ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

128 / 141
128.

 

 加持は銃を構えながら、じり、じり、と後退していた。それはゲンドウの予想外の格闘能力に怖気付いたからではなく──、

 

(このまま、碇司令を外へ誘い出す・・・!)

 

 第二発令所での戦闘を回避するためであった。加持自身は、自分の実力を過信してはいないが、少なくとも目の前の男を取り押さえる程度の実力は持っていると確信していた。

 

 だが──、

 

「ここは狭い。外に出ようか。加持君」

 

 碇ゲンドウが右手をかざす。そこから、

 

「ッ!?なにぃっ!!?」

 

 赤い八角形の光が飛び出すと、加持をそのまま吹き飛ばした。

 

「ぐあッ!?」

 

「!?ちょっと、加持くん!どーしたの!?」

 

 階下からでは様子を伺いようがないミサトが声を上げる。しかし加持はそれどころではなかった。眼前に悠然と迫ってくるゲンドウに対し、加持は弾丸を二発ほど消費した。

 

 ギュギィィイイン!!

 

 その弾丸を、赤い障壁が弾く。

 

「ATフィールド・・・、碇司令、まさか『アダム』を自身に移植させていたとは!」

 

「これも神の儀式には必要な儀礼だ。加持君、見えているぞ。貴様の『スタンド』とやらは、な」

 

 お返しとばかりに、ゲンドウが二発の銃弾を放つ。それを加持は、鎖の『スタンド』を振り回して弾いた。

 

「まさか、やはり貴方は人の身を捨てるつもりですか?」

 

「どうでもいい些事だ。私の目的のためならば、そんなものいくらでも捨ててやろう。・・・・・・冬月先生」

 

「碇・・・・・・」

 

「あとは、頼みます」

 

「わかっている。ユイ君によろしくな」

 

 そう言い残すと、ゲンドウは第二発令所を後にした。冬月はすぐに扉にロックを掛けると、階下のミサトに向けて声をかけた。

 

「さて、葛城三佐」

 

「冬月副司令!貴方は、碇ゲンドウの人類補完計画を・・・!」

 

「もちろん知っている。だが、ここで私たちが争う事に意味はあるのかね?戦自の侵攻もまもなく開始されるだろう」

 

「私は人類補完計画を止めます!」

 

「だがここが落とされれば何も意味をなさない。どうかね?少し『相談』しないか?」

 

 

 

 

 ATフィールドと『アンチェイン・マイハート』がぶつかり合う!加持の振るう『スタンド』は、触れた対象を細切れにして小さくできる能力を持っている。その能力が一発でもゲンドウに当たれば、勝負は決する事だろう。

 

「ちっ、しくじったな」

 

「その様だな、加持リョウジ」

 

 その『スタンド』の猛攻を、ゲンドウは廊下の壁や天井いっぱいに展開したATフィールドで弾き返していく。強固なATフィールドは、壁や天井を削りながら加持に迫っている。

 

(さっき碇司令を小さくしておけば、こんな面倒な事にはならなかったんだが・・・)

 

 しかし、加持の鎖はゲンドウのATフィールドに弾かれた。それを思えば、もしかしたら能力を発動していたとしても、ATフィールドによって能力ごと弾き返されていたかもしれない。

 

 そんな考えを頭に巡らせながら、加持はじりじりと後退を余儀なくされる。

 

「ATフィールドは心の壁。本来誰もが持っている絶対領域、拒絶の光だ。だが、拒絶の仕方は何も『壁』だけではない・・・」

 

 ゲンドウは目の前に展開したATフィールドに右手を伸ばすと、まるで布を掴む様にATフィールドを握り締めた。

 

 途端、ATフィールドが姿を変える。それはまるで、赤い光の鞭のようで。

 

『アンチェイン・マイハート!!』

 

 加持の『スタンドの鎖』と鞭と化したATフィールドが空中で火花を散らしてぶつかり合う!攻撃に転用されたATフィールドが振るう力は絶大で、加持の鎖はATフィールドとぶつかるたびに、その身に小さくヒビが入っていく。加持の体のあちこちで、『スタンド』が傷つけられると同時に切り傷が刻まれていく!

