ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
そろそろ、終わらせるとしようか。
この、くだらない物語を。
全ての生命を侮辱する、茶番劇を。
僕一人だけ、意地を張って戦うことはもうやめよう。
今の僕にはチームとしての『仲間』がいる。僕と共に、戦ってくれる『友達』がいる。
「残る使徒は、あと2体だ」
僕の声が広々としたネルフの病室内に木霊した。その言葉に息を呑んだのは──、
「あと」
「2体・・・・・・」
「たった、それだけ?」
シンジ君と、病室のベッドに腰掛けたラングレーと綾波さんだ。
「ああ。加持さんが命懸けで掴んだ情報だ。間違いはないと思う。そーだな?葛城さん」
僕の問いかけに、病室の壁にもたれかかっていた葛城さんはハァとため息をついた。
「私に託された情報にも同じようにあったわ。『裏死海文書』の内容だから、多分間違いはないと思う。・・・けどジョルノ。よくも私に向かって『加持は死んだ』なんて嘘を堂々とつけたもんね」
「それについては済まないと思ってはいる。だが、アレは仕方のない嘘であったとも言っておこう。加持さんの生存が明るみに出れば、加持さんからの援護は望めない。今現在、加持さんは内閣府に戻って日本の総理大臣と、ゼーレとの決戦時の戦略自衛隊の扱いについて交渉中のはずだ。それが終わるまでは、バラす訳にはいかなかったって話だ」
「でも結局はバラしてんじゃない。一体どういった心境の変化よ」
おっと、それを聞かれると流石に気まずいな。なんせ葛城さんには、自信満々に『リリスを殺す』なんて宣ったわけだからな。
それをものの見事に失敗したんだ。少しくらいの羞恥心というやつは、僕にもあるんだ。
「恥ずかしい話だが、僕は失敗した。『リリス』は殺せない。少なくとも、ただの人間に殺すことはできない。アレは文字通りの『神』だ。あれを殺すには、『神』と同等の力を持つ『何か』。それでしか成し遂げる事はできないと思う」
例えば、リリスに刺さっていた赤い槍、とかな。もっとも、ソイツはすでに第15の使徒殲滅に使われていて、回収も不可能だという事は聞いている。
「僕の出せる全ての手札を切っても、リリスを殺す事はできなかった。それどころか、僕は僕の持つ最強の切り札すらも失った。正直、なりふり構ってられないって事ですよ、葛城さん」
「む」
「ジョルノ君。そういう言い方は違うんじゃない?」
僕の物言いが気に入らなかったのか、葛城さんがしかめ面に、シンジ君も憮然とした表情で釘を刺す。
「僕たちは『チーム』だって言ったのはジョルノ君じゃないか。そのジョルノ君が、僕たちを頼ってくれた。それでいいんじゃないかな?」
「・・・・・・全く、シンジ君には敵わないな」
僕は苦笑するしかない。この小さな『友人』は、僕が思っていた以上に強く成長したようだ。
今では僕の方が、彼らに頼っている。少しだけ、不思議な気分ではあるが。
「とにかく、話を戻すぞ?人類に牙を剥く使徒の数は残り2体。それで全ての使徒との戦いは終わりだ。だが、その後に控えている人為的なサードインパクトの誘発こそが、ネルフの親組織であるゼーレが提唱する『人類補完計画』だ。僕らはその計画を叩き潰さなくっちゃあならない。ここまではいいか?」
「待ちなさいよ、ジョバァーナ。なんで人類、というか国連?の大元であるゼーレっちゅーのが、人類を救う為にサードインパクトを起こすのよ?おかしいじゃない?」
「それなんだがな、ラングレー。どうやら人類の行く末を担うはずのゼーレとやらは狂信者の集まりのようだ。人類だけでなく全ての生命体をLCLのプールと化して混ぜ合わせ、人類を『死』という逃れられない運命から逸脱させたいんだ、と。僕には到底、理解できる事柄ではないがな」
「・・・・・・はっきり言いたかないけど、アタシもおんなじ気持ちよ、ジョバァーナ」
「グラッツェ。とりあえず話を進めさせてもらうぞ」
僕は病室内にいる全員を見回した。
「僕たちがやらなければならないのは『人類補完計画』の阻止。使徒を殲滅した後にゼーレの手によって引き起こされるサードインパクトの阻止だ。これを防ぐ事が、僕たちの勝利の絶対条件だ」
