ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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「あなた、使徒ね?」

 

 葛城さんから飛び出した言葉に、僕らは目を見開いた。それを聞いた僕らの行動は!

 

「下がれ!シンジ君!」

 

「うん!」

 

 僕の咄嗟の指示に従い、シンジ君とラングレーが渚カヲルから跳んで距離を取る!まだ確定要素ではないが、この男が使徒ならば!

 

「ゴールド・エクスペリエンス!!」

 

 僕のスタンドで、始末する!

 

「待ったァ!!待った待った!ジョルノもみんなもストーップ!!」

 

 僕の『ゴールド・エクスペリエンス』の拳が渚カヲルに命中する寸前、葛城さんが僕らに飛び付いて待ったをかけた。

 

 僕たちの間に走る緊張感。場の空気がピィンと張り詰める。

 

「・・・・・・葛城さん、どーゆー事だ?この男が使徒なのだとしたら、なぜ、僕らを止めるんだ?」

 

「まだ確認の段階でしょーが!!これで私の早とちりだったら目も当てられないじゃない!」

 

「でも、ミサトさんの事だから、それは誰かから聞いた情報とかも含まれてるんでしょ?僕たちはミサトさんが嘘を言うとは思えないよ!」

 

「うぐ!?シンちゃんからの信頼が痛いわ・・・でも悪いけど、私もまだ確認の段階なの!だから、みんな落ち着いて!」

 

「落ち着けってぇの!?こんな、使徒かもしれない男が目の前にいるっちゅーのに、落ち着けるなんてできる訳ないでしょ!?」

 

 僕らの言葉に、葛城さんは慌てふためくが知った事じゃあない。何と言おうと、僕らは葛城さんを信頼しているんだ。その彼女が、渚カヲルを使徒と言ったからには何かしらの理由があるはずだ。

 

 それに、今までの使徒は僕たちの想像の斜め上を行く姿をして現れていた。今更、人の姿を取った使徒が現れても不思議ではない!

 

 そして、目の前の渚カヲルの態度は──、

 

「なんで、そう思ったんだい?」

 

 半ばその事実を認めるようなものだった。

 

「・・・私の友達ね、赤木リツコっていうんだけど、知ってる?彼女に会ってあなたの事を聞いてきたわ」

 

「・・・・・・そうか」

 

 ネルフ随一の頭脳である赤木博士の名前が出た途端、目の前の少年は、諦めたように肩を落とした。

 

 その顔には、悲哀が込められている。その表情を見た瞬間、僕の中の闘争本能はゆっくりと鳴りを潜めた。そういう態度を取ってしまうくらい、彼の顔には悲痛が刻まれていたんだ。

 

 その表情を前に、シンジ君やラングレーもその闘争本能を解いたのか、ゆっくりと姿勢を正した。

 

「ミサトさん、どういうことなんですか?カヲル君が使徒って、一体どういうことなんですか?」

 

 シンジ君が冷静に、葛城さんに問いただす。

 

「・・・・・・リツコに会った時に聞いてきたの。いきなり現れたフィフスチルドレンて何者なのって。そうしたら・・・」

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

「あの少年、フィフスの正体はなに?」

 

「・・・・・・渚カヲル。彼の誕生日は調べた?」

 

「ええ。2000年9月13日。セカンドインパクトの起きた日、よね?」

 

「そうよ。彼の誕生年月日がセカンドインパクトと同じなのは──」

 

 

 

 

 

「──たぶん、あの日、あの場所で、最後に生まれた使徒だからよ」

 

 

 

 

 

「!?・・・・・・まさか、使徒は全て、アダムから生まれたというの?」

 

「それについてはミサト、貴女はリョーちゃんから聞いて、すべて知ってるはず、よね?」

 

「・・・・・・あの日、人はアダムに何をしたの?」

 

「・・・・・・人は、他の使徒が現れる前にアダムを卵まで戻そうとした。その結果があのセカンドインパクト・・・・・・事前に引き上げられた貴女のお父さんの調査隊のデータの中に、何らかのカタチで人の遺伝子を使おうとした痕跡があったと聞くわ」

 

「・・・・・・」

 

「もし、それが秘密裏に実際に行われていて・・・・・・その時生まれた使徒が人の形をしていて、それをゼーレが手に入れていたとしたら、すべての辻褄が合うとMAGIは言っているわ・・・・・・」

