個性:キングギドラ   作:ヴィーナス

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第一話:王冠は何処?

 一つにして無数の王は、自らの王政から逃れた子羊を敢えて泳がせた。いつか自分に叛旗を翻すのでは、と期待をしたからだ。それを潰すのもまた一興。

 

▼▽▼

 

 起きて!起きて起きて起きて起きて!!

 

「うるっさ……」

 

 騒がしい左のギドラを引っ叩いて静止して、時計を見る。いつもより五分遅い。

 

 ねっむ……寝てていい?

 

「良いけど、歯磨きくらいはして」

 

 歯磨きしつつ、翼脚でギドラ用の歯ブラシを掴んで寝起きの二匹を歯磨きさせる。ついでに尻尾で制服と鞄の準備をしつつ、角によるエキサイティングな寝癖を直していく。

 

「龍姫、ご飯出来てるわよ」

 

 口を濯いでいる最中だったので、左のギドラに返事をさせる。そのままリビングに赴き朝食へ。右のギドラを叩き起こして手を合わせて食べ始める。

 

 今日は試験だよね!

 

 試験だよ。全員潰して1位になるから。

 

「今日試験でしょ?頑張ってね」

「ん、捻り潰してくる」

 

 チキンステーキを右のギドラと取り合いつつ、朝食を進める。人より頭数が多く、尻尾や翼脚と可動部が多いために朝からこうして大量に摂らねば万全を期す事もままならない。

 

 そのまま、大量消費"個性"向けの栄養バーをギドラの口に一個ずつ放り込んで制服に着替える。セーラー服に袖を通して、腰まである髪を纏めずに後ろへ流す。鏡で寝癖がないことを確認し、首を回して尻尾で鞄を取る。

 

 私の名前は?

 

 龍姫(タツキ)・ギドラ・キング・龍千(リュウゼン)

 

 生まれながらの王にして、最強だよ!

 

 ん、良し。

 

「行ってきます」

「行ってらしゃい、気をつけてね」

 

 米国人である父と、日本人である母が家族を巻き込んで揉めに揉めた結果名前と姓を繋げるという暴挙に出たおかげで、日本では龍千 龍姫を、英語圏ではギドラ・キングを名乗れるのだ。何ともまぁ、折衷案というか妥協案というか。

 

 とは言いつつ、この名前には誇りを持っている。

 

 ついた、ついたよ!

 

 ここが雄英か、と上を見上げてまた視線を下げると見慣れた頭が2つ。

 

「どけデク!!」

「かっちゃん……」

「俺の前歩いてんじゃねぇ」

 

 いつも通り、か。

 

「おはよう爆、緑」

「りゅーちゃん!おはよう」

「チッ……んでテメェまで……」

「絶好調だね、爆」

 

 見下ろした緑は、あからさまに鍛え上げた身体をしていた。何を隠しているのかはわからないが、今左のギドラが擦り寄ってるが何も感じ取れない。

 

 それでも、この男は今不安の中に確固たる信念と自信を持ってここにいる。

 

「……期待してるよ、緑」

 

 くしゃ、と頭を翼脚で撫でて名残惜しそうにする左のギドラをシバいて前へ進む。

 

 期待……か。随分遠回しな言い方だな。

 

 期待してるのは本当だよ。

 潰しがいが無いと楽しめないからね。

 

 うわ出た。破壊衝動。

 

「はは、何とでもさ」

 

 試験の説明会場へと赴き、連番だった為に三人仲良く並んで座る事になった。プレゼントマイクが中央にてこの試験の概要から説明してくれる。

 

 うわぁ……凄い人。なんだっけ、ヒトがゴミだ?

 

 それを言うならヒトはゴミだな。

 

 ヒトがゴミのようだ、でしょ。今説明聞いてるから大人しくしておいて。

 

 物見遊山扱いされた緑を左のギドラが煽り始めるのを無視しつつ、攻略を考える。やるのなら、派手にやりたい。それこそ、他の追随を許さないほどに。

 

「じゃあね。爆、緑。またここで会えるといいね」

 

 爆は何も言わずに去り、緑はギドラに突かれて満足に返答出来ずに去った。私もまた、自分の試験会場へ向けて歩き出した。

 

「……広い」

 

 翼脚を一杯に開き、盛大な伸びを一つ。既に手は打ってあり、この会場周辺には雷雲が起こり始めている。周りの参加者は黒い雲を見つめては天候の心配をしているが、そんな余裕も直ぐに無くなった。

 

「ハイスタート!」

 

 反射神経を総動員して、誰よりも早く飛ぶ。ギドラの光線を雷雲に向けて放ち、肥大化させる。一番高い建物の屋上に着地し、渦巻いた雷雲から雷を自身に向けて落とす。

 

 落雷により轟音が響き、常軌を逸した電力が私の全身に巡る。

 

「は、ハハハ……!アッハッハッハッハッハッハ!!!」

 

 翼を広げ尻尾を伸ばし、両手を広げて天を仰ぐ。両脇のギドラも大興奮に吼える。

 

 最大出力で翼の棘、尻尾、両手、ギドラから光線を放ち、落雷を会場へ落とし続ける。電気エネルギーの光線は鉄の塊たるロボットに向かって引き寄せられて一匹残らず撃破していく。暫くそうしていると、途端に力が入らなくなる。ギドラ、翼脚、尻尾が脱力し、雷の放出が止まる。

 

 お……おあ……。

 

 う……動けな……い……。

 

「やり過ぎだ。他の奴の分まで独占するとはな」

 

 逆立った黒髪。眼光鋭い瞳。黒いつなぎ服。緑が言ってた事があったっけな……イレギュラーヘッド?