僕の言葉に、この場にいる全員が静かに頷く。
僕はそれを見回して、応えるように頷いた。
「この条件を満たすには、いくつかの手段があると僕は考えている。一つはリリスの殺害。だが、これは少なくとも人間一人にどーにかなるものでは無いというのは僕が身をもって体感した事だ。まず不可能だろう。では次にアダムの殺害、という点が挙げられるが・・・」
「アダムはどこにいるかはわからない。碇司令の手に渡った事だけはわかるけど、それ以上の事がわからない以上、手を出せないというのが現状よ」
僕の言葉を引き継いで葛城さんが続いてくれた。僕は葛城さんに対して頷き返す。
「その通りだ。例えあの髭を拷問したとしても、仮にもネルフのトップを張っている男だ。簡単には口を割らないだろう。選択肢としては残るが、今取るべき手段じゃあない」
「じゃあ、わたし達は、どうすればいいの?」
綾波さんが、可愛らしく首を傾げて僕たちに尋ねた。
「ゼーレの『人類補完計画』。その根幹は、エヴァンゲリオン13体をリリスへ生贄として捧げる事で発動するものらしい、という事まではわかっている。となれば、僕たちが取れる手段の一つとして、使徒殲滅後のエヴァ零号機、初号機、弐号機の廃棄、という手が取れる」
但し、と僕は付け加えた。
「ゼーレの『人類補完計画』に、実際のところ何体のエヴァが必要なのか?それは僕にもわからない。万全は13体だろーが、もしかしたら数が少なくとも発動できるのかもしれない。それがわからない以上、僕らの持つ三体のエヴァを廃棄するのは得策ではない、とも感じている」
「八方塞がりじゃない・・・どーすりゃいーのよ!」
ラングレーがイラついたように声を荒げた。
「一番簡単なのはエヴァをこれ以上造らせないってところなんだが、この案はどう思います?葛城さん」
「無理ね」
即答だな。まぁ、わかってた事だ。
「すでに第13号機までの量産は始まってるわ。世界各国で行われている以上、私たちにそれを止める術はない」
「やはりな。となると次に思い浮かぶのはリリス、またはアダムの殺害だが、先ほど言ったように、これも僕は難しいと思っている。リリスは言わずもがな。アダムに至ってはそもそもネルフのどこにいるのかも謎だ。碇司令の事だから、かなり厳重な警備が敷かれているだろう」
加えて、
「アダムとリリスが同等の存在なのだとしたら、アダム自体にも得体の知れない神がかった力があるのかもしれない。よってこの案も不採用だ」
「ジョルノ君。そこまで八方塞がりだと、僕たちに『今』できる事ってないんじゃないかな」
そう。シンジ君の言う通りだ。
「使徒を殲滅するまでは、僕たちのできる事はない。問題は使徒を殲滅した後、恐らくだがゼーレが出張ってくるってことだ。そして、僕は逆にそここそが、僕たちの勝利における最大のポイントだと考えている」
「最大のポイント?」
綾波さんがまたしても首を傾げる。僕はそれに頷きながら微笑み返した。
「ゼーレ本人が出張ってくるかはわからないが、はっきりしている事は、ゼーレがリリスを使って『人類補完計画』の最後の儀式を行おうとするって事だ。そこには当然、エヴァンゲリオンの量産型も現れるだろう。僕たちがやる事はとてもシンプルだ。その量産型どもを、ネルフのエヴァンゲリオンによって撃破する」
「!!」
「そうね、『人類補完計画』の発動条件を崩せるのはそこしかないわ」
頷く葛城さんに対して、チルドレンの三人は驚きの表情を隠しきれない。なぜなら、それは──、
「人と戦う・・・・・・て事、だよね?」
「そうよ。これは人類の運命を賭けた戦い。いえ、戦争になると、私は思ってるわ」
「せ、戦争!?」
「エヴァとエヴァの戦いは、兵器と兵器のぶつかり合いよ。これが戦争でなくて、なんだっていうのよ」
「ちょっと!アタシたちに人を殺せって言うの!?」
「殺さなければこっちがやられる。いえ、人類全てがゼーレによって滅ぼされるわ。ゼーレの馬鹿げた理想とともに、ね」
「・・・・・・・・・・・・」
ラングレーと、シンジ君は黙って俯いてしまった。当然だな。今までは使徒という怪獣が相手だったのに対し、最後の戦いは人同士の殺し合いだ。決して、すぐに受け入れられる物ではないだろう。
だからこそ、僕は自分の考えを口にした。
