個性:キングギドラ 作:ヴィーナス
結論から言うと、私は委員長になれずに終わった。流石にあそこまで身体張られたら半笑いで認めざるを得ないからね。
アルファコール使っても良かったんじゃない?
本当ならね。でも、彼の頑張りは否定できるものじゃないし。
珍しい事もあるんだな。
委員長が王という訳じゃ無い。王はなるべくしてなるものさ。
不貞腐れてる。
うるせ。
「今日のヒーロー基礎学……これについては、俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見ることになった」
三人?何か豪華だね。瀬呂が内容を聞けば今日は救助訓練だという。コスチュームの着用は自由らしいが、せっかくだし着ておこう。
救助って出来るの?
ヒトもモノも壊してしか生きてこなかったのにな。
黙れ。首を跳ね飛ばすぞ。
ガチオコじゃん……。
ほら、バスだよ。静かにしてな。
珍しい事にイジられ役に回っている爆を眺めつつ、後ろの席を独占する。そういえば緑が最初にオールマイトの動画がどうこう言い始めたのは、災害救助の動画だったか。……やけに気合入ってると思えば、そういうことか、単純な。
目的地に着いたので、外へ出て伸びを一つ。無駄に装飾の多い"個性"な為に、色んなところが痛い。やっぱり飛んだほうが皆の為にもなるし楽だ。
尻尾の置き場にも困らないしね。
翼は畳んでも背もたれ使えないしな。
ん、先生来た。
13号だ!
……結構デカイな。
ね。何か思ってたより大きい。
「皆さんご存知の通り、僕の"個性"はブラックホール。どんなものでも吸いこんでチリにしてしまう。それが、例え今までどれだけ多くの人を救ってきたか、どれだけ多くの現場で活躍出来たか。しかし、この力は人を簡単に殺すことができます」
「皆さんも、そういう"個性"がいるでしょう。この社会は、一見平和に成り立っているように見えますが、その実容易に人を殺せる"個性"を持っていることを自覚しなければなりません。入学してから、各々自分の持つ"個性"の使い方と人に向ける危うさを経験したと思います」
「なので、この授業ではその力を人を救ける事に使う。我々ヒーローの本懐である人命の救助の為にどうやって使うかをここで学んでいってください。以上、ご清聴ありがとうございました」
あー、反吐が出るね。全部潰せば済む話だよ。
所詮は綺麗事だ。なぁ破壊神。
そんなこと言ってやるなよ。13号だってあんな"個性"なのに人は殺してないんだからさ。
「それじゃあ……まずは」
来る。
「固まって動くな!」
悪意がやって来る。張り詰める空気と、明確な敵意。それを肌で感じながら、嬉しそうに両側のギドラがカラカラと鳴く。
死にに来た人達かな。
悪人は捻り潰しても構わんと法が認めている。
そうは問屋が卸さないらしいわ。ほら、焦らない。
「上鳴、龍千、お前らの"個性"でも連絡試せ」
「はい!」
「私そこまで器用に使えないんだよなぁ」
少し試してみたが、見当しかつかなかったので早々に止めた。首を回して肩を回して、翼脚を広げて地面につける。
数は?
いっぱい!
少なくとも倍はいるな。
それは残念。
「主が、おまえの名は何かとお尋ねになるとそれは答えた。我が名はレギオン。我々は、大勢であるがゆえに」
僕らも大勢だもんね!
やる気だな。
おっと、避難優先らしい。大人しく……できないみたいだね。
黒い靄が現れて、流暢に喋る。それに爆と切島が突っ込んだが避けられている。
暴れていいの!?
ここまで来たら正当防衛だろ。
じゃあ、やるか。
私達を覆い尽くすように、靄が広がる。それを真っ向から翼を羽ばたかせて風圧で寄せつけ無い。数人を残して消えているようで、恐らくは先程の散らして嬲り殺すの発言から、この施設内にはいるのだろう。
相澤先生の方へ飛び、上空から光線を照射してチンピラを制圧していく。そのまま着地して、横に並ぶ。
「どう?強いでしょ」
「確かにな、入試を思い出す。来るぞ」
面倒だったので、やることにした。この身に溜め込まれている電力を最大まで増幅し、ギドラがカラカラと嗤う。翼を広げ、咆哮する。命ずるは『平伏せよ』その一つ。
このUSJの中に木霊する咆哮は私の"個性"の一つ。チンピラは膝を折り、クラスメイトも何人か跪くのを感じる。だが、ここまでやってびくともしない存在がいるのを見る。私のアルファコールは原始的恐怖を含んだ咆哮による命令であり、それに恐怖しなければ効かず、また私に勝てると思っているような傲慢な奴も恐怖はしないだろう。
つまり、この場において歯向かって来る相手は無謀か見誤りのどちらかだ。
真っ黒いヴィランの右ストレートを翼脚で受け止める。
おっ、結構強いね!
我らには遠く及ばんがな。
アルファコールを中止してお返しの右ストレートを顔面に叩き込む。
「効かない……か」
両腕を翼脚で、脚を尻尾で抑え込んで数発腹パンをしてみるが一切動じていない。
「残念だなぁ、ソイツはショック吸収を持ってる!」
「へぇ……」
仕方ないから、この至近距離でギドラに光線を吐かせる。拘束も解いたので、そのまま吹っ飛んでいく。ありゃ良くて致命傷だな。
生きてる。
みたいだな。
再生?ショック吸収に再生とか、複合?
「その脳無はサンドバッグ人間だ!お前みたいなガキには丁度良いだろ」
「ふーん……」
飛び出して来た脳無とやらを受け止めて、空中に放り投げる。馬鹿みたいな力、再生にショック吸収。なるほどオールマイト殺しを公言するわけだ。
「フフッ、ハハハ」
コレ、凄いよ!
