ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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 目を覚ました瞬間、目の前にあったのは『無』だった。どこまでも広がるただ真っ白いだけの空間。そこには何もなくて、誰もいない。

 

 この空間を、僕は知っている。いや、ついさっき『ここには来たばかり』と言うべきか。

 

 何もない。誰も居ない。けど、それは単なる視覚的な問題でしかなくて、手を伸ばせばそこには、無数の魂の息遣いが感じられる。

 

 そう、ここは孤独な世界なんかじゃあない。その一歩手前の、孤独になる瞬間の世界だ。

 

 僕はそんな世界に手を伸ばす。何をどうこうしようと言うんじゃあない。ただ、その魂達の温かさに触れたくて、僕は手を伸ばした。

 

 世界に空気があるように。僕らの周りを風が舞うように。翳した手のひらには暖かい魂たちを感じられる。

 

 その暖かさは、もしかしたら醜い感情なのかもしれない。他者を蔑むような、酷い感情なのかもしれない。

 

 でもそこには、その魂の生きてきた証があって、それを否定する事は誰にもできないんじゃあないかと思う。

 

 そんな、一つ一つの魂達に、僕はある種の『尊さ』を感じずにはいられない。

 

 傷付き、悲しみに暮れる人にも。

 

 傷付け、怒りに身を震わす人にも。

 

 愛し、愛され、その幸福に身を任せる人にも。

 

 孤独で、誰の愛も信じられない人にも。

 

 そして、様々な『運命』を切り開いていこうと足掻いている人々の。

 

 そういった魂の在り方が、堪らなく尊く、愛おしい。

 

 きっと、僕という人間が救える魂というのは、この両手で掬えるかどうかという数でしかないんじゃあないだろうか。それですら、『救える』だなんて傲慢でしかないんだが。

 

 それでも、愛おしくて、尊くて、どうしても手を伸ばしてしまう。

 

 全ての命は、等しく素晴らしい。命に価値が無いなんて嘘だ。この地球のどんな命だって、一つ一つの、それぞれのドラマがあるんだ。

 

 だから、僕は手を伸ばす。目には見えない、無数の魂たちに向けて呼び掛ける。

 

 さあ、生まれて来たことを祝福しよう。

 

 今、君が生きている事は、『黄金の体験(ゴールド・エクスペリエンス)』なんだ、と。

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

 どこかで、僕を呼ぶ声がする。

 

 それは僕にとって、とても大切な人の声で。

 

 僕をここまで、連れて来てくれた親友の声で。

 

 ああ。

 

 僕はなんて、恵まれていたんだろう。

 

 なんでみんな、こんなに優しいんだろう。

 

 きっと僕一人では、気付く事はできなかった。僕一人では、きっとどこかで、僕は壊れていた。

 

 全てを呪って、世界を呪って、一緒に破滅の道を望んでいたと思う。

 

 それは、今、父さんが望んだ世界よりもさらに酷い。赤くなってしまった世界で、僕は全てを呪って生きていく事になっていただろう。

 

 そんな世界があった事を、僕はココで初めて知った。

 

 そんな世界を否定したい、誰かの願いを初めて知った。

 

 僕は真っ白い空間に手を伸ばす。その手を握ってくれたのは、僕の物語が始まった時から一緒にいてくれた彼の温もりで。

 

 僕が今生きているのは、『黄金の体験(ゴールド・エクスペリエンス)』なんだと、心から信じられる。

 

 生まれてきた意味はなんだ?と問う人がいる。

 

 その問題の答えは、とても簡単なんだ。

 

 どんなに、醜くても、汚くても。

 

 『誰かに生まれてくる事を望まれたから』、僕はここにいる。

 

 それは、きっと、僕と、母さんの間にも。

 

 そして、父さんとの間にも。

 

 生まれてきて出会った全ての人達との間にも。

 

 絶対に。

 

 『あった事』なんだ。

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

「は・・・ッ!?」

 

 おっと。お目覚めかな?いや、一人で色んな感傷に浸りながら彼の目覚めを待ってたもんだから、シンジ君の寝顔をつい見入ってしまっていたんだが。

 

「あ・・・・・・」

 

 シンジ君の口から吐息が漏れる。僕の事は見えているハズなんだが、彼はそのまま何もない真っ白な空間を見つめていて、その瞳から涙をこぼしていた。

 

「ジョルノ、君?」

 

「やぁ、気付いたかい?シンジ君」

 

「ここ、は・・・・・・」

 

「全ての魂が混ぜ合った世界、とでも言えばいいのかな」

 

 僕の目の前で、制服姿のシンジ君は起き上がる。その瞳は、どこか遠くを眺めるような、不思議な輝きを湛えていた。

 

「母さん・・・・・・」

 

「ん?」

 

「いや、ごめん。なんだか不意に母さんとの事を思い出して・・・」

 

