ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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 エントリープラグの搭乗口では、すでにシンジ君がスタンバイしていたようだ。

 

「ジョルノ君!」

 

 僕に気付いたシンジ君が明るく声をかけてくる。これから『使徒』と人類の存亡を賭けて戦うのだが、そう言った不安は無さそうだ。

 

「調子はどうだい?」

 

「バッチリだよ!それに今回は久々にジョルノ君も乗ってくれるからね。何があっても負けはしないよ!」

 

 負けはしない。

 

 その自信溢れる言葉に、僕は一抹の不安を覚えた。

 

 確かにシンジ君は強くなっている。訓練も続けた事で、彼は自分一人でエヴァを動かすに至るまで成長した。そこに僕が乗れば、文字通りの鬼に金棒だろう。

 

 だが、忘れてはいないだろうか。シンジ君と僕は、前回の戦いでも死にかけたという事を。

 

 あの場を切り抜けられたのは、危機感があったからだ。どんな強敵が現れるかわからない危機感。命を失うかもしれないという危機感。それが、良い意味での緊張に繋がり、結果として勝利を手にしたのだということを。

 

 今のシンジ君は、どこか浮ついて見える。何かをやらかしそうな気がする。もしくは、予想外のアクシデントに慌てふためかないだろうか?

 

「シンジ君。張り切っていくのはいい。だが、これは君の命を賭けた戦いだってことを忘れちゃあいないかい?」

 

 僕の忠告に、シンジ君はムスッと顔を膨らませて視線を逸らした。

 

「さっきミサトさんにも言われたけど、大丈夫だよ。僕とエヴァのシンクロ率も上がってるし、負けたりなんてしないよ」

 

 やはり葛城さんからも言われたのか。悪いが今回ばかりは葛城さんの指摘は正しい。今回のシンジ君は、どこか『危うい』。

 

 サポートはする。もちろん全力で、だ。

 

 だが、シンジ君の態度に、僕の中の不安はいっそう大きくなった気がした。

 

 

 

 

 第三新東京市、第334地下避難所に、彼らは居た。

 

 

『小中学生は各クラス、住民の方々は各ブロックごとにお集まりください』

 

「ええ!?まただ!」

 

 避難所内にアナウンスが流れるなか、相田ケンスケは自分の通信機能付きカメラを持ったまま天を仰いだ。

 

「また文字だけなんか?」

 

「報道管制、ってやつだよ。僕ら民間人には見せてくれないんだ。こんなビックイベントだっていうのにぃ!」

 

「お前、ほんま好っきやなぁ。こーゆーの」

 

「ええ!?見られへんの?碇さんの雄姿!」

 

 ケンスケの態度に呆れ返っている鈴原トウジの横には、退院したばかりの妹、鈴原サクラの姿があった。サクラはケンスケの手からカメラを引ったくると、映像が映らないことに不満を覚えてバンバンと叩き始める。

 

「うわあ!?サクラちゃん!そんな叩かないで!」

 

「イヤや、イヤや、イ〜ヤ〜やぁ〜!!碇さんのカッコいいとこ見たいもん!」

 

「ワガママ抜かすなサクラ!この前まで病院におったくせに、治った途端コレや・・・」

 

 サクラからカメラを取り上げたトウジはケンスケにカメラを投げて寄越した。ケンスケはカメラを慎重に調べ、故障が無いかを確認しながら恨めしそうに呟いた。

 

「ああ、一度でいいから見たい・・・今度はいつ敵が来るかわからないし・・・・・・」

 

「お兄ちゃん、外出たらダメなん?」

 

「阿呆!巨大ロボットの戦場やぞ!?外に出たら命がいくつあっても足りんわッ!」

 

「なぁトウジ〜、一度でいいんだ!死ぬまでに一度でいいから上の戦闘を見たいんだよ!」

 

「あかんわドアホッ!そんなんしたらシンジとジョルノの邪魔にしかならんやんけ!黙って座っとるんが一番や!」

 

 トウジの叱責に、ケンスケとサクラはしゅんと項垂れた。だが二人の視線が、不意に絡み合う。互いが互いの考えている事を察知し、協力しようという腹づもりなのだろう。

 

「・・・・・・なぁ、お兄ちゃん」

 

「なんや?」

 

