金しか信じない傭兵ルカ。
彼をそうさせた過去のとある事件が明らかになる――――
――――数年前
『――――俺が兵士になったのは皆を救えるヒーローになりたかったからです!』
――――その言葉を胸に戦ってきたルカ・ルキヤノヴィッチ・ロシュコフ少尉は絶望の底にあった。
部隊の兵士達は皆疲弊しており重傷者も少なからずいる――――援軍を要請したルカに上官は冷酷な返答を返した。
「他に回せる戦力がいない。今いる人員だけで頑張って欲しい」
――――――――――――――――
上官やその取り巻きが狂喜乱舞するなか、ルカの左手には30を超えるIDタグがぶら下がっていた。
本部からやってきた将官らが上官を褒め称えるなか、歩み寄るルカ。
「おお、ロシュコフ少尉――――いや、昇進して中尉だったな!ありがとう!お陰で私は本部への栄転が――――」
上のご機嫌取りの為だけに自分達を消耗品のごとく使い潰した厚顔無恥な上官の左頬にルカの拳が炸裂し、上官が吹っ飛ぶ。
「お前は上に敵戦力が予想以上に多く犠牲者が出た――――そう言い訳したらしいが、最初から予想されていた事だろうが!それをお前は予算を投じるのを惜しんで戦力も弾薬も医療品も不十分な部隊を送った――――証拠も押さえている」
ルカが突き出した書類を将官のひとりが受け取り、顔色を変える。
――――――――――――――――
「――――執行猶予で釈放ですって!?そんな馬鹿なことが――――」
一度は銃殺刑が決まった筈の上官が釈放されたと聞き、言葉を失うルカ。
「すまない、ロシュコフ中尉――――向こうの実家が莫大な保釈金を本部に支払ってきたのだ。それで憲兵隊は決定を覆してしまった」
申し訳なさそうに告げる憲兵隊の少佐。
ルカが信じた筈の正義は金によっていとも容易く捻じ曲げられる――――
そこにはヒーローを目指した兵士の姿はなかった。
――――――――――――――――
――――そして現在
「ねえ、ルカ!聞いてるの?」
数ヵ月間続いた交流の中で縮まった距離がキャリーの言葉から感じられる。
「ああ、ごめん。ぼーっとしてた」
荷物をジープから降ろすルカ。キャリーと一緒にそれを運び、保育所の職員に手渡す。
「ありがとうございます。これ、お礼です」
そう言いながら職員がキャリーに手渡したのは、保育所に優先的に配給されている栄養食品の缶詰の箱だった――――
(――――専門の業者に頼むより安上がりだな)
箱を笑顔で受け取るキャリーの横で職員の方を見ながらゴーグル越しに冷ややかな眼差しを送るルカ。
――――公園でジープから折り畳み式自転車を降ろすキャリー。
「キャリー、もう人助けは止めた方がいい」
ルカの言葉にキャリーが困惑する。
「あの保育所で君が受け取ったお礼の品――――正直、同じ仕事を業者に頼むより安上がりだ。奴らは君の善意に甘えて君を使い潰そうとしている」
「でも、あの保育所だってお金が沢山あるわけじゃ――――」
「本当にそう思う?君には嘘をついているだけで本当は予算を自分の懐に入れて――――」
そう言いかけたルカがキャリーの表情に怒気を感じ、固まる。
「あの人たちのこと、あなたに何が分かるの」
口調からはっきりと感じられる明確な拒絶の意思――――
無表情になり自転車を漕いで立ち去るキャリーの背中をルカはただ見送ることしか出来なかった――――
――――その夜のことだった。キャリーが何者かに拉致されたという知らせが入ったのは。
~次回予告~
キャリーを拉致したのは、かつてルカを使い潰し軍を追われた元上官だった。
皆がキャリーを助けようとするなか、心が弱ってへし折れてしまったルカは救出への参加を拒否する――――
№013『再起』
ご期待ください!