個性:キングギドラ 作:ヴィーナス
一千万ポイント。雄英高校の体育祭、一年の部の第一種目である障害物競走を一位で走り抜けた者へ送られる、下剋上サバイバル第二種目、騎馬戦のアクセントになるものであったが、この場においては全く異なる。
「一千万ポイントね、私が貰っちゃって大丈夫?一位で通過しちゃうよ」
傲慢さを隠さず、カラカラと笑いながらそう言うのは龍千 龍姫その人である。
ここに来て、緑谷は思った。ギドラの体重に言及するのは確殺案件であるが、2m近い体躯に加えて翼やギドラ、尻尾まである彼女を2,3人で持ち上げられるか?"個性"を考えれば無理ではないが、彼女のあの"個性"をフルに生かすのなら2人騎馬が一番最適である。
だが、あの傲慢さがそれを許さない。自分の上に誰かを載せるなど、許容するはずが無い。そうすると……。
「ミッドナイトせんせー、私単騎でも良い?誰も組んでくれなさそうだし」
この15分、誰も彼女に近づけない。正確には、何人か接近を試みたが、門前払いを受けていた。二位狙いになるのは必然であった。
「入試の時みたいになりそうだものね」
「この私から一千万、取れる奴居る?」
その言葉に、反応する者が複数。
「さっきから一人でだとか、取れる取れないだとか、ゴチャゴチャうるせぇな」
「爆!爆なら私からコレ取れるかなぁ?」
「その余裕そうな面、ぶっ壊してやるよ」
この流れは……。
「ふーん……」
「緑は?取りに来てくれないの?」
やっぱり。だから、言える。
「取りに行くよ、必ず」
りゅーちゃんの目を見て、そう宣言する。
「へぇ……せんせー!私やっぱ単騎がいい!暴れたい!」
「一人ぐらい付けたほうが安心するんだけど」
「私、特待生だから!」
「そうは言ってもねぇ」
「私がこの体育祭で優勝するからさ」
「だーめ!騎馬戦なのよ!」
「チッ……」
「露骨に舌打ちすな!」
拗ねた様子で、周りを見渡したりゅーちゃんは、目星をつけたらしく歩いていく。
「お前、騎手な」
「は!?」
普通科の人、申し訳ないけど、名前を知らないその人にりゅーちゃんは声を掛けた。掛けられた方も驚いているらしく、その気迫に後退りしている。
「あ、コイツらチームメイト?悪い事するね」
「待て、俺はまだ!」
「あ?私が決めた事だ。今ならここを勝ち上がれる確約付きだぞ」
その圧力に、屈する他なかった様だ。
▼▽▼
「コレ、首から下げて絶対に失くすなよ」
「待てまっ、ぐえっ……」
ハチマキを首に通して片方の尻尾で背中に固定する。その上から片翼で覆い尽くす形でガードして、挑戦者達を見下ろす。既に始まっている騎馬戦だというのに、誰も動かない。
「それ騎馬って言うのか!?」
「うるさいな切島。私がそう言ったらそうなんだよ」
中央に陣取り、三つある頭で全方位を威嚇する。二位を狙うにも、中央のスペースを独占しているから、動きがかなり制限されているのを鑑みても、この場で動く判断を下せるのは極少数だった。
「やっぱり、来るか」
轟、爆豪、緑谷。三者三様の騎馬を組み立て、私の眼前に現れる。
「さぁ、どうする?三体一?それとも私が全部壊そうか?」
「僕らを忘れられても困るんだよね」
「あぁ……B組か、いたね、そんなの」
なるほど、四面楚歌って訳だ。そうすると少々厄介だな。
「騎手、お前自分で掴まってろ」
「何なんだ君はさっきから!」
「黙れ。落ちても失くしても殺すぞ」
お前らに尻尾の主導権をくれてやる。そのまま両側面と後ろの警戒、この騎手が落ちそうなら助けてやれ。
もし駄目だったら?
