ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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 地面に倒れた加持さんを助け起こし、僕はアルピーヌルノーの助手席に加持さんを押し込んだ。

 

「おいおい・・・もう少し優しくしてくれてもいいんだぜ?」

 

「無駄口を叩けるくらいには回復したみたいですね。加持さん」

 

 ヴォン!と爆音を鳴らして、僕は車を発進させた。

 

 ふぅ、ようやく、ひと心地つけたって感じだな。バックミラーで追っ手がいないかを確認しながら、僕は横目で加持さんをチラリと見遣る。

 

「そんなに見つめるなよ」

 

「何を照れたように言ってるんだ。気色悪い」

 

「辛辣じゃないか、ジョルノ君。一緒に死線を乗り越えた仲だろ?俺たちはさ」

 

「流れ、でな。というか、ほとんどの場合、僕が加持さんを助けていた気がするがな」

 

「はいはい。全く、手強い共犯者だ」

 

 助手席で加持さんがくつくつと笑う。まったく、何が面白いんだか。

 

 それよりも。

 

「加持さん、貴方がまだ生きているうちに、人類補完計画について教えてくださいよ?僕はそのために貴方を助けたようなもんなんですからね」

 

「ああ、もちろんだ」

 

 加持さんの目つきが鋭くなる。彼もここにきて、ようやく追い求めていた『真実』に辿り着いたんだからな。その内容を、僕は今すぐにでも共有しておきたい。

 

「はっきり言ってしまえば、レポートにでもまとめてから君には話したいところだったが、時間が無い。俺が生きているとゼーレやネルフに知られるのはマズいからな。ところでジョルノ君、そこのところは、話を合わせてくれるか?」

 

「それは構わない。みんなには『加持さんは間に合わなかった』と伝えておこう。ただし、加持さんが持っている全ての情報を僕に伝える、という条件で、だ」

 

「わかっている。さて、まずは何から話したものか・・・・・・」

 

 加持さんは勿体ぶるように顎に手を当てて考え始める。車のエンジン音とエアコンの音だけが車内に満ちる。

 

「・・・・・・セカンドインパクト。これは、やはりと言うべきか、ゼーレの手によって起こされたものだった。ただ・・・・・・」

 

「ただ?」

 

「セカンドインパクト自体は、起きるべくして起きたと言える、んだろうな・・・・・・。アレは、南極で発見された第一の使徒アダム、その目覚めを遅らせるために、人工的に起こされたものだった。それは、アダムが他の使徒との接触によって本物のインパクトを起こさせない為に、敢えて人類が行ったインパクトだったんだ。アダムに接触したのは人間の細胞。そうする事でインパクトを誘発させ、アダムを胎児の状態にまで戻す事が、ゼーレの考えたシナリオだった」

 

「・・・・・・なに?じゃあセカンドインパクトは、ゼーレが人類を守るために行った事だというのか?」

 

「ああ、ある意味では、な。だが、セカンドインパクト後の世界的な大混乱。それ自体を利用したのもゼーレだ。奴らはその混乱に乗じて、世界中に根を張った。それが成長して、今では国連を裏から操る秘密結社だ」

 

「その一連の流れ、それも、あの文書に載ってたものか?確か・・・・・・」

 

「『死海文書』。ああ、そうだ。表に出る事のない預言書、『裏死海文書』を手に入れたゼーレはそこに記述されていた内容を元にインパクトを起こし、ゲヒルン、つまりネルフの前身となる組織を作り出した。そしてエヴァンゲリオンも、『裏死海文書』を元にゼーレがその叡智を結集させて作らせたものだ」

 

 なるほどな。前の飲み屋での会話で聞いた時の加持さんの仮説、それとも一致する。つまりあの時点で、加持さんはほぼ正解に近付いていたってワケだ。

 

「情報を整理させてほしい。過去に起きてしまったセカンドインパクトは覆しようのない事実だが、ネルフの地下にあると言われるアダム、それと使徒が接触する事で、サードインパクトは起きる。これは間違いないか?」

 

「いや、ジョルノ君。ネルフの地下にいるのはアダムじゃない。第二の使徒、リリスだ」

 

「!?」

 

 なに?確か、人類を生み出したとされる使徒。何処にいるかもわからないと言われていた使徒が、ネルフの地下に?

 

「最初から説明しよう。地球に生命が誕生する前に地球に落下した巨大な隕石。その中に眠っていた『白き月』が内包していたのが第一の使徒アダム。それとは別に、もう一つの巨大な隕石が地球に衝突し、地中深くに残したものこそが『黒き月』。それが内包していたのがリリスだ。黒き月はこの日本の、ネルフ本部があるジオフロントに落下した。いや、黒き月が落ちたからこそ、ジオフロントが生まれたと言っていいだろう」

 

 そういう事だったのか。あの巨大な地下空間、あまりにも出来すぎていると思っていたが、そういう理由で出来上がった空間だったんだな。そして、そこには当然──、

 

「リリスが眠ってるわけだ」

 

