ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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▼△▼△▼△▼△

 

 ──暗い、暗い影に、光が差した気がした。

 

 碇ユイ。私が利用しようとし、しかしそうはならなかった女性。いや、できなかった女性は、私にとって救いであり、支えであり、希望だった。

 

愛する術も愛される術も知らず、深く暗い地を這うような私の人生に、唯一、神が与えた光がユイだった。

 

 だが与えられた光は、一瞬にして奪われた。

 

 私は神を呪い、そして問うた。『奪うのなら、なぜ与えたのか』と。

 

 「与えるのならなぜ奪うのか?」「なぜそれを繰り返すのか?」「罪深い人類に科せられた罰なのか」

 

 答えのない問いを問い続け、そして私は答えを出した。『この世の全ては奪われるために存在するのだ』と。

 

 サードインパクトと共に、全ては奪われるだろう。だが私は、その全てを差し出してでも、神に抗いたかった。復讐をしたかった。

 

 ユイに、会いたかった。ただ、それだけだった。

 

 なのに──。

 

 なぜ、ユイはこの場にいないのか?私は全てを成したはずだった。それなのに、この場にユイが居ないという事実に、私の心はボギリと音を立てて折れ、崩壊した。

 

 なぜ・・・?なぜ・・・ッ!?なぜッ!!?

 

 私は、何かを間違ったのだろうか?いや、儀式が完璧ではなかった。それは理解している。それでも私は、サードインパクトを引き起こしたはずだった・・・!

 

 なのに、なぜだ!?なぜ、ユイに会えない!?

 

 全てを犠牲にしたのだ。私にとって大切なものは、ユイ以外の全てを差し出した!息子のシンジですら、私は差し出したというのに・・・・・・ッ!!

 

 なぜ、会わせてくれないんだ!!

 

 ユイ!どこだ!?ユイッ!!

 

 なぜ、なぜなんだ!?神よッ!!

 

 私には、会わせてくれないのか・・・!?

 

 私の運命は、ここまでだったのか・・・?

 

 ここまでやっても、私には・・・・・・与えられないのか!?

 

 私は暗闇に手を伸ばす。その先にあったのは、暗闇よりもなお昏い、混沌の闇。

 

 すべての魂が私を苛んでいる。すべてを奪った、私という存在を。

 

 これが、私に与えられた罰だというのか。

 

 全てを捨てて、全てを失って──。

 

 私の前に、巨大な影が現れる。それは暴走したエヴァンゲリオン初号機だった。

 

 その巨大な左手に、私は鷲掴みにされる。初号機の口がグチャアと音を立てて開かれる。

 

 私がそばにいると、シンジを傷付けるだけだ。だから、何もしない方がいい。そう思っていた。

 

 自分が人から愛されるとは信じられない。私にそんな資格は無い。

 

 ただ、逃げてるだけだったのだ。自分が傷つく前に、世界を拒絶している。人の間にある形もなく、目にも見えないものが怖くて、心を閉じるしかなかった。

 

 その報いがこのあり様か・・・すまなかったな・・・シンジ。

 

 初号機の大きな口が私へと迫る。ようやくだ。ようやっと、私は終わることができる。私の頬を、絶望の涙が伝う。

 

 長かった。もう、いい。もう、疲れた。

 

 さらばだ。ユイ。すまなかったな。シンジ。

 

 そう覚悟を決めて目を閉じた瞬間。

 

 暗闇を、眩い虹の光がさぁっと照らした。

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

 光が溢れる。その光の先に、シンジ君は走って行った。初号機のエントリープラグから、シンジ君の姿が消える。

 

「シンジ君!!」

 

 僕の呼び声にも振り向かず、シンジ君は光の中を走り抜けていく。彼の求めていたものが、この光の先にあるかのように。

 

 さっき、彼はこう言ったな。「僕は行く」と。その答えがこの光の先にあるのだろう。

 

 虹色の眩い光が世界を包み込む。光は増幅し、やがて世界が輝く白一色に包まれる。僕は両手で顔を覆い、瞼を思い切り瞑った。

 

 そして、光がゆっくりと弱まり、周囲が徐々に色を取り戻していく。

 

 どこかで、誰かの泣き声が聞こえる。とても切なく、悲しいその声は、光の先から聞こえてきていて。

 

 目を開けば、そこには信じ難い光景。

 

 うずくまったまま泣いている碇ゲンドウを、シンジ君が抱きしめている光景だった。

 