聞かなくともだな、惜しいものは惜しい。
分かってるじゃん。気合い入れて行けよ。
「さぁ、大いに暴れようか!」
翼脚を広げ、まずは飛んできた爆の胴体を掴んで投げ返す。突っ込んできた委員長及び轟を片方の翼脚で封殺しながら、常闇の"個性"である黒影に右のギドラに光線で迎撃させる。左手から迫るB組の金髪の騎馬の眼の前に、光線を薙ぎ払って動きを止める。
「沈む……か。レディに体重の話をさせたのはお前か!」
骨みたいな顔をした奴を特定して、中央から上空へ離脱。脚を逆脚にして、上からハチマキを狙う。しかし、茨による迎撃が来る上に、騎手がやけに硬い。
「崩さないようにするのも楽じゃないね、全く」
しょうがないので、騎手の両手を両足で掴みガードをこじ開け、茨を光線で焼き切り、ハチマキを取る。それを背中で死に物狂いで掴まってる騎手の首にかけて着地する。
『さぁ!まだ二分とちょっとで王者が大暴れ!これは二位狙いが多いかぁ!?』
追ってきた爆豪をまた投げ返して、今度は足元が凍るのを踏み潰して突破して轟のハチマキを狙って前へ。
「来るぞ!八百万、上鳴!」
「はい!」
「任せろ!」
八百万が絶縁体を出したのを見て、放電が来ると予測。そうか、皆の前でやったこと無かったか。
「行くぜぇ!!」
「残念、私はね」
右の翼脚でその放電を吸収する。その姿を見てか、轟の顔が強張り、上鳴は驚愕の色に染まっている。
「王なんだ」
「クソっ……!」
絶縁体で防いだの見て放電する。人体に害はないが、ちょっと痺れるくらいだ。さっきから追撃してくる骨野郎の所を巻き込んだのを見て、また上空へ離脱。
「さっきから人の上を飛んでんじゃねぇ!!」
「爆、ちょっとしつこくない?」
『騎馬戦って空中でやるものだったっけ?』
『騎手は地面についてないし、騎馬は崩れていないからセーフだな』
爆風で滞空して私に着いてくる辺りに執念を感じる。飛んでいるために、姿勢制御で尻尾を使っている関係上、両手足でしか爆を迎撃できない。
それを爆は知っている。もしくは見透かしている。だから、こうして空中で仕掛けてくるのだろう。ギドラは警戒に回り、翼脚も尻尾もない私であれば、突破出来ると踏んでいるのだろう。
「来なよ爆!お目当ては私の後ろだよ」
爆速ターボで接近してくるのを急降下して距離を取ると、背中が軽くなったのを感じる。
落ちた!
クッ、届かん!
「離すなと言っただろ!」
「無理がある!!」
落ちていく騎手の脚を逆脚で掴むと、宙吊りになった騎手を見逃すはずも無く爆が来る。ギドラ達じゃ間に合わない、両手じゃ届かない、姿勢が不安定過ぎて、どうにも迎撃できない。
もう一つ見えた。下から、緑が騎馬ごと飛んできている。黒影が手を伸ばすのが見える。
「あっ、やっべ」
騎手が爆の一撃を防ぐも、その隙をついてハチマキを黒影に取られていく。
「取られた!」
「……。」
「デクァ!てめぇ、それを寄越しやがれ!!」
『ここに来て龍千チーム、首位陥落!!さぁ残り時間は半分だ、巻き返せるかぁ!?』
ま、まずは体勢を整えよう!ね!?
まだ時間はある。ここから巻き返すぞ。
騎手を下ろし、着地する。背中に尻尾で固定して、翼脚を地面に着ける。
「今度は離すなよ」
胸いっぱいに息を吸い込み、咆哮する。空気が震え、観客席まで静かになっている。顎を引いて、目標を見据える。
「まずは緑から取り返す」
「りゅーちゃんが来る!」
絡んでいた爆やB組の金髪を分断するように光線を放ち、その隙に逃げた緑を追いかける。
「機動力が違いすぎる……!」
「緑、それを返せ」
黒影を光線によって釘付けにして、サポート科の奴のアイテムによる離脱を図った為にギドラに回り込ませて背中のジェットパックを破壊する。
「私のベイビー!」
翼脚で両側から挟む形で迫れば、緑はそれから身を守る為に両手を使う。そうすれば、後は無防備なハチマキを取るだけだ。しかし、ここで緑は私の予想を超えた。
「麗日さん!」
「任せ、てりゃぁ!!」
麗日の"個性"で浮いているのを活かして、180度の方向転換。翼脚の下をすり抜けて距離が離れる。あぁ、イライラしてきたなぁ!
押し切るぞ、守るべきものも無いしな!