 そう言った彼の目の前に、スクリーンの様に映像が浮かんでくる。それはシンジ君の記憶。そこには、幼いシンジ君と、僕の記憶の中にある通りの『碇ユイ』さんの姿があった。

 

「あ・・・・・・」

 

「ふふ、シンジ君の思い出か。この世界では、こういった情報も共有できるみたいだな」

 

 僕のからかいに、シンジ君は恥ずかしそうに身を捩らせた。別に、子供の頃の思い出なんてそんなに恥ずかしがるものでもないだろーに、な。

 

『暑い?』

 

 記憶の中の『碇ユイ』さんが、幼いシンジ君に話しかける。

 

『うん』

 

 幼いシンジ君は、疲れた様に項垂れて頷いた。

 

『ふふ、さっきせっかくプールに入ったのにね』

 

 『碇ユイ』さんは、笑顔で幼いシンジ君の前にしゃがみ込み、そのままシンジ君を優しく抱き上げた。

 

『今は一年中セミが鳴いているけど、シンジが生まれる前は、もっと色んな季節があったのよ。春になると、そこら中で一斉にサクラが咲いたし、秋になれば木の葉が色とりどりに染まったわ。冬になると、雪が降った・・・』

 

『ゆ、き・・・?』

 

『そう。寒くて雨が凍ると雪になるの。それが溶けずにどんどん降り積もると、街中真っ白になるのよ。家もビルも、土も木も・・・』

 

『車も?』

 

『うん、車も』

 

 とても微笑ましい光景だ。幼いシンジ君はお母さんの言っている事を必死に理解しようと頭を捻る。その様子を、『碇ユイ』さんは微笑みながら眺めている。

 

『とても綺麗なの。いつかシンジにも、見せてあげたいわ・・・・・・』

 

 そこで、不意に思い出の映像は止まった。

 

「ここまでなんだ。僕の、記憶は・・・」

 

 シンジ君が悲しそうに僕へと振り返る。

 

「この後、母さんと何か話したハズなんだ。だけど、それがどうしても思い出せないんだ・・・・・・」

 

「いいさ。無理に思い出す必要はない。それに僕の前で思い出を披露するのも、恥ずかしいんじゃあないか?シンジ君」

 

「ま、まぁね。でも平気だよ、ジョルノ君なら見られても」

 

「そうか。ならよかったが、それでも思い出すのには時間がかかりそうだな」

 

「そうなんだよね。それに、今は思い出に浸っている時じゃないから、ね」

 

 シンジ君は思い出を優しく手で振り払うようにしてかき消すと、確かな足取りで、何もない真っ白な空間を歩き始めた。僕も彼の後に従って歩き始める。

 

「ところで、さ・・・・・・」

 

「ん?」

 

「ここは、どこなのかな?」

 

 僕は思わず苦笑してしまう。その質問、今更なんじゃあないか?最初に聞くべき質問だったと思うんだが。

 

「まぁ、さっきも言った通りなんだが、おそらくLCLの海だ。全ての魂が溶け合った、生命の海、とでも言えばいいんだろうか。ATフィールドを失い、自分の形を失った世界。それがここ、なんだと思う」

 

 僕の説明で納得してくれたのか、シンジ君は軽く頷いた。

 

「そうか。やっぱり、全ての人が一つになっちゃったんだね」

 

「そうだな。それが人類補完計画ってやつだったからな。もっとも、こんな『究極の孤独』を体現したような世界が、人類の救いになるとは思えないが・・・・・・」

 

「うん・・・・・・うん?あれ?じゃあなんでジョルノ君や僕は溶けてないんだろう?」

 

 まぁ当然の疑問だな。

 

「シンジ君、忘れているんじゃあないかい?僕の『スタンド』は『物に生命を与える能力』だ。LCLというプールに、溶け合ってしまった魂。その魂を見つけ出して、肉体を与えて蘇生させたんだ。僕自身も、そしてシンジ君も」

 

「そんな事が可能なの!?」

 

「普通は無理だ。僕もさっきゼーレと戦っている時に気付いた、ちょっとした裏技みたいなもんだな。魂の溶け合ったLCLという特殊な環境だったからこそできた芸当だ」

 

「すごいね、ジョルノ君は」

 

「やめてくれよ。たまたまの幸運が重なっただけさ。もしも僕の『スタンド』の能力が違ったら、完璧にゼーレに敗北していたと思うぜ?」

 

「でも、結果としてこうなった。いや、ジョルノ君がいた事で起きた必然だったのかも・・・まるで『運命』だね」

 

 『運命』か。なるほどな、『ピルグリム』の言じゃあないが、確かに『運命』という言葉が相応しいのかもしれない。

 

 案外、この時のために僕が選ばれたのかもしれないな。『碇ユイ』さんに。

 

「さて、と。それは置いとくとして、シンジ君はこれからどーするつもりなんだ?人類補完計画が発動した時は正直、『マジか?』って思ってしまったんだが」

 

