個性:キングギドラ   作:ヴィーナス

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第七話:王威烈火

「あ、いた」

「……母さん」

「もー、不貞腐れてないで。ほら、ご飯持ってきたから」

 

 左のギドラが甘えるように顔を擦り付けているのを無視して、連れられてベンチに座る。弁当の良い匂いがして、左のギドラが我先にと顔を近づける。

 

「まさか、選手宣誓であんな事言うなんてね。はい、三郎あーん」

 

 あーん。唐揚げ旨い!

 

「事実だし」

「だからって……。まぁ、龍姫らしいと言えばらしいけどさ。ほら、次郎も食べて」

 

 ん……やはり母上の手料理は格別……。

 

「私だって、ヒーローだから呼ばれてたけど、テレビ中継見てるお父さんは気が気じゃないでしょうね」

 

 あ、卵焼きだ!わーい!

 

「自分の力を過小評価し過ぎ。もっと全力でやりなさいな」

 

 俺にも卵焼きを寄越せ。

 

 やだ!お母さんの卵焼きは俺の!

 

 黙りな。私のだよ。

 

「コラ!取り合わないの!まだあるんだから」

 

 まぁ、頭が三つでも身体は一つなのでどの頭で食べても一緒なのだが。昼食を終えて、昼休憩が終わりに近づく。

 

「ごちそうさまでした。じゃ、昼からも頑張ってくる」

「龍姫、勝ってきな」

「もちろん」

 

 伸びを一つして、歩き出す。控室へ戻れば、やや慌てた様子の八百万に声をかけられた。何かあったっけ。

 

「龍千さん、午後は女子全員で応援合戦があるらしいです。こなれを」

「へぇ……誰から?」

「峰田さんから、相澤先生の言伝と」

「ふーん、そっか」

 

 相澤先生が言うならそうか。じゃあ、まぁ着替えるか。

 

 そうして、午後の部に突入したのだが。

 

『どうしたぁ!?A組ぃ!?』

「……なるほど。峰田か」

 

 上鳴と親指を立て合っている峰田を見つけて、ぶち殺してやろうかと思ったが葉隠がこれもまた一興と踊り出したのを見て止めた。ポンポンを塵にして、殺気に逃げた峰田と上鳴に中指を立ててミッドナイト先生の敗者復活戦の号令を聞く。

 

 上位4チームの予定だったが、14人だとガチバトルというには不公平なシード枠や対戦数になってしまうので敗者復活戦にて二人を復活させることにしたらしい。14人は先にくじ引きしてトーナメントを組む。

 

 なんと、まぁ。

 

 緑谷とは戦えそうにないな。無論、我々は爆豪と戦うことになりそうだが。

 

 初戦の相手は芦戸。お隣さんは常闇と八百万、どちらも私には敵わないので眼中にない。宣戦布告してきた3人の内2人である緑と轟が反対側のツリーにいるので、決勝でしか会えなさそうだ。

 

「ギドラ」

「爆、そっちから来るとは珍しいね」

「俺は、お前を倒して優勝する」

「……そっか。待ってるね」

 

 更衣室へ向かい、着替えに行く。レクリエーションには参加せず、近くのベンチで携帯を弄る。やたらと装飾の多い個性なので、背もたれもベッドも使いにくいしで人の生活には向いていない。雄英はバリアフリー化されていて過ごしやすいが、椅子とかはどうにもならないものだ。

 

 そろそろ出番じゃない?

 

 みたいだな。行くか。

 

 ん……。

 

 気合入れていこう!ほら!

 

 行くぞ、破壊神。

 

 分かった分かったから。

 

 伸びを一つ。首が多い分、肩が凝るし色んなところが色んな風に干渉したりする。この悩みを分かち合える人はいないが、王なればこそ、乗り越えられる。

 

 通路を通り、ちょっと遅れて試合場へやって来る。

 

『さぁ、これまで一位で通過してきたコイツを、待ってたんだろぉ!?龍千 龍姫の登場だああああぁぁぁぁ!』 

「お、いい紹介だね。ありがとう」

「私の時はそんなこと無かったのに」

 

 ほっぺを膨らまして、そう講義する芦戸に正対する。

 

「そりゃそうだよ。私はね、王だから」

 

『じゃあ早速!!スタートオオォォォオ!!』

 

 翼を広げ、ギドラ達が楽しそうに威嚇する。

 

「か、勝てるかなぁ……?」

「勝つつもりで来な。潰して上げる」

「じゃあ、お言葉に甘えて!」

 

 走り出すと同時に、前方に酸を撒く。走った慣性そのままに酸で摩擦を減らして急接近してくる。

 