 

「くっ!・・・・・・鞭の使い方、上手ですね?碇司令!」

 

「お前の戯れに付き合うつもりはない・・・!」

 

 ゲンドウが腕を振るうと、グインと勢いをつけて鞭の形が変わった。それはまるでフェンシングのレイピアのような、直剣の形をしていた。

 

「ひゅうっ!碇司令、多才ですな!」

 

「死ね」

 

 その剣が、まっすぐに加持の胸目掛けて飛んでくる!間一髪、加持はATフィールドに鎖を巻き付ける事で無理やり動きを止めたが、

 

「射程距離だな」

 

「くっ!」

 

 ゲンドウは左手で握ったままの銃を加持の顔面に向けて構える!防げるものは何もない!

 

「さようならだ、加持リョウジ」

 

 その銃口から銃弾がゆっくりと飛び出し、

 

 ギュギィィイインッ!!

 

「なに?」

 

「間一髪ってところだね?怪我はないかい?加持リョウジ君?」

 

 もう一つのATフィールドが、飛んできた銃弾を弾き返した!

 

「・・・ちぃ」

 

 舌打ちをしながら、今度はゲンドウが後退する。加持の窮地に現れたのは、

 

「タブリス・・・死に損ないの使徒か」

 

「酷い言い草だ。もっとマシな言葉は出てこないのかい?碇ゲンドウくん?」

 

 壁いっぱいにまで張った渚カヲルのATフィールドが、シールドのように加持たちとゲンドウを遮断していた。

 

「ふぅ・・・君が渚カヲル君、かい?助かったよ。今のはマジに死ぬかと思った」

 

「それはよかった。・・・・・・それで、どうするんだい?碇ゲンドウくん。ぼくの、いや、アダムの体を埋め込んだ、リリンの王。ぼくと君が戦えば、ここで『アダム』が完全に復活してしまうと思うけどね」

 

「・・・・・・確かに、な」

 

 ゲンドウは拳銃を手にした左手をゆっくり下す。

 

「貴様のATフィールドと私のATフィールド。互いが干渉し合えば、互いのATフィールドは中和される。そこを加持リョウジのスタンドで攻められれば、私が不利になるのは見えている」

 

 ならば、とゲンドウは口にした。

 

「『逃げる』」

 

「・・・・・・・・・は?」

 

 加持とカヲルがそのセリフに呆気に取られている隙をつき、ゲンドウは背を向けてこの場からの離脱を計った。

 

「ちぃ!?」

 

「待て!」

 

 加持が咄嗟に鎖の『スタンド』を飛ばすが、ゲンドウはすぐに横に抜けた通路に身を隠した。その向こうから聞こえてきたのは、ゲンドウの駆け足の音。ゲンドウは戦いを選ばず、この場からの離脱に成功していた!

 

「追うぞ!渚くん!」

 

「そうだね。でも、彼は一体どこに向かおうと言うんだろうね。どこに逃げても、ぼくと君がいる状況なら負けは確実だろうに」

 

「決まっている!」

 

 加持は奥歯をギリィと噛み締めた。

 

「地下のリリスだ!綾波レイが初号機で出撃した今、碇司令は無理やりにでも『アダム』と『リリス』の融合を果たすつもりだッ!」

 

「!!」

 

 二人はゲンドウの跡を追う。二人がゲンドウが消えた通路に差し掛かった途端だった。

 

「ん・・・・・・これは!?」

 

 加持は足元に落ちていたものに気付いた。それは加持自身にも深い関わりを持つ『モノ』。

 

「『矢』だと・・・・・・!まさか、碇司令、これを使ったのか!?」

 

「どうしたんだい?加持くん。早く彼を追わなくては・・・・・・」

 

「待て、渚くん!」

 

 加持の額から冷や汗が流れる。

 

「ここから先は危険だ。見ろ、この『矢』、血が付いている。この『矢』は使用済みのようだ。碇司令がこれを使ったならば」

 

「・・・?」

 

「彼は『スタンド使い』になった可能性が高い。相手の能力がわからない以上、迂闊に追う事はできなくなった・・・・・・」

 

「そうなのかい?でも、それじゃあどうするっていうんだ?」

 

