ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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『良いのか?赤木博士の処置』

 

『冬月とは違う。彼女は返した方が得策だ』

 

『エヴァシリーズの功労者、いま少し役に立ってもらおうか』

 

『左様。我々人類の未来のために』

 

『エヴァンゲリオン、すでに八体まで用意されつつある』

 

『残るはあと四体か』

 

『完成を急がせろ』

 

『約束のときは、その日となる』

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

 赤木博士からシンジ君のところへ唐突に連絡が来たのは、綾波さんが退院したその日の夕方だった。

 

 綾波さんに僕らの部屋を案内しているところに、シンジ君はラングレーを連れてやってきた。

 

「赤木博士が、綾波さんの秘密を?」

 

「うん。そう言ってた。なんの事か、僕にはわからなかったけれど・・・」

 

 そーだろうな。綾波さんの秘密とは、おそらく「クローンである」という事なんだろうが、その事について僕はまだシンジ君たちに話していない。

 

「リツコさんは僕一人で、って言っていたけど、ちょっと気になって・・・・・・」

 

「それは正しい判断だったな、シンジ君。君一人で行くにはちと荷が重すぎる。葛城さんにも知らせて、僕ら全員でいこう」

 

 僕は横にいた綾波さんを見遣る。綾波さんは僕の用意したクッキーを口いっぱいに頬張っているところだった。

 

 彼女を連れて行くべきか。判断は難しいが、綾波さんにも事実を知ってもらっておいた方がいいだろうと思う。

 

 僕は部屋の電話から葛城さんへ連絡を取ると、シンジ君たちと連れ立って、ネルフへと向かった。

 

 

 

 

 ネルフ本部の地下深くに、その設備はあった。LCLプラント、というのか。こんな薄暗い場所に、よくこんな重要な設備を置いたものだ。

 

 僕がネルフ職員と仲良くなった当時は、こんなカビ臭い場所に興味など無かったのだが、なにが重要になるかってのは時間とともに変わってくるものだな、ホント。

 

 暗闇から姿を現した赤木博士がカードをキーにかざす。しかしながら、そのカードではドアは開かないんだ。残念ながら。

 

「無駄よ。私のパスが無いとね」

 

 驚く赤木博士の背中に、葛城さんが銃を押し付けた。

 

「そしてこの先には、赤木博士のアイスキャンが必要みたいだな」

 

「ここの秘密、この目で見せてもらうわよ」

 

 僕と葛城さんの脅し文句に、赤木博士が振り返る。その顔には若干の驚きが表れていたが、

 

「そう、ジョルノ君もいるのね。ずいぶんとまた、大所帯で来たわね」

 

「綾波さんの秘密、だったか。その問題については僕たちエヴァパイロット全員の問題だと思っているんでな。ラングレーも綾波さんも連れてきたってワケだ」

 

「リツコさん・・・・・・」

 

 僕ら全員の顔を見渡した赤木博士は大きくため息をつくと、

 

「いいわ。ついてらっしゃい」

 

 踵を返して、葛城さんのパスでロックを解除した。

 

 目の前の扉はエレベーターのロックだったのか。僕たち六人は無言のまま、エレベーターに乗り込んだ。

 

 そのままエレベーターはネルフの地下深く、深くへと下って行く。

 

「シンジ・・・」

 

「大丈夫だよ、アスカ」

 

 この重苦しい雰囲気に飲まれたのか、ラングレーが怯えたようにシンジ君に寄り添う。僕の横の綾波さんは、表情一つ変えないでいる。

 

 地下深く。以前僕は、リリスを殺すためにネルフの最深部まで行ったことがあるが、ここの空気はあそこのソレとよく似ているな。

 

 やがてエレベーターはゴゴンと音を立てて止まる。着いた先は、『人工進化研究所 3号分室』という名称の場所だった。

 

 人工進化とは、やれやれ。『人類補完計画』のことか?また厄介そうなネタが転がっていそうな場所だ。

 

 僕たちは暗い廊下を一列になって進んでいく。その先に会った部屋に全員で入ると、赤木博士は部屋の電気のスイッチを押した。

 

 カションと軽い音を立てて、部屋の中が明かりに照らされた。

 

 そこにあったのは無機質な病室。打ちっぱなしのコンクリートの床や天井、それに無機質なベッド。机の上にはビーカーや何かの錠剤。ベッドの横には心電図か?それを測るような機械が設置されている。

 

 まるで。

 

「綾波の部屋だ・・・・・・」

 

 シンジ君が呟いたとおりだ。この部屋は、初めて訪れた時の綾波さんの部屋そっくりだった。

 

「そう。レイの部屋よ。ここがレイが育った場所」

 

 赤木博士は綾波さんを横目で睨め付けながら、淡々と喋った。

 

 僕も綾波さんの方に視線を向ける。綾波さんは無表情であったが、無造作に下ろしていたその手が微かに震えているのがわかる。

 

「綾波さん。無理はしなくていい。先に戻っていても・・・・・・」

 

「いい。ジョルノ・ジョバァーナ。わたしも、一緒に行く」

 

「・・・・・・そうか」

 