「あぁ。生命の実を宿した使徒アダム。使徒はアダムと接触する事でサードインパクトを起こし、人類を滅亡させると考えられているんだが、そのアダムに対して、知恵の実を宿したリリス。アダムとリリス、この二つが接触する事で、より強力なサードインパクトが発生するとも考えられているようだ。そして、その禁断のアダムとリリスの融合によるインパクトの発生こそが、『人類補完計画』の正体だ・・・!」

 

「な、なんだって・・・・・・!?」

 

 バカな、それでは話がおかしい。辻褄が合わない。ゼーレの『人類補完計画』は、『人類を一つ上の段階に進化させるもの』だったハズだ。これでは人類どころか、全ての生命が消滅しても不思議ではない。

 

「おかしな話だろう?俺も最初はそう思ったさ。だが、リリスとアダムの融合で起こるインパクトは、ただの大爆発じゃない。全ての生物をLCL・・・生命のスープに『戻して』、全ての生命を一つに混ぜ合わせようという計画なのさ」

 

「馬鹿な!?狂ってる!そんな事をして、一体どうなるっていうんだ!?」

 

「死、という現象。決して逃れられない運命からの解放。それを等しく人類に導き、単一の生命体として生まれ変わらせるのが、ゼーレの『人類補完計画』だ」

 

 僕はあまりの馬鹿馬鹿しさに言葉を失った。死という絶対的な運命からの解放、だって?それは・・・それはプッチ神父の考えていた『天国』よりも尚酷い。運命からの逃避だ。

 

 それは今を必死で生きている人達の、生命への侮辱だ。

 

「恐らく、使徒を滅するところまではゼーレもネルフも、国連も日本の戦略自衛隊も手を結ぶだろう。だが使徒を全て殲滅した瞬間──」

 

「ゼーレは、全人類に牙を剥く。人々の魂の救済と称して」

 

 ふざけるな。

 

 ふざけるんじゃあない・・・!

 

 こんなふざけた話があってたまるものか!

 

「そこに加えて、碇司令の『人類補完計画』。これはまた別の計画を画策しているようなんだが・・・・・・」

 

「それは恐らく、というか、加持さんの話のお陰で僕の中で全てが繋がった。全ての魂を一つにする『人類補完計画』。碇司令はそれを利用して、エヴァの中に眠る『碇ユイ』さんとの再会が果たせると考えている・・・・・・」

 

「・・・はっ。惚れた女にもう一度会いたいってか。気持ちはわからんでもないがね」

 

「やり方は本当に下衆の考えそうな事だがな。そうか。だから『碇ユイ』さんは僕をこの世界に呼んだのか・・・・・・」

 

 ようやく全てが繋がった。『碇ユイ』さんは、この人類補完計画の行く末を知っていたんだ。彼女は『失敗した』と言っていた。恐らく、彼女にとっても思いもよらぬ形で、人類補完計画は実行されたのだろう。

 

 だからこそ、彼女はあの『時の最果て』と呼んでいたあの場所で、心から願った。『息子を助けてほしい』と。

 

 そうして、呼び出されたのが、僕という存在。

 

「俺はこれから身を隠し、内閣府に戻るつもりだ。今からならまだ間に合う。総理を説得し、戦略自衛隊によりゼーレを迎え撃つ事も可能なはずだ。ジョルノ君はどうする?」

 

「それ、聞く意味のある質問ですか?僕はシンジ君を守る。彼と一緒に、このふざけた『人類補完計画』を叩き潰す」

 

 僕のハンドルを握る手に、力が込められていく。そうでもして耐えなければ、今すぐに車をどこかにぶつけてストレス発散したいくらいだ。

 

「よし。じゃあジョルノ君は俺とこのまま同盟関係を続けてくれると考えていいな?」

 

「ああ、貴方からは最高に有益な情報を得られたからな。貴方には死んでもらっては困る。僕の方で、貴方の事は隠しておく事にしよう」

 

「すまない。助かる。・・・・・・っと、この辺りでいい。下ろしてくれ」

 

 アルピーヌルノーがキキィッとブレーキ音を上げて止まる。加持さんは周囲を探る様にしながら車から降りた。

 

「頼むぞ、ジョルノ君。俺は俺のできる範囲で全力を尽くす。君は葛城や、シンジ君たちの事を守ってやってくれ」

 

「当然です。貴方も、どうか無事で」

 

「はは。お互いにな」

 

 加持さんはそういうと、周囲を警戒しながら走り去っていった。

 

 さて。僕の方も、これからやる事は多そうだ。

 

 碇司令を失脚させるか?いや、碇司令の人類補完計画はそれで挫けたとしても、ゼーレの補完計画までは、どうにもならない。

 

 それまでは、使徒との戦いを続けるしかないのか?

 

 

 

 いや、そうじゃない。

 やれる事はもう一つだけある。

 

 

 

 それは、リリスの殺害。

 

 

 

 僕は胸のうちに漆黒の炎を宿らせながら、硬く決心する。ネルフの地下に眠る、元凶の暗殺。

 

 それができるのは、恐らく僕だけだ。

 

 ぽつ、ぽつと雨がフロントガラスを濡らしていく。これからの僕の行く末を、まるで、暗示するように。

 

 僕は、リリスを殺す。

 

 それがこの物語を終わらせるための、最善の手段だと疑いはしなかった。

 

 

 

つづく

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