ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
僕が赤木リツコ博士に呼び出されたのは、独房に入れられて三日後のことだった。
「ジョルノ・ジョバァーナ君。悪いけど、出てきて頂戴」
独房の自動ドアがプシューと排気音を鳴らして開く。
やれやれ、ようやくか。そろそろ接触してくれないと僕の方から動くところだった。
僕は独房を出ると、部屋の前でポケットに両手を入れて待ってくれていた赤木博士にぺこりと頭を下げる。
「すみません、この二日間風呂に入っていないもんで、もしかしたら臭うかもしれませんが」
「あら、そう?なら先にお風呂に入ってもらおうかしら。その後、いろいろと『チェック』をするつもりだから、そのつもりでいてね」
僕は再びペコリと頭を下げる。その僕に警備員が二人近付いてきて、僕の両手に手錠をかけた。
「・・・アナタ、怖くないの?」
不意に赤木博士が僕に問いかける。
僕は笑顔を彼女に向けて答えた。
「予想の範疇であれば、怖くなんてありませんよ」
「そう?アナタが想像するよりもエゲツない事になるわよ?」
「その『エゲツない』ってのは、例えば無差別に人間にカビを生やしてグズグズに腐らせるとか、そう言ったことも含まれます?」
「・・・・・・アナタ、本当に手に負えないわね。そういう経験があるわけね?」
「ご想像にお任せしますよ」
そう言って僕は、囚人用のシャワールームへと連行されていった。
僕は背中に赤木博士の視線を感じながら、久しぶりの風呂に少しだけ上機嫌になっていた。
・・・・・・まぁ、まさか『シャワー』というのが彼らにとって『消火用ホースで水をぶっ掛ける行為』だとは思わなかったので、その点については意表を突かれた。意外にやるじゃあないか、ネルフ。
◇
「アナタ、無茶苦茶すぎるわ・・・・・・」
『シャワー』を浴びて一応はスッキリした僕は、赤木博士に連れられてネルフの医務室に来ていた。
予想通りというかなんというか、僕は医務室のベッドにベルトで全身を固定され、血液検査やら謎の投薬やらを受けていた。
まあ、血液検査はともかくとして投薬なんかは自白剤とかだろーから、僕の『ゴールド・エクスペリエンス』で人体に無害な抗生物質を作り出す細菌として『生命』を与えておいた。僕も専門家ではないので詳しくはないが、なんとかなるだろう。
そういった投薬のことごとくが効果を発揮しないとわかると、赤木博士はとうとう物理的手段に出ようとした。
明らかにカタギじゃない、『裏』の人間が複数人、医務室に入室してくる。つまるところ、僕に肉体的苦痛を与えて情報を得ようってことだ。要するに拷問だな。
ソイツらにちまちまと拷問されても面倒なので、僕は先んじてソイツらに僕の『考え』を見せてやることにした。
「無駄ですよ、赤木博士」
「あら、この後に及んで負け惜しみ?私は退室させてもらうけど、早めに情報を吐いたほうが身のためよ?」
「だから無駄なんだ。拷問なんて僕にしたって。なぜなら・・・」
僕の横に『スタンド』が現れる。『ゴールド・エクスペリエンス』の腕が振り上げられたかと思うと──、
ボギャアッ!!
医務室に、大量の鮮血が舞った。
誰の血かと言われれば、当然、僕のだ。
僕は自分の『スタンド』で、自分の右脚を切り落とした。
「ぐううううううううう・・・・・・!」
「ちょ、ちょっとアナタ!!?何をやってるのォ!?」
右脚の切り口から僕の心臓の鼓動に合わせて血がドビュッ、ドビュッと吹き出してくる。
「致命傷じゃない!!アナタ死ぬ気!?」
「ぐう・・・・・・違うな赤木博士・・・ッ。僕は死ぬんじゃあない。拷問が無駄なんだということを、貴女たちに知ってもらいたいだけだッ!」
「すぐに止血を・・・ッ」
慌てふためく赤木博士や『裏の人間』達を放っておいて、僕は『スタンド』で自分を固定していたベルトを切断する。そして床に落ちた右脚を拾うと、傷口にそいつを押しつけた。
すぐに『ゴールド・エクスペリエンス』を発動し、右脚の部品を作って傷口を埋める。もの凄い痛みは残るが、なに。治るとわかっていれば我慢はできる。
「・・・・・・・・・ふぅーーーっ」
僕は『治療』を終えると、大きく息を吐いた。目の前で赤木博士が信じられないものでも見るように絶句している。
「いったい、どうして・・・・・・」
「詳しくは説明しませんよ。ですが赤木博士。貴女の見た通りだ。『僕に拷問は通じない』。それこそ頭に銃弾を叩き込まれても、僕は生き残る自信があるッ!」
もっとも、その場合は僕としてもかなり命懸けになるだろうがな。
