月日は流れる。
俺はミホークとの善戦を讃えられ、海軍本部“准将”の地位に昇進することとなった。ついこの間“大佐”になったばっかだってのに我ながらとんでもないスピード出世だ。前世もこれくらい出世が早かったら……ウッ、思い出すのはやめよう。
ただ、階級が上がるってのは何もいい事ばかりじゃない。
「……何?この書類の量」
ドン!と効果音付きで積み上げられるのは漫画みたいな書類の山。それが2、4、6……うん。いっぱい。何コレ?
「艦隊の編成報告書、昇進に伴う業務の引き継ぎ、療養後の体調の変化等々、大佐……失礼。“准将”が休養中に溜まっていた書類です」
「はぁ〜〜〜……」
……こういう苦労はどこもあるもんなのね。うーん、やっぱ海賊になるか。
いやぁ、でも海賊は海賊でめちゃくちゃ苦労しそうだしなぁ……。あいつら“自由”って言ってるけど、何が起きても自己責任って話だからな。海兵よりずっと大変な思いをするハメになりました、ってオチになりそう。
『プルプルプルプル……』
「ん?電伝虫……誰からだ?」
そんなこんなでひーこらひーこら言いながら書類を処理していると、机の上で沈黙を貫いていた電伝虫が鳴った。
受話器を手に取る。
『ガチャ』
「はい。こちらクソレストラ……」
『おお、やっと出たな!!准将になって大物気取りかァ!?』
「ゼ、ゼファー先生?」
なんと、お相手はゼファー先生だった。受話器を握り直す。
俺を拾い育てたのはガープさんだが、海兵のイロハを叩き込まれたのはゼファー先生だ。あの人には頭が上がらない。
『ちょっとした緊急事態だ!こっち来て手伝えるか!?』
「うーん、実は俺の方も今ちょっと忙しくて……」
ゼファー先生はなんてことないように言った。
『ロジャーが世界一周を果たしたそうだ』
「……」
いや。
どこが“ちょっとした”なんだよ!!!
『そんで、各地の海賊どもが沸き立ってんのよ。釣られて治安も悪くなってる。援軍を願いたくてな!』
「俺がですか?」
『おう。“化け皮”の武勇伝はもう世界中に広まってるからな!あの“海兵狩り”と渡り合った男だって!』
「倒した、だったら良かったんですけどね」
めちゃくちゃ強い奴と相討ち!すごい!って褒められてもなんか微妙な気持ちにならない?いや、例えばカイドウと互角に渡り合ったってだけでモリアの格が引き上げられることだってある世の中だ。相討ち=互角っていうのは十分な強さの証明になるのかもしれんね。
ってか、全然互角ではなかったわけだが。やだよ俺?実際会って「そんな強くなさそう」とか言われちゃうの。心が折れてしまいそう。
「それにしてもロジャーがねぇ……じゃあ“大海賊時代”ももうすぐか」
『あん?大海賊?何の話だ?』
「いえすいません。こっちの話です」
ちなみに俺の原作知識は誰にも話してない。俺が前世持ちだってことすら言ってないしな。未来のことを誰かに教えることで、結果的にその未来へ辿り着けないみたいなことが起きたら困るし。
「了解です。すぐに向かいますね」
『おう!30秒以内で来い!』
「いやそれは無……って、切れたし」
相変わらずゼファー先生は無茶苦茶だ。わかりやすく熱血教官って感じ。俺がゼファー先生と知り合った時にはすでにゼファー先生の奥さんと息子は逆恨みした海賊によって殺されてしまっていたが、まだ教習艦を襲われて教え子と右腕を失うことになる事件は起きていない。
そんな風にまだ起きていないことはこれから防ぎようがある。まぁそれもこれも全部俺の力次第ではあるんだが。
「んじゃ、行ってくる。ハァ〜、全く准将ってのは大変だよ」
「わかりました。では帰ってきたら続きからお願いしますね」
……有耶無耶にできると思ったのに。
◆
“
