ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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第12章 涙
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「そう、いなくなったの、あの子・・・」

 

 赤木博士は自身の執務室でパソコンに向かいながら、誰かと電話で話をしていた。

 

 ノックはしたが、部屋の中から返事はなかったため勝手に部屋に入ってしまったんだが、どうやらだいぶ親しい人との電話らしいな。

 

 これは、退席した方がいいか?そう考えた僕に赤木博士は振り返り、右手で「大丈夫」というサインを送ってきた。

 

「ええ、多分ね。ネコにだって寿命はあるわよ、もう泣かないで、おばあちゃん」

 

 電話の相手は、どうやら赤木博士のお祖母様のようだ。赤木博士のいつものどこか刺々しい物言いが今は鳴りを潜めており、柔らかい印象を僕に与える。

 

「うん、時間ができたら一度帰るわ。母さんの墓前にももう三年も立ってないし・・・今度私から電話するから。じゃ、切るわよ」

 

 そう言うと、赤木博士は携帯電話の通話を切った。家族との会話を聞いてしまった僕は、どことなく所在無しといった感じだ。

 

 まぁ、だからといって聞いてしまったものはどーしよーもないんだが。

 

「ジョルノ君」

 

 赤木博士はどこか気落ちしたような、そんな声音で僕に問い掛けてきた。

 

「貴方、ペットを亡くした事はある?」

 

 これは、なんとも答えづらい質問を投げかけられたものだ。

 

 

 

 

 

 僕の名前はジョルノ・ジョバァーナ。日系イタリア人。15歳の中学生だ。

 

 生年月日は1985年4月16日の牡羊座。『スタンド』と呼ばれる力ある像(ヴィジョン)を操ることのできる一種の超能力者でもある。

 

 そんな僕のスタンド能力は『物体に生命を与える』というもので、どんな物体だろうと生命のエネルギーを与えて動物、または植物に変えることができるというものだ。例外はない、と思う。いや、僕にも自信がない点があるんだ。すまない。

 

 実は僕の能力に関して、僕が意図的に試していない事がある。それは、『死体に生命エネルギーを与えるとどうなるのか』という事だ。それこそ、『死者の蘇りは可能なのか』という問題につながってくるんだが。

 

 これは人類、いや、命ある者にとっての所謂『命題』というヤツなんだろうとは思っている。それに答えを出すような行動を、残念ながら僕は取っていない。僕一人の手で行ってはいけないような、人間が手を出してはいけないような、そんなある種の『神聖な』行為だと僕は思っている。

 

 ただ、試していない僕にも確証はないが、確信はある。つまり、『死体に生命エネルギーを流し込んでも、魂までは戻ってこない』という、なんとも言えない、確信めいたものが。

 

 僕が対峙した『ノトーリアスB・I・G』というスタンドがいた。そのスタンド使いの死体の一部(指の骨だった)に、生命エネルギーを流し込んだ事があるんだが、その時は、その死体の一部に蔦が生えただけだったのを覚えている。

 

 何が言いたいか、というと、『魂』はこの世に一つしかない、という事だ。何かの気紛れで蘇ったりはしない。失ったものは還ってこない。同じ魂は一つとして無いという事。二度と戻ってこないものだからこそ、生命は尊いものであるという事。それが僕の抱く確信だ。

 

 さて、いま赤木博士から聞かれている「ペットを亡くした事があるか」という質問だが、僕はペットを飼った事がないのでわからない。だが、何を聞きたいのかは、一応わかっているつもりだ。

 

 つまり、「この心にぽっかりと開いてしまった穴を、どうやって埋めたらいいのだろう」という問いかけだ。

 

「失ったものは還ってこない」

 

 自分でもビックリするくらい、冷淡なセリフを僕は赤木博士に返した。

 

「ええ。そうね・・・・・・わかっているわ」

 

「だが」

 

 と、僕は続けた。

 

「貴女の胸に開いた穴の大きさが、そのまま貴女にとっての大切なものの大きさだった事はわかる。僕にしてやれる事はないが、貴女のネコは、貴女の心の支えだった。それを、忘れないであげてほしい。亡くなった、ネコのためにも」

