ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
暗闇に潜む幾つもの影。それは碇ゲンドウ自身も初めて目にする光景。
『デミ・・・・・・デミ・・・・・・』
かつて加持に寄生し、ジョルノを追い詰めたスタンド『パニック・アット・ザ・ディスコ』。その卵型のスタンドが、暗闇から徐々にゲンドウに迫ってくる。
だが。
『オー・ファーザー』
ゲンドウが右手を掲げる。途端、ゲンドウの右手に移植されたアダムを中心として、空間の光が捻じ曲がった。
次の瞬間、『パニック・アット・ザ・ディスコ』はこの世界から姿を消していた。
「ち・・・・・・キリが無いな」
ゲンドウは、生と死の狭間を行き来したことによって、今や真っ白に染まってしまった自身の髪をかき上げる。その姿は老人のソレを彷彿とさせたが、その態度からは余裕が窺えた。ゲンドウの言葉の通り、暗がりからはいくつもの卵型のスタンドがゆっくりと迫ってくる。
ゲンドウの背中から生える、機械の翼。いや、そう見えるというだけであるが、それこそが『オー・ファーザー』のスタンドのヴィジョン。それが一瞬翻ったかと思えた瞬間。
今度は、ゲンドウの姿がこの場からかき消えていた。
◇
第三新東京市。そこで暴れ回る初号機に対し、戦自はなす術を持たなかった。紫の鬼神の進撃は、まさしく人類最大の敵であった使徒の侵攻と同義である。エヴァを持たない戦自に、エヴァを止める手段はない。
『いぃ〜わよ!シンちゃん!レイ!その調子で、戦自を殲滅しちゃって!』
通信からミサトの浮かれた声が聞こえてくるが、シンジは歯を食いしばりながら戦自を蹂躙していたのだ。決して人殺しをしたいわけではない。退いてくれるなら、できれば無用な殺生はしたくないというのがシンジの本音だった。
『皆さん!これ以上は無意味です!お願いだから、ここから退いて・・・・・・』
シンジが鬼神を操りながら、戦自隊員達に降伏を勧告した時だった。
『ッ!?第三新東京市上空よりN²兵器投下!!』
『!?マズい!シンジ君!レイ!ATフィールドぉ!!』
第三新東京市の上空を覆っていた夏の入道雲が、丸い円を描いた様に拡散した。空を割って降ってくるのは、人類最強の火力を誇るN²兵器。
「ッ!?フィールド、全開!!」
シンジが初号機の両手を空に掲げる!そこから天を覆う様に展開される赤光の八角形!初号機のATフィールドはN²兵器の投下を確かに堰き止めたが・・・、
「うおおおおおおお!?」
「きゃあああッ!!」
N²兵器のあまりの威力!それを止め切ることができず、初号機は周りの大地共々、地獄の業火に包まれた!!
「うああああああああああああ!!?」
地面が、陥没する。ネルフ本部の直上に建設されていた第三新東京市。半ば湖と化していたかつての防衛都市はこの瞬間、人類の手にした破滅の炎によって消滅した。ネルフ本部を守っていた防壁も纏めて、人類最大の火力が根こそぎ吹き飛ばしてしまったのだ。
『あーあ。言わんこっちゃない』
『奴ら、加減てものを知らないのかよ!』
『無茶をしおる・・・・・・』
『シンちゃん!レイ!無事!!?』
ネルフのオペレーター陣と冬月の嘆きに近い言葉を聞きながら、シンジは自分に問い掛けるミサトの言葉を捉えた。その瞬間、初号機の背中に受けた強い衝撃。ジオフロントの天井を焼き尽くして溶かしたN²爆雷を耐えた初号機が、ジオフロントの地面に墜落した瞬間だった。
ジオフロントの天井に、巨大な円状の穴が開いていた。
『シンジ!』
「だ、大丈夫だよ!アスカ!」
「私たちなら、平気・・・」
だが次の瞬間、
『まだよ!みんなATフィールドを張って!!』
ミサトの声に反応した初号機と弐号機が、ジオフロントに開いた大きな穴を見上げる。そこからまさしく雨のように降り注ぐのは!
