

 ヒーローを目指したのは彼女の意思だ。

 

 ヒーローを目指したのは誰の意志だ?

 

「……長くなるよ」

「構わん。話してみろ」

 

 私を目を瞑り、話を始めた。

 

▼▽▼

 

 生まれた時から、私は強かった。翼は一対、尾は二本、首は三つ。赤ん坊の時から、与えられた玩具を壊し、親を傷つけていた。母さんは大分手を焼いたみたいだけど……物心ついたときからずっと私に言い続けていた。

 

 生まれながらの王、だと。

 

 そして、私によく王様の絵本を読んでくれていた。"大いなる力には、大いなる責任が伴う"……なんて、ずっと教えてくれた。そんな私だから、ずっと王様として振る舞った。人の上に立ち、人を統べ、人を導いた。

 

 ノブレス・オブリージュ。

 

 王たる私は、常に王として励んだ。勉強も、運動も、何もかも頭一つ抜きん出ていた。……よくある話、子供なんて皆、そういう優秀な奴を持ち上げる。そういえば『ヒーローになれる』って、緑はよく言ってくれたなぁ……。

 

 王として統べる。無論、爆みたいな反対する奴もいたよ。そういう奴には、ちゃんと叛逆の道を進むのか諦めて私の下へ下るのか選ばせてあげたよ。

 

 だから、私の中に一つの答えが生まれたの。

 

 "私はヒーローにならなきゃ王の責任を果たせない"

 

 そこからは簡単だった。親もヒーローだし、こんな"個性"だし、模試も合格圏を悠々と超えていたし。

 

 私は、王として皆の期待に応えたかった。

 

 私は、王として責任を果たしたかった。

 

 私は、王としてかくありたかった。

 

 それを苦だと思った事は無い。それを投げ捨てたいと思った事は無い。それを疑問に思った事は無い。

 

 期待が、羨望が、願望が、希望が。

 

 責任が、役目が、矜持が、義務が。

 

 そう言った……洗脳にも近いんじゃないかな。王としてあらんとするこの感情が、私をヒーローになりたいと思わせた。

 

 人に望まれ、それに応える。

 

 私が望み、私が叶える。

 

 持つ者として、持たざる者に希望を与える。

 

 それが、私のヒーローになりたい理由。

 

▼▽▼

 

 龍千が目を開く。その瞳の輝きは正しく黄金。静電気が教室に迸るのと同時に、龍千の鱗が輝きを増す。

 

「これが、私の原点(オリジン)。人に望まれ、私が望んだ王への渇望と、かくあれかしという矜持」

 

 先程までやる気が無さそうにそっぽを向いていた両側の首も上から見下ろして来る。……持ち直したようだな。

 

「ふっ……案外、しっかりしてるんだな。龍千」

「何?私、そんな情緒不安定に見える?」

「まぁな。今までの行いを見たら、尚更だ」

「不服〜。私これでも人の三倍は情緒安定してるんだけど」

 

 普段の龍千に戻ったように見える。再び自身の原点を見つめ直し、揺るがぬその意志があることは分かった。

 

「俺からは一つ、力を振るうには責任が伴う。だがな、その責任は負いきれないと判断したなら、力は振るわなくていい」

「何それ。じゃあ……ああ、いや……なら、責任が取れないなら振るわないのもまた選択肢の一つって事?」

「そうだ。龍千、お前はまだ子供だ。だが、その人よりある3倍の頭があるなら判断できるだろ」

「んー……ちょっと不服。せんせーだってUSJで無理して突っ込んだじゃん」

「そうだ。そういう判断だ」

「……はぁ?」

 

 しかし、彼女はその意味を思案する様に背凭れへ体を預け目を伏せる。その代わりとばかりに右側の首が顔を寄せる。意地悪そうな顔をしたままこちらを観察したかと思えば、考えが纏まったのかすんなりと帰っていった。

 

「せんせー、もしかして私が勝てない相手がいるって思ってる?」

「ああ」

「私、負けるつもり無いんだけど。何にも、誰にも」

「だとしてもだ。何よりヒーローになるのなら、勝ち負けだけだはない」

「……周囲への被害、法律上の権限、災害対応」

「そうだ。相手を叩きのめすだけがヒーローじゃない。悪と戦うヒーローは誰しもの憧れだ。だが、そこだけじゃない。それは龍千、お前なら分かるだろ」

「そうだね。今の私は免許も無いし、この力はむやみに使えない。何よりまだ災害対応とか得意じゃないし、被害も極限させるの難しいしね」

「分かっているみたいだな。だからといって投げ出すなよ」

「そんな事しないの、せんせーが一番分かっているでしょ」

 

 すっかりと持ち直して普段の様子になった龍千。ミッドナイトを一瞥すれば、首を縦に振る。

 

「面談は終わりだ。気をつけて帰れよ」

「ん。じゃあね」

 

 龍千を見送り、ミッドナイトの待つ教室へ戻る。

 

「……私、あの子の事を誤解してたかも」

「俺もです」

「奇遇だね、私もさ」

 

 捕縛布から出てきた校長もそれに同意する。

 

「正直、驚いたね、あの時に相対した彼女は、それこそ全てを壊してしまうような憤りと、それを無理矢理にでも抑え込む理性を感じた」

「あの子自身、まだ迷っているみたいですね。それと苦手と言うべきか、彼女の矜持故の認められなさがあるような」

「相澤くんから見た彼女はどうかな」

 

 思案していた答えを出すべきか迷う。彼女には悪いが、ルール説明を抜きに始めたのは自分だ。勝利条件の分からない状態でどう立ち回るのか、それが見たかった。破壊か、殲滅か、それとも逃走か。

 

 無論、終わったあとに今回のヴィラン役からも色々言われるのは百も承知だった。こういう時に、普段の行いから一言二言で終わったのはそれで良い。特にセメントスからは"びっくりしました"の一言だけだった。マイクの指向性スピーカーは悪いとは思っている。だが、訓練中の破損は経費で落ちるから良いだろ。

 

 脱線しかけた思考を戻す。ヒーローの卵でありながら、まだまだ思春期真っ盛りな彼女は、子供扱いされる事を極端に嫌う。爆豪の緑谷に対する敵対心や、轟の様な外圧への反抗とはまた違う。年相応の、それこそ王というアイデンティティへの固執や生まれてから続く妄執とも言える。

 

「……自分から言わせてもらうとするのなら、まだアイツは子供です。それこそ、泥臭いまでに王へ固執する様な、まだまだ未熟な奴です」

「辛辣だね!だけど、担任教師である君が言うのなら、それも有るのかもしれないね」

「子供……確かに、王というよりは癇癪持ちの子供、と言った方が良い場面もありますものね」

「そこを含めて、正しい方向へ導いてあげるのが我々の役目さ。じゃ、ここで一旦面談の話は終わりにしよう」

 

 そして、校長がこちらを向く。

 

「相澤くん、君のやり方というものがあるのかも知れないけど、流石に今回は、ちょっとやり過ぎかなって思うのさ。なんて言ったってルール説明を無視して開始するのは、試験的にどうかと思ってね。相澤くんの事だから、どう立ち回るのかを見たかったんだろうけど、それだと彼女自身の実力を鑑みても少しばかり賭けに出すぎな気がしてね」

 

 椅子を用意しながら話を続ける校長。ミッドナイトに目線を送れば、口を"ドンマイ"の形に歪ませ、次いで舌を出してウィンク。逃げやがった。だが、今回の事は全て俺の責任、甘んじて受け入れるなければ。

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