 

 僕のそのセリフに、赤木博士は大きく目を見開くと、

 

「・・・・・・ふふ、ふ。そうね。忘れちゃあ、ダメよね」

 

 そう言って赤木博士は、椅子に座ったまま顔を右手で覆った。その指の間から静かに聞こえてくるのは嗚咽。

 

 あるいはネコを失った喪失感だけではないのかもしれない。様々な感情が、今の赤木博士には押し寄せてきているのかもしれない。

 

 それを無理に知ろうとするほどの失礼な行為を、僕は取ろうとは思わなかった。

 

 

 

 

「ごめんなさい、貴方の前で取り乱したりして・・・」

 

「いいえ」

 

 仕方のない事だ。自身にとって大切なものであるほど、その喪失は大きい。大きく大きく、自身の胸を穿つものだ。

 

 僕も、ブチャラティ達から託された『矢』を失った時、自分で想像していた以上にショックを受けていた。それくらい、大切なものというのは心の大きな部分を占めているものなんだ。

 

 もっとも、僕の胸ポケットには、砕けた『矢』の欠片が今も収まっている。未練たらしい事この上ないがな。

 

「・・・・・・で、なぁに?ジョルノ君。貴方がバイト以外の時間に訪れてくるなんて珍しいわね」

 

「すみません、忙しい時に。実は一つ、教えてほしい事があって来ました」

 

「あら?何かしら?」

 

 僕は一度大きく息を吸うと、

 

 

 

 

 

「『F型装備』」

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

「聞き覚えは、あるようですね」

 

「・・・・・・ええ。もちろん、あるわ」

 

 そう一瞬言い淀んだ赤木博士だったが、椅子に座ったまま足を組み直し、僕を下から睨め付けるような視線を送ってきた。

 

 まるで、『どこまで知っている』のか、それを探るように。

 

「空挺降下戦用装備、の略称よ。それがどうかした?」

 

「・・・・・・いえ」

 

 参ったな。これは確実に『知っている』反応だ。通常の装備とは違う『F型装備』を知った上で、はぐらかそうとしている反応だ。

 

 これは、今は聞き出せないだろうか。悩ましいところだが、生憎と僕達にも余裕がない。ここは、多少強引でも切り込むべきか。

 

「その空挺降下戦用装備、ですか。それ以外でF型装備というヤツはあるんですか?」

 

「ないわね」

 

 即答か。参ったな。

 

 これは別の角度から攻めてみるか。

 

「赤木博士」

 

「今度は何かしら」

 

「『人類補完計画』。貴女はどこまで知ってるんですか?」

 

「・・・・・・」

 

 沈黙。それはつまり、大部分を知ってるという事でいいんだな?

 

「僕たちは、『人類補完計画』を叩き潰すつもりでいます。それはもちろん、ゼーレと、碇司令の両方の計画を、なんだが」

 

「・・・・・・貴方は何を知ってるの?」

 

「ほぼ全てを」

 

 再びの沈黙。ただし今度の沈黙は、お互いに腹の中を探ろうと必死になっているためだ。

 

 僕には何が赤木博士の琴線に触れるかわからない。だからこそ、手札は慎重に切らなければならない。

 

「悪いけど協力はできないわ」

 

「それは僕が『人類補完計画』を知っているという事自体は黙認してくれる、と取って構いませんね?」

 

「そうとは限らないわよ?貴方がこの部屋を出た瞬間、私は諜報部に連絡するかも」

 

 ん?この反応。これは──。

 

「さて、貴方はこのあと、どうするのかしら?」

 

 僕に向けられる意地悪な視線。

 

 これは、駆け引きに乗っても構わない。僕から差し出せるものがあれば、乗ってやってもいい。そーゆー反応だな。

 

 だが残念ながら、赤木博士が何を要求しているのかはわからない。ここは素直に聞くしかないな。

 

「何が望みですか?」

 

「あら、困るわ?私が何かを望んでいるように見えて?」

 

