ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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第一章 使徒、襲来
1.


 

 ジリジリジリジリと蝉の声がうるさい。

 

 確かにこの都市は年中真夏だと聞いてはいたが、ここまでの猛暑とは聞いていなかった。

 

 日本。僕の母が日本人なので日本のセミについては幼い頃に伝え聞いてはいたが、なるほど。この暑さに蝉の鳴き声というのは、風情を通り越して苛立ちを覚えるという事を僕は生まれて初めて知った。

 

 着ていた学生服の裾をめくって、僕は額の汗を拭った。

 

 

 

 僕の名前はジョルノ・ジョバァーナ。日系イタリア人。15歳の中学生だ。

 

 出身はイタリアのネアポリスだが、どーゆーワケか、今は日本に来ている。

 

 別に旅行で日本に来た、とかそーいうワケではない。僕はこれでも結構忙しい身だ。

 

 僕はある『女性の依頼』を受けて、ここ第三新東京市に来ている。いや、『来させられた』というべきか。

 

 不思議な女性だった。

 

 日本人特有の薄っぺらい顔立ち(もっとも、美しい女性であることは否定できない)であったが、その瞳は遥か未来を見通すような、不思議な、芯の通った瞳をしていたと思う。白衣を着ていたことから医者か、もしくは科学者だったんだろう。

 

 女性は『碇ユイ』と名乗った。

 

 歳の頃は僕の母か、もしくは少し若いくらい。

 

 彼女が僕を訪れてきたのは、僕の故郷ネアポリスではなく、恐るべきことに『僕の能力の発動中』だった。

 

 僕の能力、といってもわからないだろーが、僕には不思議な能力がある。

 

 一部の界隈では『スタンド』と呼ばれる、一種の超能力だ。

 

 ただ、『スタンド』は普通の人間には見ることができない。

 まるで守護精霊のように側に立つ=stand by me ってことで『スタンド』と呼ばれているみたいで、『スタンド』を扱う能力者の事を『スタンド使い』という(別に覚えてくれなくて構わない)。

 

 『スタンド使い』はそれぞれ特殊な能力を持っている。

 

 例えば氷を操ったり、銃弾を自由に飛ばしたり。

 

 ただ、似ている能力はあるが、まったく同じ能力という事はまず無いと思ってもらっていい。

 一人一人に個性というものがあり、それに見合った、心の才能が開花したのが『スタンド』だ。

 

 もちろん僕にも特殊な能力が備わっていて、そしてソレは、他人が決して干渉できるようなモノではないという事を、予め断っておく。

 

 そんな僕の『スタンド』能力に干渉してきた『彼女』が、同じタイプの『スタンド使い』であったかは今となってはわからない。

 

 ただ、彼女、『碇ユイ』は開口一番にこう言った。『息子を助けて欲しい』と。

 

 それを聞いた僕はまず『警察に頼った方がいいんじゃあないか?』と答え、その返答に困ったように笑みを返す女性に次に『なぜ僕に?』と聞いた。彼女の回答はシンプルで『貴方にしかできない事だから』と答えた。

 

 僕は職業柄(本職は中学生であるが)、こういった悩みを日常的に解決する立場にある。

 僕自身は『碇ユイ』という女性に心当たりはなかったが、僕の尊敬する人や亡き友人がそういった『仁義』を大切にする人だったので、無下にするのもどうかと思い、一応彼女の『お願い』を聞くことにした。

 

 曰く、『息子の名前は碇シンジ』『碇ユイの息子』『幼い頃に父親に見捨てられた』『今その息子が危機に陥ろうとしている』というような内容だった。

 

 まぁ、普通の人間ならば「だからどーした?」と鼻で笑う話だろう。

 

 だが僕は、その内容に一つの答えを返した。

 

 『貴方が思っている以上に、貴方は僕に借りを作ることになる。それでもいいのか?』と。女性は微笑みでもって答えた。

 

 それを『覚悟の証』と取った僕は、その微笑みに強く頷いた。次の瞬間、僕は眩い光に飲まれていた。

 

 そして、気付けばここ、日本の『第三新東京市』に来ていた、という次第だ。

 

「暑い・・・。どこかに売店でもあればいいんだが・・・・・・」

 

 僕は汗を拭いながら、キョロキョロと辺りを見回した。結構大きな街だと思うのだけど、奇妙なことに、街には人っ子一人いやしない。

 

(ごく平穏な都市。ここで息子を助けて欲しいとは言われたが、何をどーすればいいのか、見当がつかないな)

 

 そんな事を考えながら、僕は目の前にあった公衆電話に何気なく手を伸ばした。

 コインか、またはテレフォンカードを使う事を要求される、少し旧式のものだった。

 

