ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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 それからさらに数日後、弐号機のケージに僕たちチルドレンは集っていた。理由はわからないが、ラングレーがいきなり弐号機の所に行きたいと言ってきたので、4人で連れ立って赴いた、というわけだ。

 

 シンクロテストの後だから、僕以外は全員プラグスーツだ。今日も今日とて、三人のシンクロ率は芳しくない。

 

 だから、なのか。ラングレーは腰に手を当てて弐号機を見つめている。その表情は、睨みつける様な、困惑した様な、不思議な表情だった。

 

「アスカ」

 

「ん?なに?レイ」

 

「心を開かなければ、エヴァは動かないわ」

 

「心を閉ざしているってぇの?この、アタシが・・・」

 

「たぶん。アスカは今、いろいろな事が起こりすぎていて、心が固くなってるんだと思う。だから・・・・・・」

 

「ふふっ、ありがとう、レイ。大丈夫よ。それを確かめるために、アタシはココに来たんだから」

 

 少しだけ笑顔の戻ったラングレーが、再び弐号機を見つめると──、

 

「あなたはアタシの人形なんだから、黙ってアタシの言う通りに動けばいいのよッ!」

 

 ラングレーはビシィッと指を弐号機に突きつけていた。

 

 おいおい、ラングレー。それじゃあ意味が無いんじゃあないか?

 

「アスカ、それじゃだめだよ」

 

「ふふふ。わかってるわよ。ジョーダンよ、ジョーダン!・・・・・・ね、ママ?」

 

 シンジ君の指摘に、ラングレーは笑顔で答えた。そして、弐号機に向けて慈愛の籠った瞳を向ける。

 

「ママ。いるんでしょ?アタシ、昔はママの事、あのひまわり畑では見つけられなかった。でもこの前、確かに感じたの。エヴァの中に、ママの温もりを感じたの。だから・・・」

 

 ラングレーは両腕を広げて、弐号機に話しかけた。

 

「今までありがとう、ママ。アタシ、頑張るから。ママも一緒に、最後までアタシと戦って・・・・・・?」

 

 ラングレーの言葉に、弐号機はうんともすんとも答えない。

 

「アスカ・・・」

 

「・・・いいの、シンジ。今はこれだけで十分よ」

 

 少しだけ寂しそうな顔を見せたラングレー。その視線が、弐号機から外れる。

 

 その時だった。

 

「・・・・・・・・・ゥォァ」

 

 弐号機が、本当に小さく、声を上げたのだ。

 

「え・・・・・・?」

 

「・・・・・・・・・・・・ァ、ゥァ」

 

 僕たち全員が驚愕に目を見開く。近くにいたスタッフ達も同様だ。誰も乗っていないエヴァが、声を上げたのだ。

 

 最初にエヴァに乗った時はわからなかったが、今ならこの異常性がよく分かる。あの時、僕は『碇ユイ』さんの魂に呼びかけたが、これは・・・ッ!

 

「ママ・・・・・・ママッ!!」

 

 ラングレーが思わず弐号機に飛びつこうとしたのを、僕とシンジ君で必死に止める。

 

「ねぇ!シンジ、聞こえた?聞こえたわよね!?」

 

「うん・・・うん!聞こえたよ」

 

「ママがいた!ママがずっとアタシを守ってくれていたのよ!ずっと、ずっと!!」

 

 ラングレーの両目から、大粒の涙が流れる。シンジ君はそのラングレーを強く抱きしめた。

 

「よかった。よかったね、アスカ」

 

「うう、うあ、あああ、あああああ・・・」

 

 シンジ君に抱きしめられながら、ラングレーは子供の様に泣きじゃくった。その様子を綾波さんが暖かく見守っている。

 

 こんなに微笑ましい場面だと言うのに、

 

『総員、第一種戦闘配置。対空迎撃戦用意!』

 

 まったく、使徒という奴はトコトン空気を読まないみたいだな。

 

 

 

 

「使徒を映像で確認!最大望遠です!」

 

 第二発令所のメインモニターに、使徒の姿が大々的に映し出される。その姿は、

 

「光の、鳥か?」

 

 形容し難いが、そう例えるしかない。宇宙空間において、まるで実体を持たない様な、光る使徒。

 

 僕はその姿を、隣のシンジ君と二人で睨みつけている。

 

「衛星軌道から動きませんねぇ」

 

「ここからは、一定距離を保っています」

 

「てことは、降下接近の機会をうかがっているのか、その必要もなくここを破壊できるのか・・・」

 

「こりゃ迂闊に動けませんね」

 

 オペレーターの皆さんと葛城さんが意見を交えている。だが、僕は彼らの言葉とは全く違う考えを頭に思い描いていた。

 

 チャンスだ。

 

 この使徒の目的や攻撃手段などはわからない。だが、今この時点で使徒は全く動きを見せていない。時間だけが無駄に過ぎていくが、僕にとってはそれが逆に良い!