「おりゃああ!!」

「いい考えだ。私が相手じゃなければね」

 

 芦戸を勢いそのまま尻尾で絡め取って場外へ投げ飛ばす。空中での復帰手段の無い彼女は、そのまま場外に着地する。

 

「芦戸さん場外!二回戦進出、龍千さん!!」

 

 悔しそうにする芦戸の頭を撫でて、相手が悪かったと伝える。

 

「今度は勝つ!」

「その意気だよ。いつまでも待ってるさ」

 

 会場から出る際に、トーナメント表を確認する。勝ち上がっているのは緑、轟、塩崎、飯田そして私。次は八百万か常闇か。まぁ、どちらにせよか。このまま歩くのも面倒なので観客席に飛んで戻る。席を開けさせ、そこに座る。

 

「邪魔するよ」

「分かってるなら帰ってくれよ」

「黙りな峰田。次が始まる」

 

 八百万と常闇の試合。時間が勝負って所かな。速攻で沈めれば常闇が、凌ぎ切れれば八百万が勝つと思うけど。まあ、どちらにせよ勝つつもりだけどさ。

 

 試合開始と同時に常闇が速攻を仕掛ける。これは常闇かな、と予想を立てれば八百万は反撃に移る事無く場外に追いやられてしまう。

 

 次の相手は常闇か。

 

 楽勝だね!コテンパンにしよう!

 

 そうだね。次のダダ被り対決は暇そうだし、ちょっと席を外すかな。

 

「あれ?どっか行くの?」

「次の出番には戻る」

 

 どうした破壊神。柄にもなく緊張か?

 

 あ……違うねコレは。

 

 なるほど。人様には見せられない顔だな。

 

 今の私は、酷い顔をしているだろう。口角が吊り上がっているのを感じるし、油断すれば頬が綻んでしまう。

 

 ああ、爆。君と殴り合える時が待ち遠しくて堪らない。

 

 この近くに林みたいな所があったな。

 

 そっち行こ?そこなら人来ないからさ。

 

 ちょっと主導権あげるから連れてって。私、耐えられないかも。

 

 破壊神め。行くぞ三郎。

 

 えー、面倒だから次郎やってよ。

 

 はぁ……仕方ない。

 

 暫くして、近くのベンチに腰掛けて顔を覆う。手で触れてより解る。一般的に、人には見せられないと。

 

 その顔、ちゃんと仕舞っておけよ。

 

 ちょっと無理かも。

 

「……大丈夫?」

「あ?……さっきの騎手か」

 

 凄い変わり身の早さ。

 

 よく表情変えれたな。

 

 後でしばく。

 

「何か体調悪かったりする?」

「大丈夫だ。何、次のトーナメントに向けてイメトレさ」

 

 そう言いながら、立ち上がる。

 

「さっきは良い勝負だった」

「見てたのか。まぁ、負けるべくして負けたね。あれは」

 

 見てないだろ。

 

 こう言っとけば丸く収まるんだよ。

 

「君の未来に期待しておくよ。その"個性"、私は普通科で腐らせておくには勿体ない」

「君ほどのヒーロー科に言われたら、万々歳かな」

「励めよ。じゃあ、私は戻るよ」

「ああ。そうだ、まだ名前を伝えていない」

「名前?ああ、そうだったね。私は龍千 龍姫。又はキングギドラ」

「選手宣誓で聞いたよ。まだ覚えてる。改めて、心操 人使。よろしく特待生」

「ああ、覚えておこう。じゃあな」

 

 良い暇つぶしになった。

 

 表情も治ったしな。

 

 黙りな。ほら、戻るよ。

 

 次は常闇だったか。

 

 あ、二回戦が始まったんじゃない?

 

 緑と轟か。ちょっと気になるし、飛ぶよ。

 

 翼を広げ、スタジアムを上から侵入する。そのまま直下降で観客席へ降りる。丁度空いていた席に目掛けて降下し、直上で減速して着地する。

 

「うおっ!?」

「きゃぁ!?」

「ごめんごめん、急いでたからつい」

『龍千、後で職員室に来い』

「いやでーす」

 

 何はともあれ、緑と轟の試合が始まる。これは……まぁ、お互いに手札が切れる訳じゃないしね。どちらもお互いの対策が出来てるわけだし、手数で緑の負けかな?それとも……。

 

 試合開始と同時に氷結、それを緑が吹き飛ばして相殺する。冷たい風が吹き荒び、観客席から悲鳴が上がる中で緑が駆け上がる。

 

「仕掛けるか」

 

 緑が距離を詰めて、殴り掛かる。しかし轟もそれに反応して氷結を放つ。障害走で見せた"個性"の使い方で、最小限でそれを打ち破り、肉薄する。

 