 僕は綾波さんの手をそっと握る。握られた綾波さんも、ぎゅっと僕の手を握り返してきた。まるでお化け屋敷に間違えて入ってしまった子供だな、これは。

 

「・・・・・・レイの深層心理を構成する光と水はここのイメージが強く残っているのね」

 

「リツコ。私はここを見に来たわけじゃないのよ」

 

「わかってるわ、ミサト・・・」

 

 そう言って、赤木博士は再び歩き始める。僕たちは連れ立って、赤木博士の後を追った。

 

 そのまま、しばらく研究所内を歩いた僕らだったが、やがて広い場所に辿り着いた。

 

 僕らの眼下に広がる光景。それは、僕もよく見慣れたもの。

 

「これは、エヴァ?」

 

「最初のね」

 

 ラングレーの呟きを拾い、答えたのは赤木博士。

 

「失敗作よ。10年前に破棄させたわ」

 

「エヴァの、墓場・・・・・・」

 

「今はただのゴミ捨て場よ。でも」

 

 そう言って、赤木博士はシンジ君を見つめた。

 

「貴方のお母さんが消えた場所でもあるわ」

 

「リツコ!!」

 

 葛城さんが思わず銃を構えるのを、シンジ君は手で制して止めた。

 

「大丈夫です。ミサトさん。何があっても、ちゃんと見なきゃ──」

 

「そして代わりに生まれたのが、綾波レイ」

 

「ッ!?」

 

 シンジ君たちが、驚いた表情で赤木博士を見た。

 

 やはりか。『碇ユイ』さんのクローン。その考えが正しいのであれば・・・。

 

「貴方のお母さんが消えたのと同じ場所で、レイは生まれたのよ。魂のない、空っぽの状態でね」

 

 ──魂のない?

 

「今あるレイの心は、サルベージして宿らせたもの」

 

 サルベージ、だと?

 

 一体、『なにからサルベージしたんだ』?

 

「いらっしゃい。真実を見せてあげる」

 

 赤木博士は歪んだ笑みを湛えたまま、暗闇へと歩いて行く。僕たちも無言で、その後に続いた。

 

 進んだ先にあったのは、暗いドーム状の部屋だった。部屋の真ん中には人が入れるようなカプセルが設置されており、そのてっぺんから脊髄のような機械が天井に伸びている。

 

 天井には大小合わせていくつかもわからないくらいに、ケーブルと配管がびっしりと設置されていた。

 

「なによ、これ・・・」

 

「ダミープラグの元となるプラントよ」

 

 ダミープラグ。以前、僕が初号機の暴走を止めた際に感じた、「綾波さんの魂に似た」何か。

 

 それの正体が、この部屋にあるのか?

 

「そして、これがダミーシステムのコアとなる部分」

 

 赤木博士が手元の端末をピッと操作した。

 

 僕たちの背後で、ゴポッと水の音が聞こえてくる。ドーム状の部屋の壁がゆっくりとせり上がり、

 

「これが、真実よ」

 

 赤木博士の言葉と共に現れたのは。

 

 

 

 綾波レイ。

 

 

 

 綾波レイ。綾波レイ。

 

 

 

 綾波レイ。綾波レイ。綾波レイ。

 

 

 

 綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ綾波レイ・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

「な、なにィィイイイイイイイイ!!?」

 

 水槽に浮かぶ、大量の綾波レイの姿だった。

 

「なんだコレは!一体、赤木博士、これはなにをやっているんだァーーーッ!!」

 

 僕は思わず赤木博士の胸ぐらを掴んでいた。

 

 綾波さんがフラスコベイビーである可能性。そして、クローンである可能性は、確かに僕の中にあった。

 

 だが、コレほどまでに!綾波さんがこれほどまでに無機質に!雑に扱われているなんて思いもしなかった!人として、最低限の生活は保証されているものだと思っていた!

 

 これではまるで!!

 

「赤木博士・・・・・・養殖していたのか!?綾波さんを!!」

 

 目の前の状況に、シンジ君とラングレーが尻餅をついてしまった。当たり前だ!こんな、人を人とも思わない所業を見せつけられて、正気を保つ方が難しい!

 

「いいえ。ここにあるのはみんなダミー。ダミーシステムのために生産されているだけ。そして、レイのためのただのスペアパーツにすぎないわ」

 

 生産、だと!?

 

 僕は思わず振り上げた拳をギリギリのところで必死に止めた。

 

 胸ぐらを掴まれたままの赤木博士は、僕の拳をどこか遠くの物でも見つめるような視線で返し、

 

「人は──」

 

 再び語り始めた。

 

「神様を拾ったので喜んで手に入れようとした。だから、バチが当たった。それが15年前のセカンドインパクト。せっかく拾った神様も消えてしまったわ」

 

 赤木博士がゆっくりと僕の手を引き剥がす。そのまま赤木博士は水槽に近寄り、右手でその水槽を軽く撫でた。

 

「でも今度は、神様を自分たちで復活させようとしたの。それがアダム」

 

 でも、と赤木博士は続ける。

 

「ミサト、それにジョルノ君。貴方たちはリリスの事も知っているわね?」

 

