個性:キングギドラ 作:ヴィーナス
不機嫌だね。
黙れ。
ガチオコじゃん……。
昨日の事件以来だな。そんなに緑に言われでっ
ヒエッ……首刎ねること無いじゃん!
お前も黙れよ。機嫌悪いのは分かりきってるだろ。
この苛立ちの原因は分かりきってる。私が、この私が緑に行動を止められたのだ。それも言葉で、だ。興醒めしたのも事実、それが不愉快で堪らない。
アイツは私の性格を知っている。だから、あのタイミングでしか止められない事も悟っていた。そしてアイツの思惑の通りに興醒めした私が殺すのを止めたのだ。気に食わない、結果的にアイツの指図を受けた形になっていることも、私の統治下に無いアイツの言う事を聞いた形になっていることも、何もかもが気に食わない。
諦めて今日は寝よう?
黙れ死にたいか。
だって……僕らのストレス発散って基本的に壊すことだからそれも出来ないなら寝よう?たまには僕の言う事聞いてよ。
……呆れた。だが一理ある。
ね?ほら、寝よう!
不貞寝、か。私らしくもない。たまにはそれもいいか。
▼▽▼
臨時の休校が明け、不機嫌を隠しもしないで登校する。入口で出会った緑がギョッとした顔で隠れたのを見逃して教室へ入る。一番後ろである自分の椅子に座り、足を組んでこのイライラの原因たる緑を射殺さんばかりに睨み付ける。
ビビってこっち見なくなっちゃったね。
当たり前だ。不機嫌だからで首を刎ねる奴だぞ。関わり合いたくないだろ。頭の処理だってがげっ……。
ほら!そういうとこじゃないの!?イラついてるからって自分の首締めるとかさ!無いじゃん!皆ドン引いてるよ!?
次余計なこと言ったら殺すからな。
……。
お前もだよ。
はい。
その後、相澤先生が入ってきて体育祭の開催を宣告された。2週間後に行われるそれは、かつてのオリンピックに代わるものであり、本心ではその場をぶっ壊してやろうかと思っていたが、合法的に暴れ回れるとして今は溜飲を下げる。
その日の帰り道、相澤先生に声をかけられた。
「龍千」
「……なに?」
「生徒のメンタルケアも、俺達教師の仕事だ」
「そんなのいらない」
「そうか?ついて来い、納得いかなければ好きにしろ」
案内されたのは訓練場デルタ。コンクリートジャングルを模したこの場所に、私と相澤先生、セメントスだけがいた。興味なさげに、両隣のギドラもやる気なく眺めている。
「来たか、暴れん坊」
「何これ」
「訓練場デルタ。見て分かる通り、本来は市街地における大規模戦闘や追跡、捜索といった」
「簡潔に話してよ。先生」
「……好きに使え。使用申請はセメントスに出せ」
へぇ。
「壊してもセメントで出来ているから、俺が直せる。被害を外に出さなければ何をしても良い」
「ふーん……感謝しとくよ」
「早速か」
足取り軽く幹線道路を歩く。高い建物もあれば、凝った一軒家とかもある。良く良く見てみれば地面もコンクリか。セメントシティとでも言うべきものかな。
良いね!良いね!凄く良いね!
やっと暴れられるのか。
「外に出さなければ、か。そこは守るよ、お膳立てしてくれたからね」
訓練場デルタの頭上に雷雲が集まる。カラカラと笑うギドラ達と共に翼を、腕を、尻尾を広げて咆哮する。それと同時に落雷を受け止めて、このイライラを発散するために全力全開の状態になる。
早く!ぶっ壊そう!
