個性:キングギドラ 作:ヴィーナス
圧倒的だった。彼女は、場に出た瞬間に一瞬のアルファコールを放ち、歓声を僅かに止めて見せたのだ。歓声から変わったざわめきの中で張本人たる彼女は、イタズラ成功とばかりにギドラ達と笑い合って悠々と進んでいる。先程の宣戦布告なんて忘れて、お前たちなど眼中に無いと言わんばかりの背を向けて。
1年の全クラスが出揃い、1年の主審18禁ヒーロー ミッドナイト先生が選手代表として特待生であるりゅーちゃんを指名する。一抹の不安と、薄々見える未来を予期しつつ、彼女がマイクの前に立つのを見ている。
「宣誓」
出だしは、とても真面目だった。優等生を演じている時のりゅーちゃんを思い出しながら、続きを待つ。
「私が王だ。私以外の1位など無い」
「「「「やると思った!!!」」」」
総ツッコミを受けながらも彼女は続ける。
「私は特待生だ。ヒーロー科だからと、普通科サポート科経営科は関係無いと思うだろう。だが、ヒーロー科を目指す者又はヒーロー科の皆に言っておく。先程のアルファコールに身を竦ませなかった者だけが私へ挑戦する権利がある。私は、生まれながらの王だ。故に、挑戦者の総てを破壊する権利と義務がある。精々、私の独壇場にならないように皆が全力を出して、歯向かってきてくれることを願うよ」
ブーイングにカラカラと嗤うギドラ。不敵に、傲慢に、獰猛な笑みを浮かべる彼女に、僕は内心恐怖していた。
何をするつもりだ、と。
だが、それで慄く者だけじゃない。挑戦者たる僕は、この状況をひっくり返さなければならない。曲がりなりにも、僕はオールマイトから後継者として指名され、この体育祭で存在を示すことを目標としている。臆せず、恐れず、何が何でも立ち向かわなければならない。
ミッドナイト先生の発表により、第一種目は障害物競走であることが決定した。外周4kmのコースを11ものクラスの人数が、コースさえ守れば何をしても良いという条件の下で走る事になる。その人数の多さであっても、一筋の道が拓ける。彼女が先頭に向かうのを、誰も邪魔できない。当たり前の様に誰もが自然と道を開け、まるで彼女の軍門に下る様に、彼女の軍勢であるかのようにその後ろについて行く。
僕らの頭上に、3つのランプが光っている。それが、一つ消える。
彼女は退屈そうに伸びをしている。
もう一つ消える。
オールマイト、僕はこの体育祭で彼女に挑戦します。
だから、見ていて下さい。
スタートの合図がしたというのに、誰も前へ行かない。それは彼女が原因だった。歩いているのだ、先頭にいながら、ギドラ達と話しながら堂々と歩いているのだ。
しかし、その背中を誰も追い越せない。
『あれ?俺、スタートって言ったよな』
『静かに見ておけ。もう始まっている』
追い越せば殺すと言わんばかりの殺意にも似た圧力。アルファコールの様な、足を止めてしまうような雰囲気を彼女は放っていた。
クルリ、と振り返ると、彼女は珍しく目を丸くしていた。しかし、出てきた言葉はその表情とは似つかないものだった。
「なんだ、この程度か」
そう言って、翼を広げて飛んでいく。瞬間、火蓋が切られる。
「ギドラアアアアァァァァ!!!」
彼女を真っ先に追いかけたのは、かっちゃん。次いで、氷が足元を覆い尽くして行動を抑制されかける。挑戦者達が動き始めている、僕も行かなければ。
誰よりも先に第一関門、ロボ・インフェルノへ到達したりゅーちゃんは眼前の妨害ロボを見下ろしつつ、ノブレス・オブリージュだと言い放って一体の上面に取り付いた。
翼脚の爪を食い込ませ、力任せに装甲を引き千切る。そこから中身へ電撃を放ち、回路がショートしたのか膝から崩れ落ちる。隣りにいたもう一体へ飛び移ると、今度は両手で穴を開けると双尾を突っ込む。
『ヒュー!流石特待生!やることが派手だなぁ!!』
すると、彼女は上面に座り、代わりに妨害ロボが歩き出した。恐らくは、駆動系を乗っ取ったのだろう。小型のロボ達を踏み潰し、蹴散らし、先へと進んでいく。
何かに使える事を信じて、りゅーちゃんが引き千切った装甲の破片を確保しておく。既に篩にかけられて、ここまで来ている人は余りいない。厭戦気分なのか、走ることをやめてしまった人達もいる。
それを許さないのがあの王様だ。振り返って、走ることを辞めてしまった人達を認識したのか、雷雲が形成されていくのが分かる。何をするつもりかは分からないが、どうせろくな事ではない。
「うわぁ!?」
『落雷!?避雷針を無視したか!?』
『アイツの"個性"だろうな。じゃなきゃ文字を書く雷なんてそう見れない』
一瞬、数発の落雷が起きる。彼女がチャージしたのかと思えば、着弾したのは彼女ではなく、後ろの人たちの前に落ちていた。
遠目に見えたその落雷の跡は走れと書いてあったのが見える。りゅーちゃんへ視線を向ければ、心底不機嫌そうに自分の後ろを指している。さっさと来いと言わんばかりだ。
恐怖に駆られたか、ようやく走り出す。彼女を追い越したかっちゃんや轟はこの間にリードを広げて第二関門へと到達していた。それでも、各々突破していたロボ・インフェルノはやはり関門というだけあってあの0P妨害ロボが立ち塞がっている。人波押し寄せてなお、その流れが悪くなったのを見てか、りゅーちゃんがまた動く。
わざわざ第一関門まで戻り、その道を丁寧に切り拓き、舗装までするかの如く暴れている。……まぁ、アレはストレス解消もあるんだろうけど。
そのまま人が流れていくのを満足気に見送り、僕がようやく第二関門の途中の小島に着いた時に、隣に降り立った。何で?