「・・・・・・ええ、知ってるわ」

 

「それなら話は早いわね。アダムとリリス。その二つから神様に似せて人間を作った。それが──エヴァ」

 

「人間・・・・・・人だって言うんですか?エヴァが」

 

 シンジ君の問いかけに、赤木博士は頷いた。

 

「本来魂のないエヴァには、人の魂が宿らせてあるもの。──貴方も気付いてるでしょ?消えてしまったお母さんが今どこにいるのか・・・・・・」

 

 赤木博士は水槽から離れると、僕たちの目の前を通り過ぎ、中央のカプセルへと歩いていく。

 

「でもここにあるレイと同じ『物』達は人じゃない。魂のない、ただの容れ物よ。たった一つの魂を守り続けるためのただの器・・・・・・」

 

 そして、中央カプセルの端末をなにやら操作したあと、

 

「だから、壊すの。もう二度と、魂が取り替えられないように・・・・・・私の苦しみを、終わらせるために」

 

 意を決して、最後のボタンを押した。

 

 途端に、水槽の中で泳いでいた『綾波レイ』たちが笑い出す。そしてそのまま水槽の中で、その身をぐずぐずと崩していった。

 

「きゃあああああ・・・・・・!?」

 

「うわぁぁああああああ!!」

 

 笑い声が、室内を満たす。

 

「貴様!何をやっているんだァーーーッ!!」

 

 僕は思わず赤木博士に掴みかかっていた!女性に対して暴力を振るうというのは僕としても本来はやりたくない事だが!

 

 だが、そんなのはどうでもいい。僕はすぐ隣に立っている綾波さんに目を向けた。

 

 その瞳から、涙が溢れかえっている。当の本人は、なぜ泣いているのかわからないと戸惑った様子だったが。

 

 それだけで十分だ。僕は赤木博士をこちらに向き直させると、その頬をパァン!と思い切り張った。

 

「満足、できたんですか?」

 

「・・・・・・ふ、ふふ。満足?できるわけないでしょう?私はレイの代わりに、あの人から、碇司令からゼーレに差し出されたのよ?あの人の事を思えば、どんな陵辱にだって私は耐えれた。なのに、私はこんな『ただの容れ物』にすら負けたのよ!?」

 

 赤木博士が僕を突き飛ばして離れる。その瞳からは涙が流れていたが、赤木博士は悪魔のように歪んだ笑みを僕らに向けていた。

 

「ジョルノ君、すでに色々知っていると前に言っていたけれど、これは知っているのかしら?レイの魂は『誰の魂なのか』っていうことを!?」

 

「!?」

 

「レイに宿った『魂』はね!人間じゃないのよ!彼女の魂は、貴方が殺そうとした『リリスの魂』なのよ!?」

 

「な・・・・・・!?」

 

 なんだと・・・綾波さんの魂が、『リリス』だって!?

 

「さぁ、今すぐ殺しなさいジョルノ君!貴方たちの最終目的は、ずっと貴方のそばにいたのよ!綾波レイを殺せば『人類補完計画』は止まるわ!さぁ!さぁ!さぁ!!」

 

 赤木博士はそう叫びながら、懐から拳銃を取り出して僕らに向けた!

 

 こ、この状況!いま、この場で明らかになった事実!こんな状況で、綾波さんを殺すだと!?

 

 空気がゴゴゴゴ・・・・・・と音を立てて唸りを上げていく。

 

「リツコ!!」

 

「ミサト!ほら、貴女の追い求めていた真実がようやく顔を見せたわ!さぁ!レイを撃ち殺しなさい!!」

 

 赤木博士と葛城さんが互いに銃を構える!二人の銃口は、互いの心臓を狙っている!

 

 これだけでもややこしい事態だというのに・・・!

 

「やれやれ。やはりこうなったか。赤木リツコ。ゼーレの命令に従って俺もついてきたが、まさかこんな場面に出くわすとは、流石に予想できなかった。だが・・・・・・!」

 

 暗闇の奥から背の高い影が、コツコツと靴音を立ててこの部屋に入ってくる!

 

 その、人影は────ッ!!

 

「な!?」

 

「久しぶりだな、ジョルノ・ジョバァーナ。会えて嬉しいよ。まさか再びお前と合間見えるとは想像もしなかった。いや、いつか出会える日を夢見ていたのは確かだが、その『希望』はとっくに捨てていたからな。やはりゼーレには感謝してもし足りない・・・」

 

 

 

 

「まさか・・・・・・ボス!!」

 

 

 

 

「ここまでだ。貴様らの旅路は。ここに至ればエヴァンゲリオンパイロットも用済みだろーよ。そしてジョルノ・ジョバァーナ!貴様の未来はすでに『視えて』いるぞ!!」

 

「ば、バカな・・・・・・!」

 

 まさか、こんなところにボスがいるわけ!

 

 いや、まさか僕の『レクイエム』!その行く先がこの世界を選んだのか!?だが、なぜボスは生きている!?僕の『レクイエム』はなぜ発動していないんだ!?

 

 

 

 ヤバい!この状況は、ヤバい!!

 

 

 

つづく

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