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

「・・・・・・そうか。すべて知ってしまったんだね」

 

 葛城さんの話を聞いた渚カヲルは、天井を見上げた。天を仰いだ、と言ってもいいだろう。

 

「その物言い、あなた、やっぱり使徒なのね?」

 

 葛城さんの問いに対し、渚カヲルは笑みでもって応えた。

 

「綾波レイ」

 

「ん?・・・ごくん」

 

 こんな時になんだが、綾波さん。緊張感がまるでないな。

 

「君は僕と同じだね」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 綾波さんは口の中のお菓子を飲み下すと、可愛らしく首を傾げた。

 

「あなた、何を言っているの?」

 

「僕はアダムの魂を、君はリリスの魂を宿してこの世界に生を受けた。僕と君は、同じ運命にある者同士なんだよ」

 

「・・・・・・」

 

 綾波さんはしばらく考え込むと、

 

「そうね。そうかもしれない」

 

 その言葉を肯定した。

 

「でも」

 

 綾波さんがゆっくりと立ち上がり、ソファに座ったままの渚カヲルと真正面から向き合う。

 

「わたしは、わたし。リリスの魂としてのわたしじゃない。わたしは、わたしでしかないわ。碇くんや、ジョルノやみんなと喜びや悲しみを分け合えるわたし。それが、わたし・・・・・・」

 

 だから、と綾波さんは続ける。

 

「あなたとは、違うと思う」

 

 その言葉を受けた渚カヲルは、どこか面食らったような表情を見せた。それは心の底から驚いた様子で。

 

「ふ、くくく、あはははははは・・・・・・!」

 

 大きく、笑った。

 

「ははははは・・・・・・そうか。きみはとっくに自分の居場所を見つけられたんだね・・・なるほどな、確かに、ぼくとは違う・・・」

 

 あまりにおかしかったのか、渚カヲルの目には涙が浮かんでいた。その表情は、どこか寂しそうなもので。

 

「ぼくには、それが無かった。生まれてから、ずっと・・・一人だった」

 

 そして、と渚カヲルは続ける。

 

「死んでも、それは続く。僕の存在を消せるのは真空崩壊だけだ。僕は定められた円環の物語の中で、演じることを繰り返さなければならない・・・何度も同じ世界をやり直さなければならないんだ」

 

「それって、どういうこと・・・?」

 

 シンジ君の問いに、渚カヲルは寂しそうに笑いかける。それはどこか、疲れ切った笑みだった。

 

「シンジ君」

 

「カヲル君・・・・・・?」

 

「ぼくは、君に会うために生まれてきたのかもしれない」

 

「え・・・・・・」

 

「ぼくは何度も、何度もこの世界をやり直しているんだ。その度に結果は異なったものになったけれど、どれひとつとして幸せな結果にはならなかった・・・・・・少なくともシンジ君。君が幸せになる結末の世界は無かった」

 

 渚カヲルはまるで疲れきったかのように深いため息をついた。

 

「ぼくはいつしか、君の幸せを願うようになった。君が幸せになってくれさえすれば、きっとぼく自身も幸せになれる。そう信じて。そのためなら、ぼくは死ぬ事すら惜しくないんだよ。生と死は等価値なんだ。ぼくにとっては」

 

 だけど、と渚カヲルは続ける。

 

「ジョルノ・ジョバァーナ。君は、ぼくが生きてきた世界にとって、居てはならないイレギュラーなんだ」

 

 ・・・・・・なに?

 

「ぼくが生きて、そして死んできた世界に、君という存在は居なかったんだ。なのに、君という存在がいるだけで、シンジ君は、そして、この世界は大きく変わろうとしている。全てが上手くいくかのように、君が運命を変えていく」

 

 スッと、渚カヲルは立ち上がり、僕を睨み付けてきた。それは僕には理解の及ばない、深い、深い、昏い感情。

 

「君が妬ましいよ。こんな感情を抱くなんてことは、今までのぼくには無かったことなのに・・・・・・シンジ君を幸せにするのは、ぼくの役目だったはずなのに・・・・・・」

 

 七つの大罪。

 

 そのもっとも深き罪。

 

 嫉妬。

 

「だけど、ぼくはそれも受け入れる。受け入れようと思う。ぼくにも意志はある。自らの意志で運命に逆らうこともできる」

 

 ・・・・・・?どういう事だ?

