眠っていた智沙音の体が仰け反りひくつかせ垣根の腕の中で異常な反応を見せる。見てはいけない、見てしまったら超えてはいけない一線に足を取られてしまう。しかし思考回路とは反対に眼球はだんだんと冷えていく智沙音の状態を確認しようと視線を向けてしまう。
目、耳、鼻、口から真っ赤な鮮血がドプリとこぼれ出る。ピチャリという血液が床に落ちる音が耳に
「……………は」
なんでだ、と声は出なかった、どこで選択肢を誤ったのか、答えが出ない問いかけが破裂して千羽智沙音が死んだという事実が垣根の大切な場所に亀裂を入れた。
「…ち、ちが…わたしじゃ、な」
「うるせぇよ」
翼を荒々しく振りかざし烈風が襲い掛かる、一瞬で保険医と偽装した
智沙音を酸素カプセルの中に寝かす、床に置かれるよりはマシだろうと。
この光景は知っている、あの時と同じだあの少女もこんな風になった、だからどうした、だからなんだというんだ。
(……もう、いい)
誰が殺したんだ、なんてどうでもいいと垣根は考える事を放棄した。
備え付けられている酸素ボンベを切り裂きフロア一帯にガスを充満させ部屋を後にするビルを出たあたりで轟音と地震が鳴り響く。
倒壊するビルに一瞥もくれず垣根はあてもなく歩く。
ふらり、ふらり、飢えた獅子が彷徨う。
獣に触れてはいけないよ、喰われてしまうから。
――――
目的もなく歩く、疲れた、ただただ疲れた。
見覚えのある公園が視界に入る、あの雨の日智沙音が告白してきた公園が。
ベンチに座る、感傷に浸りたかったのか歩き疲れただけか自分でも分からなくなってしまった。だが絶望はしない、してたまるものか。
「…………………これで終わるかよ」
携帯が震える画面を見ると非通知の文字、迷いなく出る、このタイミングで電話をかけてくる相手は限られている。
「やぁ、『
「…テメェが『先生』か」
世界をあざ笑うかのような飄々とした声、通話越しでもニヤついているのが容易に想像できる。
「智沙音くんを預けられるのは君しかいないと思っていたんだが…失望したよ」
「勝手に期待して失望してんじゃねぇよ、そんなにあいつが惜しいなら最初から言えばよかった話だろうが」
「それに何の意味がある」
即答だった、憤りを抑えて斜にかまえた子供を叱りつけるように。
「仮に僕が智沙音くんを保護してくれと頼み込んだところで君は動かないだろう」
「保険医の彼女を利用して
バレている、足掛かりとして保険医から暗部の依頼をかすめ取り『直接交渉権』に繋がる情報を集めていたことが。
「だからなのかな、機会が巡ってこないのは」
「あ?何が言いてぇ」
「近いうち
突沸に似たものが腹の底で湧き上がる。
「君が上層部から足蹴にされる中『
垣根にとっての逆鱗、学園都市はその辺の石ころのように蹴り飛ばしたのだ。
薄気味悪い笑い声が通話越しから聞こえる、それを耳にしてブチリと血管が引き千切られるような音が体内から聞こえた。
怒りに震える垣根にさらに追い打ちをかけるように声がする。
「悔しいかい?なら中途半端な立ち位置はやめにしてこちら側に来たまえ。『直接交渉権』が欲しいなら闇の中で首輪に繋がれろ」
「俺に跪けってのか」
「ペナルティさ、表向き保険医の後釜を担えばいい。影で何をしようと君の自由だ」
「首輪に繋げた事実が欲しいだけなんだよ、上もそれで満足する」
「…答えは、出たかな?」
「……あぁ、俺の望みが叶ったら上層部の次にテメェをぐちゃぐちゃにぶち殺してやる」
「追って連絡がいく、ようこそ『暗部』へ」
今回の事は自分の甘さが引き起こしたことだ、中途半端な善意はここで切り捨てる。
悪党が半端な事をするから善人が死ぬんだ。
俺をコケにした上層部、この街の頂上でほくそ笑んでるクソッたれ。
『先生』とやらが味方か敵なのかどうでもいい。
俺は絶望しない、折れたりもしない、学園都市を手に入れて見下した奴らを後悔させる。
「………………反撃開始だ」
創約11巻を読んでから答え合わせの続きを書くかも……