「ごめんね、ジョルノ君。でも僕は、父さんと魂の決着を付けたかったんだ。父さんがやりたい事を全部やらせた上でひっくり返す。これは完璧に僕のわがままなんだけど、みんな了承してくれたんだ。アスカも綾波も、ミサトさんも」

 

「ふふ、そうか。それは確かに面白いな。やってみる価値がある」

 

 しかしまさか、シンジ君がここまで大胆なことをするようになるとはな。初めの頃のシンジ君からじゃあ考えられないような行動だ。

 

 これもまた、『運命の必然』というやつなのかもしれないな。

 

「さて、そーゆー事なら碇ゲンドウを探さなくっちゃあならないな」

 

「それなんだけど、ジョルノ君のスタンドでここに父さんを復活させる、ってのはできないのかな?」

 

「悪い、この世界に碇ゲンドウの魂は存在していない・・・いや、少なくとも溶け合ってしまったような感触は無かったんだ。人類補完計画の発動者だからなのか、碇ゲンドウは恐らく肉体を持ったまま、すでにこの世界に存在している。そう考えていいと思う」

 

「そうか。じゃあ、一緒に探してくれる?父さんを」

 

「もちろん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ソ ノ 必 要 ハ ナ イ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

 突然、真っ白な世界に響く、不気味な声!ひび割れたように甲高く、地の底から這い出る様に低く、そんな矛盾を孕んだ、魂を鷲掴みにするような声を僕たちは聞いた。

 

 そんな僕たちの前に、巨大な人影が現れる。影、そう表現するしかない。その巨大な影は、僕たちの前でぐにゃぐにゃと形を変えていったかと思うと、やがて黒いエヴァンゲリオンのような姿を象った。

 

「な、なんだ?これ、父さんじゃない!?」

 

「資料で見た、第一の使徒アダムに似てはいるが、コイツには肉の翼のような物がある・・・・・・なんなんだ、コイツは」

 

「・・・・・・!見て!ジョルノ君、あそこ!!」

 

 !?影の中に、誰かがいる!?

 

「ユイ・・・・・・どこだ!ユイ!どこにいるんだ!?ユイィィイイイ!!」

 

 あれは碇ゲンドウ!?

 

 どーなっているんだ!この状況は!ゲンドウは、あの影に囚われているのか!?なぜ!?

 

【ア ダ ム、 リ リ ス、 融 合 ハ、 成 サ レ タ】

 

 黒い影は、僕たちに厳かに告げる。

 

【第 一 始 祖 、彼 ラ ト 同 ジ。 今 コ ソ、 旅 立 チ ノ 時】

 

 ッ!?

 

 ・・・旅立ちだって?それに、第一始祖!?

 

 まさか、コイツは・・・・・・!

 

「なんなの!?ジョルノ君、コイツは!?」

 

「わからない!だが、僕は加持さんからこの世界の生命の誕生の話を聞かされた時、一つの考えが頭に浮かんでいた。『生命の卵』であるアダムとリリス。『その卵は、一体どこから来たのか?』」

 

「!?」

 

「もしかしたら、卵には『親』がいるのではないだろうか。途方もない考えだからすぐに考えるのをやめたが、もし・・・もしも卵から孵って生まれてきたものが居たとしたらそれは、何を目指すのだろう?それは、子が親を求めるのと同じだ。きっと『親と同じ行動を取るだろう』!巣立ち、番を見つけて、繁殖する!もしこの宇宙に、そういった存在がいるのだとしたら・・・巣立ちのための『養分』として、もし使徒が、いや、『人類』がいたのだとしたら・・・ッ!!」

 

 僕の背筋がブルリと震える!

 

「この『生まれし者』は、この星の全ての魂を糧として、『宇宙に飛び立とうとしている!』これが『人類補完計画の真の目的』!ゼーレですらが知らず、アダムとリリスを送り込んだ『第一の始祖』とやらが目論んだ、真の目的なんじゃあないか!?」

 

「────ッ!!そんな事はさせない!」

 

 シンジ君は胸の前で拳を握り締め、黒い影、『生まれし者』を睨みつけるッ!

 

「ジョルノ君!最後の戦いだ!僕と一緒に!」

 

 そう叫んだ瞬間、シンジ君の後ろに現れたのは、エヴァンゲリオン初号機ッ!

 

「まさか、シンジ君の声が届いたのか・・・『碇ユイ』さんが、その声に応えたと言うのか!」

 

「エヴァに乗って、戦って!」

 

 シンジ君が左手を伸ばしてくる!僕は即座にその手を取った!光が僕らを包み、気がつけば僕らが居たのは懐かしいエントリープラグの中だった!

 

「母さん・・・力を貸して」

 

 

 

「「行くぞッ!!」」

 

 

 

 初号機が僕らの声に応えるように、高らかに吼えた。

 

 

 

つづく

 

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