 

 あれだよ、消すやつ!

 

 イレイザーヘッドだな、"個性"を抹消するとかいう。

 

 ああ、それか。

 

「一緒に来い。お前のせいで試験のやり直しだ」

 

 イレイザーヘッドに連れられて、会場を後にする。とても質素な控室へ通されて暫く座っていると、18禁ヒーローのミッドナイトが入ってくる。

 

「あなたね。雄英入試初のやり直し案件を起こしたのは」

「はじめまして」

 

 左のギドラが興味津々に近寄ったのを引き戻しながら、詳細を聞く。

 

 曰く、一人で会場の敵全てを倒したのは君が初めて。そのせいで、公平性が皆無なのでやり直しになった。

 

 とのこと。そんな事言われてもなぁ。私はただ出来る事しただけなんだけどなぁ。

 

 右のギドラと顔を見合わせて、肩を竦めていると扉が開く。しかし、そこには誰もいなかった。透明な"個性"か?

 

 何かちっちゃいのおる。

 

 ちっちゃいの?

 

「そこで、君を特待生として迎えようと思う」

「根津校長!?」

 

 机の脇からテクテクと姿を表して、ミッドナイトを驚かせたのは小さな二足歩行の鼠のような何か。それを見て校長、と言っていたので、恐らくこれが校長を名乗る鼠なのだと察する。

 

「本来なら誰かの肩を借りる所なんだけど、皆入試や採点で忙しいからね。歩いてきたから、少し遅れてしまった。申し訳無いね」

 

 私の眼前……というか、足元に来た校長鼠はこちらを見上げながらそう話す。左のギドラが興味津々にガンを飛ばしに行くのを、引っ叩いて止める。

 

「君が望むなら、我々雄英高校は、それに応える用意がある。どうかな」

 

 その問いを聞いて、少しだけ逡巡する。それは、受けるべきか受けざるべきかという話ではなく、どう受けるかを悩んだからだ。答えを出し、翼を広げ、翼脚を地につける。ギドラ達も元気良く唸りながらその首を伸ばす。

 

「私は、生まれながらの王だ。だからヒーローになる。ノブレス・オブリージュはご存知か?それ故に、私はここに来た」

「……君は、その"個性"を世のために使うのだろう?」

「そうだ。ヒーローを目指したのは我々の意思だ」

 

 顔を見合わせ、そう宣言する。

 

「うん、いい顔だ。雄英は君を歓迎する。今、この瞬間から雄英は君のヒーローアカデミアだ」

 

 そこからは特待生制度と求められるモノの説明、正式な合格発表と通知はまた後日となった。

 

▼▽▼

 

 雄英の合格通知が来た数日後、何時もよりギラついた爆が緑を校舎裏に引き摺るのを見た。それを興味本位で覗くことにした。

 

「どんな汚ねぇ手を使ったらお前が受かるんだ!?アァ!?」

 

 胸ぐらを掴み、緑を壁へ叩きつける様は到底幼馴染には見えない。しかし、今回の緑はやられっぱなしじゃない。胸ぐらを掴んでいた爆の手を掴み、言い返した。

 

「ある人に、言ってもらった……!」

「あ?」

「『君は、ヒーローになれる』って……!合格だって、僕が『勝ち取った』って……!」

 

 声は、足は、手は震え、涙目になりうるうると瞳を震わせて、最早全身何から何まで震えているのでは?と錯覚するほどの威勢。あの目、あの決意を持った目で爆を見返して反抗している。あの緑が、だ。

 

「だ、だから、僕は雄英に行く!!」

 

 その威勢に、爆が手を緩めた。緑はその隙を逃さずに手を振り解くと、じゃあ、とひと声かけて去っていった。それを見送り、一人残された爆に歩み寄る。

 

「やぁ、爆」

「……ギドラ、てめぇ覗き見か」

「珍しいよねー!緑が反抗なんてさ!初めてじゃない?」

「うるせぇ殺すぞ」

「何か、裏があるとは思わない?」

「……。」

「唐突に発現した"個性"、ちょっと前からの隠し事、そして私らへの態度」

「何が言いたい」

「いやさ、緑が私の下から去った。それも緑から抜けると宣言した」

 

 アイツ、そうは言って無くない?

 

 私への隠し事は非服従と見なすのさ。

 

 この恐怖政治家め。

 

「緑には何か裏がある。だけど、それが何かは分からない。ただの情報共有さ」

「……知るか、ンな事」

「そう……じゃあね。爆、帰り道は気を付けなよ」

 

 ヒラヒラと手を振って、空を飛ぶ。遂に爆にまで反抗する様になった緑の成長を感じつつ、爆にも焦りが出てきたと推測する。どちらにせよ、私の玉座は未だ揺るがない。王冠は我が頭上に有りと謳い、春の高校生活、その始まりへ思いを馳せた。

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