ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
『目標、消失・・・・・・』
『・・・・・・現時刻をもって作戦を終了します。第一種警戒態勢へ移行』
『了解・・・・・・状況イエローへ速やかに移行』
『────零号機は・・・?』
『エントリープラグの射出は、確認されていません』
『ッ!生存者の救出!急いで・・・』
『もしいたら、の話ね・・・・・・』
葛城さんの息を呑む声が通信に流れる。
その様子を、僕は黙って聞いていることしかできない。
「ジョルノ君・・・」
横のシンジ君が、僕を心配してくれている。
だが、悪いな。シンジ君。
今の僕は、もう、駄目だ。
完全に、僕の心は折れていた・・・。
▼△▼△▼△▼△
『ついに第16の使徒までを倒した』
『これで、ゼーレの死海文書に記載されている使徒は、後一つ』
『約束の時は近い。その道のりは長く、犠牲も大きかったな』
『左様。ロンギヌスの槍に続き、エヴァ零号機の損失』
『碇の解任には十分すぎる理由だな』
『冬月を無事に返した意味の分からない男でもあるまい』
『新たな人柱が必要ですな、碇に対する』
『そして事実を知るものが必要だ』
▼△▼△▼△▼△
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
アバッキオ。
ナランチャ。
ブチャラティ。
僕はどうしたらいい?
わからない。
君たちが去ってしまったとき、僕は心の底から悲しんだ。そうとは見えなかったかもしれないが、確かにそうだったんだ。
なのに。
あの時と違って、今の僕は動けない。やらなければならない使命が、明確であるにも関わらず。
心に開いた穴が、大きすぎる。
なぜ、彼女は死ななければならなかった。
なぜ僕は、リリスを殺そうなんて思ったんだ。
僕がレクイエムを失わなければ、綾波さんは死ぬことはなかった。
なぜ、僕は──。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
綾波さんと二人で住んでいた、このマンションの一室。
今はこんなにも広く感じる。
なぜ、こんなにも、苦しいのか。
なぜ、こんなにも・・・・・・。
僕はリビングの床に座り込んだまま、天井を見上げていた。
ベランダのガラスから月光が差し込んでくる。
その光に、いつか見た綾波さんの、月光のように淡く美しい微笑みを思い出した。
彼女と初めて一緒に戦った、あの時の。
「───っ」
僕の胸の奥が、カァッと熱くなる。
喉はカラカラだ。
なのに、僕の目尻には涙が浮かんでくる。
「ふぅ・・・・・・ダメだな、こんなんじゃ」
僕は軽く頭を振ると、よろよろと立ち上がった。冷蔵庫に、とっておきのワインがあるんだ。こんな時は酒でも飲んで、一旦気持ちを落ち着かせるべきだな。
ダイニングの冷蔵庫のドアを、何気なく僕は開く。
そしてそこに、綾波さんのために作っておいた作り置きの料理の山を見つけた。
「───ッ」
それを見た瞬間、もうダメだった。もう、抑え切れない。
込み上げてくるさまざまな想いを、止める事ができない。
「・・・・・・く」
僕は床に膝をついて、静かに綾波さんを想った。
もう彼女がこの料理を口にすることはない。
この部屋に帰ってくることもない。
彼女のために料理を作る必要はない。
彼女の歯を磨いてやる必要も、
彼女の洗濯物を畳む必要も、
彼女と外に出かける必要も、
彼女の寝顔を見守る事も、
なにも、必要ない。
それが、こんなにも悲しい。
『貴女の胸に開いた穴の大きさが、そのまま貴女にとっての大切なものの大きさだった事はわかる。僕にしてやれる事はないが、貴女のネコは、貴女の心の支えだった。それを、忘れないであげてほしい。亡くなった、ネコのためにも』
僕が赤木博士に言った言葉は、そのまま僕に返ってきた。僕はその言葉をもう一度、深く噛み締める。
この心にぽっかりと開いてしまった穴を、僕は受け入れた上で突き進まなくてはならない。
忘れはしない。きっとこの悲しみはすぐには癒えないだろう。だが、ここで立ち止まってしまってはダメだ。
僕は冷蔵庫にゴールド・エクスペリエンスの指先を触れさせる。途端に冷蔵庫を覆うように、綺麗なツタと花が咲き誇っていく。
月光と花に彩られた冷蔵庫は、白く小さな棺のようだった。
◇
翌朝、僕たちのところにとんでもないニュースが舞い込んできた。