 

 使徒と睨み合うネルフ。その隙に、僕はネルフの地下深くまで降りていってリリスを殺す。

 

 考える限り、最大のチャンスだ。

 

「葛城さん」

 

「なによ、ジョルノ?」

 

 僕は葛城さんに声を掛ける。葛城さんも気付いているだろう。僕を無視せず、わざと僕に視線を寄越した。

 

「初号機で出ます。許可を」

 

「ダメよ」

 

「なぜ?」

 

「碇司令の厳命よ。貴方とシンジ君はここで待機」

 

 葛城さんが僕に近付き、僕の肩を叩く。

 

「わかってるでしょ?あなた達が初号機の中で溶けてしまった前例がある以上、あなた達を無理に出撃させる事はできないわ」

 

「その通りだ。ここで大人しく待機していろ。ジョルノ・ジョバァーナ」

 

 発令所の上階から、碇司令の言葉が降ってくる。碇司令と冬月副司令。ネルフの首脳陣が、この場で使徒の対処に釘付けになっている。

 

 僕にとって、完璧なシチュエーションだ。

 

「そういう事だから、貴方は大人しくしていて」

 

 葛城さんがその言葉を発すると同時に、僕の胸ポケットに収まったものがあった。

 

 つまり、葛城さんのIDカード。

 

 準備は完全に整った。

 

「そうですか。残念です」

 

「ジョルノ君?」

 

「悪い、シンジ君。少し席を外す。なに、すぐに戻ってくるが、何か起きたら後で教えてくれ」

 

「・・・・・・?う、うん。わかったよ」

 

 僕はそう言って、発令所を後にした。背後で葛城さんがエヴァパイロットに指示を飛ばしているのが聞こえてくるが、僕はそれらを無視して歩調を早める。

 

 ようやくだ。ようやく、ここで。

 

 全てを終わらせる事ができる!

 

 

 

 

 ネルフ本部の地下深く。セントラルドグマの行き着く先。その最奥に、僕は足を踏み入れた。

 

 地上では、今頃エヴァと使徒の戦闘が始まっている事だろう。そんな事を考えながら、僕は自分の心を静かに黒く染め上げていく。

 

 この先にいるであろう、すべての元凶を滅するために。

 

 僕の目の前には重厚な扉。カードキーを差し込む箇所はあるが、きっと葛城さんの持っていたカードキーでは開かないのだろう。

 

 僕は躊躇うことなく、扉に『ゴールド・エクスペリエンス』を叩き込む。扉には『生命』が与えられ、ただのツタの塊となった。

 

 僕はそのツタを引きちぎりながら、扉の奥へと進む。

 

 扉の向こうの暗闇。その奥にあったのは──、

 

 

 

「コイツが、『リリス』か」

 

 

 

 巨大な赤い十字架に磔にされ、7つの瞳を描いた不思議な仮面を付けた、真っ白い体をした巨人。

 

 その胸を、赤い二又の槍によって貫かれたその巨人こそ!

 

「『リリス』!!」

 

 ようやく会えたな。そして、すぐにサヨナラなんだが。

 

 僕は真白い巨人にゆっくりと近付く。リリスの足元には僕が今まで何度も目にしてきた、LCLのプールがある。

 

 ここから直接、リリスに触れる事はできない。

 

 僕は胸元から『矢』を取り出すと、

 

「ゴールド・エクスペリエンス!!」

 

 自身のスタンドに、『矢』を突き立てた。

 

 途端に進化する僕のスタンド。余りあるスタンドパワーに、僕の体が宙にフワリと浮かぶ。

 

 そのまま、空中を滑る様に移動する僕は、とうとうリリスの眼前にまで辿り着いた。

 

 目の前の巨人が生きているのかどうか、それを判断することはできない。

 

 だが、関係ないな。

 

 お前はこの場で始末する!!

 

 『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』の指先が、リリスに触れた。

 

 そこから、『レクイエム』のスタンドエネルギーをリリスに流れ込む。

 

 終わった。

 

 僕が確信したその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぞ 

 

      わ 

 

           り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブワッと、僕の全身を強烈な悪寒が襲った。

 

「ッ!!?」

 

 僕は咄嗟にリリスから離れる!

