ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
この修羅場に、突如として連れられてきた重症の少女。
その少女を、シンジ君の代わりにロボットに乗せる、と言う。
怒りでどーにかなりそうだ。今すぐこの場にいる全員をぶちのめしたいくらいに。
そして、この場にそんな少女を連れてきた意図も僕は正確に把握していた。
(コイツら・・・!シンジ君の良心に訴えかけようとッ!!)
頭上のサングラスの男を睨む。あの男は、完全に『わかってやっている』。この演出も、全てはシンジ君をロボットに乗せるためだ。
そこまでしてシンジ君をロボットに乗せたい理由はわからないが・・・。
いいだろう。だったら徹底してそれを邪魔してやろうじゃあないか。
僕の横にスタンドが現れる。僕の『ゴールド・エクスペリエンス』なら、あんな少女の怪我、なんてことはない。痛みは残るだろうが、すぐに治してやるッ!
そう思い、一歩踏み出した瞬間──、
「!!?」
ズズンッと、今まで以上の衝撃が施設を襲った。
「あぶないッ!!」
葛城さんが叫ぶ。それは僕の背後の人物、シンジ君に向けられていて──、
(しまったッ!!)
シンジ君目掛けて、天井から照明装置がいくつも落ちてくる。僕のスタンドなら、どーってことない事態のはずだったが、
(距離がッ!!)
僕はシンジ君から離れすぎていた。僕のスタンドは、せいぜい2メートル、それぐらいの距離までしか届かない。シンジ君を背後に残して離れてしまった僕では助けが間に合わない!
「シンジ君!!」
「うわああああーッッ!!?」
その時だった。
「!?」
突然、周りを満たしていた赤いプールから水柱が上がった。
そこから飛び出したのは、巨大ロボットの腕。
その腕が、落下物からシンジ君を庇うように覆い被さり、シンジ君の窮地を救った。
『エヴァが動いた!どういうことだ!?』
『右腕の拘束具を引きちぎっています!』
「まさか、ありえないわ!エントリープラグも挿入していないのよ・・・動くはずないわ!」
僕自身にも信じられない光景だったが、周りのスタッフや赤木博士からすれば、その衝撃はもっと大きいもののようだ。
だが現実として、巨大ロボットは『シンジ君を守った』。それが事実だ。
「インターフェースも無しに反応している・・・というより守ったの?彼を・・・・・・」
葛城さんがその光景を信じられないという表情で見つめつつ、
「行ける!」
何かを確信したようだった。そしてソレは、決して僕や、ましてやシンジ君の事を考えての発言ではない。
(どいつもこいつも・・・・・・!)
僕は急いでシンジ君に駆け寄った。シンジ君は今の光景に腰を抜かしたようだった。
「シンジ君!大丈夫か!?」
しかし、シンジ君は僕の背後を見ていた。振り返ると、先ほど連れてこられた包帯の少女がストレッチャーから落ちて呻いている。
シンジ君は思わず立ち上がり、少女に駆け寄ると、少女を優しく、気遣いながら抱き上げた。
・・・シンジ君。君はすごいやつだ。たった今、死にかけたってゆーのに、すぐに他者のことを気遣える。
君はイイ奴だ。
・・・・・・それにしても、このロボット。一体なんなんだ?どーゆー原理で動いているのかはわからないが、本当にシンジ君を守ったっていうのか?
何気なく。本当に何気なく僕は巨大なロボットの腕に触れてみる。
「・・・・・・ッ!!」
・・・・・・・・・・・・なるほどな。
そういう事だったのか。
理解した。完璧に。
ネルフ。どこまでが関わってるのかは知らないしどーでもいい事だが。
コイツらはッ!
正真正銘のゲスの集まりだッッ!!
このロボット。『魂』が宿っている。
しかもそれは、僕が会った事のある人物。
『碇ユイ』!その人の魂だ・・・ッ!!
怒りで血が逆流しそうだ。僕の心臓がドドドド・・・と早鐘を打っているのがわかる!
僕のスタンドは生命を与えることができる。その能力の副産物として、魂の判別もある程度可能だ。僕が会った人や触れた人物であれば、誰の魂かぐらいはわかる。
その能力が咄嗟に、このロボットの中に『碇ユイ』の魂を見つけ出した。
誰が、何のために、こんな外道な事をやったのかはわからないし、どうでもいい事だ。
だが、だからこそなんだ。
『碇ユイ』は、『こんな状態だからこそ』僕に依頼してきたんだ!
自分では、息子を助けることができないから!
それが出来る人間に、息子を託すしかなかった・・・!
