ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
加持さんからの連絡はまだない。
葛城さんは、やはりというか何というか、昨日の夜には帰ってこなかった。僕たちは夕食に大鍋いっぱいのカレーを作って、葛城さんの帰りを待っていたんだがな。
もっとも、そのカレーは綾波さんによってものの見事に殲滅されてしまったが。
そうして一夜明け、冬月副司令が誘拐されてから丸一日の時間が経過しようとしていた。
シンジ君、ラングレーはお隣の葛城邸で療養中。綾波さんと僕も、第14の使徒との戦いやエヴァに溶けていた時の疲労を癒している。
エアコンの出力を最大にしてギンギンに冷えた部屋の中央で、綾波さんはぐっすりと眠っている。僕はそれを見て微笑みながら夕食後の皿洗いをしている。
・・・そんな、何事もない日常だというのに。
なぜだろう。胸がざわつく。嫌な予感が止まらない。空気がゴゴゴゴ・・・・・・とうねりを上げていく。
僕は、今、岐路に立っている。ここで僕がどんな行動を起こすかで、この後の運命が変わる。そんな気がしてならない。
なんとなく、本当に何となくだ。僕は隣の葛城さんの家を訪ねてみた。鍵はかかってない。シンジ君もラングレーも不用心だな、と少し心配になるな。
僕は遠慮なくドアを潜って、葛城邸にお邪魔する。
「あれ?ジョルノ君。どうしたの?」
ちょうどリビングから出てきたシンジ君に、僕は軽く挨拶を返してからリビングにお邪魔した。
リビングのテーブルには二人分のコーヒーが置かれており、ラングレーとシンジ君がここでのんびりとしていた事がわかる。
「げ、ジョバァーナ」
僕の入室にしかめ面のラングレーを無視して、僕はなんとなく部屋を見渡した。
変わったところは特にない。いや──。
「なぁ、シンジ君」
「なに?」
「昨日、誰かから電話がかかってこなかったか?」
「え?どうだろう・・・・・・」
軽く困惑するシンジ君を他所に、僕はテーブルの上の電話機を指差した。
電話機の留守録ボタンが光っている。
僕の胸がザワリと音を立てた。
「あん?留守録?それがどうかしたの?ジョバァーナ」
「いや、なんとなくなんだが・・・」
僕は震える指でそのボタンを押した。ピーという音が鳴ったあと、留守番電話が再生される。
『葛城、俺だ。多分この話を聞いている時は、君に多大な迷惑をかけた後だと思う。すまない。リッちゃんにもすまないと謝っておいてくれ』
「加持さん?」
ラングレーが怪訝な声を出す。僕は黙って、留守録の続きに耳を傾けた。
『あと、迷惑ついでに俺の育てていた花がある。俺の代わりに水をやってくれると嬉しい。場所はシンジ君が知ってる』
「花って、あのスイカ畑のことかな?」
シンジ君ものんびりと呟いた。
『葛城、真実は君とともにある。迷わず進んでくれ。・・・もし、もう一度会える事があったら、8年前に言えなかった言葉を言うよ。じゃ』
『メッセージ。午後0時2分です』
そこでメッセージは終わっていた。
・・・・・・くそ!
僕の胸の中に訪れた焦り。マズいぞ、これは・・・ッ!!
「何よ。この電話・・・・・・何が起きてんの!?」
ラングレーの口調が切迫詰まったものに変わる。
「ジョルノ君、まさか・・・!?」
「ああ」
くそッ!
「加持さんは死ぬ気だ・・・!」
電話の時間は昨日の深夜だ・・・この電話がかかってきてからかなりの時間が経っている!僕の心臓がドドドド・・・と大きく脈打っているのがわかる!
どうする?加持さんの手がかりは何もない!
「どうするの!?」
「なんとかしなさいよ、ジョバァーナ!」
「わかっている!だが、僕には加持さんの行方なんて知らないし、闇雲に動いても加持さんは絶対に見つからない。一体、どうすれば・・・!」
僕らの間に緊張と切羽詰まった空気が流れる。くそ、時間がない!何かいい手はないのか・・・ッ!