「来てる、来てる来てる来てる!」
「凄まじい殺気……体育祭で出すべきものではないな」
猛追、その言葉が似合う程に緑を追いかける。しかし、それを狙うのは私だけじゃない。私から移った事で争奪戦になりつつある。そんな面倒な事はしたくないので道すがら略奪する。
「お、葉隠良いもの持ってるじゃん!」
「わーっ!?返して!」
「大人しくそれ寄越しな」
「くっ……力では敵わないか……!」
「うおぉぉぉ!頑張れ障子ィ!こじ開けられてるぅ!」
「やっぱり強いわね、ギドラちゃん」
「あああああ!取られた!!」
『ここにきて龍千チーム、ハチマキを強奪しまくる!それが王のすることか!?』
「王は民から吸い上げて成り立つものさ」
さて、と。
「勝負と行こうか、緑」
『さぁ、龍千チームが緑谷チームを追い詰める!残り時間は5分!勝利の女神は誰に微笑むのか!?まだまだ分からねぇぜ!!』
黒影は光線で抑えられる。しかし、麗日の"個性"の可能性、サポート科のアイテムの残存数とその効果、まだ不安要素は多く残っているが、それに足踏みするほど臆病ではない。
「皆、さっき伝えた通りに!」
「何してくれるのかなぁ……楽しみだ」
目眩ましの光線を緑達の前に横薙ぎに放ち、距離を詰める。翼脚で左右から挟み込もうとすればやはり黒影が出てくる。対抗するが、拮抗はしない。じりじりと押し込んでいく。
「敵わないのは知ってるでしょ」
「常闇くん、そのまま!」
その瞬間、身体が浮く。
「麗日、か。こりゃやられたね」
幾ら姿勢制御して、空中を動ける私と言えども、生殺与奪を取られるとは。
「それだけじゃない」
黒影を踏み台にして、緑が踏み切ってくる。
「そう来るか」
黒影が緑を補助して、跳ね上げる。
「解除!」
ああ、そうか。麗日が両手を合わせられるのは、騎手が空中にいるから騎馬が崩れている訳じゃ無いからか。
落下する私の背後で最高到達点となった緑が手を伸ばす。ここからじゃ、私の飛翔も姿勢の立て直しも間に合わないか、手足は届かないと思った訳だ。でも、残念。
「騎手、取れ!さもなくば殺す!」
「言われなくても!」
尻尾を解いて、名も知らぬ騎手を放つ。空中で交差する形でハチマキを奪った騎手を追いかけて飛ぶ。地面スレスレでキャッチして、振り返る。
「取った!!」
緑が逃げなかったお陰で、騎手はハチマキを奪われた代わりに一千万を取り返してきた。
『おおおぉ!?龍千チーム、まさかの一千万ポイントを取り返したぁ!!どんでん返しで王座復活だ!』
「良くやった騎手!二度と失くすなよ!」
緑が黒影に回収されているのを見て、即座に離脱。緑と距離を取りつつ周辺を見渡すと、爆がB組相手に憂さ晴らしの如く暴れているのを見つつ、今度は轟がやる気に満ち溢れた顔で向かってきているのに目を留める。
「龍千。この戦いは貰うぞ」
「大きく出たね。来なよ」
直後、放電と氷結で周りの動きが止められる上に、サシのフィールドが作られる。
「残り二分だ。決めるぞ」
伝導させるための棒を片手に、轟が向かってくる。なるほど、少しでも動きを止める策か。だが、弱い。翼脚を地面につけて四足歩行のようにして、氷を割れるようにする。騎手は背中に座る形になって、多少自由に動けるようになっている。
「八百万!」
「はい!これを!」
盾と棒を持った騎馬もかくやの轟が突っ込んでくる。無策?いや、絶対に何かある。
「残り一分だ飯田、やれ!」
「ああ!獲れよ轟くん!」
トルクオーバー・レシプロバースト。そう叫んだ飯田が凄まじい加速をするのが見える。ま……はっや……。
「取った!」
「一本取られた!」
ごめん!間に合わなかった!
そうだな、だが良くやった!
「一千万じゃねぇ」
「危ない事するな!だが、終わりだ!」
超加速、普通の人間なら到底反応出来ないであろうその速さ。私は駄目でも、ギドラは別だ。尻尾で騎手を後ろに引き倒して回避させた。騎手が文句言ってるが、あと数十秒で終わりだ。
立ち上がり、周辺を確認すれば爆が単独で氷を超え、切島達は芦戸が氷を溶かして、緑達が黒影で氷を割ってフィールドに侵入してきている。
「騎手、掴まってろ!」
「もう腕が限界だ!」
「泣き言言うな!」
『さぁ!そろそろ時間だぜ!カウントダウン、行くぜ!』
飛んできた爆が、翼脚をすり抜けて右のギドラに咥えられる。
『10!9!』
投げ返された直後に、回収されて行く爆を尻目に黒影を光線で牽制する。
『8!7!』
何とか持ち直した轟達が向かってくるのを一瞥して、後方に飛び退く。
『6!5!』
今度は騎馬ごと爆速ターボ吹かした爆が突っ込んでくるのを翼脚で受け止め、氷結を光線で薙ぎ払って侵食を止める。
『4!3!』
黒影で光線を受け止めながら突っ込んできた緑を、騎手が防ぎ尻尾でその手を止めさせる。
『2!1!』
爆が単独で飛び、私を飛び越す。
『TIME UP!!!!!』
『じゃあ早速、上位チームを発表していくぜ!』
落ちた爆を気にせず、騎手を下ろす。
「おんぶにだっこ、だった。ありがとう」
「まぁ、お荷物にしてはそこそこ活躍したよ。良くやった」
「傲慢だな、君は」
『1位はもちろん、龍千チーム!』
『2位は轟チーム!』
『3位爆豪チーム!』
『4位、緑谷チーム!』
「あー、怖かった。久し振りにヒヤヒヤしたよ。じゃ、また午後ね」
緑達に手を振って別れる。
気にしてるな、取られた事。
黙れ。刎ねられたいか。
ガチオコじゃん……。勝ったから良いでしょ。
刎ねるなよ?自分の弱点見破られて詰められて取られたんだ。素直に受け入れることも必要だと思うが?
うるさない。飯抜きだよ。
刎ねられるよかマシだな。
こうして、第二種目の騎馬戦は終わりを迎えた。次は最終種目。毎年、形式は違えど1対1のタイマンなのは変わりない。さてはて、今年は何になるだろな。