ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
ガシャンッ!!と大きな音を立てて、僕は独房のベッドに倒れ込んだ。どうやら、アレから気を失ったところをネルフの諜報部に見つかって、連れてこられたようだ。
全身に力が入らない。凄まじい無力感に苛まれて、僕は指一本動かすことができずにいた。
かろうじて僕の右手の中に残ったもの。砕け散った『矢』の欠片だけを握り締めて、僕はこの独房で一人俯いていた。
勝てない。これまでの僕の人生において、『諦める』という感情を抱いたのは久しぶりのことだった。
あの絶対的な存在を前にして、僕の心はいまや完全に折れていた。あの『リリス』を前にして、もう一度立ち向かうだけの勇気は無い。少なくとも、今はまだ。
何よりも、僕はブチャラティ達から託された『矢』を失ってしまった。欠片はここにあるが、同じ力を持っているとは到底思えない。その喪失感が、あまりにも大きすぎる。
だからこそ、だろう。
「ジョルノ、君?」
シンジ君が心配して僕を訪れてくれた事にも気付かないほど、僕は消沈していたらしい。
「やぁ、シンジ君」
「ジ、ジョルノ君。大丈夫?酷い顔だよ」
「・・・・・・・・・・・・」
なにも、返せない。せっかくシンジ君が心配してくれてるっていうのにな。
こんな情けない姿を『他人』に見せるのは、初めてかもしれないな。
僕は簡易ベッドにどうにか座り、シンジ君に視線を向けた。シンジ君は僕の視線にビクッと身を震わせた後、恐る恐るといった風に口を開いた。
「使徒は、倒したよ。アスカと綾波が使徒の精神汚染を受けたけど、二人とも軽症だって。最後は綾波が、ロンギヌス?の槍ってので使徒を倒してくれた」
「・・・・・・そうか」
「・・・それから、ミサトさんが捕まったんだ。ジョルノ君が許可なくターミナルドグマまで行けたのは、ミサトさんのIDを使ったからだって」
「・・・そうか。それは悪い事をしたな。あのカードはちょいと拝借したんだ。葛城さんに罪は無い」
「・・・・・・・・・」
痛いほどの沈黙が、僕たちの間に流れる。
「ねぇ、ジョルノ君。なんで君は、その、あんなところにいたの?」
「すまないがそれは言えない。言えばシンジ君にも危害が及ぶ。僕の共犯者になんて、されたくないだろ?」
「・・・やっぱり、何かしようとしてたんだね?」
「悪いがそれも言えない」
「言えないってことは『そうだ』って事だよね」
「はは。珍しく鋭いじゃあないか、シンジ君。それについては、当たりだ」
「!」
シンジ君が格子の向こうで息を呑んだのがわかった。僕は彼から視線を逸らし、組んだ両手に視線を落とす。
なぜ、そんな事をしたんだろうな。なんとなく、シンジに対して後ろめたい気持ちがあったのかもしれない。
「ジョルノ君・・・」
「なんだい?」
「・・・いや、いいや。ゴンツガワさん」
「あいよ」
ん?ゴンツガワさん?なんだ、シンジ君をここに連れて来たのは看守のゴンツガワさんだったのか?
それを確認する前にゴファッという音がして格子が開いた。シンジ君がツカツカと僕の方に歩いてくる。
僕はそれを、どことなく冷めた目で見ていたんだが。
バギィッ!!