そんな焦りに応える様に、僕の携帯が音を立てて鳴った。
「もしもし!加持さんか!?」
『残念、私よ』
この声、赤木博士か!
『冬月副司令が戻ってきたから、貴方に知らせようと思ったのだけど、相当焦っているみたいね』
「ああ。それに、かなり悪いニュースだな。という事は加持さんは用済みということか」
『そうとも限らないわよ。少なくとも彼を救い出す手ならまだあるわ』
「ッ!それは──!」
『碇司令から無理やり聞き出してきたわ。リョーちゃん・・・加持リョウジには発信機が取り付けられている。始末するために、ね。少なくとも今いる場所はわかるわ』
そんな方法があったとはな。少し興味があるが、今はそれどころではない!
「すぐに教えてくれ!加持さんはどこにいる!?」
『座標をメールで送るわ。あとはその場所に急いで』
「グラッツェ!」
僕が通話を切ると、すぐに赤木博士からメールが届いた。
よし、これでまだ救いの目は出てきたな!
「ジョルノ君!僕も行くよ!」
「いや、悪いがシンジ君。今回は君たちを連れて行くわけにはいかない。加持さんを救うと言うのなら、まず間違いなく戦闘になる。悪いが、ここに残ってくれ」
「でも!」
「シンジ、ジョバァーナの言う通りよ!今回はアタシたちでは足手まとい。この前のバルカとかいう奴の事、忘れたの?アタシ達ではやりようがないわ」
「く・・・・・・ッ!」
「悪いがラングレーの言う通りだ。時間がない。僕は行くぞ?」
「・・・・・・わかった。ジョルノ君、加持さんを頼むよ」
「まかせろ」
僕はそういうが早いか、葛城さんの車のキーを手に取った。昨日、電車で出勤してたからな、葛城さん。車が残ってて助かった。
「あんた、運転までできんの?さすがに不良すぎない?」
「なに、生きるために必要なアルバイトだっただけだ。それで勘弁してくれ」
そう言い残すと、僕は葛城さんの部屋を飛び出して、マンションの駐車場へと急ぐ。アルピーヌルノーの青。いつみてもイカす車だ。一度運転してみたいと思っていた。
運転席に乗り込み、キーを回す。ブォンッと音を立ててエンジンが回り出した。
「座標は、工業地帯か。とにかくここからは急がなければ・・・・・・!」
ドドドド・・・と車のエンジンが唸る。僕はアクセルを蹴り込むと、加持さんの元へと車を飛ばした。
◇
ゴォン、ゴォン・・・・・・・・・。
巨大な換気扇がこの場所の空気を静かに、重々しくかき混ぜていく。それ以外は何も聞こえない。どこかの工場なのか、地下路なのか、それすらも分からない薄暗い景色の中、かき混ぜられた空気にはかすかに鉄と油、そして錆の匂いが混ざっていた。
『セカンドインパクト』。その真実を突き止めるため、加持リョウジはその人生を駆け抜けてきた。
その代償が、いま、この場で支払われようとしている。
「これで…、ジ・エンド、か…」
加持のわき腹から滴りおちる血が、彼の足元に小さな血だまりを作っている。致命傷ではない。しかし、これ以上動き続ければその限りではない。
ジャリという地面を踏み締める音が、加持の背後から聞こえてくる。どうやらここまでの様だ。加持はゆっくりと背後に振り返った。
「よぉ」
加持は背後の人物に声をかけた。こんな時でも、いや、こんな時だからこそ、加持はニヒルな笑みを崩さない。
薄暗いこの場所、さらには逆光だったということもあり、その人物の顔を伺うことはできなかった。
「やっと来たな。遅いじゃないか」
逆光を背負った人物が銃を構える。人気のない場所だ。サイレンサーを付けるまでもないのだろう。ひどく武骨な拳銃が、加持の左胸に照準を合わせる。
夕暮れの街に、本当に小さく、パンッと乾いた音が鳴り響いた。
つづく