「僕の住んでいたネアポリスには無いタイプだな。もっとも、この国の硬貨を持ってない僕には無用のものだが・・・」

 

 僕は何気なく受話器を取り、耳に当ててみた。

 

 ツーツーという音が受話器の向こうで響く。どうやら繋がっていないようだ。

 

 やれやれ、と思ったその時だった。突如として街中にサイレンの音が響いた。

 

『緊急警報──緊急警報をお知らせします──住民の方々は速やかにシェルターへ避難してください。繰り返します──』

 

「なんだ、いきなり。やかましいサイレンだな。緊急警報ってなんの事だ?」

 

「あ、あのう・・・・・・」

 

「ん?」

 

 不意に声をかけられたので、僕は背後を振り返った。

 

「!?」

 

 目の前に『碇ユイ』にそっくりな少年が立っていた。

 

(この少年が、恐らく彼女の・・・・・・)

 

 少年の歳の頃は僕と同じくらい、だろうか。だがどこか頼りなさげで、覇気を全く感じない。ひどくオドオドした、気の弱そうな少年だな。

 

 同時に、どこか懐かしくも思う。

 

 まるで『恩人』に会う前までの『僕』だ。僕が彼に会う事なく育ったら、きっと目の前の少年の様になっていただろう。

 

「え、えっと・・・・・・?」

 

「ん?ああ、済まない。もしかして電話?この公衆電話を使いたいの?」

 

「は、はい。いいですか?」

 

「もちろん。僕は使う予定がないからね。ただ、さっきの警報のせいなのか、電話は繋がらないようだよ」

 

「えぇ!?そうなんですか?困ったなぁ・・・」

 

 少年は本当に困った様子で頬をぽりぽりとかいていた。

 

「まあ、もしかしたら繋がるかもしれないし、試してみるのもいいんじゃあないか?」

 

「そ、そうですよね。すみません譲ってもらっちゃって」

 

「気にしなくていいって。言ったろ?僕はこの電話を使おうとは思っちゃあいないんだ」

 

 どちらかと言うと、僕の関心があるのは目の前の少年だ。

 

 『碇シンジ』。

 

 きっと彼がそうなのだろう。

 

 だが、参った。僕はこの少年が依頼主のターゲットである事は知っているが、この少年にどう話しかけたものか。いきなり「君を知っている」というのも、なかなかに怪しまれる。

 

 まあ、考えすぎても良くない。とりあえずは一旦距離を置こう。

 

「ちぇ、電話もやっぱりダメかぁ・・・」

 

 少年、シンジ君が受話器を置いてため息をついている。まぁ、彼との本格的な接触はもう少し様子を見てからでいいだろう。

 

 困り果てたシンジ君を置いて、僕はその場を立ち去った。

 

 

 

 

「ん?」

 

 当てもなく、線路に沿って少し歩いていると、道路脇に車が一台停まっていた。

 

 アルピーヌ・ルノーの青、か。なかなかにイカした車だ。

 

 その横に運転手だろうか。サングラスをかけた女性が立っている。

 

 女性はこちらに気がつくと、ツカツカとヒールの音を響かせて近付いてきた。

 

「あなたが、碇シンジ君ね?」

 

「いえ、違います」

 

 サングラスの向こうにある目が見開かれる。

 

「あ、あら?そうなの?えーっとじゃあ派手な金髪くん、君は?」

 

 この女性。シンジ君の名前を出すとは、何かありそうだな。ここは少し探りを入れるか。

 

「僕はジョルノ。ジョルノ・ジョバァーナ。その辺にいるただの中学生で、日系イタリア人。そして、シンジ君の友達です」

 

 僕は咄嗟に嘘をついた。彼とは先ほどあったばかりだが、どーって事のない、可愛い嘘ってやつだ。

 

 恐らく、この女性がキーなのだろう。

 

 まぁとりあえず、この女性と親睦を深めるのは悪くない、と僕は考えた。

 

「失礼。ところで、貴女は?」

 

「へ?あぁ、ごめんなさい」

 

 女性はサングラスを外して、太陽のような眩しい笑顔を向けた。

 

「私は葛城ミサト。ねぇ、ジョルノ、君?碇シンジ君に連絡取れたりしない?」

 

「いえ。ですが、彼ならこの線路沿いを行ったところで立ち往生してましたよ。・・・・・・良ければ案内しましょうか?」

 

「ほんとぉ!?ラッキー!じゃあ車に乗ってちょうだい!ちょーっちヤバめな状況なのよね!」

 

 女性、葛城ミサトさんから焦りが伝わってくる。恐らくだが、「ちょっち」で済まされるものではないんだろう。

 

 これは、早まったか?

 

 僕は車の助手席に乗り込み、深く吐きそうになったため息を必死に飲み込んだ。

 

 

 

つづく

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