 

 な、なんだ!?今の悪寒は!

 

 まるで、まるで・・・!

 

 幾百もの視線に晒されたような、この気持ち悪さは!

 

「う、うあ・・・・・・」

 

 僕の『レクイエム』は無敵の能力だ。そのはずだ。どんなスタンドであろうと、『0』にして無かった事にできるスタンド。

 

 それはどんな生命体であろうと、例外ではない。そのはず、だった。

 

 だが、目の前の『物体』は!!

 

「『生命』ではない!もっと大きくて、おぞましい!なんだコレは!・・・・・・はッ!?」

 

 気付けばリリスに触れた僕の『レクイエム』の指先から、『何か』が迫り上がってくる。

 

 それはまるで『呪い』。圧倒的な闇の感情を持った、幾つもの視線。指先から迫り上がってくる、強烈な負の感情。

 

 僕は、勘違い、をしていた。

 

 耳の奥でピィーーーンと甲高く鳴る音。

 

 圧倒的な、生命への警告。

 

 コイツは、単一の生命体ではない。触れてはならない、呪いのような『なにか』!その塊!

 

 『レクイエム』の指先を伝って、『存在してはならないもの』が僕の体を侵食してくる!

 

 これは・・・・・・!

 

「『神』、という事か・・・!?絶対的で、人の身では触れてはいけない『何か』!コイツは、生命の『根源そのもの』!それも、この世界を形成した『原始の呪い』そのもの!」

 

 僕の右腕を、『リリス』が迫り上がってくる!

 

 マズい、なにがなんだかわからないが、このままではマズい!

 

 僕は急いで、自身の右腕を『レクイエム』で切断しようと試みる。

 

 だが。

 

「!!?」

 

 その瞬間、幾百幾千もの何かが僕の全身を『撫でた』。

 

 まるで愛おしむように。滑らかに、粘りつくように。

 

「あ、ああああ・・・・・・」

 

 いまや幾万とも言える指先が、僕の体内に侵食してくる。僕の意志を無視して、僕の体に入ってくる。

 

「や、やめ、やめろ・・・」

 

 あまりの恐怖に、僕の声が震えている。これは『やってはいけない事』だった。決して人の身で手を出してはならない、『神の領域』。

 

 僕はそれに手を出した。

 それには当然、『神罰』が下る。

 

「う、うう、うううううあ、ああああッ!」

 

 思い上がっていた。『レクイエム』という超常の力を得た僕は、完全に思い上がっていたんだ。

 

 目の前の存在は、可視化された『神』だ。人の身でどうにかなるはずもない、至上の存在。

 

 そして『人類補完計画』とは、神に乞い願う、儀式だったんだ。たった一人の人間ではどうしようもない、幾星霜もの準備と生贄とを必要とする儀式。『レクイエム』など、必要無い。意味も為さない。ゼーレはすでに、そこまでの結論を得ていたのだ。

 

 だからこそ、理解した。

 

 僕は、最初から『泳がされていた』のだ!

 

 ゼーレはそれをわかっていたから、僕を放置していたんだ!

 

「う、うおおああああああああああッ!!?」

 

 僕の全身を、闇が染め上げていく。

 

 僕という存在が、塗り潰されていく。

 

 『レクイエム』も発動しない、圧倒的な『存在』としての差。

 

 手を出してはいけなかったのだ。触ってはならぬ神に、僕は手を出した!

 

「た、祟られるッ!!こ、これは・・・!?」

 

 僕という存在が、『リリス』に染まる。逃げられない!

 

 マズい!

 

 マズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズい!

 

 自分が自分では無くなる恐怖。いや、自分という存在を残したまま、『何かの供物にされる』という恐怖!何かが僕の体の奥を覗き込んでいる!

 

 僕を支配していたのは、それだった!!

 

「ああああああああああああああああ・・・ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゴ ー ル ド ・ エクス ペリエ ンス ・ レ ク イ エ ム』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビキィッ!!と、僕の体にヒビが入ったような感触と共に、僕は床面に倒れ伏していた。

 

 ここ、は?

 

 僕は疲労困憊しながらも、必死に顔を上げた。ここは、リリスの扉の前?セントラルドグマの最奥、か?

 

 なぜ、この場所に僕は倒れているんだ?今の今まで、僕は死よりも恐ろしい目に遭っていたというのに。

 

 僕の右手に、微かな違和感。

 

 右手を開くと、そこには。

 

 粉々に砕け散った、『レクイエムの矢』が握りしめられていた。

 

 

 

つづく

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