「師匠!」
「ん?ヒナちゃんか」
ここは海軍本部。
俺は“海兵狩り”の馬鹿に重傷を負わされて安静中だ。思えば海兵に就任してこの方ここまでの傷は負ったことがなかった。全身包帯でぐるぐる巻きで動きにくいったらない。
なもんだからこっそり抜け出したろうかと思い始めていた矢先にヒナちゃんが病室に駆け込んできた。
「お怪我は?どこか痛むところはありませんか?ヒナ心配です」
「痛いと言えば全身痛いが……別にどうってことないよ。心配かけたな」
「本当ですか?強がってたりしてません?」
心配性だなぁ、ヒナちゃんは。
まぁ確かにあんな無様な負け姿晒したわけだから、俺のことが頼りなく見えるのは仕方のないことだけどな。
けど俺にだってハナクソみたいなプライドのようなもんもあるにはあるんだ。今回は無様に負けたが「ヒナ、弱い男に興味ないの」みたいな俺の脳を破壊してくる罵倒は極力抑えていただけますと、わたくし方と致しましても今後とも友好な関係が築けるのではないかと愚行いたしますが……!!
「ヒナ、感激しました」
……はえ?
「え?何?感激?」
「はい。ヒナ感激です」
「……おぉ」
……そう正面から言われるとそれはそれで困るんだが!!
なんか目キラッキラしてるんだけど!ナニコレ!!ってか誰だよお前は!俺の知ってるヒナはそんな懐っこい犬みたいなキャラじゃなかったはずだぞ!!さてはニセヒナだなテメー!!
オラ!正体表せ!!お前本当はボン・クレーなんだろ!?左腕の仲間の印見せろや!!
「“化け皮”。ハデにやられたみてェだな」
「おっ、スモやんも見張りに来てたの?」
「誰がスモやんだ」
そして、ヒナちゃんの後ろからもう一人。白髪の少年が姿を現した
後に“白猟”と呼ばれるその男の名はスモーカーだ。こっちも原作時間軸じゃ渋いおっさんだったが、今はただの不良少年って感じだな。この頃はまだ可愛いもんである。まだズボンもアイスを食ってない頃だ。
……そういえば、スモやんはまだ“モクモクの実”を食ってないんだよな。いつになったら食べるんだ?まぁ食った後でも赤犬に“モクモクしちょるだけのミジメな
でぇじょうぶだスモやん。どんな能力者になってもジャケジャケよかマシだから。
「まぁな。こう、横っ腹のとこをガツンとやられて……肋骨にヒビが入ったらしい。しばらく安静だとよ」
「“海兵狩り”……噂通りの実力ってわけか。てめェがそこまでこっぴどくやられるとはな」
「当たり前だろ?才能がある奴とない奴との違いだよ。生きてる世界が違うってだけの話だよ」
今回のことで痛感した。俺はこのままじゃ大将どころか七武海にすら手も足も出ない初戦中将クラスのモブのままで終わる。いや、モモンガ中将をディスってるわけじゃない。しょうがないよな、シャンの覇気は緑牛もチビるくらいヤバい威力だし。うん、気絶するのは恥じゃない。
ただ、やっぱガープさんの弟子って言うとさ?色々やっかみみたいなのもあるわけだよ。俺が弱いせいでガープさんが陰口叩かれるとかあるわけだよ、海軍にもさ。面倒臭いことに。だから俺はそこそこ以上には強い必要があるわけだ。
「……何言ってんだ?てめェ」
「え?」
そんな気持ちで俺は実力不足を嘆いたのだが、それに対してスモやんは心底意味がわからないという顔をしていた。いや、スモやんだけならともかくヒナちゃんまで怪訝な表情だ。
「なに?おれなんか変なこと言った?」
「……師匠。まさかその“才能のない人間”とはご自身のことを言ってるんですか?」
「ん?おう……それ以外ないだろ」
「ハァ〜……喧嘩売ってんのか?買うぞ?」
「えェ?」
いやいや、なんだよその反応は。
実際俺はミホークにボロ負けしたんだ。別に間違ったことは言っちゃいないだろう。
「じゃあその“才能ナシ”に一度も勝ててねェおれはなんだ?人間のクズか?そもそもてめェ、“海兵狩り”とは引き分けたって話じゃねェか。なんで負けたことになってんだよ」