「弾道ミサイル!?」
『ふざっけんな!こんちくしょーーーッ!!』
ミサイルの雨!!
「アスカ!!合わせて!!」
『わかってるっちゅーの!!』
弐号機に抱き挙げられた初号機が、弐号機とともに両手を空へ掲げる!
「『ATフィールドォォオオオ!!全開!!』」
眩い赤光が、降り注ぐミサイルを防ぐ!!それでも全てのミサイルを止められるわけではない。ATフィールドの範囲内に収まらないミサイルの雨が、ジオフロント内の自然を蹂躙した!
『・・・・・・いや!もうイヤ!!』
通信を通して、伊吹マヤの悲鳴が聞こえる!
『ねぇ!?どうしてそんなにエヴァが欲しいのぉぉ!?』
その問いに答えたのは──、
『エヴァが、人類補完計画の最後の要だからよ!!』
ミサトだった。
『人類補完計画の提唱者、人類補完委員会、それにゼーレ!奴らは、エヴァを使って全人類を、いや、全ての生物を!!滅ぼすつもりなのよ!!』
「そんな事は!させないッ!!」
ミサトの声に応えるのは、この長き旅を通じて成長した碇シンジと綾波レイ!そして、弐号機を駆るアスカだった!
『アタシ達が!人類補完計画をぶっ潰す!!』
爆炎の嵐を吹き飛ばして、立ち上がるエヴァンゲリオン初号機と弐号機!!
「まだだ!まだまだ!僕達の心は折れていない!」
『何が来ようと!アタシ達は負けない!』
「わたしたち、生きてるから・・・!」
『「「来るなら来いッ!ゼーレッ!!」」』
エヴァに導かれし、三人の少年少女。
その眼差しが空を射抜く。
そして、その視線の先には!!
『ジオフロント上空に複数の未確認飛行物体が出現!!』
『遂に来たわね!!』
ネルフユーロ軍によって搬送された、九つの機影!!
『エヴァシリーズ!!』
「完成していたのね・・・」
「アスカッ!!」
シンジはアスカに呼びかける!それを受けた弐号機は側に置いてあったF型装備、全領域兵器マステマを手に取った!
『シンジ!』
「ああ!」
そしてシンジは、腰に携えていたマゴロク・E・ソードを手にして──!
『「かかってこい!!」』
輸送機から解き放たれた、九つの天使の如きエヴァンゲリオン量産機。それらが描く輪舞に対して、武器を構えた!!
◇
第三新東京市。その攻防を映像を通して目にしたゼーレの長、キール・ローレンツは、「ふむ」と一言をこぼした。
「我らの攻撃、それを防ぐか」
「N²爆雷。それすらも防ぐとは・・・・・・」
「なに。使徒であれば容易に防いだもの。アダムより生まれしエヴァに、防げぬ道理無し」
「左様。それゆえに、厄介だ」
「まぁ、良い。毒は同じ毒を以て制すれば良いだけのこと」
ゼーレの他の面々の言葉を宥めながら、キール・ローレンツはその口に笑みを浮かべていた。
「ジョルノ・ジョバァーナも、じきにここへと現れるだろう。依代は誰でもよい。絶望したジョルノ・ジョバァーナ。もしくはゲンドウの息子。あるいはリリスの半身。または弐号機の娘」
「死を望むものこそが、依代に相応しい」
「絶望を。この世の全てを呪う絶望を」
「植え付ければ良いだけの事。我らの儀式の贄に相応しければ」
「だが、碇ゲンドウ。奴の補完計画はどうする?」
「奴の補完計画は、我らの妨げになるものではない。泳がせておけばよい。下らぬ愛を求めるならば、一人くらいの例外は認めよう」
「左様。我らの願いは全人類の魂の昇華と救済にあれば」
「あの愚か者の願いなど、叶えたところで変わりはない。むしろ奴自身が補完計画の完遂を望むのであれば」
「或いは」
暗闇に、キール・ローレンツと12枚のモノリスが浮かび上がる。
「奴が我らの救いとなり得るか。楽しみだ」
そう言って、キール・ローレンツは静かに笑った。
その眼下に、儀式の場である、LCLのプールを見据えたまま。
つづく