ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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115.

 

『目標、消失・・・・・・』

 

『・・・・・・現時刻をもって作戦を終了します。第一種警戒態勢へ移行』

 

『了解・・・・・・状況イエローへ速やかに移行』

 

『────零号機は・・・?』

 

『エントリープラグの射出は、確認されていません』

 

『ッ!生存者の救出!急いで・・・』

 

『もしいたら、の話ね・・・・・・』

 

 葛城さんの息を呑む声が通信に流れる。

 

 その様子を、僕は黙って聞いていることしかできない。

 

「ジョルノ君・・・」

 

 横のシンジ君が、僕を心配してくれている。

 

 だが、悪いな。シンジ君。

 

 今の僕は、もう、駄目だ。

 

 完全に、僕の心は折れていた・・・。

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

『ついに第16の使徒までを倒した』

 

『これで、ゼーレの死海文書に記載されている使徒は、後一つ』

 

 

『約束の時は近い。その道のりは長く、犠牲も大きかったな』

 

『左様。ロンギヌスの槍に続き、エヴァ零号機の損失』

 

『碇の解任には十分すぎる理由だな』

 

『冬月を無事に返した意味の分からない男でもあるまい』

 

『新たな人柱が必要ですな、碇に対する』

 

『そして事実を知るものが必要だ』

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 アバッキオ。

 

 ナランチャ。

 

 ブチャラティ。

 

 

 

 僕はどうしたらいい?

 

 

 

 わからない。

 

 

 

 君たちが去ってしまったとき、僕は心の底から悲しんだ。そうとは見えなかったかもしれないが、確かにそうだったんだ。

 

 

 

 なのに。

 

 

 

 あの時と違って、今の僕は動けない。やらなければならない使命が、明確であるにも関わらず。

 

 

 

 心に開いた穴が、大きすぎる。

 

 

 

 なぜ、彼女は死ななければならなかった。

 

 

 

 なぜ僕は、リリスを殺そうなんて思ったんだ。

 

 

 

 僕がレクイエムを失わなければ、綾波さんは死ぬことはなかった。

 

 

 

 なぜ、僕は──。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 綾波さんと二人で住んでいた、このマンションの一室。

 

 

 

 今はこんなにも広く感じる。

 

 

 

 なぜ、こんなにも、苦しいのか。

 

 

 

 なぜ、こんなにも・・・・・・。

 

 

 

 僕はリビングの床に座り込んだまま、天井を見上げていた。

 

 ベランダのガラスから月光が差し込んでくる。

 

 その光に、いつか見た綾波さんの、月光のように淡く美しい微笑みを思い出した。

 

 彼女と初めて一緒に戦った、あの時の。

 

「───っ」

 

 僕の胸の奥が、カァッと熱くなる。

 

 喉はカラカラだ。

 

 なのに、僕の目尻には涙が浮かんでくる。

 

「ふぅ・・・・・・ダメだな、こんなんじゃ」

 

 僕は軽く頭を振ると、よろよろと立ち上がった。冷蔵庫に、とっておきのワインがあるんだ。こんな時は酒でも飲んで、一旦気持ちを落ち着かせるべきだな。

 

 ダイニングの冷蔵庫のドアを、何気なく僕は開く。

 

 そしてそこに、綾波さんのために作っておいた作り置きの料理の山を見つけた。

 

 

 

「───ッ」

 

 

 

 それを見た瞬間、もうダメだった。もう、抑え切れない。

 

 込み上げてくるさまざまな想いを、止める事ができない。

 

「・・・・・・く」

 

 僕は床に膝をついて、静かに綾波さんを想った。

 

 もう彼女がこの料理を口にすることはない。

 

 この部屋に帰ってくることもない。

 

 彼女のために料理を作る必要はない。

 

 彼女の歯を磨いてやる必要も、

 

 彼女の洗濯物を畳む必要も、

 

 彼女と外に出かける必要も、

 

 彼女の寝顔を見守る事も、

 

 なにも、必要ない。

 

 それが、こんなにも悲しい。

 

『貴女の胸に開いた穴の大きさが、そのまま貴女にとっての大切なものの大きさだった事はわかる。僕にしてやれる事はないが、貴女のネコは、貴女の心の支えだった。それを、忘れないであげてほしい。亡くなった、ネコのためにも』

 

 僕が赤木博士に言った言葉は、そのまま僕に返ってきた。僕はその言葉をもう一度、深く噛み締める。

 

 この心にぽっかりと開いてしまった穴を、僕は受け入れた上で突き進まなくてはならない。

 

 忘れはしない。きっとこの悲しみはすぐには癒えないだろう。だが、ここで立ち止まってしまってはダメだ。

 

 僕は冷蔵庫にゴールド・エクスペリエンスの指先を触れさせる。途端に冷蔵庫を覆うように、綺麗なツタと花が咲き誇っていく。

 

 月光と花に彩られた冷蔵庫は、白く小さな棺のようだった。

 

 

 

 

 翌朝、僕たちのところにとんでもないニュースが舞い込んできた。

 

「ジョルノ君!」

 

 僕が一人で朝のコーヒーを味わいながら、綾波さんとの朝食風景を思い出していたときだった。シンジ君とラングレー、それに葛城さんまでが、僕の部屋に飛び込んできたのだ。

 