その方法が、本当に『スタンド能力』によるものかはわからない。だが、こーも考えられる。
息子を思う母親の願いが、時空を超えて僕という存在を見つけ出した。
それは一体、どれだけ尊いことなのだろう・・・・・・僕には想像もつかない。
そして、改めて理解した。
恐らく、碇シンジ君がこのロボットに乗る事は『運命』なんだ。変えようのない運命。悔しいが、恐らくこの場でシンジ君がこのロボットに乗らなければならない『運命の強制力』のようなものがあるのだろう。
恐らくだが、シンジ君はその運命に翻弄される立場にある。この場でシンジ君がこのロボットに乗らなければ、世界が滅ぶというのもあながち嘘じゃあないのかもしれない。
決して覆す事のできない『運命』。
だからこそ、僕が呼ばれた。彼の『運命』を変えることは、悔しいが僕にはできないのかもしれない。
だが、『立ち向かう事』はできるはずだ。そして、その道を、僕は彼に示してやれる。
僕はシンジ君に振り返った。彼は少女を抱きしめ、しかしその手が血に染まっている事に気づく。
シンジ君が目をぎゅっと瞑った。
「・・・・・・逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ・・・・・・逃げちゃダメだ!」
ダメだ。シンジ君。それではダメなんだ。今の君はヤケを起こしている。君はいま、「彼女を乗せるくらいなら自分が乗ったほうがいい」と、そう考えている。
だが君が本当に『覚悟』をするならば、その道を行こうというのなら、それは間違いなんだ。
『覚悟』とは・・・・・・犠牲の心ではないッ!
「やります!僕が・・・・・・」
「シンジ君ッ!!」
捨て鉢になっていたシンジ君に、僕は大きな声で告げるッ!
「『覚悟』とは!!暗闇の荒野に!!
「・・・・・・じ、ジョルノ、君?」
僕の大声に、シンジ君が驚いて振り返る。僕はシンジ君に近づいて、抱きしめている少女に手を伸ばした。
『
一瞬だ。少女の負っていた怪我を、僕のスタンドが一瞬で治した。
少女が驚いたように目を開けると、自分の体を確かめるように自身を抱きしめる。
「あ、あなた、は・・・・・・?」
少女が不思議そうに僕を見上げるが、悪いな。いま僕にとって重要なのはシンジ君なんだ。
「ゴールド・エクスペリエンス。君の怪我を今、僕の『スタンド』が治した。シンジ君。これでこの少女は、このロボットに乗って戦えるってワケだ」
「え!?」
シンジ君が驚いて腕の中の少女を見遣る。
「君はさっきまで、こう思っていたな?『こんな傷だらけの少女を乗せるくらいなら』。それは正しいことだ。君の中の正義であり、それをできる人間はほとんどいない」
だが、と僕は続ける。
「いま僕は!この少女を治す事で、君がロボットに乗らなくっちゃあならない理由を潰した!当然だな。君よりも恐らくロボットの訓練を受けている少女が治ったんだ。君が無理してコイツに乗る必要はなくなったってワケだ」
シンジ君がオロオロと辺りを見回す。周りの人間も、状況が飲み込めないのか成り行きを見守ってるよーな感じだ。
だからこそ、シンジ君。それじゃあダメなんだ。
「僕はいま、君に『逃げ道』を作った。無理して戦う必要はない。コイツに乗って怖い思いをする必要はない。君が今すぐここから離れて帰りたいというなら、僕はそれを支持しよう」
「そ、それは・・・・・・」
「そう。ソレなんだ、シンジ君。いま君は、躊躇っているね?今この場で、自分は帰ってしまっていいのか、と。繰り返すようだが僕はそれでも良いと思っている。君が無理して戦う必要はない」
だけどね。
「しかし、それとは別に、君はいま『納得』を欲している。このまま帰っていいのか?心の底では悩んでいる。だがシンジ君。その『納得』は、誰かに与えられるようなものじゃない。もし君が心から『納得』を望むなら、それには『覚悟』が必要になる」
「か、覚悟って・・・・・・?」
「君がコイツに乗って戦いたいと願うかどうか。それが君の人生にとって、本当に必要な『運命』なのかどうか。それを決める『覚悟』だ!」
「!」
シンジ君の顔が青ざめる。だが同時に、その瞳に力が宿ったようにも僕は感じた。
「誓って言うが、僕は君に逃げてほしいと思っている。その方が君のためだとも思っているし、その為の逃げ道も作った。だがもし、それでも君自身が『コイツに乗らなければいけない』と感じているのならッ!」
僕はしゃがんで、シンジ君の目をまっすぐに見つめた。
「君が決めるんだ。誰かに強要されてじゃない。君の心が、決めるんだ。はっきり言って、君が進むべき道は暗闇に満ちている。それに君の心の炎を照らして、道を切り開くのは君なんだ」
「ぼ、僕は・・・・・・」
シンジ君の声が震える。目が救いを求めるように辺りをキョロキョロと見回す。迷いがある。だが、迷っていい。悩んでいい。
「君がどんな道を選んでも、僕は君を信じる」
それが、僕が『あの人』から教わった事だ。無言の彼が僕を信じてくれたから、今の僕がある。
だから僕も、シンジ君。君の選択を信じる。たとえどんな道を選んだとしても、僕は絶対に君を見捨てない・・・!
