最悪だった。
廊下を歩けば注目の的になるのは当然の事だとして、教室にいた生徒に「千羽智沙音の席はどこだ」と聞いただけであのざわつきようは何なんだ。
「演劇部の王子だけでなくLv5までも…だと…!?」だの「やはり彼女にはアイドルとしての才能が…!」だの「なんか嫉妬してたのが馬鹿らしくなってきちゃった…」やら、「人たらしって見境ないのね…」とかその他諸々含めて鬱陶しいにも程がある。訂正するのも面倒くさいので説明しろと慌てふためく教師をシカトし荷物を持って足早に去ろうとしたら今度は廊下に他の教室から出て来た野次馬がごった返してて我慢の限界だった。
見せもんじゃねぇぞとにらみつけたら蜘蛛の子のように散っていったが、あの
ともあれ、なんやかんやと好奇の目に晒されながら保健室へと帰還した垣根少年、戻ってみるとベッドに横たわる千羽智沙音の右腕には点滴の針が刺さっていた。腕から伸びるチューブの先には「高濃度ブドウ糖液」と明記されたバッグがぶら下がっている
「ブドウ糖?」
「あら、案外速かったのね。荷物そこに置いてちょうだい」
「…チッ、Lv5を顎で使うなんざいい度胸してんなテメエ」
「感謝されこそすれ悪態をつかれる筋合いないわよ。私からしたらLv5であろうが生徒は生徒よ」
「…へぇ、そりゃご立派、ご立派」
正直眠気もどこかにいっているこれ以上の悪態は無意味だ。だからといって今更教室に戻る気も起きないのでどうしたものかとソファに座り天井を見上げながら考えあぐねているとふとすやすやとのんきに寝ている少女が目に入った。
「………」
そもそも自分がこんなとばっちりを受けたのはのんきに寝ている
「…ん、うぅ…」
ベッドから寝ぼけた声が聞こえてきた
「…んぅ…?」
目が覚めたら知らない天井だった…。などというもはや使い古されてそうな冗談を思いつくぐらいには回復しているようだ。誰かにぶつかってそこから記憶が飛んではいるが右腕に点滴の針が刺さっているのでやっぱり倒れたんだと自覚した。
右腕を動かさないように起き上がる、どれほど時間が経ったのだろうか日が落ちてない所をみるとさほど時間は経っていないように思える
「起きた?」
「……まだ、ちょっとぼーっとしてますけど」
「あと5分もしたら点滴終わるから今日は早退しちゃいなさい。糖分補給と無理な運動はしない事、いいわね?」
「はーい」
本当は授業に出たいがしょうがないだろう重度の低血糖は命に関わるのだから、やはり遅刻するからといって朝食を抜くのはやめておこう。
「起きたのかよ、そいつ」
取り繕わずに言うとびっくりした、カーテンレールから長身の目つきは悪いが綺麗な顔立ちをしたホストみたいな男が急に出てきたのだ……いや、第9学区ならこれが日常なのか?
「……お前ナメたこと考えてんだろ」
「んにゃっ!そ、そんな事は…ない、はずですよ?」
「顔にでてんだよ、まぬけ」
「はいはい、そこまでにしておきなさい。千羽さんこの子があなたの荷物持ってきてくれたから、お礼くらいは言っておいた方がいいわよ?」
「くらいはって何だ、おいこら」
じゃあ、後はごゆっくり〜と手を振って保険医が出ていってしまった。おそらくだがこの人がぶつかってしまった人なのだろう、よくよく思い出してみると暗い目が印象的だったのは覚えていた。
「えっと、ありがとうございます?」
「何で疑問符なんだよ、……チッ腑抜けた顔みたら萎えたぜ、じゃーなクソガキ」
よく分からないまま出ていく背中を見つめるしか出来なかったが心配して見に来た訳では無さそうだ。では何をしに来たのだろうと首を傾げるがその理由が分かるのは翌日の事である。
「あら、もういいの?」
「萎えた、次はねぇからな」
乱暴に扉が閉まる。扉は丁寧に閉めてほしいものだがそんな事よりも保険医にはやる事がある
PCに向かって座り直し文字を打ち込んでいくそれは決して報告書や日誌などではなく学校とは関係の無い別の誰かに
『被験者Aターゲットと接触
:経過良好 現時点での問題無し 要観察』