「え?うーん……でもあのまま続けてても多分俺が負けてたしなぁ。実質負けじゃん?」
「師匠。奴は化け物でした。私たちが何百人と束になってかかっても……傷一つ負わせることができなかった。まるで歯が立ちませんでした。ですが師匠はそんな相手の前で最後まで立っていたんですよ」
「……」
まぁ、確かにそうかもしれないが。
いや、うーん、でもなぁ……。
「……私の目には、あの怪物と最後まで渡り合っていた師匠も同じくらいの怪物……いえ。“英雄”に見えました」
「英雄ねぇ……」
そんな柄じゃないんだけどなぁ俺は。
英雄ってのは、ルフィとかガープさんとかコビーとか……ああいう奴らのことを言うんだと思う。ってかジャケットの能力で英雄にはなれんだろ……。
「ありがとな。お世辞でも嬉しいぜ。二人とも仕事に──」
「お世辞なんかじゃないです」
「うおっ!?な、何……?」
俺が苦笑いして再びベッドに潜ろうとすると、ヒナちゃんが大きく身を乗り出してきた。
まだ幼い、あどけない顔立ち。頬がわずかに上気して目は潤んでいる。
「ヒナは、本当に……あの時。師匠を……」
……くっ!やべェ!!ここに来て女性経験のなさのせいで変な汗かいてきた!落ち着け俺。ヒナちゃんにそんなつもりはないぞ!そうだ、この子はあの“黒檻のヒナ”なんだ。そんな勘違いしてみろ。次の瞬間には“ヒナ心外”で檻の中だ。いやヒナちゃんまだ“オリオリの実”食ってねェみたいだけど!
「ヒナ。病人だぞ。あんま詰め寄るな」
「……ご、ごめんなさい」
「お、おう。気にすんな?」
助かった。スモやんの助け舟が入った。
そういえば原作でもこの二人は同期って話だったな。歳も近いし、中身がおっさんの俺なんかより話が合うんだろう。よし、ヒナちゃんは任せたぞスモーカー君。
「んじゃな。“化け皮”。くたばったらまた見舞いに来るぜ」
「師匠……お身体に気をつけて」
「おう。ありがとな、二人とも。死にそうになったらまた見舞いに来てくれ」
「またそんなことを……いえ。失礼しました」
と、二人が出て行って病室は静かになった。
ふぅ〜、まぁ見舞いに来てくれたのは嬉しかったけど、同時にこんな情けない姿を見せることになったのはちょい恥ずいな。一応二人の前では先輩面してきたんだが、実は俺が弱いのがバレちまった。
傷が治ったらまた忙しくなる。今はただ休むことにしよう。
……ってか、まだ“大海賊時代”も始まってないんだよな。うわ〜、ちょっとロジャーの処刑時に処刑人に言って、口塞いでもらおうかな。こっからまだ海賊が増えるのかと思うと気が重い。
もういっそ海賊に転身するか。うん、そうしよう。
◆
「……」
「浮かねェ顔だな。ヒナ。そんなにあいつが心配か?どうせ明日にはケロッとしてるだろ」
「あなたに師匠の何がわかるの?」
「……全く。“化け皮”がいなくなるとすぐこれだ。せめて上司の前じゃもっと行儀よくしろよ」
「あなたに言われたくはないわ。それに、師匠以外の人間に敬意を払う必要はないもの」
「……そんなに嫌いかよ。“世界政府”が」
「嫌い?馬鹿馬鹿しい……あなたは“ゴミ”に好きとか嫌いとかの感情をわざわざ抱くの?」
「……まぁ、お前が誰を慕って誰を憎もうがおれは構わねェがよ。ヒナ、お前が強ェからおれはお前と組んでるんだからな」
「強い?それも馬鹿馬鹿しいわ。まだ全然足りないわよ。師匠の隣に立つには、全然……」
「ほう?じゃあ何する気だ」
「……そうね。姿を隠して少しばかり船団を襲いましょう。“政府”の船を」
「……正気か?」
「どうせ死ぬのはクズだけだもの」
「……わぁったよ。付き合ってやる」
「待っていてくださいね、師匠。すぐにあなたのお側に……」
ちなみに師匠は「せんせい」と呼びます。ルビ付ければよかった。