とある初恋の夢物語   作:凪子22

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第19話

「こちらとしても時間をかけたくないの、取引しましょう」

時は戻り早朝の保健室、通話越しでも分かるほどに暗部の窓口もとい保険医は含み笑いを浮かべながら話し始める。

「まずは千羽智沙音が何者なのか、それから話しましょうか」

「端的に言えば…そうね、私のターゲットが大事に抱え込んでる実験体(モルモット)。あの子から能力について聞いてない?」

「………」

「その様子だと聞いてないのね、表向きは『AIM読取(メトリー)』対象に触れることで相手の能力を解析、そして出力(プリント)する学園都市の研究者にとっては格好の実験体(モルモット)

表向き。その言葉から察するに書庫(バンク)の改竄か偽装工作でもしているのかよっぽど知られたくない理由が何か、思考を巡らせる。考えろクソッたれ上層部のふざけた遊びをやめさせる方法を。

「本当の能力はそんなものじゃない、『AIM浸蝕(ウイルス)』あの子の真髄はこっちにある」

 

暗部の人間から直々に真髄と呼ばれる能力、それは垣根の思考回路を止めるのに十分な一言。

「ウイルス、ウイルスねぇ…はっ、はははははははははは!!」

「ふっざけんじゃねぇ!!!テメェら超能力者(LEVEL5)を何だと思ってやがる!!」

「……実際にこうしてあの子を見限ってないじゃない、普段のあなたなら最初の時点で見捨ててたはずだわ」

智沙音と出会ってから妙にイラついた理由に納得がいってしまった。つまりはこうだ、相性の問題か気に入られたかで能力者の『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』に千羽智沙音という数値を無意識化で入力し改竄する。『避難訓練』のあの日あいつが襲われていた原因もそういう事なんだろう、厄介なのはそれが超能力者(LEVEL5)にも通用してしまう事実だ。

この街はいつもこうだ能力者を都合のいい玩具(おもちゃ)としか見ていない。垣根は震える拳を握りしめて努めて冷静になろうと呼吸を整える。

 

「…今すぐにでもテメェをぶち殺してやりてぇところだが…取引つったな、何が望みだ」

「そう、これまでのあれこれは単なるお遊び、私の目的はね…千羽智沙音を作り上げた張本人の本当の計画を知りたいの」

「今行っている実験だってそう、あの男の核を覆い隠すための茶番。のらりくらりと…いい加減上もしびれを切らしたのよ」

「俺に駒になれってか?」

「取引って言ったでしょ?千羽智沙音の身柄はこちらで拘束してある」

垣根の怒りは最高点に達しようとしていた。上層部といち研究者の追いかけっこ、大人同士のくだらないもめ事に智沙音も垣根自身も巻き込まれだしに使われた。腸が煮えくり返って目の前が真っ赤に染まっていく。あまりの怒りに携帯端末がミシミシと悲鳴を上げる、まだ、まだだと自分に言い聞かせた。

「…俺が断るとは思わねぇのかよ」

「それならあの子は能力を実行するだけのお人形になるわね?よく考えなさい、あの子を見捨ててこれまで通り退屈な学校生活を送るか、取引に応じて私の命令に従うか。あなたがこちら側に来るのなら千羽智沙音の安全は保障してあげる」

「あなただけよ、彼女を救えるのは」

しばらくの間重苦しい沈黙が2人の間を流れる、垣根は鋭く低い声で返答した。

 

――――

 

ブツリと一方的に通話を切られ一息つく保険医、オフィスビルの一室デスクトップのPCとにらみ合いながら保険医は苛立っていた。

(ったく!ふざけんじゃないわよ!)

千羽智沙音の身柄を確保している、これは嘘だ。昨夜の襲撃者に奪われ依然として見つかっていない。だが学園都市の監視網はたとえ地下に潜ったとしてもその眼を掻い潜ることはできない、はずなのだが何故こうも見つからない!?

親指の爪を噛み貧乏ゆすりが止まらない。垣根帝督との取引に使っていた端末とは別の携帯端末で下部組織の下っ端に連絡をかける。

「いつまで時間かけてるのよ!いい?後3時間以内に見つけ出しなさいこれ以上は絶対に許さないから!もし失敗したら全身ダイヤに変えられて換金される羽目になるわよ!」

あのどピンク女のせいで全てが狂ってしまった、垣根にこのことがバレたら絶対に殺される、ただでさえ化け物なのに今後コントロールできる機会を失ってしまったら…考えるだけで身の毛がよだつ。

規格外の化け物に首輪を付けるまたとないチャンスいい加減上層部にこき使われるのは願い下げだ。

「せっかくの機会だもの逃す手なんてないわ…」

保険医の独り言は誰にも聞かれることはなくオフィスに消えていった。

 

 

 

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