「アナタ、無茶苦茶すぎるわ・・・・・・」
赤木博士は自分の口元を押さえている。吐きそうとかそーいうんではなさそうだ。目の前の事態をどうにか飲み込もうとしている人間が取る所作。その様に感じた。
「どーしますか?赤木博士。続けますか?」
僕は挑戦的な視線を向ける。その視線に、赤木博士はフルフルと首を振った。
「・・・・・・やめておくわ。少なくとも私の持ってる手段じゃ、アナタから何か情報を得るのは無理みたいね」
流石にスプラッタなものを見せたか。赤木博士の顔から血の気が引いている。
「・・・・・・もう帰ってちょうだい。アナタといると、私の常識ってやつがぶっ壊れそうよ」
おっと。白旗を上げたな。僕としても必要以上に自分を痛めつけたくない。よかったよかった。
だが悪いな。僕の方にはまだ用があるんだ。
「赤木博士」
「・・・・・・なにかしら?」
「僕をアルバイトで雇ってくれませんか?」
◇
というわけで、僕はネルフ内で赤木博士の助手として雇われることになった。もちろん、日雇いのバイトだ。僕としてはすぐにでも金が必要だったからな。
最初はネルフ内での怪我人の治療とかが主な仕事だったんだが、やはり赤木博士は頭がいい。僕の『能力』について説明なんかしてはないんだが、大まかにどんな能力なのか、ある程度は理解したようだ。
「アナタ、生き物の部品を作ることができるのね?」
1週間も経ったころだろーか。赤木博士が唐突に聞いてきた。
「だとしたら、どうします?」
「ふふ、どうもしないわ。ジョルノ君、バイト代を上乗せするから、やって欲しい仕事があるのよ」
その日から僕の仕事場は、医務室からエヴァンゲリオンの作業場へと移った。僕の仕事は、人の治療から、エヴァンゲリオンの生体部品の修復に変わった。
「人造人間と言っていたからまさかとは思ったが、マジに巨人を造っていたとはな」
僕の目の前に広がる光景。巨大な腕や脚、果ては頭といった、エヴァンゲリオンの生体部品が巨大なカプセルに入れられて培養液に浮かんでいる。倫理観度外視の光景に僕は胸糞が悪くなったが、どーせこんなこったろうと思っていたから、そこまでショックは受けなかったな。
「いーんですか?僕にこんなところを見せて。一応部外者なんですが」
「問題ないわ。ネルフの職員であればエヴァが『人造人間』であると知っているもの。アナタが私の下で『アルバイト』をしてくれるなら、むしろ知っておいてほしい事ですからね。それより、アナタの体力の方は大丈夫?」
そう言って、赤木博士は意地悪く笑うのだ。まあ、巨大な部品だ。いくら僕が『スタンド』を使って生体部品を作れるとはいえ、僕のエネルギーはかなりの量を持ってかれる。バイトが終わる時間になれば、僕はヘトヘトだ。そんな僕の様子を見るのが、赤木博士の密かな楽しみになっているようだ。
まあそれも、僕から敢えて提供されているものだとは気付いてなさそうだがな。円滑なコミュニケーションには、時には弱みを見せてやることも必要だ。それで相手が胸襟を開いてくれるなら安いものだ。
「思わぬところで経費削減が叶ったわね。アナタのおかげよ。ジョルノ・ジョバァーナ君」
「いえ、僕としても必要なものはもらってますからね」
「それよ。気になっていたのだけれど、アナタ、お金を貰って何がしたいの?ネルフの独房にいる間は衣食住には困らないでしょう?お金なんてあるだけ無駄なんじゃないの?」
「僕が欲しいのは金じゃあありませんよ」
「?」
僕は作業の手を休めながらニヤリと笑う。
「お願い事を聞いてくれる手段。その手札を一つ、増やしたかっただけです」
────
「碇・・・・・・」
「どうした。冬月?」
「技術部からの報告書を読んだか?」
「?・・・いや、まだだが」
「・・・・・・零号機修復用の予算が余りすぎている。まるで『無償で部品を製造している』のかと思うくらいに」
「・・・・・・赤木博士の功績だろう。次の査定を考えておこう」
「・・・・・・それとな」
「今度はなんだ?」
「この映像を見てみろ」
冬月が手元の端末をゲンドウに差し出した。
映っていたのはジョルノ・ジョバァーナ。件の要注意人物が、ポケットに両手を突っ込んで施設内を歩き回っている様子が映し出されていた。後ろに警備員がついて回っているが、監視しているというよりも彼に付き従っているように見える。
「なんだ、コレは。我々がゼーレと打ち合わせをしている間に一体なにが・・・・・・」
「・・・・・・・・・どうする?」
ゲンドウは暫く映像を睨み付けていたが、いきなり拳を振り上げたかと思うと、ダンッ!と自分のデスクに拳を強く振り下ろしていた。
つづく