「先回り、するしかないだろうな。俺たちは『リリス』の元に急ごう。そこで碇司令を迎え撃つ。それしかない!」

 

「了解だよ、加持リョウジくん」

 

 二人は来た道をゆっくりと戻ると、名残惜しそうにゲンドウの行った通路の先を睨み、意を決したように地下へと続くエレベーターを目指して走り始めた。

 

 

 

 

「ぐあああああああああああ!!はぁ!はぁ!はぁ!!」

 

 通路の先に、うずくまるようにして碇ゲンドウは苦しんでいた。随分と昔、『ゼーレ』から手渡されていた『矢』。困難に立ち向かう際に使う様に、と言って渡されたソレを、ゲンドウは最後まで使うつもりはなかった。

 

 だがしかし、ゲンドウの今の状況は切羽詰まっていた。綾波レイは手の届かない場所にエヴァ初号機と共に出撃し、自身もまた、加持と渚カヲルによって追い詰められていた。

 

「使いたくはなかった!使いたくはなかったが、これ以上はどうしようもない!私としても、最後の手段だった・・・・・・」

 

 だが、『矢』はゲンドウを拒絶した。

 

 その代償として、『矢』は碇ゲンドウの肉体をぐずぐずに崩していく。しかし、ゲンドウが取り込んだ『アダム』が肉体の消滅を許さなかった。肉体の消滅と再生。その苦しみは、想像を絶するだろう。生きる事を許されず、死ぬ事を許されず。

 

 しかして、その無限地獄がゲンドウにもたらしたものは。天が彼に最後に与えたものは。

 

「『オー・ファーザー』・・・・・・ッ!!」

 

 瞬間、ゲンドウの姿が通路から消える。

 

 彼の身に、想定外の、そして想定以上の『ご褒美』がもたらされていた。

 

 

 

 

「冬月副司令・・・相談、とは?」

 

 ミサトは上階にいる冬月を睨み付けている。しかし、その視線を前に、冬月は至極落ち着き払った態度を示していた。

 

「なに、簡単な事だ。共闘しないかね?」

 

「そんなふざけた提案が、飲まれるとお思いですか?」

 

「だがここに戦自が乗り込んでくるとなればどうだね?君一人で、ネルフ全域への指揮を取ることができるかな?流石に無理だろう?」

 

「くっ・・・」

 

 確かに冬月の言う通りだ。すでにエヴァは出撃させているとはいえ、戦自の猛攻を自分の指揮だけで止められるとはミサトも思っていない。戦自との戦いはネルフの総力を以てしか、成し遂げられないだろう。

 

 だが人類補完計画。それの協力者として今までやってきた冬月が、戦自との戦いの最中に何かの行動を起こさないとも限らない。ミサトはそこを懸念していた。

 

「安心したまえ。すでに私の仕事はほとんど終わっている。ここから私が望むのは、『碇ユイ』君との再会だけだ」

 

「!?・・・・・・冬月副司令。まさか、あなたも?」

 

「ああ。昔の話だがな。私も、ユイ君にはもう一度会いたかったのでね。だが、その役目は既に碇に譲った。私がユイ君と再会できるかは、戦自、ひいては『ゼーレ』との戦いに生き残れるかどうかに尽きるのだよ」

 

「だから、あなたは私達と共闘する、と?」

 

「不満かね?」

 

 発令所内が静まり返る。オペレーター陣も、ことの成り行きを見守るしかない。

 

 やがて、ミサトは深いため息をつき、構えていた銃を下ろした。

 

「副司令、銃をこちらへ」

 

「構わんとも」

 

 冬月は手にした拳銃にセーフティをかけると、上階からミサトへ投げてよこした。ミサトはそれを片手でキャッチすると、自分のホルスターにしまった。

 

「みんな、聞いたわね?ここから先は、戦自、それと『ゼーレ』との戦争よ。普段以上に気を引き締めて。でなきゃ、死ぬわよ」

 

 ミサトの静かな宣言と共に、発令所のオペレーター陣全てが自分の仕事に取り掛かる。

 

 戦自侵攻まで、あと30分。

 

 

 

つづく

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。