ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
『使徒』と呼ばれる巨人を倒し、凱旋した僕たちを待っていたのは、ゲージ内を埋め尽くす人、人、人だった。
整備員、事務スタッフ、黒服、エトセトラエトセトラ。エントリープラグと呼ばれている巨大カプセルから出てきた僕たちを迎えたのは、盛大な拍手と歓声。
本当ならば軽く手でも上げて歓声に応えるのが礼儀なんだろーが、残念ながら、僕もシンジ君にもそんな余裕はなかった。
さっき肺いっぱいに飲み込んだくそマズいオレンジ色の液体を、吐き出さなくっちゃあならなかったから、だ。
「うぉえッ!げぇ!」
「グホッ!ごほごほッ」
この吐き出すって作業、地味に辛いな。胃ではなく肺に入っていた液体だから、フツーに吐くのとは動かす内臓や筋肉が違う。気道を液体が逆流する痛みは、今まで味わった事のない痛みだった。痛みに慣れているはずの僕でさえも思わず目尻に涙が浮かぶほどだ。
さて、これで一通り吐き出しただろうか。僕とシンジ君が口元を拭い、勝利のハイタッチをパァンと鳴らした時だった。
「ジョルノ・ジョバァーナ。君を拘束させてもらう」
なんとも無粋な、黒服を着た連中が僕たちを取り囲んだ。
途端、階下で巻き起こるブーイングの嵐。
「テメーら!ふざけんな!人類を守ったボーズどもだぞ!?」
「そうよ!そうよ!!」
「一体何の罪があってその子を連れてくんだ!」
「使徒から人類を守ったんだ!それでチャラだろーがぁッ!」
うん、僕を擁護してくれる皆さんの暖かい声には申し訳ないが、僕はこの処置は妥当だと思ってもいる。
「な、なんでジョルノ君だけ!?連れてくなら僕も連れて行ってくださいよッ!」
横にいるシンジ君も、黒服のイカつい大人達に対して猛抗議している。
ありがとう。シンジ君。やはり君は「強くなった」んだな。まだ、ほんのちょっぴりではあるが。
僕は、それがとても嬉しい。
「いいんだ。シンジ君。こーなる事はわかっていた」
「でも、そんなのおかしいよッ!だってジョルノ君は、僕を助けてくれただけで・・・」
「ジョルノ・ジョバァーナ君」
シンジ君の抗議を遮って聞こえてきたのは葛城さんの冷静な声。黒服たちの後ろから、葛城さんがずいっと出てきた。
その態度は出会った当初とは違い、軍人としての毅然としたものだった。
「・・・・・・ここに来る時に言った通りよ。アナタを拘束させてもらうわ。・・・・・・ご苦労様」
表情を変えず、あくまで鉄面皮で僕にそう告げる葛城さん。
僕はふっと微笑む。
「無理しない方がいいですよ?葛城さんに、そういう顔は似合いませんから」
「んな!?こっ、こんのクソガ・・・・・・・・・・・・いえ、ありがとう。ジョルノ君。私たちのために、人類のために戦ってくれて」
一瞬で顔を赤くして罵声を浴びせようとした葛城さんだったが、TPOをわきまえてすぐにその表情を元に戻した。うん。僕は素の葛城さんの方がどっちかというと好きだな。
「僕が戦ったのは貴女たちのためじゃあない。そこもわかって言ってるんですよね?」
「ほんと、生意気なヤツ。・・・・・・んじゃ、悪いけどシンジ君!ジョルノ君はしばらく預かっていくわね!」
「そんな!ミサトさん、ひどいですよ!ジョルノ君は何も悪いことしていないのにッ!」
僕のために怒ってくれているシンジ君には悪いんだが、ここでこれ以上騒いでいてもしょーがない。
「大丈夫だ、シンジ君。なにも殺されるわけじゃあない。それに、僕も僕でやらなくっちゃあならない事がある。ここは任せてくれないか?」
「でもッ!」
「悪いけどシンジ君。アナタにはメディカルチェックを受けてもらうわ。今のアナタはちょっとした興奮状態にある。使徒の精神汚染なんかも怖いから、私と一緒に来てちょうだい」
「おいおい葛城さん。そんな情報も隠し持ってたのか?それならもっと早く教えて欲しかったんだが」
「時間がなかったんだからしょーがないでしょっ!」
葛城さんがはぁーーーっと長いため息を吐く。この人も、組織でいうところの中間管理職ってやつだ。色々な苦労があるんだろう。
僕は葛城さんの肩をポンポンと優しく叩く。
「わかってますよ、葛城さん。さて、僕はどこに行けばいいんでしょーか?」
「・・・碇司令のところよ。冬月副司令も同席するわ」
「おっと、そりゃあかなりの大物ってことですね」
「・・・・・・あんまり下手な事を喋らないでね。私でも庇いきれなくなるわ」
葛城さんのその言葉から、僕を心配している様子が伝わってくる。僕は葛城さんに背を向けると手をヒラヒラと軽く振った。
「ジョルノ君ッ!!」