「それは『最悪の場合』。そうだな?葛城さん」
「ジョルノ?」
「希望的観測だが、ゼーレ側が比較的穏便な方法を取ってくる可能性もあるって事だ。例えば使徒殲滅後、リリスを平和的手段でもって交渉してくる、とかな」
「それは本当に希望的観測ね」
「そうだ。だが、相手がどんな手を使ってくるかわからない以上、僕らはあらゆる可能性を考慮しなくてはならない。だからこそ、僕は一つ提案したい」
「なにを?」
「ゼーレの暗殺。その役目を、僕にやらせて欲しい」
「・・・ッ!?それは!」
「ダメだよ、ジョルノ君!危険すぎる!!」
「危険は承知の上で、だ。葛城さん、僕が提唱するのは、『二正面作戦』だ」
葛城さんの目が見開く。僕の言いたい事が、葛城さんにはわかったんだろうな。
「ジョルノ、あんた・・・」
「仮にだが、最悪かつ最も可能性の高いシチュエーションを想定した場合、エヴァの量産型がここ、ネルフに攻めてくるだろう。リリスを求めて、な。ネルフは恐らく、エヴァ対エヴァの戦いにかかり切りになると僕は思う。その際に戦うのはシンジ君たち、エヴァのパイロットになると考えている」
だが、と僕は続けた。
「仮にその局面のゼーレに対し、少数精鋭でもいいから戦力を割り振れていたらどうだ?うまくいけばゼーレという頭を潰す事ができるし、少なくともエヴァ量産型への指示の妨げにはなるだろう」
「ジョルノ君!だったら僕も行くよ!その方がきっと!」
「いや、この戦いにおいて、エヴァのパイロットが居なくなる事は致命的だ。それは絶対に避けなくてはならない事態だ。これは僕が行った方がいいんだ」
「けど・・・だけど!」
「ジョルノ。あんたが言いたい事はよくわかったわ。けれど、私はもう一つの懸念がある。・・・・・・碇司令の『人類補完計画』はどうするつもり?」
「ミサトさん!?待ってよ!ジョルノ君一人に危険な役目を押し付けるなんて──」
「シンジ君!」
僕の発した大きな声に、シンジ君の肩がびくっと震える。すまん、驚かすつもりはなかったんだが。
「さっき言っただろう?『二正面作戦』だって。これは僕がシンジ君を、いや、シンジ君達を信じているからこそ取れる作戦なんだ。僕はゼーレを、シンジ君達はエヴァ量産型を、それぞれ担当する。どちらか一方でも勝てれば僕らの勝利なんだ。これはそーゆー作戦なんだ」
「わかってるよ・・・でも!」
「わたし、やるわ」
静かに話を聞いていた綾波さんが、ゆっくりと、噛み締めるように呟いた。
「それが、ジョルノの考えるいちばんの手段、なんでしょう?なら、わたしはジョルノを信じる。碇くんも、信じてあげて」
「あ、綾波・・・・・・」
「・・・シンジ。ここはレイの言う通りよ。危険はみんな一緒。エヴァで戦わなけりゃならないアタシたちも、危険なのは変わりない。アタシもジョバァーナの案に乗るわ。あんたもここで、腹ぁくくりなさい」
「アスカまで・・・・・・」
綾波さん、それとラングレーの援護射撃を受けたシンジ君が、悔しそうに目を逸らす。本当にすまない、シンジ君。だが、ここは君も僕を信じて任せてほしい。
「ジョルノ、さっきの質問の答えは?碇司令はどうしようって、あんたは考えてるの?」
「そこについては、葛城さん。貴女に頼るしかない」
「私に?」
「ああ。この作戦、ゼーレに対しては二正面作戦だが、碇司令というネルフ内の不確定要素が存在する事で、より複雑な戦いになると僕は考えている。結論から言ってしまえば、ゼーレとは僕が、エヴァ量産型とはシンジ君達が、碇司令とは葛城さんが戦う。これはそーゆー作戦だ」
「・・・・・・丸投げ、ってわけね」
「すまないが」
「いいわ。ある程度覚悟してたから。私が碇司令の『人類補完計画』を止める。それでいい?」
「ああ。後は加持さんが加わってくれたら申し分無いんだが・・・・・・」
と、そこまで話した瞬間、僕のケータイがけたたましく鳴った。着信元を確認してみれば、相手は加持さんだった。噂をすればなんとやら、だな。
「加持さんか?」
『すまない、ジョルノ君・・・・・・失敗した』
おっと、コイツは。
『総理は戦略自衛隊の出動を決定した。日本政府は、使徒殲滅後、ネルフを攻撃する』
かなりヘビーな展開になってきたな。
つづく