とある初恋の夢物語   作:凪子22

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魔道は仏道を妨げるが、お前の歩む道は仏道どころか人の道さえ阻むものである。
いや、お前は道など歩いてはおらぬのだ。
そこに留まり、永遠に煩悩の虜になって在る気か。
それを、鬼と云うのだ。
――『鬼談』 京極夏彦作


第20話

学園都市上層部、超能力者(LEVEL5)序列第二位垣根帝督、そして『先生』こと木原飽和。

三者三葉の思惑が飛び交う中木原の中でも異端児と言われるこの男は軽快な笑みを浮かべ第10学区の地下深く「学園都市最大の禁忌」と言われる場所にいた。本来ならどこにも存在しないはずの建造物の中心に千羽智沙音が横たわり、それをショッキングピンクの梵字女は遠目に眺めていた。

「叔父貴」

「……なんだい?」

「山育ちには科学なんてものはチンプンカンプンなんだけど、今から何やるのさ」

「ふむ、そうだね…かわいい姪っ子に分かりやすく説明するなら。観測するのさ今からね」

「?」

あっけらかんに言うと飽和は手に持っていたリモコンのボタンを押す。

智沙音の体が跳ね上がり冷たいコンクリートの床から真っ黒な泥が浮かび上がる、それは波打ちながら徐々にブクブクと膨れ上がり人の形をした流動体が現れた。

空気が振動している。黒い流動体はこちらに見向きもせずさっきから見上げたままだ。

「これが『魔』なの?」

「いいや、これは彼女のAIM拡散力場による虚像だよ」

『魔』修験者を惑わし堕落させる試練そのもの。

仏教的に例えるのなら確かに千羽智沙音は能力者に対しての『魔』かもしれないが厳密には異なる。ここは所謂(いわゆる)『穴』、僕はただ錠前と鍵を作ったに過ぎない、対能力者用の侵略者(インベーダー)。それが彼女の正体。

煙草を一本手に取り火をつける、僕らはどこにも行けずどこにも逝かず涅槃へも至れずただ終焉を待つのみ。僕はアレイスターの『計画(プラン)』が果たされるのならばそれでいいのだ、だからと言って与えられるのを待つばかりでは懸念する点が多々存在する。

僕のささやかな願望を成就させるためにもこれは必要な下準備だ。

()()()()()()()()()()

煙を吐く、吐き出された副流煙が散り散りに揺れると同時に空気の振動が大きくなり、黒い虚像は何かを迎え入れるように両腕を天井へと伸ばしている。

 

(始まったか…)

「色即是空、空即是色………なるほどねぇ…『位相』を無理やり引っ張り出す、いや、繋げるのか」

「理解したかい?さすが僕のかわいい姪っ子だ」

姪の頭をよしよしと両手でこれでもかと撫でまくる、無言で受け入れてはいるがだんだんとしかめっ面になっていくのを無視してお構いなしに撫で続ける。

本来彼女の強度(レベル)では起きない現象だが、ここは『カキキエ隧道』虚数学区の一部を切り離したAIM拡散力場の空間。智沙音君というレンズから学園都市を通し虚数学区と同調、観測させる事で虚数から実数へと変質させる。

彼女が能力を使用した際他者のAIM拡散力場を動物型の虚像として出現させるのはカキキエ隧道と無理やり同調させた副産物、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()はあれどこれほどまでの実験結果を残してくれる能力者はそうそういない、ゆえに彼女をアレイスターに明け渡すことは到底許容できない。

垣根帝督の元に半ば避難させようとしたが結局彼は智沙音君を手放してしまった事で想定していたルートから外れてしまった、彼女の能力があれば未元物質(ダークマター)は飛躍的に昇華し彼自身が気付けなかった本当に求めていた物も手に入ったというのに実に惜しいものだと思う。

これは僕の願いへの第一歩に過ぎない、ここから先は成り行きに任せることしかできないのが非常に心残りだが、今は陰に潜むのみ。

「……っだぁーーーー!!!!!いい加減やめぇい!!」

「はいはい…しかしその髪色、叔父さんはどうかと思うんだがねぇ…あんなにきれいな黒髪だったのに」

「せっかく山から下りたってのに地味なままじゃつまらないっしょ?それにかわいーし?ピンクだし?」

「…あぁ姪っ子がファンキーに染まってしまうとは…遅めの反抗期でグレてしまったか…ん?」

「グレとらんわ!!!…お?」

 

ズドンッ!!空間が歪む音が鳴り響きわずかな静寂が訪れる、虚像が腕を伸ばした先の空間は割れた鏡の様にひびが入っていた。黒い虚像は動かないまま全体にノイズが浮かび霧散して裂け目に吸い込まれていく。

「……失敗?」

「いいやこれでいい、アレイスターの手の届かない場所に行くのならどこでもいい」

不気味なほどに裂け目は何事もなかったかのように閉じている。ここまで本命の実験を進める事ができたこと自体僥倖ともいえる、あれやこれやと偽りの実験や失敗作を重ねてきたが研究施設を差し押さえられ千羽智沙音を連れ去られようとした時は肝が冷えた。

さぁこれで僕には何も無い、生命維持装置の中で彼はどんな顔をしているだろう…愉快に口元を歪ませているだろうか、それとも苦虫を噛み潰した顔をしているのだろうか?いずれにせよアレイスターは必ず失敗する。その先を見据えた『結果』に彼は価値を見出しているのだろうが、しかし気付いているのかアレイスター。

貴様が欲している願いは己の可能性から飛びぬけた先にあるものだと。貴様が失敗を築き上げた所で己の伸びしろからは抜け出せない事を。どれだけ死体の山を積み重ねても届かない願いだと。

過ぎた願いは果たしてどこに向かうのか是非楽しませてくれ、アレイスター・クロウリー。

 

「さてと、アレイスターに奪われるわけにもいかないし彼女とはここでお別れだね。実に嘆かわしいよ」

「代わりはいねーの?」

「候補の1人を冤罪にかけてお迎えしようともしたんだがね…邪魔が入った」

『滝壺理后』、能力を行使する際『体昌』を服用しなければならない為使い捨てにされると思い『保管』しようとしたが、意外にも重要視されていたようだった。

「なら寂滅の道を進む時期なんじゃねーの?世は無常だぜ」

腰に手を当てなんてことはないと語りかける姪を見つめながら久々に耳にした「寂滅」の言葉に忌々しい一族の面々が脳裏をよぎった。

密教の修行は二通りあるとされている、欲を捨て世を捨て己と向き合う寂滅、そして欲を育て富を集め権力を手にする促進。寂滅と促進を循環し小悟を重ね大悟を繰り返す修行、外側で育ち比叡山の翁共に思想を叩き込まれた実に気に食わない修験者らしい意見。

一族を皆殺しにし科学を選んだ僕には似つかわしくないものだ。

「はぁ~やだねぇいっちょ前に説法ができる立場かい?」

「殴るぞ」

「はいはい三毒三毒…よいしょっと」

智沙音を抱きかかえる、白衣から注射器を取り出し弱り切った少女に打ちもう用済みというかのように一瞥もくれず拳を震わせていた梵字女に差し出す。

「施設やら土地やらは差し押さえられたがお前名義のビルが1つある、地下に運んでくれその後は学園都市を出なさい。すでに指名手配中だ、賞金も出ている合図があるまで外で待機だ」

「~~~っ!!!……邪魔する奴は?」

「薙ぎ払え」

ライトが鬼を照らし伸びた影が笑いだす。

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