 

「勘違いするなよ、ジョルノ・ジョバァーナ。君のために言ってるんじゃない。このままぼくが何もしなければ、老人どもは黙っちゃいないだろう」

 

「老人?」

 

「あいつら速攻でぼくを消すだろうな。もともとぼくの命はアイツらが握っているのも同然だからね」

 

「カヲル君?」

 

「自らの死。それこそが、ぼくにとっての唯一絶対的な自由だ。自分の意志で自らの死の形を選べるってことだけが、ぼくに許された自由なんだよ」

 

「な、なにを、何を言ってるの?カヲル君」

 

 

 

「ぼくはシンジ君。君に、君の手で、消してもらいたい」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・。

 

「カヲル君・・・・・・」

 

「さぁ、ぼくを消してくれ。ぼくは使徒だ。そうしなければサードインパクトによって君らが消える事になる。滅びの時を免れ、未来を与えられる生命体は一つしか選ばれないんだ。そして、シンジ君。君は死すべき存在ではない。君たちには未来が必要だ」

 

 大きく手を広げ、まるで舞台役者のように振る舞う渚カヲルの姿に、場の空気が静まり返る。それを冗談と取るには、渚カヲルの態度は真剣に過ぎた。

 

 渚カヲルは、寂しそうに微笑んでいた。

 

「頼むよ、シンジ君。最後の願いなんだよ。ぼくの事を少しでも思ってくれるなら、叶えてくれ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・ふぅ。

 

 

 

 

 やれやれ、ってやつだな。

 

 

 

「シンジ君。言いたい事があれば言ってやるんだ。その方が、彼のためになるだろう」

 

「・・・・・・うん。カヲル君」

 

「なんだい?」

 

 

 

 

 

「覚悟とは、暗闇の荒野に進みべき道を切り開くことなんだ」

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

「カヲル君のそれは、きっと覚悟じゃない。諦めの感情だ。僕はそんな気持ちの人を手にかけることはできない」

 

「・・・・・・僕の、心からのお願いだとしても?」

 

「僕は、今までの世界っていうのがどんなものなのかわからない。けれど、カヲル君がずっと苦しんできたんだろうって事はわかるんだ。だから、だったら僕は、カヲル君が幸せになる道を選びたい」

 

「ッ!!」

 

「君の言っていた老人、それがもし『ゼーレ』の事を指しているなら、僕はそんな運命に負けたくはない。君を死なせる事もない。カヲル君を、こんなに傷付いたカヲル君を殺すなんてこと、僕にはできない」

 

「けど・・・!」

 

「カヲル君が幸せになっちゃいけないなんて、誰が決めたの?使徒が死ななきゃいけないなんて、誰が決めたの?確かに僕は、たくさんの使徒を斃してきた。それは、確かに人類のために戦ったからだけど・・・。カヲル君は違うじゃないか。人類を滅ぼそうなんて、考えていないじゃないか。僕はそんな君を死なせたくない。僕はそんな運命に負けたくない。それがとても難しいとしても、僕はそれを乗り越えて君の手を取る。それが、僕の覚悟だ」

 

 シンジ君の言葉を受けて、渚カヲルの顔がくしゃりと歪んだ。その顔は、迷子の子供が、ようやく親に見つけてもらえたような、そんな泣き顔だった。

 

「ぼ、ぼくは・・・・・・死なない未来を選んでも、いいんだろうか?」

 

「カヲル君に意志があるのなら、諦めちゃダメだよ。僕も協力する。例えカヲル君が使徒だったとしても、僕は君の手を取るよ」

 

 シンジ君はそんな渚カヲルに手を差し出した。その手を見て、渚カヲルは静かに涙を流す。

 

「あなたはわたしとは違うわ。あなたは、これから始まるの。きっと、それはとても大切な、忘れられない宝物になるわ」

 

 シンジ君の隣に綾波さんが立つ。そして、シンジ君と同じように、その右手を差し出した。

 

「はぁ〜あ。相変わらずのお人好しねバカシンジ。しょうがないわね。アタシも付き合ったげるわ」

 

 その反対隣には、同じようにラングレーが。

 