「ちょっと、お花摘みに行ってくるわ」

 

「なんや、ションベンかいな」

 

 ぱこーんと、トウジの頭がスリッパで叩かれる。

 

「なにすんねん!」

 

「乙女に向かってションベンとはなんやねん!」

 

「あぁん!?」

 

「まぁまぁトウジ、サクラちゃんは俺が連れてくよ。俺もちょうどトイレ行きたかったところだし・・・」

 

 そう言って立ち上がったケンスケを、トウジは怪しむように見上げた。

 

「・・・・・・お前、ウチの妹に手ェ出すなよ」

 

「誰が出すか!俺の好みはもっと強気な美少女・・・」

 

「あかん、もうダメや!ケンスケさん、わたし先に行きますんで!」

 

「あ、待って!俺も行くよー!」

 

 ・・・何か、嫌な予感がする。そんな考えを、首を振って頭から追い出しながら、トウジは慌ただしく避難所を出て行った二人を見送った。委員長である洞木ヒカリが二人の行方をトウジに聞いてきたが、トウジは「なんでもあらへん」と笑いながら手を振って誤魔化した。

 

 しかし、いくら待っても帰ってこない二人に業を煮やしたトウジがトイレに向かい、二人の不在に顔を青くしてシェルターを出たのは、二人が消えてから15分後の事であった。

 

 

 

 

『碇司令の居ぬ間に第4の使徒襲来…意外と早かったわね』

 

『前は15年のブランク、今回はたったの3週間ですからね』

 

『こっちの都合はお構い無しか。女性に嫌われるタイプね』

 

 エントリープラグ内で葛城さんと日向マコトさんのやり取りを聞きながら、僕とシンジ君は、第三新東京市を悠然と浮遊して移動してくる『使徒』の様子を映像を通して観察していた。

 

 赤く長い体はムカデというか、デカいカブトガニというか、前回襲ってきた使徒とはだいぶ様子が違う。頭と思われる一際大きな甲殻には巨大な目玉が二つ付いているが、その瞳からヤツの感情を窺い知ることはできない。なんとも無機質な目をしているな。

 

 使徒を下からのアングルで捉えたカメラからは、頭の下にある『コア』と呼ばれる赤い球と、その下にまるで肋骨のように並ぶカニかエビのような複数の脚が見える。

 

 うん。ボイルして食べたら案外イケるんじゃあないだろーか。

 

 戦闘形態へと移行した第三新東京市の兵装ビルが火を吹く。ミサイルや大砲、大口径の銃弾が次々に撃ち込まれていくが──、

 

「まるで効果なし、か・・・」

 

「うん・・・・・・」

 

 僕とシンジ君は口に手を当ててその様子を見守っていた。恐らく『ATフィールド』というヤツで防御しているんだろう。『スタンドはスタンドでしか倒せない』のと同じように、ヤツの『ATフィールド』を破るのはシンジ君の乗るエヴァンゲリオンでないと無理なようだ。

 

『税金の無駄遣いだな』

 

 通信から流れてきたのは、ネルフの副司令である冬月コウゾウ氏の声だ。

 

 だが、この攻撃。僕は決して無駄とは思えない。

 

 僕は通信を葛城さんに繋いだ。

 

「葛城さん、聞こえますか?」

 

『なに?ジョルノ君』

 

「兵装ビルの攻撃だが、ヤツの真上、または真下からの攻撃は可能だろうか?」

 

 僕の質問に、隣のシンジ君が首を傾げた。通信の向こうの葛城さんも同じだったようだ。

 

『どういう事?』

 

「攻撃がヤツの両側面に集中している。もう少し攻撃をバラけさせて、ヤツを全方位から攻撃してみて欲しい。何か行動パターンが変わるかもしれない」

 

『・・・なるほどね。やってみるわ』

 

 葛城さんが通信を終えるのと同時、画面内の兵装ビルの攻撃が目に見えて変わった。迫撃砲などを用いて上空からの攻撃を増やし、下からは『使徒』が兵装ビルぎりぎりまで近付いた瞬間を狙って機関銃を撃ち込んでいく。

 

 それでも使徒の様子に変化は無かった。

 

『ダメね、なんの反応も無し』

 

「・・・・・・そうだな」

 

「どうしたの?ジョルノ君」

 

