ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
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わたしの中に、波紋が広がる。
その波紋の内から現れたあなたは、だれ?
あれは、わたし──?
エヴァの中のわたし。
そう。わたしは本当は、わかっていた。
零号機のなかにいたのは、わたし。誰の魂でもない。いるのは、わたし。
でも今、わたしの目の前に現れたのは、ちがう。わたしじゃない。
誰?
あなた、誰?
・・・・・・使徒?
わたしたちが使徒と呼んでいる、ヒト?
《私と、一つにならない?》
いいえ。わたしはわたし。
あなたじゃないわ。
《そう。でも、ダメ。もう遅いわ》
わたしの中に、何かが入ってくる。
《私の心をあなたにも分けてあげる。この気持ち、あなたにも分けてあげる》
ズズズ、と、わたしの中に何かがゆっくりと、侵入してくる。
《ほら。痛いでしょ?心が痛いでしょ?》
痛い・・・?いえ、違うわ。サビシイ・・・そう。寂しいのね・・・・・・。
《サビシイ?わからないわ》
ひとりでいるのがイヤなんでしょう?
わたしたちはたくさんいるのに、ひとりでいるのが嫌なんでしょう?
それを寂しい、というの。
《でも、それはあなたの心よ。悲しみに満ち満ちている。あなた自身の心よ》
《気付いていたはずよ。ずっと前から。でも、あなたは気付かないフリをしていた》
・・・・・・寂しい?
わたしが?
《・・・・・・何を、笑っているの?》
わたし、寂しくはないわ。
だって──。
ジョルノが、居てくれたから。
碇くんが。アスカが。葛城三佐が。
いつもわたしたちは、一緒だったから。
《何を、笑っているの!》
だから。わたし、寂しくはないわ。
ああ。でも。
《気付いているはず・・・!あなたは心のどこかで、大切な人が、ジョルノ・ジョバァーナが、いずれあなたの目の前から去ってしまうことを・・・!》
そう。それはいつか訪れる、定められた運命。
それは、とても──。
《嫌だと思ったでしょう?自分だけを見て欲しいと思ったでしょう?寂しいから、いつもそばにいて欲しいと思ったでしょう?》
そう。それはとても──。
《それがあなたの心。悲しみと憎しみと切なさに満ち満ちている、あなた自身の心よ》
・・・・・・憎しみ?
いいえ。違う。わたしは、ジョルノを──。
《憎んでいるわ。あなたは、去ってしまう彼を、憎んでいる》
違う。違う。
わたしはジョルノを──。
──え。
わたし、涙?これが、涙?泣いているのは、わたし?
わたし、なの?
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初号機がリフトに乗って、地上へと送られていく!その時間すらが、今は惜しい!
ガンッ!という大きな音を立てて、初号機の動きが止まった。
『ATフィールド全開!目標と接触しないように注意して!とにかく力ずくでエントリープラグごとレイを救出するのよ!』
「はい!」
「ああ!」
待っていろ、綾波さん。今すぐに、その気持ちの悪い肉塊から引っ張り出してやる!
S²機関、だったか。確か、たぶん。使徒から奪った無限機関のおかげなのか、初号機はアンビリカルケーブルを必要としない。
縛られた動きをしなくていいってのは、とても楽な事だな。
「行くよ!ジョルノ君!」
「ああ!行くぞ!」
初号機がライフルを構えながら、零号機の元に向かって走り始める!
『碇くん!ジョルノ!だめ!!』
綾波さんが叫ぶと同時、零号機の肉塊から光の鞭のような使徒が伸びてきて、こちらに向かって襲いかかってきた。
その先端は、先ほどまでとは打って変わり、人の掌の形をしていた。それがまるで僕らに掴みかかるように襲ってくる!