 なるほど。この程度察する事ができないならば、乗る気はない、と。

 

 さて。赤木博士の望みそうな事、または物はなんだ?僕にそれがわかるだろうか。

 

 ・・・・・・そういえば。

 

「赤木博士。以前、僕に加持さんの居場所を教えてくれましたね?」

 

「そうね。それがどうかした?」

 

「あれは碇司令から聞き出した、と言っていたが、どーやってあの堅物から聞き出したんですか?」

 

「女のプライベートに踏み込むものじゃないわよ?ジョルノ君」

 

 なるほどね。つまり『プライベートの付き合いがある』と。そして、そこまで喋るって事は、これは赤木博士なりのヒントって事だ。

 

 となると、鍵になるのは。

 

「碇司令の『人類補完計画』・・・」

 

「・・・・・・」

 

 再度の沈黙に、僕は自分の考えが赤木博士の琴線に触れかけている事を悟る。

 

 だが、碇司令の人類補完計画を、赤木博士はどうしたいのだろう。

 

 赤木博士と碇司令のプライベートな関係。

 

 碇司令の『人類補完計画』の目的。

 

 ・・・・・・なるほど、恐らくではあるが。

 

(女としての嫉妬、か?)

 

 仮に、だ。碇司令が『碇ユイ』さんに会いたいという、補完計画の目的。それを、赤木博士が助ける形で動いていると仮定しよう。

 

 だがそこには、女としての嫉妬があるんじゃあないだろうか?プライベートでの付き合いのある碇司令の『女』として、碇司令の最愛の人を取り戻すという計画に加担しているというのは、いかなる心情なのだろうか。

 

 きっと、頭では理解していても、心では納得していない部分があるんじゃあないだろうか。

 

 仮定に仮定を重ねるが、碇司令が赤木博士にとっての『恋人』として振り向いてくれないという状況。その寂しさを、ネコで紛らわせていたのだとしたら?

 

 先ほど僕に見せた涙。赤木博士は、実は精神的にギリギリのところまで追い詰められているのではないか。

 

 ならば、加持さんのセリフも辻褄が合ってくる。

 

「加持さんですが、赤木博士に『F型装備の再開発を進めてほしい』と言っていました」

 

「・・・・・・なんの為に?」

 

「碇司令の人類補完計画を、潰す為に」

 

 赤木博士の眉がピクリと動いた。

 

 これは、当たりを引いたようだな。

 

「無理よ。F型装備は計画の時点で頓挫しているもの。現在は碇司令の厳命で凍結よ」

 

 F型装備の存在を認めたな。これは大きな一歩だ。

 

「その凍結、仮に解く事ができた場合、再開発は可能ですか?」

 

「すべては無理よ?強いていうなら武器類の開発だけならば、間に合うかもしれないけれど」

 

「赤木博士。貴方、『人類補完計画』の達成まで時間がない事も知っているな?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「碇司令の『人類補完計画』、潰してみせる代わりに、F型装備の再開発、してもらえないだろーか?」

 

「その見返りは?」

 

「悪い男に、一発ギャフンと言わせられる。これじゃあダメか?」

 

 僕の言葉を聞いた赤木博士は大きく目を見開いたかと思うと、

 

「あっははははははははははは・・・!」

 

 大きく口をあけて、大笑いした。

 

「あははは・・・・・・ふぅ、ジョルノ君も冗談がうまいわね」

 

 笑いすぎて涙を浮かべた赤木博士が、目元を拭う。そして、次の言葉を発しようとした瞬間──、

 

 ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

 ネルフ全体に、使徒襲来の警報が鳴り響いた。

 

「どうやらお話はここまでのようね」

 

「・・・・・・赤木博士」

 

「面白い提案をありがとう、ジョルノ君。でもまずは、目の前の使徒の問題をどうにかしないと、ね?」

 

 くそ。あとちょっとのところで、はぐらかされてしまった。

 

 本当に使徒というやつは、空気を読まないやつらばかりだな。

 

 

 

つづく

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