「父さん・・・・・・」

 

「シンジ、シン、ジ・・・・・・ッ。すまなかった。本当に、すまなかった・・・・・・!」

 

 シンジ君に抱きしめられた碇ゲンドウは、あるいは子供のように、母親に抱きしめられるように、泣きじゃくっていた。

 

「私は、全てを捨ててでも、ユイに会いたかった・・・・・・全てを怖がって、拒絶して、私に光を与えてくれたユイに、会いたかったんだ・・・・・・!」

 

「うん・・・うん・・・」

 

「お前のことも、私は捨ててしまった。私はお前に苦しみしか与えられなかった。最低な親だった・・・・・・!」

 

「大丈夫、父さん。もう、大丈夫だよ」

 

 シンジ君はゲンドウの背中を叩く。ぽんぽん、ぽんぽん、と。それは幼い子供を慰める父親のような姿で。

 

「父さん、僕は、父さんを憎んでばかりだった。全てを捨てて行った父さんを、僕は憎しみの対象としてしか見てなかった。それは、ネルフに来てからも一緒で・・・・・・一時期は父さんに好かれようと努力したけど、その気持ちも、父さんを知れば知るほど、萎えていった・・・」

 

 けど、とシンジ君は続ける。

 

「『許す』事にした。ジョルノ君は父さんを『見限れ』って言ってくれたけど、僕は父さんを『許そう』と思う。大人になるって、きっとこういう事だ。何かを乗り越えるって、きっとこういう事なんだ。父さんは全てを話してくれた。その言葉で、その行動で。その全ては、もしかしたら間違いだらけだったかもしれないけれど、僕はそれを乗り越えて、『父さんを許したい』って心から思ってる」

 

 シンジ君が碇ゲンドウからそっと離れる。そこで初めてシンジ君を認めた碇ゲンドウの瞳が、大きく見開かれた。

 

「これが僕たちの決着だ。『父さんは全てを曝け出し、僕はそれを許した』。たったそれだけ。それだけで良いんだ。僕たちの関係は。ただ、それだけ・・・・・・」

 

「シンジ・・・・・・」

 

「僕の手は、一度父さんを傷付けた。本気で殴った。そして、僕は父さんと心から喧嘩した。それでも、僕は父さんを許さずにいられないんだ。だって、父さんは、僕の父さんなんだから。それ以上にやり合う必要なんて、きっとないんだ」

 

「・・・・・・私は、私は私一人で生きる自信がなくなっていた。初めて孤独の苦しさを知った。ユイを失うことに耐えることができなかった。ただ、ユイの胸で泣きたかった。ただ、ユイのそばにいることで自分を変えたかった。ただ、その願いを叶えたかった」

 

 碇ゲンドウが顔を覆う。

 

「私は、私の弱さゆえに、ユイに会えなかったのだな・・・シンジ」

 

 ゲンドウが、覆っていた手をゆっくりと下ろす。

 

「私を受け入れた上で、その想いを受け取れるようになったのか・・・大人になったな、シンジ」

 

「違うよ、父さん。僕は僕だった。大人になったのは、今この場にいる、父さんの方なんだよ」

 

 一拍を置いて、ふふ、とゲンドウの口から笑いが溢れる。

 

「そうだ・・・・・・お前は私をとっくに越えていたのだな。シンジ」

 

 その言葉と共に、シンジ君の後ろに小さな光が集まってくる。それは蛍のように集まると、徐々に人の形を成していって。

 

「そこにいたのか──ユイ・・・」

 

 気が付けば『碇ユイ』さんが、その光の中に立っていた。

 

「バカね。私はずっと、貴方のそばにいたのに」

 

「そう、だな。本当に、私は大馬鹿だった・・・・・・」

 

「でも、シンジが、人類の未来を救ったのよ」

 

 『碇ユイ』さんはシンジ君とゲンドウの横に立つと、二人の手を取ってゆっくりと立ち上がらせる。

 

「破滅へ向かうしかなかった人類を、貴方と私の子供が、希望へと導いてくれた。貴方と私は、シンジをこの世に送り出すために出会ったのよ」

 

 そう言って、『碇ユイ』さんは二人を優しく抱きしめた。

 

「シンジは私たちが出会って愛し合ったからこそ生まれた子供・・・・・・私は、貴方との愛の証をずっと守りたかった。人類の運命と共に消えて欲しくなかった。だから私はエヴァに残ったの」

 