「シンジ君!」
「うん!」
シンジ君が飛びかかってくる使徒に向けて、ライフルを乱射した。しかし先ほどまでと同様、ライフルの弾では使徒を傷つけることはできない。
「やっぱり、ね」
「ああ。弾が勿体なかったが」
僕たちは頷き合うと、ライフルを使徒に向けて投げつけた。使徒は難なくライフルを破壊して迫ってくる。
「僕たちなら、『こっち』の方がやりやすいよね」
「ああ。確かにな」
迫る使徒に、初号機が構えを取った。
久々だが、くらえ!!
「「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァアアアア!!」」
スタンドパワーを纏った拳で、殴りつける!!
使徒の掌が、ぐしゃりと潰れる!
「さっきのラングレーの行動でわかっていた事だが、ATフィールドは有効なようだな」
「そうだね。僕たちなら問題なく、この使徒をやっつけられる!!」
「おっと、シンジ君。油断は禁物だぞ?僕たちはこーゆー時こそ注意しなくてはならないな。今までの使徒同様、僕たちが『勝った!』と思った瞬間に、使徒は逆転の一手を打ってくるかもしれない。ここは慎重に、距離を──!?」
そう思って距離を取ろうとした瞬間だった。目の前の使徒の腕が、十数本以上に枝分かれする。
「おっと、コイツは・・・・・・」
「ちょっと、マズいかも」
枝分かれた使徒の掌の全てが拳と化した。それが意味するところは──!
「拳のラッシュだ!退くぞシンジ君!!」
「くぅッ!?」
雨霰とでもいうのか!?拳のラッシュが勢いよく降り注いでくる!しかも射程が長い!
「くそ・・・・・・!!」
僕たちもラッシュで応戦しながら後退するが、腕の数が違いすぎる!ラッシュの速度は互角。必然的に、手数は向こうの方が上だ!文字通りな!
「うあああああああああああああ・・・!?」
「くそ!押し負ける!?」
ラッシュの合間を縫って、2本の触腕が初号機の両腕に絡みついてくる!絡みつかれた腕から、使徒がエヴァの体内に侵入してくる!
くそ!侵入してくるスピードが思った以上に速い!これはマズい。マズいのは、僕らじゃあなく、既に侵食が始まっている綾波さんの方だ!このままじゃあ、綾波さんが・・・!
『ジョルノ!シンジ君!プログナイフで応戦して!!』
「コイツらがナイフで切り取れるなら、それもいいんだがな!」
そう舌打ちをした僕らの目の前で、使徒の触腕の付け根から、人型の何かがこちらに近付いてくるのが見えた。
それは初号機の目前で、あろうことか綾波さんの姿を模った。
『アレは、わたしの、心?』
ッ!・・・綾波さん?
『ジョルノや碇くんといっしょになりたい、わたしの、心・・・・・・』
その言葉に、僕の何かがプツンとキレた。
「いいや、違うな!綾波さん」
僕はシンジ君と共に初号機を奮い立たせて立ち上がる!
「僕たちの心はすでに繋がっている!葛城さんを中心として、シンジ君やラングレーとも既に繋がっているんだ!こんな無理やりに誰かと一つになりたいなんて、下卑た下心なんか君の中にはない!これは使徒の精神だ!そこを間違えちゃあダメだ!!」
「ッ!ジョルノ・・・・・・!」
「行くぞ!シンジ君!この今までで一番僕たちを、綾波さんを侮辱している使徒を、今この場でブチのめす!!」
「うん、やろう!ジョルノ君!!」
「「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄・・・・・・!」」
僕とシンジ君の拳のラッシュが、綾波さんを模った使徒の肉体を滅茶苦茶に叩き潰していく!
だが、くそ!コイツのコアはどこにあるんだ!?いくら殴ってもキリがない・・・!
だがこんなもんじゃあない!僕が感じている怒りは!この程度で決して晴れるようなものじゃあない!
これまでの生活の中で感じていた、綾波さんに対する感情。彼女を小さな妹のように感じるこの心は!僕を今までで一番怒らせている!