僕の言葉が、シンジ君に届いたのかはわからない。それだって構わない。
やがてシンジ君は僕を見つめ、そして俯いた。
「ジョルノ君は、強いんだね・・・」
「違うよ、シンジ君。『強くなったんだ』。僕を信じてくれた人がいたから、僕は強くなれた」
シンジ君がハッと顔を上げた。そして、両目に大粒の涙を溜めて──、
「怖いよ・・・・・・」
「だろーな」
「・・・・・・できるかな?」
「それはわからない」
「・・・・・・逃げてもいいのかな?」
「構わない。僕も付き合おう」
「でも・・・・・・」
シンジ君の目から涙が溢れる。
「このままじゃ、イヤだ・・・誰からも認めてもらえないような、そんな人生は・・・もう」
「・・・・・・」
「僕は、認められたい。誰かに必要なんだって言われたいんだ・・・・・・だから」
シンジ君は僕の手を握って、力強く頷いた。
「乗るよ。僕にしかできない事なら、怖いけど、みんなに認めてもらえるなら、僕は乗りたい。覚悟とは、ちょっと違うかもしれないけれど。父さんの、みんなの役に立ちたいんだ・・・・・・」
それを聞いた僕は、シンジ君と、シンジ君が抱きしめていた少女の手をとって立ち上がった。
「信じよう。そして君が『覚悟』を決めたなら、僕は僕のやり方で『覚悟』を示さなくっちゃあならないな」
僕は微笑むと、周りで呆然としている大人たちに向かって大声で叫んだ。
「シンジ君と一緒に
一瞬の沈黙の後。
「はぁぁーーーーーーーーッ!!?」
葛城さんの絶叫が響き渡った。
「ちょちょちょちょっとぉ!?ジョルノ君なに言っちゃってんのぉ!?」
「じ、ジョルノ君・・・」
「なに、気にするなシンジ君。これが僕なりの『覚悟』ってやつさ。君一人に押し付けるなんてのは僕自身が『納得』できない」
「ま、待ちなさいよジョルノ君!エヴァは基本的に一人乗りよ!」
「ダメなんですか?貴女の車には無理やり乗れたのに?」
「そーゆー事を言ってんじゃないわよ!」
葛城さんがブンブンと腕を振るっている。妙齢の女性のそういう仕草はちょっとだけ面白いな。
「そもそも!シンジ君はまだしもジョルノ君はエヴァとシンクロなんてできないでしょーが!そんな奴が乗ったって、エヴァは動いてくんないのよ!?」
「呆れてものもいえないわね」
葛城さんと赤木博士が呆れたように僕に詰め寄ってくるが、知ったこっちゃあない。
「そのシンクロ?ですか。それがどーいったものなのかはわかりませんが、コイツを『動かす』っていう意味なら、多分僕にもできますよ?」
「「ハアッ!?」」
二人して声を上げたな。少しだけ笑ってしまう。
「なんなら証明しましょうか?いま、ここで」
僕はロボットの巨大な腕に近づくと、先ほどと同じように手を触れた。
(もし、『碇ユイ』が僕に助けを求めているなら・・・)
僕は念じる。
(少しだけでいい。『碇ユイ』さん。動いてくれないか?)
魂に、呼びかける。
途端、というべきか。『碇ユイ』の魂は僕に応えてくれた。
赤いプールからもう一本の腕がザバァッと上がってきて、僕とシンジ君を抱きしめるようにその巨大な両腕をかざした。
「・・・・・・・・・・・・へ?」
「あ、ありえないわ!?一度だけでなく二度までも・・・・・・!」
「ええええ!?どーなってんの!?」
驚く二人を無視して、僕は巨大ロボットの頭上で偉そうにふんぞり返っている男に不敵な笑みを向ける。
「どーでしょうか?碇、司令?ですか。僕も一緒に乗せてくれませんか?」
頭上の男はほんの一瞬だけ考えこんだが。
『いいだろう。やってみろ』
「碇司令!?」
『ただし、動かなければ即座にお前には降りてもらう。私としてはシンジが乗っていればソレでいい』
「グッド!二言はないですね?」
『問題ない。すぐに降りる事になるだろうからな。しかも戦場のど真ん中で、だ。死ぬ覚悟はいいか?』
「もちろん」
僕は再びロボットの腕に触れて『碇ユイ』の魂に呼びかける。すると巨大ロボットはその腕を赤いプールの中に戻した。
「見せてやろーじゃあないかシンジ君!僕と君の『覚悟』ってやつをなッ!!」
つづく