ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
赤、青、黄、緑、と光が切り替わる。
エントリープラグ内がカラフルに照らし出され、それらが収まると周りの風景がゆっくりと映し出された。
「おはよう、シンジ君。調子はどう?」
「・・・慣れました。悪くないと思います」
「それは結構。エヴァの出現位置、非常用電源、兵装ビルの配置、回収スポット、全部頭に入っているわね?」
「・・・・・・たぶん」
「では、もう一度おさらいするわ。通常エヴァは有線からの電力供給で稼動しています。非常時に体内電池に切り替えると、蓄電容量の関係でフルで1分、ゲインを利用してもせいぜい5分しか稼動できないの。・・・・・・これが私たちの科学の限界ってわけ。お分かり?」
「・・・・・・・・・はい」
「では昨日の続き、インダクションモード、始めるわよ」
「・・・その前にリツコさん。一ついいですか?」
「あら。なにかしら」
「なんでジョルノ君がそこで優雅にコーヒー飲んでるんですか!?おかしいですよ、こんなの!」
「・・・ん?心配はいらない、シンジ君。君の分も用意しよう。アイスでいいかな?」
「よくないよ!ていうか、そういう事じゃないんだよ!ジョルノ君は牢獄にいるんじゃあなかったの!?」
ん?そこから、だったか?
・・・そういや、昨日シンジ君と会った時には話してなかったか。すまん。完全に忘れてた。
◇
「アルバイト?」
「ああ」
エヴァの操縦訓練を終えたシンジ君に、僕はアイスコーヒーを振る舞いながら簡単に説明した。
ネルフ本部のエヴァンゲリオン訓練室。その横に併設された観測室に僕たちは集まっている。部屋の中には僕とシンジ君に赤木博士、それに赤木博士の助手の伊吹マヤさんが、それぞれの椅子に座ってくつろいでいた。
「あ、ジョルノ君。ミルクあるかしら?」
「ああ、どうぞ伊吹さん。赤木博士は大丈夫ですか?」
「ええ、今はブラックの気分なのよ。ありがとう」
「・・・・・・馴染みすぎでしょ、ジョルノ君」
シンジ君がコーヒーをすすりながらジト目で睨んでくる。
「そう睨むなよ、シンジ君。僕としても日本の文化に触れられる良い機会だったからな。赤木博士に頼み込んでちょいと社会学習させてもらっているというワケさ」
「頼み込む、というより恐喝に近かったわね。アナタの場合」
まあな。だが、そのあとはこき使ってくれてるんだから、お互い様だ。
「でもリツコさん。いいんですか?その、ジョルノ君が自由の身なのは嬉しいんですけど、一応は牢屋にいなきゃいけないのにこんなのって・・・・・・」
「その点については碇司令からかなりお小言を頂いたわね。でも大丈夫よ。ジョルノ君が自由でいるデメリットより、メリットの方が遥かに大きい事を私の方から提示しておいたから」
「メリット?」
「彼、エヴァンゲリオンの修理を手伝ってくれてるのよ。すごいわよ?普通に修理したら小さな国が傾くくらいの予算が、彼一人でまかなえてしまったのだから」
「く、国、ですか・・・・・・?」
「金額って好きよ。その大きさが明確にわかって、メリットデメリットをわかりやすくしてくれるもの」
「は、はあ・・・」
複雑な顔をしているな、シンジ君。まあ僕も、このロボットがそこまで金食い虫だとは思わなかったから、そこは良い意味で誤算だったというべきか。
「いや、でも、それっていつからですか?その、アルバイトを始めたのはって意味で・・・・・・」
「そうね。10日くらい前から、かしら」
「そんなに前から!?」
シンジ君の僕を見る目が険しくなる。何か言いたいことがあるよーだな。
「どうしたんだい?シンジ君」
「・・・そんなに前から自由の身だったんなら、なんで教えてくれなかったのさ」