 思い出して、と『碇ユイ』さんはゲンドウの頬を優しく撫でる。

 

「初めて、シンジに触れた時の気持ち──思い出して。シンジから感じた温もり──この子から感じた愛おしさと、生命の力の強さを──そして、祈ってあげて・・・『生きろ』と」

 

 その言葉を聞いたゲンドウが、シンジ君と『碇ユイ』さんを力一杯に抱きしめる。強く、もう二度と離さない、と。

 

 その二人の親の抱擁から、少しだけ嫌がるように、恥ずかしがるように、シンジ君が抜け出してきた。

 

「ジョルノ君・・・・・・ありがとう」

 

 シンジ君は僕の前まで来ると、右手を差し出してきた。それは握手の意味。

 

 だがね、シンジ君。

 

「違うだろ?僕たちの場合はこう、だ」

 

 僕は左手を拳にして差し出す。シンジ君はその拳を見てきょとんと顔を呆けさせたあと、クスリと笑って、僕の前に右拳を突き出した。

 

 コツン、と。

 

 僕たちの拳が触れ合う。

 

「シンジーーーーーーッ!!」

 

 僕の背後から、赤い影が通り過ぎていく。その赤い影は言うまでもなく、惣流・アスカ・ラングレーだった。ラングレーは勢いを付けたまま、シンジ君へと思いっきり抱き付いた。

 

「バカシンジ!よかった、心配したのよ!?あんた、まさかこのまま消えちゃうんじゃないかって思って」

 

「そ、そんな事ないよアスカ!ごめんけど、ちょっと離れて・・・・・・」

 

「あ、そうだ!シンジ!アタシのママに会ってよ!見て驚くんじゃないわよ?すっごい美人なんだからッ!」

 

「え、アスカのお母さん?」

 

 シンジ君の目が、僕の背後に注がれる。そこにはラングレーと同じ赤みがかった金髪をゆるくウェーブさせた、美しい女性が立っていて、「あらあら、うふふ」と口元に手を当てている。

 

 そうか。エヴァ弐号機に囚われていたラングレーのお母さんか。よかった。彼女の魂も、蘇る事ができたのか。

 

 その後ろから、綾波さんと渚カヲルがゆっくりと僕に近付いてくる。

 

「お疲れ、ジョジョ。まったく、君には驚かされてばかりだな」

 

「ジョルノ。お腹空いた」

 

 ・・・・・・ふふ。二人はいつも通りのようだな。特に綾波さんは、こんな大変な目にあってるってゆーのに、相変わらず呑気しているようで安心したよ。

 

「ジョルノーーーッ!!シンちゃあんッ!!」

 

 そのさらに背後から、葛城さんが僕たちに思いっきりダイブしてくる。やれやれ、だ。葛城さん、妙齢の女性がする事じゃあないんじゃあないか?

 

「バッカ!ジョルノ!こういう時は誰だってこうやってはしゃぐもんなのよ!嬉しいでしょー!?こぉんな美人なお姉さんにハグされてッ!」

 

「ちっとも嬉しくないというか汗臭い。今度コロンを差入れしましょーか?」

 

「コイツぅ!!相変わらずクソ生意気でくっそキツイわね!」

 

 そう悪態をつく葛城さんの目にも涙が・・・・・・こーゆーのを『鬼の目にも涙』とか言うんだったか。

 

「ははは。葛城もジョルノ君相手だとかたなしだな」

 

 次に現れたのは、タバコを蒸した加持さんと赤木博士だった。

 

「本当に、ありがとう。ジョルノ君。こんな時、なんて言葉を送ったらいいか、流石の俺も持ち合わせが無くってね」

 

「最高級のイタリアンで良いですよ、加持さん。なんなら和食でもいい。もちろん焼き鳥は無しにしてくださいよ」

 

「あら、リョーちゃんもジョルノ君の前だとかたなしね」

 

「赤木博士はバイト代を上げてください。それでジューブンなんで」

 

「あら?ふふふ。私も一本取られちゃったってことかしら」

 

「想像にお任せしますよ」

 

 僕が軽く大人二人をあしらう後ろで、シンジ君は葛城さんとラングレーにもみくちゃにされている。そっちの光景も面白そうだが、僕の見ている光景より面白いものなんてないだろう。

 

「シンジ君」

 

「うわっぷ!ちょっと、離れてアスカ・・・!何!?ジョルノ君!」

 

「見ろよ、君の築き上げたものが、今君の目の前に広がっている」

 