「いや、ヤツの攻撃手段を知りたかったんだが、こうまで無反応だと判断し辛いな・・・」

 

「?」

 

「だが、可能性は生まれたな。何度もすみません葛城さん」

 

『今度はなぁに?』

 

「僕たちを出す場所ですが、予定していた場所より少し遠くに出してくれませんか?少しヤツを観察したい」

 

『それじゃあATフィールドが中和できなくなるわよ?』

 

「ヤツの攻撃手段を見極めたい。アイツが遠距離からの攻撃方法を持っているのかどーか。ヤツの手札を少しでも把握したい。その上で、葛城さんに戦い方を決めてほしい」

 

『当初の作戦通り不意打ちで仕留めたいところだけど。・・・シンジ君はどう?』

 

「僕はジョルノ君と一緒なら大丈夫ですよ!」

 

 ・・・・・・おいおい、シンジ君。それは良くないぞ。考えることを放棄しているのと同じだ。

 

『シンジ君、アナタの考えを聞いているのよ?』

 

「どうだっていいじゃないですか!ジョルノ君がサポートしてくれれば、どんな使徒だって僕たちの敵じゃないよ!」

 

 通信の向こうで葛城さんがため息を吐いた。

 

『・・・・・・不意打ちで一当てしたあと、すぐに距離を取って。不意打ちのアドバンテージは捨てたくないわ。その上で向こうの出方を伺いながら、一旦観察に回ってちょーだい』

 

「はい!」

 

「・・・了解」

 

 葛城さんの指示に不満はない。だが僕は、シンジ君には不安を抱いている。何かをやらかしそうだ。そんな気がしてならない。

 

「ねぇ、ジョルノ君」

 

「・・・なんだい?」

 

「不意打ちで仕留められるかな?」

 

「・・・どうかな?できればそれがベストだが」

 

「そうだよね。わかった」

 

 シンジ君が力強く操縦桿を握る。

 

『シンジ君、ジョルノ君。出撃、いいわね?』

 

「はい!」

「ああ・・・」

 

『発進ッ!!』

 

 途端、僕たちに襲いかかる強烈なG。エヴァンゲリオンが高速で移動し、地上、第三新東京市へと運び出された。前回のような敵の目の前なんて間抜けな采配じゃあない。兵装ビルの影になる形で、僕たちは出撃できた。

 

 僕たちの眼前に出現する兵装ビルから、巨大ロボット用のマシンガンが姿を現す。敵は僕たちとビルを挟んだ背後。銃を掴めば、すぐに飛び出して攻撃できる絶好の距離だ。

 

 すーっ、ふぅーっと僕は息を整える。横のシンジ君もそれに倣った。

 

「いくぞ、シンジ君!」

「うん!」

 

 エヴァがマシンガンを掴み取る。

 

「目標をセンターに入れて・・・」

 

 そして瞬きの間にビルの影から飛び出し、

 

「スイッチッ!!」

 

 出会い頭に銃弾の雨を敵に浴びせた。

 

 ズガガガガッ!という轟音。敵に銃弾が命中している証拠だ。

 

 よし、ここで一旦引いて──、

 

「!?」

 

 エヴァの身体が、動かない!?

 

「な・・・!?」

 

 横のシンジ君を見れば、彼はその顔に笑みを浮かべている。

 

 まさか!

 

「シンジ君!何をしているッ!?一旦引くぞ!」

 

「大丈夫!勝てる、僕たち二人なら、このまま勝てるよ!」

 

 そう言ったまま、シンジ君は銃の引き金を引き続けている。

 

『バカ!爆煙で敵が見えない!』

 

 葛城さんが通信の向こうで叫ぶ。目の前では着弾の煙がもうもうと上がり、使徒の姿が覆い隠されていた。

 

「やめろシンジ君!一旦引くんだ!敵の挙動を見極めなければ・・・!」

 

「大丈夫!このまま撃ち続ければ・・・!」

 

 シンジ君がそう言った瞬間だった。

 

「「!?」」

 

 手に持っていたマシンガンが両断される。

 

 と、同時に、僕の腹に激痛が走った。

 

「何ィィイイイイイイッ!?」

「うああああああああああ!!」

 

 エヴァンゲリオンの腹を、紫色の光の触腕が貫いていた。

 

 

 

つづく

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