「WRYYYYYYYYYYYY!!ぶっ潰れろぉぉおおおおおおお・・・・・・!!」
『ジョバァーナ!シンジ!前!!』
「「は・・・!?」」
ラングレーの言葉にはっと使徒から顔をあげれば、僕とシンジ君に迫る無数の拳が・・・・・・!
「し、しまッ!?」
「うわあああああああああああああ!?」
使徒のラッシュが、次々と初号機に叩き込まれる!そして、そこから侵食を受ける初号機・・・!
しまった、これでは初号機の方が先に侵食される!保たない・・・怒りに我を忘れて、何をやっているんだ僕は・・・!
全身を触腕に貫かれた初号機は、物凄いスピードで侵食が進んでいく。それは当然、プラグ内の僕たちにもフィードバックされてきている!
「が、ぐ、うぅ・・・・・・」
「くそ・・・綾波、さん・・・・・・」
何か、何かないのか!ここから逆転できる、奇跡のような方法は!?
僕の手が、無意識に胸ポケットに入ったままの『矢』の残骸に伸びる。一か八か、『レクイエム』の発動にかけるしか・・・。
そう考えた時だった。
『!?零号機、ATフィールド反転!一気に侵食されます!』
『使徒を抑え込むつもり!?』
なに、なんだと!?
「綾波さん!よせ!やめろ!」
僕が叫ぶのと、使徒が初号機から引き摺り出されたのが同時だった。
使徒の体がビデオの逆再生のように、エヴァ零号機の背後に吸い寄せられていく。
『レイ!何してるの!機体は捨てて逃げるのよ!』
『ダメ、わたしがここからいなくなったら、ATフィールドが消えてしまう・・・だから、ダメ!』
プラグ内の通信を通して、初号機と零号機の通信ウィンドウが開く。その向こうに映っていたのは、綾波さんの侵食された姿。
もう、ほとんど侵食されてるじゃあないか。
「やめろ!綾波さん!こんなところで死ぬつもりか!?」
『死ぬ・・・?そう。わたし、死ぬのね』
僕らの目の前で、零号機の機体がべコン!べコン!とどんどんと縮まっていく!
「綾波さん!やめろ!!使徒をこっちへ!僕らなら、僕の『スタンド』ならまだどうにかなるかもしれない!こっちに使徒を寄越すんだ!」
『それは、いや。ジョルノを。碇くんを、死なせたくない』
「やめろ・・・頼む!やめるんだ!」
『イヤ・・・ジョルノを救うのは、わたしがいい。わたししか、いない・・・!』
『コアが潰れます!臨界突破!』
「待っていろ!すぐにそっちへ・・・!」
『ジョルノ・・・・・・』
綾波さんの言葉を無視して、僕らは初号機を走らせた。くそ!頼む、後生だ!間に合ってくれ!
『ご飯、美味しかった』
な、なにを言って・・・・・・。
『ジョルノ。さよなら』
光が、零号機を包み込む。
「やめろおおおおおおおおおおおッ!!」
「綾波ィィイイイイイイイイ!!」
綾波さんは、最期に、光の中で。
涙を流しながら、笑っていたような気がした。
紫色の爆炎が、第三新東京市を眩く照らす。
その時、僕は確かに聞いたんだ。
『わたしの心。こんなにも、狂おしいほどに、誰かと繋がりたい心・・・いつの間にか、震え、もがき、血を流し、こんなにも息づいていた』
その声は、本来なら聞こえるはずのない言葉で。
『最期のこんなところで、気付くなんて・・・・・・ジョルノ、わたし・・・・・・』
こんな言葉を、僕は聞きたくなくて。
『忘れないで。わたしはわたしだった。あなたが大好きなわたし。時々で良いから、思い出して・・・・・・』
その言葉を最期に。
零号機は、爆炎に包まれていった。
つづく