全部だ。全部壊せ。
黙れ。この破壊は私の意志だ。
近くの建物を見上げて自分より大きいと、気に入らないと宣戦する。翼を広げ、上から最大出力で光線を浴びせていく。
「は、ハハハ……」
そうだ、この感覚だ。
「ハハハハハハ!」
そこからその街を更地に変えるのに、そこまで時間はかからなかった。軽く汗をかく程度の破壊を終えて、伸びをしながら見学していた二人の元へ戻る。
「どうだ?」
「楽しかった!また世話になるかも」
「教師には敬語を使え。何度も言わせるな」
「やだ、私は王だもん。ありがとう、さよなら」
▼▽▼
「快闊というか傲慢というか……やはり、凄い子ですな」
「すみません、何度言ってもあの調子で」
「いいんですよ。それより……」
相澤の捕縛布から現れた校長は、その身長に似合わぬタブレットを持っていた。
「いいデータだね。彼女の可能性が分かる」
この訓練場デルタには、各所に雷レーダーを設置してあり、避雷針なども駆使して彼女の破壊力を推し量るための施設になっている。
「僅か数十秒で雷雲を形成し、あまつさえその雷撃を吸収する。"個性"というには余りに過ぎた力だ。雷は電力や熱、光と音を放出する。それらに耐えて自分の力とするのは、やっぱり規格外と言う他ないね」
そのほぼ全ては破壊され、通信途絶の状態であったが、最期に送信されたデータはどれもが雷系の"個性"の平均を優に超えるものであった。その電撃も脅威であるのは明白だが、この一連の破壊行動の中で彼女は建築物の柱を引っこ抜いて、その大質量を道具として使っていた。
どころか、自身のエネルギーを流し込んで強化した後に振り回すなど、普通の"個性"とは思えない使い方をしていた。
「やはり、彼女は……」
「危険だね。だけど、この雄英高校にいる間は彼女はヒーローの卵だ。我々で導かなければならない」
▼▽▼
体育祭までの二週間はあっという間に過ぎた。あの日から、調子は良いし、ウッキウキで体育祭に望む。轟が緑に突っかかったり、爆が横槍入れたりしていたが、私の様子を見てかやや緊張気味の八百万と同じくウッキウキの芦戸が寄ってきた。
「龍千さん、ご機嫌ですわね」
「何か良いことでもあった?」
「良いこと?私がこの体育祭で1位になることだよ」
八百万と芦戸の顔が引きつる。それを聞いていた轟、爆、委員長の顔が強張る。緑は青い顔をしていた。
「勝てると思うなら、掛かってきなよ。捻り潰してあげる」
空気がヒリつき、ぶどう頭がガタガタと震えだす。翼脚を地面につけ、ギドラ達がカラカラと笑い出す。
「私が王だ」
「なぁ、ギドラ」
その威圧の最中であっても、彼は一歩踏み出した。
「てめぇ、いつまで玉座に踏ん反り返るつもりだ」
「下ろされるまで、かな」
「だったらこの体育祭で、お望み通りに引きずり下ろしてやる」
真っ直ぐとこちらを見据え、そう宣言する。なるほど、爆の決意かと思っていると、轟も同じく口を開く。
「お前に負けっぱなしは、性に合わねぇ。今回でやり返させてもらう」
なるほど、私の玉座を狙う奴は多いってわけだ。周りを見渡してみれば、恐れる者、立ち向かう者、平伏する者の三種類だ。さて、と。
「じゃあ、緑。お前は?」
「はい!?ぼ、僕は……」
「このまま私の所へ戻ってこい。そうしたらまた、あの時と同じだ」
翼で緑を覆い隠しつつ、顎クイして目線を合わせる。しかし、その目は意を決した様な決意の目だった。
「どうだ?」
「僕は、僕は!君に挑戦する!!」
声は震え、膝は笑い、目に涙を溜めて、拳を握って、なお私に挑戦を叩き付けた。
「……残念だ。時間だし、行こうか」
緑の頭にポンッと手を置いて、入場する為に控室を出る。一番乗りで部屋を出た私の横に爆や轟が並び、私の下では無いと主張するように足早に進んでいく。
張り合うねぇ。
これからが楽しみだな。
通路の向こう側は光に包まれている。プレゼントマイクが私達の入場の為に色々と語っているのが聞こえる。自然と上がる口角を感じながら、その光へ足を踏み入れる。
さぁ、気合い入れて行くよ。
「ヒーロー科、1年A組の入場だあああぁぁぁ!!!」