「ん?自由ではないぜ?労働時間は決まってたし、結局、僕の寝床はあの狭い牢獄だったからな」
「そうじゃなくて!・・・っていうか、ジョルノ君もエヴァに乗れるんだから一緒に訓練とかしなくてよかったんですか!?」
「あら、私に振るのね」
話の矛先を向けられた赤木博士がイタズラっぽく笑う。それを横で見ていた伊吹さんも苦笑していた。
「シンジくん。なにもジョルノ君もサボってたわけじゃあ・・・・・・」
「だって!ずっと僕一人だけ訓練だったじゃないですか!ジョルノ君だけやらないなんて・・・」
「いやシンジ君。僕もエヴァには乗ってはみたんだがな」
シンジ君の勢いに若干引いてしまった伊吹さんに、僕は助け舟を出した。僕からの予想外の言葉に、シンジ君の意識が僕へと向く。
「動かなかったんだな、これが」
「・・・・・・え?」
「そうなのよ。わたしたちも不思議だったんだけど」
「シンクロはできていたわ。ただ肝心のシンクロ率は驚きの5%以下。動かせても一瞬、手足を軽く動かせる程度よ。とても戦闘ができるような値ではないわね」
「たぶんなんだが、僕はエヴァの操縦の補助装置くらいしかできないんじゃあないかと思う。それこそシンジ君のサポート程度だ。君と一緒に乗らなけりゃ、僕は単なる足手纏いってことだな」
僕たちはそこまで言うと、シンジ君をのぞいて三人同時にコーヒーを口にした。うん。今更だが、朝のコーヒーっていうのはなんでこうも美味いんだろーな。
しかし、一つ問題が残ってしまったな。エヴァに接触できたのはいいが、肝心の『碇ユイ』の魂は僕の呼びかけに対してうんともすんとも反応しなかった。
動いてくれ、程度なら聞いてくれる。ただ、『これからどうすればいい』と言った様な具体的な問いかけには答えてくれなかった。せいぜい、魂が少しだけ揺らめいたような感じがする。その程度だった。
まあ、これに関しては慌てても仕方がない。ゆっくりやるさ。
「そ、そうだったんですか。でも、それならなんで僕と一緒の訓練をやらせてくれなかったんです?ジョルノ君がいれば、もっと上手くエヴァを動かせるかもしれないのに・・・・・・」
「おいおいシンジ君。言ったろ?僕も僕で肉体労働をやっていたんだ。シンジ君とのスケジュールも上手く合わなかったし、仕方のないことだったと思ってくれよ」
「でもさぁ・・・」
僕の言い訳にも食い下がるシンジ君。僕としてもそこまで食い下がられると、少し困ってしまうな。
そんな僕の様子を意地悪く見ている赤木博士。「アルバイトだけじゃなかったでしょうに」と言いたげだな。まぁ実際、ネルフ職員たちと『仲良く』なるために忙しかったってのもある。
だけど、そういった理由よりも面倒な問題があったんだな。これが。
「アルバイトの理由もあるけど、もっと重要な問題があったのよ」
「重要?」
「許可が降りなかったのよ。碇司令が、ジョルノ君を乗せる許可を出さなかったの。色々と思うところがあるのでしょうね」
一発食らわしたしな。恨まれても仕方ないことだろう。もっとも、こっちはまだまだ殴り足らないと思ってるくらいだが。
「父さんが・・・・・・」
「もっとも、その許可もそろそろ降りると思うけど、ね。色々とオマケつきで」
赤木博士が意味深に笑う。シンジ君がその真意を問いただそうとした時だった。
「こんの金髪不良イタリア人ーーーッ!!」
部屋の自動ドアが開くと同時に、葛城さんの怒声が僕らを襲った。
◇
「なぁんで私があんたの面倒まで見なきゃいけないわけぇ!?ネチネチネチネチとどーでもいい小言まで言ってくれちゃって!なぁにが『監督不行き届き』よ!最初にエヴァに乗せたのも牢屋にぶち込んだのも、ぜぇんぶ碇司令でしょーが!」
そこまで一息でまくし立てた葛城さんは、僕の入れたコーヒーを一気にグイィッと飲み干した。