黒服について行こうとする僕の背に、シンジ君が大きな声で呼びかける。
「まだ、まだお別れじゃないよねッ!?」
僕は振り向かず、黒服達とともにこの場を後にした。
◇
「ジョルノ・ジョバァーナ。貴様の知っている事を全て話してもらおう」
広すぎる空間。その真ん中に、一人用の重厚なデスクだけがあり、そこに座っている人物と、その横に立つ老人が険しい表情で僕を睨みつけている。
僕は両手に手錠をかけられ、背後には屈強な体格の黒服が二名。
やれやれ。
僕はため息を吐いた。
これまた、随分と『小物』の対応だ。まぁ、初めて目にした時からわかってはいたこと、だがな。
「貴方に話さなくっちゃあならない事が、僕にあるんですかね?」
ピクリと、デスクに座って腕を組んでいるシンジ君のお父上、碇ゲンドウの眉が上がった。
初めて僕たちと対面した時もそうだ。僕たちを見下ろせる場所にいたのは、僕たち、というより『シンジ君と面と向かって話すのが怖かった』からだ。威圧的な態度やサングラスは他者からのコミュニケーションを拒むための壁。常に自分が上位でないと、安心できないという心の表れだ。
自分の思った通りにしか行動できない男。それが僕が抱いた目の前の男の第一印象だ。他者の意見を聞く。相手と話の落とし所を見つける。他者と議論する。そういった行動の全てが、この男にとっては避けたい事柄なんだろう。
この部屋の作りもそう。だだっ広い部屋に、座っていられるのは自分のデスクだけ。それだけで、この部屋に訪れる人間の大半は萎縮するだろう。声が響くような造りも、自分の方が上位であるという演出を助ける役目を担っている。
まあ、つまりだ。コイツは僕の前で行動すればするほど、自分の人間としての器の小ささを僕に曝け出しているって事だ。
「・・・・・・葛城一尉から報告を受けている。『ユイ』に会ったそうだな」
ふむ。一番最初に聞くのがソレか。コイツの優先順位がわかりやすくて助かる。
「何を聞いた?」
「答えたくありません」
「・・・・・・質問に答えろ」
「聞こえなかったんですか?『答えたくない』って言ったんですよ」
僕は目の前の男を見下す。一度でいい事を二度言わなけりゃあいけないってのは、目の前のコイツが頭が悪いって事だからだ。
「三度目は言わせないでくださいよ?」
「自分の立場をわかっているのかね?」
碇ゲンドウの後ろに立つ老人が、僕に向かって鋭くガンを飛ばす。さっき葛城さんが言っていた「冬月」ってのは、多分この人だろう。
「もちろん。貴方たちが、僕から『なにか』を聞き出さなくっちゃあならない立場だって事はね」
「それだけの根拠で、君は人生を棒に振るのかね?私たちが非公開とはいえ、国連に連なる組織であるという事は理解していると思ったが・・・・・・」
「ああ、葛城さんから聞きましたよ。もう少し、情報統制はしっかりした方がいいですよ?」
「よく舌の回る・・・」
老人が眉を顰めながらも不敵に笑う。
「だがそんな事実は重要じゃあない。『国連』がどうのこうのと言ってはいるが、貴方たちは僕から聞き出したくて仕方がないはずだ。貴方たちにはそっちの方が重要なんだ。『国連』よりも大事な、『碇ユイ』さんの事とか、ね」
老人の眉がわずかに動く。
「なんのことかな?」
「知りたくないってんなら別にいいんです。ところで、今すぐ僕を『始末』しなくていいんですか?『人類補完計画』の事とかも聞いてるんですが。おっと。これは別に言わなくてもいい事でしたね」
僕はわざとらしくデスクに近付くと、碇ゲンドウの前まで顔を持っていく。サングラスの向こうの瞳は冷静を装っちゃあいるが、その瞳に怒りが渦巻いているのがアリアリと見てとれるぜ。
「随分とわかりやすくて、『可愛い』人なんですね。碇司令」
途端、僕の胸ぐらに飛んできた手が、ギリギリと僕の首を締め上げる。
「ぐ・・・」
「図に乗るなよ、小僧」
ふふ。マズい。何がマズいって、コイツの行動一つ一つが本当に小物である事だ。あまりにわかりやすくて、僕の方は笑いを必死に堪えなくっちゃあならないじゃあないか。
「碇」
後ろの老人が、碇ゲンドウの行動を嗜める。碇ゲンドウはチッと舌打ちすると、僕の胸を押すように突き放した。
「連れて行け」
「・・・・・・もうよろしいのですか?」
「ここで話しても埒があかん」
碇司令の顔に、嫌らしい笑みが広がる。
「問題はない。すぐに話したくなる」
「・・・・・・それはどーも」
まぁ、拷問や薬如きで僕が屈することはないがな。
「また何か聞きたいことがあれば、いつでも呼んでください。答えるかはわかりませんが」
「さっさと出て行け」