「緑、何か狡いこと考えてそうだね」
「な、何を……」
「緑の成長を願うのは本心だよ。だから、王として緑に試練をあげる」
尻尾で巻かれ、装甲の破片をその場に残して奈落に放り投げられる。スローモーションの視界の中で、第三関門へ向けて飛んでいく彼女の声がはっきりと谷底に木霊した。
「
『特待生!ここで直接の妨害に出たああァァァ!』
不味い不味い駄目だ駄目だ駄目駄目駄目駄目駄目だ!!!!
落ちていく視界の中で、周りを見る。高度はドンドン下がる。りゅーちゃんは恐らく、"個性"を使わせたいのだろう。その見え透いた試練をぶん投げてきた事を恨みつつ、集中する。
そんな時、一本のロープが張っていることを発見する。何とかそれを掴むと、上を向く。だいぶ落ちてしまって、普通に戻れば最下位すらあり得るかもしれない。
「オールマイト……」
落ち着け、まだ何とかなる。考えろ、考えろ!
「ボール投げの時と同じ様に嫌だめだここで"個性"を使えば僕は耐えられないこの後の競技に響くからここから何とかしないといけないここで"個性"を使えばりゅーちゃんの思う壺……?」
違う。
「違う、そうだ」
りゅーちゃんに挑戦すると宣言したんだ。僕は彼女に挑戦する。オールマイトの後継者として、幼馴染みとして、彼女に反逆すると誓ったんだ。今ここでやらなくてどうする!
「りゅーちゃん!」
ロープを上下に揺らし、反動をつける。
「僕は、僕は君に挑戦する!!!」
「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ロープのしなりが頂点に達するとき、その反動と同時に両腕でワン・フォー・オールを発動する。
「ここだあああああああああぁぁぁぁぁぁあ!!!」
ワン・フォー・オール カタパルト。
『奈落の底から緑谷が帰ってきやがった!!』
文字通りに射出された僕は、第三関門方面へ向けて飛んでいく。ここで気付くのは、あの時と一緒だということ。麗日さんに助けてもらった時と同じ。
「ちゃ、着地ぃ!?」
両腕は痛むが、壊れてはない。その目論見は正しく達成された。だが、この高度からの着地は考えていなかった。あの時出来なかった事を、今やるしか無い。
「さっきと同じだ大丈夫着地の瞬間に下に向けてこの力を震えば着地できる!」
「っと残念」
覚悟を決めて腕を引き絞った所で、ふわりと抱き抱えられる。その黄金の翼は見紛うこと無くりゅーちゃんだった。
「良いね、緑!ちゃんと成長してて嬉しいよ!」
「あ、ありがとう?」
「はい、今度から着地出来るようになってね」
『助けたり妨害したり発破かけたり、忙しい王様だな』
ポイッと装甲の破片が刺さった地雷原に降ろされる。りゅーちゃんはじゃあ、一位取ってくると飛んでいった。その後ろ姿に敵わないな、と思う気持ちもあったが、今は必死に追いかけるだけだ。
「りゅーちゃん!」
「……!来なよ、緑」
地雷を掘り返し、数十個集める。りゅーちゃんは先頭を進んでいたかっちゃんと轟くんの襟首を掴んで地雷原に押し戻している。
装甲の破片を引っこ抜いて、角度を調整する。りゅーちゃんは後続に向けて雷撃を放ち妨害しながらゴールへ向かっている。
「勝負だ、りゅーちゃん!!!」
装甲の破片を叩き付け、その爆風で跳ぶ。
「デクァ!てめぇまで!俺の前に来るんじゃあねぇ!」
「どいつもこいつも……!」
失速し、かっちゃんと轟くんと並走する形になる。
「ごめん、2人共……!」
装甲から着地する。その瞬間、右足だけに集中してワンフォーオールを発動させる。装甲が爆風を受けて再度加速する。それに合わせ、足場にしていた装甲を蹴り飛ばして前へ。
「負けるかあああああああああああああ!!!」
彼女より早く、誰よりも早くゴールへ。この直線なら、勝てる!あの狭いスタートゲートを超えた先、ゴールである会場に向けて一直線に。
「やるね、緑」
その声が聞こえる。後ろ?違う、隣だ。
「だけど、それは私が看過出来ない」
受け止めるように抱き抱えられてゴールする。
「私が総てを破壊する。そう決めたからだ」
『遂に走り終えた奴が出てきたぁ!最後の最後まで大暴れしていた龍千が1位、惜しくも2位の緑谷はあの状況からよく戻ってきたぁ!!』
『何位までが第二種目へ行けるかはまだ発表してねぇから、後続も続いていけぇ!』
肩で息をする僕の頭を、りゅーちゃんはポンポンと撫でるとギドラ達と話しながらその場を去っていった。
「ギドラにも、またデクにも……!!」
「……まだ、足りねぇか……!」
その背中を睨み付けるのは、二人だけじゃない。
「やはり、彼女は強いな。だが、負けていられない」
「まだ負けたわけじゃありませんわ」
それぞれの思惑、それぞれの感情、それぞれの"個性"。僕らの体育祭は、まだ始まったばかりだった。