壊れないならやりたい放題だな!
私、初めてかも。
「壊れないなんて初めて、楽しい!」
翼を広げ、追撃に移る。
▼▽▼
蛙吹さんと峰田くんとここに来てから、あまり経たない内にアルファコールが聞こえた。彼女の命令であることは直ぐに分かり、僕ら三人やこの場所にいたほぼ全ての生物が彼女に平伏した。圧倒的な力量差、原始的恐怖、彼女の持つ"個性"は人の範疇には治まらないのだろう。
アルファコールが途切れ、僕はいち早く回復した。僕は二人に協力してもらってここにいたヴィランを倒すと、信じられない光景を見た。
久しぶりに見た彼女の心からの笑み。どれだけ四肢を潰されても再生させて立ち向かおうとするが近づく前に光線に阻まれ、翼脚で掴まれ、尻尾で貫かれ、手で肉を千切られ、足蹴にされている黒いヴィラン。彼女の殴打を耐えている辺りにショック吸収か無効化の"個性"の複合が見て取れる。
しかし、それだけだ。ギドラが噛み付いて、翼脚が両腕を抑えてサンドバッグとして全力で殴られ、ゴミの様に投げ捨てられてはまた抑え付けて思う存分に遊んでいる。
「何だよ、あれ……」
「多分……楽しいんだと思う。りゅーちゃん……昔から力強かったから、全力で殴れて心底楽しいんだよ」
「だからって、どっちがヴィランかわかんねぇよ」
「あの顔は本当に楽しそうね。でも、ヒーローとしてはどうかと思うわ」
空中から一方的に光線を浴びせ、急降下して地面に埋める。そのままタコ殴りにして更に埋める。
「駄目だ、りゅーちゃん……」
彼女の脚は、既に逆関節の脚になっている。脚で掴み、尻尾を巻き付け、左のギドラが噛み付いて持ち上げる。楽しそうに高笑いしながら上昇し、天井近くから自由落下させカラカラと鳴いている。
「ふざけんな、何だよあのガキ!」
「私はね……生まれながらの王だよ」
着地して、手だらけのヴィランにそう告げる。彼女の首元は金色の鱗に覆われ、着実にりゅーちゃんはギドラになりつつある。ああなると、りゅーちゃん凄く怖いんだ……。
「何が王だ!チートみてぇな"個性"で暴れ回りやが」
「うるさいな」
左のギドラが首を捉えて持ち上げる。だが、それも束の間。
「チッ……痛えなぁ……」
「こっちの台詞だが?」
断末魔と共に、左のギドラが崩れていく。拘束を解かれたヴィランは首を押さえてぼやくが、りゅーちゃんは完全にキレていた。
翼脚が振るわれ、ヴィランが飛ぶ。黒い靄のヴィランがやって来るが、光線を目眩ましに尻尾で胴体を捕えられ、零距離で光線を浴びている。そのまま地面に叩きつけられ、死んではいないが気絶はしただろう。
「テメェのせいでな、こっちは頭一つ無くなってるんだわ」
脚で手首を踏み付け、尻尾で胴体を叩く。見下し、光線を吐くでもなく、ただ痛めつけている。ヒーローの卵とは思えない姿ではあるが、理性が復活しつつある。さっきの痛みで落ち着きを取り戻したみたいだ。
「りゅーちゃん!」
「黙れ。殺すぞ」
左の頭が再生しつつあり、りゅーちゃんはその再生を手助けしている。こちらを見るでもなく、そう答えて拳を握る。
「駄目だりゅーちゃん!それは駄目だ!」
「お前が私に指図する気か?」
「殺すのだけは駄目だ……本当に道を踏み外すのは……」
「……興醒めだ」
最後に一発顔面に拳を叩き込んで瓦礫に腰掛ける。興醒めと言ったのは、本当なのだろう。再生した左の頭と会話している。
「もう大丈夫!」
「私が来た!!!」
▼▽▼
オールマイトの到着を以て、事件は終息に向かった。既に虫の息であったヴィラン達は、黒霧と首謀者であるとされる死柄木の2名を除き逮捕された。
ギドラは厳重注意を受けたものの、今回の事件であの脳無と呼ばれたヴィランを相手に取れたのはオールマイトかギドラかという力量差だったらしく、そこだけは褒められた。今回の事件、学校側の負傷者は緑谷だけという奇跡的な結果で終わっていて、ギドラが暴れなければもっと被害者が増えていただろう。
しかし、これを危険視するのはヴィランだけではない。
「龍千の"個性"はあそこまで強力だとはな」
「もとより特待生。やり過ぎではあったが、今回の事件では優秀と言えるのでは?」
「首謀者三人を相手にして被害者を出させずに暴れ回っていたのは事実だしな」
「オールマイトが到着した時点で既に壊滅状態。既に瀕死の脳無もオールマイトが抑え込んで終わりだったものね」
「だが、あのやる気の無さというか……急に飽きたと言わんばかりの行動はなんだ?」
「事情聴取では、興醒めしたと言っていたが」
「恐らくは事実だろうな。緑谷が止めていなければ死柄木を殺していたのも事実だ」
「あの凶暴性、ヒーローになるにはかなり抑えなければならないだろう」
「そこが問題だな。下手を打てばオールマイトより強力な少女。しかも人を殺しかねないくらいの凶暴性を秘めてると……」
教師陣はそれを再確認し、溜め息を吐く。何はともあれ、今回の事件は偽王の勝利に終わり、これからの禍根と火種を残した事件は終幕した。