「ボンジョルノ。良い朝だが、どーしたんだ?シンジ君。そんなに慌てて」

 

「ジョバァーナ!そんな呑気こいてる場合!?」

 

「大変だよジョルノ君!綾波が、綾波が生きてるって!」

 

「・・・・・・・・・・・・なに?」

 

 僕は熱々のコーヒーをテーブルに置くと、葛城さんに視線を向けた。葛城さんは真剣な表情で僕に頷き返す。

 

「とにかく、ネルフに向かうわ!みんな支度して!すぐに出るわよ!」

 

 

 

 

 僕たちはネルフに併設された病院を訪れていた。綾波さんのいるはずの病棟に向かって、僕たちは廊下を駆けてゆく。

 

 やがて、僕たちは病院の廊下で佇んでいる、包帯だらけの綾波さんの姿を見つけた。

 

 その姿に、シンジ君とラングレー、葛城さんは息を呑んだが、

 

「綾波ッ!」

 

「レイッ!」

 

 綾波さんに駆け寄るシンジ君を追い抜いて、ラングレーが綾波さんに抱きついた。

 

「バカ!レイのバカ!!よかった!あんたが生きてて、アタシ・・・・・・!」

 

「綾波!よかった、綾波が無事で!」

 

 二人とも、目の前の綾波さんの無事を心の底から喜んでいるな。

 

 本当ならば、僕も駆け寄って声をかけてやるのが普通なんだろう。

 

 だが、僕は彼女に対して、どうにも拭えない違和感を抱いていた。

 

「あの、綾波?」

 

「レイ、大丈夫?どこか痛いところとか、変なところはない?」

 

「大丈夫・・・平気」

 

 やはり、綾波さんの様子はどこかおかしい。まるで──。

 

「ありがとう、綾波。僕たちを助けてくれて」

 

「・・・・・・なにが?」

 

「なにがって、零号機を捨ててまで助けてくれたんじゃないか、綾波が」

 

「そう、あなたを助けたの・・・」

 

「うん」

 

「レイ、もしかして、覚えてないの?」

 

「いいえ。知らないの」

 

 綾波さんは被りを振る。

 

 

 

 

 

「多分わたしは、三人目だと思うから」

 

 

 

 

 

 その言葉に、僕の胸がざわりと波打った。

 

 三人目、だと・・・?

 

 僕の中で、怒りの感情がむくりと鎌首をもたげた。

 

 それは、綾波さんのフラスコベビー論。『碇ユイさんの複数人いるクローン』であるという僕の予想が正しかったという証明なのか。この目の前の少女は、きっと。

 

「綾波さん、ではないな?」

 

 気が付けば僕は、目の前の幼気な少女に向けて、とても無礼な質問を投げかけていた。

 

「あなた、は?」

 

 そしてその意図に気付かず、純粋な疑問を投げかけてくる少女。その質問に、僕の胸がチクリと痛んだ。

 

「僕の名前はジョルノ・ジョバァーナ。日系イタリア人の15歳で、君の学校のクラスメートだ。一応、な」

 

「そう。ジョルノ・・・ジョバァーナ・・・・・・」

 

 その反応。その反応は、僕と初めて出会った時とまったく一緒で。

 

「言いづらいかい?まぁ慣れない名前だとは思うが、よろしく頼むよ」

 

「それは、命令・・・?」

 

 ・・・・・・。

 

「いや、なんだろーな?挨拶だ。ただの」

 

「そう」

 

「綾波レイ・・・・・・、綾波さん、と呼んでもいいかい?」

 

「いい」

 

「ありがとう」

 

 僕はお礼を言うと、改めて彼女の怪我を見回した。なかなか、痛ましい格好をしているからな。

 

 僕のスタンドが、彼女に触れる。瞬間、彼女が受けた傷を、僕のゴールド・エクスペリエンスが治した。

 

目の前の少女は一瞬驚いたように目を開けると、自分の体を確かめるように自身を抱きしめた。その仕草までもが、初めて彼女と出会ったときと全く同じで。

 

「・・・あなた、は」

 

「ん?」

 

「どこかで、会った事がある?」

 

「・・・・・・ああ。たくさん、な」

 

 今の僕の胸にあるのは、目の前の少女への憐れみと、切なさだった。

 

 だが、一つだけ気付いたこともある。今、彼女に触れたゴールド・エクスペリエンスが勘付いた、彼女の魂。

 

 この魂は、『綾波さんの魂』そのものだった。僕らが知っている、綾波レイの魂だった。

 

 過ぎ去ってしまったものは戻ってはこない。だけど、もしかしたら、この少女には。

 

 魂が引き継がれているのかもしれないな。

 

 僕は綾波さんの頭をポンポンと叩く。

 

「おかえり、綾波さん」

 

「・・・・・・?ただい、ま?」

 

 目の前の少女は、もしかしたら、別人なのかもしれない。

 

 ただ僕は、目の前の少女が綾波さんである可能性を、否定できずにいた。

 

 朝の光が窓から差し込んでくる。それは、新しい命の誕生を祝福しているかのように、僕には思えた。

 

 

 

つづく

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