「おお、流石の観察眼だね。爆、今のどう?」

「右足が上がった瞬間に距離を詰めてやがる。何より、今まで瞬殺してた轟相手に、デクから速攻仕掛ける辺りに対策があるんだろ」

「うん、そうだね。緑は何を考えてるのやら」

 

 懐に入り込み、ここに来て右ストレートが入った。爆の言ったとおり、右足が上がって氷結が放てないタイミングで"個性"使って肉薄、という成長を見せてくれる辺りに期待が持てる。

 

「それだけじゃ勝てねぇだろうな」

「まぁそれはそう。轟も、かなり強いからねぇ」

 

 吹き飛びかけたのを、右手を地面に掠めて氷壁を作って防ぐ。緑はまだ指一本を犠牲にしただけで、まだ互角といった所。さて、緑……君はどうする?

 

 空中戦は不利と判断したのか、上への回避をせずに横に跳ぶ。だが、そこは範囲攻撃を得意とする轟が見逃すはずもなく追撃する。氷を粉砕して、再度肉薄する緑に、今度は氷壁が立ちはだかる。

 

 氷壁へ激突しかけて既で止まった緑を、氷壁越しに氷結させるべく轟が仕掛ける。それを、同じ様に氷壁越しに2本目の犠牲を伴って打ち砕く。再度、距離が開く。

 

「……?」

 

 紅白の身体に霜が降りている。

 

 もしかして轟ってさ、周りを凍らせてたら自分も凍るのかな?

 

 ああ、なるほど。耐性があるだけで効かない訳じゃないのか。動きが鈍くなるのなら、緑にも勝機が見えてくる。

 

「爆、轟をどう見る?」

「どう見るも何も、左側使えばデメリット無しで動けるだろ。舐めプしてやがる」

「だよねぇ。私も手札全部使ってるのにさ」

「……。」

「なぁにぃ爆ぅ?不満気じゃ〜ん?」

「黙れ。まだ2、3個隠し持ってんだろ」

「やだなぁ、私は手札は全部見せてるよ。そして、それを相手が止められないってだけだよ」

 

 実際、飛べて光線出せて三つ首で、翼と尻尾があるだけだもんね。

 

 それが強力なだけだ。我らも"個性"の一部だ。

 

 "個性"が無かったらお前らいないとか想像つかないよね。

 

 おっと、緑達の動きがあったみたいだ。緑が指を犠牲にしつつ場外への押し出しを画策していたのか、轟が土俵際って所。緑は右手をぜんぶ使い切ったようで、痛々しい色をしている。轟も、霜が降りてから氷結の速度も自身の動きも鈍っているようで、緑は見てから対応しても余裕をもって対処している。

 

 何か叫んでる?

 

 私、遠くて聞こえないけど。

 

 ふむ……我らも何か叫んでる程度しか聞こえないな。もう少し近づけばなにか解るかもしれないが。

 

 氷結を飛び越え、左手のストレートがまた轟に突き刺さる。良いね、緑。

 

「ギドラ、てめぇ……」

「んぁ?何?」

「ひでぇ顔してやがった。笑いもんだな」

「……緑に期待しちゃった。アイツの未来、私に歯向かう未来が楽しみでたまらなくてさ」

「お前」

「爆。次、期待してるよ。」

 

 その言葉に、爆の目付きが鋭くなる。しかし、私はそれに応えることなく立ち上がる。

 

「あぁ、ごめん、私ちょっと止められなくなるかも」

 

 内なる破壊衝動が、抑えられなくなる前に席を外す。これ以上は本当に不味い。人のいない廊下に出て、再生できるからと左手首を握り潰す。

 

 うわぁ!?何してるのさ!?

 

 抑えが効かないからって、お前!

 

 大丈夫、大丈夫だよ。ほら、まだ繋がってる。

 

 五指を握り潰し、血が滴るの眺めながら、痛みで段々と落ち着いていくのを感じていく。

 

 楽しみ、楽しみで仕方ないの。爆と早くやり合いたい。私、私、本当に楽しみなの。

 

 分かった!分かったから!左手酷いことになってるから!

 

 これは、常闇が可哀想になるな。

 

 ……ああ、いたね常闇。丁度いい前座にしてあげる。

 

 その時、会場の方から凄まじい風が吹き込んでくる。その風は、距離が離れているのに、この風圧というと相当な何かが起きたのだろう。高ぶる気持ちを抑え付けて私の番を待つ。

 

 だから!左腕が!……あーあ、知ーらない。

 

 これは……ちょっと時間かかりそうだな。

 

 ありゃ、ちょっとやりすぎちゃった。

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