「そうね。最後の使徒が、こんなに人間臭いやつだってわかったなら、貴方と戦う必要はないわ。真の敵は『ゼーレ』だものね」

 

 彼らの背後からは、葛城さんが微笑みかける。

 

「渚カヲル」

 

「・・・・・・ジョルノ・ジョバァーナ」

 

「長ったらしいだろう?ジョルノでもジョジョでも好きに呼んでくれて構わない」

 

 そうして僕も、彼に右手を差し出した。

 

 僕たちの手が、渚カヲルの前で重なり合う。僕は目線を渚くんに向けて、小さく頷いた。

 

 渚カヲルは躊躇いがちに、その上に自分の手を重ねた。

 

「改めて、よろしくね!カヲル君」

 

「シンジ君、みんな──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありが【運命を辿れ、ピルグリム(巡礼者)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬のことだった。

 

「うがう!?」

 

 渚カヲルの体が何者かに引っ張られるようにして背中から床に倒れ込んだ。

 

「が、あ・・・!?こ、これは・・・!?」

 

 渚カヲルは自分の首に手を当てる。その手元には──、

 

「黒い、チョーカー・・・!?いつの間に!?」

 

「え!何!?何が起こったのジョルノ君!?」

 

 ッ!?シンジ君たちには見えてない?

 

 まさかッ!!

 

「く、『首輪』だって!?まさか、このぼくが抑え込まれるほどの!?」

 

「これは、スタンド攻撃だ!!」

 

 僕は咄嗟に『ゴールド・エクスペリエンス』を繰り出し、その『首輪』に向かって拳を放った。

 

 だが!!

 

「なに!?」

 

 いつの間に!?

 

 僕と渚カヲルの間に立つ、黒いローブを被った人型のスタンド!その顔は陰になっていて見る事は叶わないが!

 

【引っ込んでいろ、ジョルノ・ジョバァーナ。この者の運命に逆らうことは、何人たりとも叶わない】

 

 そいつの手が僕の拳を受け止めた瞬間!

 

 ドカン!と。

 

 僕は壁に叩きつけられていた!

 

「ごは!?」

 

「ジョルノ君!?」

 

「なに!?なんなの!?まさかまた『スタンド使い』ってやつ!?」

 

「ぐ・・・みんな離れろ!新手のスタンド使いの攻撃だ・・・!コイツは僕が・・・!」

 

「いや、無駄だよ。ジョルノ・ジョバァーナ」

 

 起き上がった僕が構え直すほんの一瞬。その間に、渚カヲルの体が黒ローブのスタンドに捕えられ、ベランダから外へと勢いよく飛び出していく!

 

「カヲル君!!」

 

 全ての時間が、スローモーションに映る。

 

「これは『運命を司るゼーレのスタンド』だ。こうなる運命だったんだ、ぼくは・・・・・・」

 

 ベランダへと飛び出した渚カヲルと黒ローブの姿が、夕闇へと溶け込んでいく。

 

「運命からの逸脱を許さない、『ゼーレのスタンド』。ぼくにもどうしようもない『強制力』が働いている。だから、シンジ君・・・・・・」

 

 その最後の言葉は、ゆっくりと木霊のように美しく響いて。

 

「僕を消してくれ。人類の、未来のために」

 

「カヲルくーーーーーんッ!!!」

 

 彼らの姿は、闇の中へと消えていった。

 

「〜〜〜ッ!すぐに追うわよ!みんな、私の車まで走って!」

 

 葛城さんの言葉に我に帰ったみんなが、玄関から急いで飛び出した。

 

 僕はみんなの背中を追いながら、一人考える。

 

 今見たのが、『ゼーレのスタンド』。『運命を司る能力』。その言葉に、僕の頭の中で引っかかるものがあった。

 

 あれは、ミスタから聞いた話だ。『ローリング・ストーンズ』。石の形をした『運命を司るスタンド』。石に刻まれた姿の通りに人の死を予見するスタンド。それと、似たようなタイプのスタンドなのだろーか。だとしたらあのスタンドには、『運命』という抗えない力が味方をしている事だろう。

 

 だが問題ない。あのスタンドが『運命』の通りに渚カヲルを悲劇のステージに立たせようというのなら!

 

 僕とシンジ君、そしてみんなの覚悟が!

 

 その舞台をぶち壊す!!

 

 

 

つづく

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