「!?」
僕の頬を、シンジ君の拳が打ち抜いていた。たまらず僕はベッドから転げ落ちる。
「な、シンジ君!?」
驚く僕を無視して、シンジ君は僕の胸ぐらを掴んで締め上げる。
「!?」
「あんまり、僕を舐めないでよ。ジョルノ君・・・!」
「・・・?舐める?」
「ジョルノ君が何かしようとしてたのなんて、とっくにわかってたんだ・・・加持さんが死んだ時から、どこか様子がおかしいのはわかってたんだ!でも、ジョルノ君ならきっと僕に話してくれると思ってた!だから、僕はずっと、何も言わずに黙ってたのに!!」
「!!」
「なんでだよ!僕たち、一緒に初号機で戦ってきた仲間じゃないか!なんで僕に相談もせずに、自分一人で突っ走ったんだよ!僕はそんなに頼りない奴なのかよ・・・そんなに僕は!ジョルノ君に『守られなきゃいけない』存在なのかよッ!!」
「し、シンジ君」
「僕は確かに、ジョルノ君みたいなスーパーマンじゃない・・・頼りない男だってわかってるさ。でも!それでもジョルノ君の力になりたいっていつも思ってるんだ!対等の!パートナーだって思ってたんだ!それなのに・・・・・・」
シンジ君は、僕の胸ぐらを掴んだまま俯いて、
「なんで、一緒に戦わせてくれないんだよぉ・・・・・・ッ!」
その瞳に、悔し涙が浮かんでいた。
この、感覚。覚えがある。
ああ。あれは、そうだ。ナランチャを、置いていこうとした時の。
あの時の僕はわかっていた。きっとナランチャは僕たちについてくるだろうと。
なのに、今回の僕は。
シンジ君を信じずに、勝手に行動を起こし、挙句、失敗した。
こんなに、こんなにまで僕と一緒に戦ってきてくれた『友達』を、心から信じきれなくて。
シンジ君の言う通りだ。僕は『碇ユイ』さんから言われた通り、シンジ君を『守るべき存在』として見てきた。
そうじゃあない。もう、違うだろう?
彼は、僕と一緒に、『戦ってくれる存在』だったじゃあないか。
「シンジ君」
僕は、大馬鹿だ。
『矢』を失った。僕はもう『レクイエム』を使えない。
だけど、それがなんだと言うのだ。
そんなものが無くたって、僕とシンジ君は立ち向かってきた。『どうしようもない運命』に抗ってきた。
いつだって、そうだった。
僕が受け継いだ『黄金の魂』は、目の前の少年にすでに宿っている。受け継がれている。
僕は、彼を『舐めて』いたんだ。
「・・・・・・すまない。悪いが、シンジ君。少しだけ、ちょっとだけでいい。離れてくれないか?」
「・・・・・・?」
「心配しなくていい。これはケジメってやつだ」
僕はそう言ってシンジ君を引き離すと、
自分の顔に、『スタンド』の拳を叩きつけていた。
「うぐッ!!」
「ジョ、ジョルノ君!?」
「き、効く!なるべくならやりたく無い事ではあったが、これは僕への『戒め』だ。僕は知らず知らずの内に君を『侮辱』していた。これはそんな僕への『ケジメ』というヤツなんだ」
「ジョルノ君!鼻血がすごいよ!早く手当しないと」
「必要無いッ!これは僕の『覚悟』だ。今、改めて実感した。今、僕の目の前には暗闇が広がっていたが、それを照らしてくれたのはシンジ君!君だった!!」
「!!」
僕はシンジ君の手を握ると、僕の胸にドンとぶつけた。
「グラッツェ、シンジ君。君に、いや、君たちにすべて話そう!綾波さんやラングレーも含めて、僕の知っている事を全て話す。僕たちは『チーム』だったんだ。『人類補完計画』を叩き潰すのは、僕たち『チーム』でなくてはならないッ!」
「ジョルノ君!」
「ゴンツガワさん。悪いが僕はここを出るぞ?『いつも通り』だ。ついでに葛城さんも連れて行きたいんですが構いませんね?」
「・・・・・・ったくよ。これだからジョルノの坊ちゃんには頭があがらねぇ。俺には話の流れがよくわからんがよぉー、何か大事な事をしよーっつーのはわかる。目ぇ瞑ってるからよ、さっさと行きな」
そう言って、ゴンツガワさんは本当に目を閉じてくれた。
「俺の査定、きっとひでぇ事になるんだろーなぁー。どっかの金髪の坊ちゃんがよぉ、取り上げてくれなきゃ一生恨んじゃうかもなぁ〜?」
「ディモールト・ベネ!約束しよう!」
まぁ、と言っても僕は嘘つきだからな。忘れてなければ、と後書きがつくが。
ともかく、僕とシンジ君は独房を抜け出す。葛城さんも連れ出して、まずは綾波さんとラングレーのお見舞いに行こう。
シンジ君のお陰で、僕の戦い方は決まった。もう迷う必要も、ビビる必要もないな。
できることは少なくなったが、せいぜい、足掻かせてもらうとしようか。
つづく