連れないな。たぶんすぐに『聞きたいこと』が一つできると思うが。
僕は黒服に肩を掴まれて、無理やりに向きを変えられる。つまり、僕は碇ゲンドウたちに背中を向けたってことだ。
僕の背が黒服に押される。
だが残念。『2メートル』だ。
『無駄ァッ!!』
僕の背後で、ズダァァアンッ!と何かが机に叩きつけられる音がした。
僕は白々しく振り返る。
「どーしたんですか?机に突っ伏して。凄い音でしたよ?」
「き、貴様・・・・・・ッ!」
碇ゲンドウが、左頬を押さえながら机に突っ伏している。睨んでる睨んでる。
フツーの人間に『スタンド』は見えない。ついでにいえば、『スタンド』の発する音も聞き取れない。『ゴールド・エクスペリエンス』が発した声も、碇ゲンドウには聞こえないってわけだ。
「な、何をした・・・ッ!」
「『答えたくない』と何度言わせれば気が済むんです?何度も言わせるってことは無駄なんだ・・・・・・無駄だから嫌いなんだ。無駄無駄・・・・・・」
狼狽えている黒服を放っておいて、僕は歩き出す。とりあえず、吐き気を催すような小物に1発喰らわす事はできた。本当ならまだまだ殴り足りないが、それはまたの機会に取っておく事にしよう。
「チャオ」
僕は笑顔で挨拶すると、無駄にだだっ広い部屋を後にした。
「ふふ・・・してやられたな碇」
「・・・ッ!」
「この後は委員会との会議だろう。喋れるか?」
「・・・・・・問題はない。だが」
「ああ。厄介な人物だな。どうする?報告しておくのか?」
「いや、奴の存在は伏せる。『ユイ』の存在を、委員会に知られたくはない。手札はなるべく隠しておくものだ」
「そうか・・・・・・わかった。しかし、なんとも扱い辛い手札が、我々のもとに舞い込んだものだな」
◇
ガシャァーンッという音っていうのが僕のイメージだったんだが、どうやらココでは違うようだ。さすがは2015年。僕に取っては未来の技術ってわけだな。
プシューっという排気音と共に、僕が入れられた牢獄の自動ドアが閉まる。
「おとなしくしていろよ」
「ここ、差し入れとかあるのかい?面会は?」
「・・・口の減らない」
看守、にしてはなんだか妙にヒョロイ奴だったが、そいつは僕の質問に答える事なくこの場を後にした。
さて。無事、囚われの身となったわけだが。
僕は室内を見回す。狭い部屋には壁に設置された簡易ベッドと洗面台。それにトイレが併設されている。
「考えてみたら牢獄に入るってのもなかなか無い体験だ。ポルポのときは面会しに来た側、だったからな」
僕は簡易ベッドに腰を下ろすと、靴も脱がずにゴロンと横になる。
「・・・・・・この時点で、なんの接触も無し、か」
『碇ユイ』から依頼された内容は、僕的には結構満足のいくレベルで達成したと自負しているんだが、残念ながら『碇ユイ』からの接触はない。
まあ、『碇ユイ』の魂があのエヴァンゲリオンの中に捕えられているのであれば、それも難しい話なのかもしれない。
それとも、まだ終わりじゃあない、という事だろうか?『使徒』は一匹だけでなく、複数いる、とか。
なんにしろ、僕はもう一度エヴァンゲリオンに触れなくてはならないだろう。『碇ユイ』の能力なのかはわからないが、僕が僕の世界に帰る方法は聞き出す必要がある。
それまでは、この奇妙な状況は続く、というわけだな。
「問題ない。ここからは『僕の意志』だ。僕は僕の意志で、『任務』を続行する」
僕はベッドの上で頬杖をつく。今は少しでも、体力を回復、温存しなくっちゃあいけないからな。
狭い部屋の中の空気が、ゴゴゴゴ・・・とうねりを上げていく。
「次の『使徒』か・・・」
シンジ君と次に会うのは、どんな場面なんだろう。楽しみだ。
牢獄の部屋の電気がバツンと音を立てて落ちる。
先も見通せないような暗闇の荒野が、僕の前に現れた気がした。
To Be Continued…
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!これにて『ミサト「あなたが碇シンジ君ね」ジョルノ「いえ、違います」』は一旦区切りとなります。
気晴らしに描き始めたお話でしたが、皆さんの温かいお声のおかげで、人生初のランキング入りなど、本当にビックリするような事ばかりがおきました!この場をお借りして、改めて感謝申し上げます。ありがとうございました!
これからは他のエヴァンゲリオン二次創作を描きながら、またジョルノとシンジ君に会いたいなーって時にドバッと投稿させていただくと思います。それまでお待ち頂けたらとても嬉しいです。すでに私自身は舞い上がっておりますがw
それではみなさま、また次回もお会いするまで。
アリーヴェデルチ!