「良い飲みっぷりですね。もう一杯いかがですか?」
「もらうわ!てかね、だいたいあんたがネルフ内で好き勝手やりすぎなのよ!なんであんた、この二週間でネルフ職員たちを手懐けられんのよ!ほんとに中学生!?」
「まぁ、一応は」
ギャング組織のボスもやってるがな。
「というか、葛城さんも受け取ったじゃあないですか。僕の差し入れ」
「それのせいで話がややこしくなってんのよ!賄賂を受け取ったなんだと難癖つけられてんの!卑怯よ!エビチュの詰め合わせなんて目の前でチラつかせてさぁ!なぁにが『ただの気持ちですから、見返りはいりません』よ!とんだ貧乏くじ引かされたじゃない!!」
「タダより怖いものはない、ということよミサト」
「あ、あの!さっきからミサトさんが言ってるのって、どういう意味なんですか?」
まくし立てる葛城さんに勇気を出して切り込んだシンジ君だったが、残念。葛城さんのひと睨みで萎縮してしまったようだ。
「エヴァのサブパイロットとして、正式にジョルノ君をネルフの一員として認めるって碇司令が許可を出したのよ!それに伴ってジョルノ君の拘束は解除!ついでに言えば、以後の観察監督は私任せってありがた〜い通達まで出してくれたってわけ!」
「そ、そうなんですか・・・」
おっと。そろそろネルフから追い出されるとは思っていたが、まさか葛城さんの預かりになるとはな。フツーに黒服の誰かのもとで監督されると思ってたんだが。
「私の家だって別に広いわけじゃあないのよ!?ねぇ、シンジ君!そうよね!?」
「え、あ、まあ一人暮らしなら広い、と思いますけど」
「だいたいね!私みたいな女の一人暮らしに性欲盛んな男子中学生二人も住まわせるって何考えてんのよ!あっという間に襲われるにきまってんじゃない!」
「シンジ君については自分から引き取るって言ったじゃない、アナタ」
「ああ〜ッ!んもう!やってらんないわ!私、今日は遅番だからこれで帰るッ!ビールでも飲んでなきゃやってらんないわよ!」
「ああ、それはちょうど良かった。ビールの差し入れ、追加で葛城さんの家に送っておきましたよ」
「ほんと!?ありがとう♪・・・じゃない!何よ、このモヤモヤ感は・・・怒りたいのに怒りきれないじゃないッ!」
「まあ、これからは葛城さんの監督下ということで、一つよろしくお願いします」
「ぐあーー!きぃーーー!ムカつく!その無駄に爽やかな態度がムカつくわ!これからたっぷりこき使ってやるから、覚悟してなさいよー・・・ッ!」
そう言うと、葛城さんは肩を怒らせながら部屋を出て行ってしまった。どーでもいいが物凄い小物っぽい捨て台詞だったな。
やれやれ。これは大変そうだ。早いところ葛城さんの信用を勝ち取らないと、僕の私生活に支障が出そうだ。
「・・・・・・え〜っと、要するに、ジョルノ君も僕たちと一緒に住むってことでいいのかな?」
「らしいな。改めてよろしくな、シンジ君」
そういって僕は手を差し出した。その手を不思議そうに見ていたシンジ君だったが──、
「こちらこそ!よろしくね!ジョルノ君!」
見たこともないほどの眩しい笑顔で、僕の手を握り返してきた。
その瞬間、僕の全身が粟立つ。
な、なんだ・・・今の悪寒は。
目の前のシンジ君から、『絶対に逃してなるものか』という、凄みを感じる。軽く握っているはずの手が、なかなか離れない・・・!
僕の胸中に一抹の不安がよぎる。
い、一体、葛城さんの家に、何があると言うんだ・・・・・・?
つづく
みなさま、いつも暖かい感想を頂き、ありがとうございます!
すみません、みなさまに返信とかできなくなってきているのですが、感想は全て読ませていただいてます。いつもすごく嬉しくて、モチベーションが上がって舞い踊っております。
これからも引き続き拙作をよろしくお願いします!