 そう。僕の視線の先。そこには──。

 

「おめでとう!シンジ!やっぱシンジはほんまカッコええで!!」

「あああん碇さん!ウチを嫁に貰ったってください!2号でもええんで!」

「うわぁ、サクラちゃん、そんな言葉をどこで覚えたんだか」

「サクラちゃん!?フケツよーーーッ!?」

 

 トウジ君にケンスケ君、サクラちゃんに洞木委員長。

 

 その背後に、オペレーターの皆さんや、その目に涙を浮かべている冬月副司令。

 

 そして、それらの人々を取り巻く、この世界に蘇ったすべての人が、拍手を送っている。

 

 誰に?って?もちろん。この世界を救ったシンジ君にだ。

 

 すべての人たちが「ありがとう」と「おめでとう」を口にしている。これこそが、シンジ君が手に入れた、かけがえのない宝物。

 

「みんな・・・・・・」

 

 そう言って、涙ぐむシンジ君。

 

「ありがとう!皆さんのおかげで、僕はここまで来れましたッ!本当に・・・本当にッ!ありがとうございましたッ!!」

 

 そんなみんなに、シンジ君はビシッとお辞儀を決めて見せた。周囲の拍手が一段と大きくなったな。

 

 やれやれ、本当に、大団円ってやつなんじゃあないか?僕も頑張った甲斐があるってもんだ。

 

 だが、残念ながら、僕には感情に浸る時間も残されてはいないらしい。

 

 僕は自分の右手を見た。その指先が、光の粒子となって『解け始めている』。

 

 

 

 

 

 もう、そろそろか。

 

 

 

 

 

 僕は、すべてのスタンドパワーを使い切った。それはつまり、僕の魂が『ゼロ』になっちまったって事だ。つまり、僕の命はあと数秒というわけだ。

 

 まぁ、このまま僕が死ぬってんじゃあ格好がつかない。僕はお辞儀をしているシンジ君に気付かれないように右手をポケットにしまい、彼の横をすり抜けると、ゲンドウの横に立っている『碇ユイ』さんの前に立った。

 

「もう、時間・・・なのね」

 

「ああ、そーゆー事みたいですね。あまり慌ただしいのは好きじゃあないんだが・・・・・・」

 

「大丈夫。貴方は死なないわ。ただ、もうこの世界にいることができないだけ・・・・・・」

 

「それを聞いて安心しました。僕は最初っからこの世界にいるつもりはない。貴女が最初に呼んだ通り、僕は他人、だからな」

 

「貴方を他人だなんて言えないわ。私は・・・」

 

「おっと、そーゆーのは要らないんだ。貴女はただ一言、僕に教えてくれればいい。『僕の仕事には、満足して頂けましたか?』」

 

 僕の言葉に、『碇ユイ』さんの顔が呆気にとられる。ベネ。その顔が見れただけで良い。最高の報酬だ。だが。

 

「貴女が思っていた以上の借り、だ。そこんところ、忘れてしまっては困るんだが」

 

「・・・・・・何を、すればいいのかしら?いえ、貴方に返せるものなんて、貴方のしてくれた事に比べたら何もないのだけれど」

 

「『生きて、幸せになる。』それだけだ。僕が求めるのは、たったそれだけ・・・・・・」

 

 そう言いながら、僕はゲンドウと『碇ユイ』さんの横を通り過ぎる。僕の向かう先に、光が集まってきている。どうやら僕の指先から出ている光も、そこに向かって集まっているようだ。

 

 僕が無言でその光に進もうとした瞬間、僕の袖を引っ張る者がいた。それは──。

 

 

 

 

 

「ジョルノ?」

 

 

 

 

 

 綾波さんだった。

 

「ジョルノ、どこに行くの?わたし、まだお腹が空いているわ?」

 

「綾波さん」

 

 僕は左手で、彼女の頭をそっと撫でる。

 

「お別れだ、綾波さん。僕はこの世界の住人じゃあない。いつか来る時が、来たってだけだ」

 

「・・・・・・いや」

 

「なに、僕がいなくても君にご飯を作ってくれる人はたくさんいる。そうだな。今度は世界中を旅するといい。僕よりも美味しいご飯を作ってくれる人は世界中にいるから、それで──」

 

「嫌ッッッ!!!」

 

 突然の綾波さんの大声に、場がしん、と静まり返る。僕らの様子に気付いたシンジ君たちが、僕へと急いで駆け寄ってくるのが見える。

 

