都合よく消費され傷付いた兵士。そんな彼を救ったのは幼馴染の女性だった。
――――2081年・スウェーデン
「――――いいぞ!あいつらをぶっ殺して来い!」
「悪魔を一人残らず倒して!」
「俺たちのヒーロー!!」
大衆の歓声を浴びながら戦地へと向かうトラックに乗り込むレイヴンズの兵士達。その表情はバラクラバに隠れて見えない。
そんな中、ステファン・レーヴ少尉は恋人の言葉を思い出していた。
『――――必ず帰ってきて』
脳裏に焼き付いているのは、パウラの涙を浮かべた笑顔だ。
必ず生きて帰る――――ステファンはそう誓うのだった。
――――――――――――――――――――
数ヶ月後、レイヴンズ本部が陥落しCSSの再編が始まると共に反レイヴンズ組織の掃討作戦に参加していた兵士達には作戦の中止と帰還命令が届いた。
――――ようやく帰れる――――
そう安堵したステファン。だが、彼を待っていたのは残酷な現実だった。
戦争犯罪に関与していない事が確認されたステファンは一足早く故郷への帰還を許されたが、生まれ育った町に足を踏み入れた途端に町の人々からは人殺しを見るような冷たい眼差しを浴びせられた。
『平和を望む善良な市民を騙して人殺しをしてきた邪悪な軍人』
そんな烙印を押され、切り捨てられた事を嫌でも思い知らされる。
「どの面下げて帰ってきた、人殺しめ!」
「人でなし!出ていけ!!」
――――そこに近づく足音。
「――――人でなしはどっちよ!!」
凛としていて、それでいて聞き覚えがある声――――
その声の方に向くと、そこにはパウラが立っていた。
「悪魔を殺せ、一人残らず倒せ、と言ったのは誰よ!」
パウラが周囲を睨み付けると、町の人々は言葉に詰まったように沈黙する。
「誰かひとりでも生きて帰ってこい、と言った!?」
答えは返ってこない。
「結局、自分達は危険な所に行かず、嫌いな相手をステファン達が殺してくれるのを安全な所から眺めていたかっただけよ!」
その言葉に町の人々は恥じ入るような表情を浮かべる――――
――――――――――――――――――――
2人で暮らしていたアパートは町を旅立った日と比べて荷物が整理されていた。
「――――この町を出ていきましょう。ちょうど東アジアのハイテク企業にヘッドハントされたの」
「――――え?」
呆気に取られるステファン。
「あんな裏切り者の為に尽くすことなんてないわ」
そう言いながらパウラがステファンへと歩み寄る。
「――――ありがとう。帰ってきてくれて」
ステファンの首に回された腕が彼を包み込む。
次の瞬間、ステファンの身体が震えたかと思うとパウラを抱きしめ嗚咽を漏らした。
抱き返すパウラの目からも熱いものが流れ出す。
――――――――――――――――――――
――――30年後:2111年
国連:極東行政管区・旧中国エリア:上海
アジアにおける国際都市として復興したこの地に立つ摩天楼のひとつ。
最上階のオフィスで椅子にもたれて眠っていた壮年の女性が目を覚ます。
「よくお休みになられていましたね、会長」
女性の護衛についていた兵士が穏やかな声で話しかける。バラクラバに覆われていない、皺が刻まれた目元は優しい。
「ええ――――懐かしい夢を見たわ」
穏やかな笑み――――そこには30年連れ添ってくれた相手との日々を感じさせる。
「さて、今日は子供達の保護施設の視察だったわね――――もうひと働きよ、ステファン!」
上着を羽織り、ドアを開くパウラ。
開かれたドアからオフィスに注がれる陽光を浴びるパウラは老いてなお眩しかった。
「――――はい、パウラ!」
パウラに続くように歩むステファン。
(――――これからも君の隣に立って一緒に歩もう。ずっと――――)
【人物設定】
・ステファン・レーヴ
性別…男性
年齢…27
人種…北欧系(スウェーデン)
階級…少尉
《解説》
レイヴンズ所属の将校。貧困に苦しんでいた所をレイヴンズの兵士に救われた経緯から自身も国連軍の士官学校、CSSを経てレイヴンズに入隊した。
レイヴンズ解体後は軍を退役してIT企業に警備員として再就職。30年後には企業のトップになったパウラの護衛についている。
・パウラ・フェルセン
性別…女性
年齢…25
人種…北欧系(スウェーデン)
《解説》
システムエンジニアとして働く女性。ステファンとは大学時代からの恋人であり卒業後は一緒のアパートで暮らしている。
かなり行動力があり、周囲の人々がステファン達に対して「生きて帰ってこい」と言わなかった時点で複数のIT企業の求人情報を調べて移住の準備を進めていた。
極東アジアのIT企業に就職した後はその能力を存分に振るい、30年後には企業のトップになっている。