ロジャーが手に入れた宝を総じてそう呼称された存在は、瞬く間に民衆の間に浸透していく。誰かが言い出したわけじゃない。自然と、その大秘宝を持つロジャーはこう呼ばれるようになった。
「“海賊王”ねぇ……」
「世間様はお気楽だよなぁ。平和を維持する側のおれたちからしたらいい迷惑だよ」
「その平和を維持する活動の中には昼寝も入ってんですか?クザンさん」
「いいだろちょっとぐらい。お堅いねぇ」
潮風が海軍の旗を揺らす船上で、海軍本部“中将“クザン”は俺の嫌味に唇を歪めた。
俺がゼファー先生の援軍に向かうと言ったら、“んじゃおれも行くか”みたいな軽いノリで軍艦に乗り込んできたのだ。こんなにフットワークが軽い“中将”はガープさんを除けば他にいまい。
「ガープさんはどうしてました?ずっと追ってたロジャーが“海賊王”って呼ばれるようになって」
「爆笑してたなぁ。おれの
「なんで喜んでんだあの人も……」
ロジャーとガープさんは、カチ合うや否や本気で島が吹き飛ぶほどの殺し合いを始める犬猿の仲……のようでいてそれはどこか、長く連れ添った親友同士がじゃれ合っているだけのようにも見えるのだから不思議だ。格の違う強者同士だからこその絆みたいなもんがあるのかねェ。俺にはよくわからん世界だ。
「そっちも凄かったらしいじゃない。あの“海兵狩り”に大立ち回り!ガープさん褒めてたぜ。流石おれの“一番弟子”だってな」
「えぇ。直接言われましたよ。あの人言いたいこと全部言うから……」
俺のみたいな陰の者にはガープさんみたいな陽そのものみたいな存在は眩しすぎて逆に距離を置いちゃうみたいなところがあるよな。まぁその取ったはずの距離を次の瞬間には全部詰めてきていつのまにかゼロ距離になってるのがガープさんの凄いところなんだが……。
「で?ゼファー先生のいる海域まではあとどれくらいよ?」
「そんなすぐには着きませんよ。まだ“
「なんだよ……じゃあおれ自転車で行こうかなぁ」
「絶対そっちの方が遅いでしょうが」
そもそも“凪の海”は海王類の巣だ。軍艦は底部に海楼石を敷き詰めてるから襲われないが、そんなとこを自転車で渡ろうなんて自殺行為……いや、“ヒエヒエ”の能力があればわりと楽勝なのか?いいなぁ強い能力。ジャケジャケ、お前船降りろ。
「あっ、でももう“凪の海”は抜けますね。
風が吹いてきた。海王類の巣を抜け、別の海域に入ったのだ。
「おっ、着いた?」
「だから着きませんって。気が早いなぁ」
「なんだよ。じゃあ着いたら起こしてくれ。おれは寝る」
「いやいや……ってホントに寝てるし」
なんだこの人。この海で最も自由な男か?多すぎるんだよなぁ次代の海賊王候補者が。って、今はまだ初代“海賊王”が生きてるんだったか。ここからロジャーが海軍に自首して、大海賊時代が始まるわけだよな。また忙しくなりそうだ。
「じゅ、准将!報告します!!」
「うん?どしたの?」
と、憂鬱な気分に浸っていると部下の一人が血相を変えてやって来た。もう面倒ごとは勘弁だぞ。
「“金獅子”の大艦隊です!!こちらに向かってきっています!!」
「……は〜」
それを聞いて俺は、天を仰いでしまった。聞かなかったことにしようかな。
いやホント、なんでこう……。次から次へと。
「クザンさん、起きてください」
「……ん?着いた?」
「着いてません。っていうか、敵です」
クザンさんを揺さぶり起こし、僅かに肉眼で見える海の向こう側に展開した大艦隊……“金獅子海賊団”の海賊旗を睨んだ。
「……ん?」
なんか、小さな点がこちらに向かってきているような気が。
いや待て。っていうかアレって……。
「──ジハハハハ!!軍艦が“一隻”ィ!?よほどおれたちに鹵獲されてェらしぃなァ!!!」
“金獅子のシキ”本人だった。
……いや大親分が初手仕掛けてくるなや!!