「ジョルノ君!?」

 

「ジョバァーナ!あんた・・・」

 

「ジョジョ・・・・・・時間、なんだね」

 

 シンジ君、ラングレー、渚カヲル。葛城さんや加持さん。それ以外にも、エヴァを通して一緒に戦ってきた仲間達が、僕の元に集まってくる。

 

「やれやれ、だ。湿っぽいのは好きじゃあない」

 

「ジョルノ君・・・・・・」

 

「ジョルノ、あんた・・・」

 

 おいおい、やめてくれ。加持さんも葛城さんも、何を痛々しい表情で僕を見ているんだ。

 

「そうなるべきだったところに、戻るだけなんだ。元に戻るだけ、ただ、元に・・・・・・」

 

「ジョルノ君!!」

 

「・・・・・・シンジ君・・・・・・」

 

 シンジ君は両目から涙を溢れさせている。だけど、その顔は、必死に笑顔を作ろうとしていて。

 

「もう、お別れなんだね・・・・・・」

 

「そうだな。シンジ君。さすがだ。『覚悟』を決めたいい眼をしている」

 

 僕は右手をポケットから抜くと、シンジ君に向けて差し出した。その手を、シンジ君は泣きながら握った。

 

「寂しいよ・・・・・・」

 

「うん」

 

「・・・・・・はは。やっぱりジョルノ君はスーパーマンだよ。僕たちを救って、颯爽と去って行くんだもん。敵わないや」

 

「・・・・・・そうだな。ようやく、少しだけ理解できたよ」

 

 僕はその手を引っ張って、シンジ君を抱きしめた。

 

「本当に『ありがとう』・・・!シンジ君。それしか言う言葉が見つからない」

 

「────ッ!!」

 

「これを・・・・・・」

 

 僕は自分の服に付いていたてんとう虫のブローチを外すと、彼の手の中に優しく包ませた。

 

「これは?」

 

「お護りだ。てんとう虫はお天とう様の虫で、幸運を呼ぶんだ」

 

「そうなの?」

 

「さあな。僕もよくわからないが」

 

「台無しだよ、ジョルノ君!」

 

 ベネ。ナイスツッコミだ、シンジ君。その元気があれば、心配することは何もないな。

 

 僕はもう一つのブローチを外すと、今度は綾波さんの制服に優しい手つきで付けてやった。

 

「ジョルノ・・・」

 

「僕の代わりだ。大事にしてくれると嬉しい」

 

「嘘つきジョルノ・・・・・・一生呪う」

 

「ふふ。それだけ元気なら大丈夫そーだな」

 

「・・・・・・・・・これを」

 

「ん?」

 

 綾波さんが差し出してきたのは、自身の制服のスカーフ、か。ありがたいが、

 

「貰っていいのか?」

 

「いい。呪いのアイテム。絶対、無くさないで」

 

「もちろんだ。大切にするよ」

 

 僕はそう言って綾波さんを軽く抱きしめる。綾波さんは僕の胸の中でしばらくの間泣いていたが、少ししてからすっと離れてくれた。

 

 その彼らの背後で、顔を涙でぐしゃぐしゃにした葛城さんを僕は見やった。

 

「葛城さん。これからこの世界がどーなるかはわからないが、みんなを頼む。約束だ」

 

「ずびッ!ジョルノォ!ま゛がぜでお゛ぎな゛ざい゛!!」

 

 ひっどい顔だな。まぁ、ここまで導いてきてくれた葛城さんだ。信じて、任せてみよう。

 

 僕は彼らに背を向ける。この長いようで短かった物語も、ようやく終わりを迎える。

 

 僕は顔だけで彼らに振り返ると、別れの挨拶を告げた。

 

「アリーヴェ・デルチ。さよならだ。シンジ君、綾波さん。それにみんな。君たちの世界は、君たちが救ったんだ。僕はそれを誇りに思う」

 

 そう言い残すと、僕はみんなの顔を見回し、踵を返して光の道を進む。

 

 

 

「ねぇ!!」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

 この声は、葛城さんか?

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、『あなたが碇シンジ君ね?』」

 

 

 

 

 

 

 これは、はは。懐かしいやり取りだな。葛城さん。

 

 

 

 

 

 

「『いえ、違います』」

 

 

 

 

 

 

 そう言って、僕は今度こそ光の道を歩み始めた。

 

 黄金に輝く風が、僕たちの間を通り過ぎていった気がした。

 

 

 

つづく

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