「ジョルノ君!」
僕が一人で朝のコーヒーを味わいながら、綾波さんとの朝食風景を思い出していたときだった。シンジ君とラングレー、それに葛城さんまでが、僕の部屋に飛び込んできたのだ。
「ボンジョルノ。良い朝だが、どーしたんだ?シンジ君。そんなに慌てて」
「ジョバァーナ!そんな呑気こいてる場合!?」
「大変だよジョルノ君!綾波が、綾波が生きてるって!」
「・・・・・・・・・・・・なに?」
僕は熱々のコーヒーをテーブルに置くと、葛城さんに視線を向けた。葛城さんは真剣な表情で僕に頷き返す。
「とにかく、ネルフに向かうわ!みんな支度して!すぐに出るわよ!」
◇
僕たちはネルフに併設された病院を訪れていた。綾波さんのいるはずの病棟に向かって、僕たちは廊下を駆けてゆく。
やがて、僕たちは病院の廊下で佇んでいる、包帯だらけの綾波さんの姿を見つけた。
その姿に、シンジ君とラングレー、葛城さんは息を呑んだが、
「綾波ッ!」
「レイッ!」
綾波さんに駆け寄るシンジ君を追い抜いて、ラングレーが綾波さんに抱きついた。
「バカ!レイのバカ!!よかった!あんたが生きてて、アタシ・・・・・・!」
「綾波!よかった、綾波が無事で!」
二人とも、目の前の綾波さんの無事を心の底から喜んでいるな。
本当ならば、僕も駆け寄って声をかけてやるのが普通なんだろう。
だが、僕は彼女に対して、どうにも拭えない違和感を抱いていた。
「あの、綾波?」
「レイ、大丈夫?どこか痛いところとか、変なところはない?」
「大丈夫・・・平気」
やはり、綾波さんの様子はどこかおかしい。まるで──。
「ありがとう、綾波。僕たちを助けてくれて」
「・・・・・・なにが?」
「なにがって、零号機を捨ててまで助けてくれたんじゃないか、綾波が」
「そう、あなたを助けたの・・・」
「うん」
「レイ、もしかして、覚えてないの?」
「いいえ。知らないの」
綾波さんは被りを振る。
「多分わたしは、三人目だと思うから」
その言葉に、僕の胸がざわりと波打った。
三人目、だと・・・?
僕の中で、怒りの感情がむくりと鎌首をもたげた。
それは、綾波さんのフラスコベビー論。『碇ユイさんの複数人いるクローン』であるという僕の予想が正しかったという証明なのか。この目の前の少女は、きっと。
「綾波さん、ではないな?」
気が付けば僕は、目の前の幼気な少女に向けて、とても無礼な質問を投げかけていた。
「あなた、は?」
そしてその意図に気付かず、純粋な疑問を投げかけてくる少女。その質問に、僕の胸がチクリと痛んだ。
「僕の名前はジョルノ・ジョバァーナ。日系イタリア人の15歳で、君の学校のクラスメートだ。一応、な」
「そう。ジョルノ・・・ジョバァーナ・・・・・・」
その反応。その反応は、僕と初めて出会った時とまったく一緒で。
「言いづらいかい?まぁ慣れない名前だとは思うが、よろしく頼むよ」
「それは、命令・・・?」
・・・・・・。
「いや、なんだろーな?挨拶だ。ただの」
「そう」
「綾波レイ・・・・・・、綾波さん、と呼んでもいいかい?」
「いい」
「ありがとう」
僕はお礼を言うと、改めて彼女の怪我を見回した。なかなか、痛ましい格好をしているからな。
僕のスタンドが、彼女に触れる。瞬間、彼女が受けた傷を、僕のゴールド・エクスペリエンスが治した。
目の前の少女は一瞬驚いたように目を開けると、自分の体を確かめるように自身を抱きしめた。その仕草までもが、初めて彼女と出会ったときと全く同じで。
「・・・あなた、は」
「ん?」
「どこかで、会った事がある?」
「・・・・・・ああ。たくさん、な」
今の僕の胸にあるのは、目の前の少女への憐れみと、切なさだった。
だが、一つだけ気付いたこともある。今、彼女に触れたゴールド・エクスペリエンスが勘付いた、彼女の魂。
この魂は、『綾波さんの魂』そのものだった。僕らが知っている、綾波レイの魂だった。
過ぎ去ってしまったものは戻ってはこない。だけど、もしかしたら、この少女には。
魂が引き継がれているのかもしれないな。
僕は綾波さんの頭をポンポンと叩く。
「おかえり、綾波さん」
「・・・・・・?ただい、ま?」
目の前の少女は、もしかしたら、別人なのかもしれない。
ただ僕は、目の前の少女が綾波さんである可能性を、否定できずにいた。
朝の光が窓から差し込んでくる。それは、新しい命の誕生を祝福しているかのように、僕には思えた。
つづく