ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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第三章 決戦、第三新東京市
24.


 

「な、なによこれー!」

 

 かちゃ、かちゃ、と食器が軽くぶつかる音が場を占める中、赤木リツコ博士の悲鳴はよく響いた。

 

 テーブルの上にはトマトとモッツァレラチーズのカプレーゼ、タコのカルパッチョ、焼きナスのブルスケッタなどのツマミが並ぶ。

 

 僕は赤木博士の前にパスタの皿をそっと置いた。パスタはペンネアラビアータ。ニンニクとトマトの香りが良いバランスで絡み合い、スパイスのピリッとした味わいは酒によく合う。何より、意外と日持ちするんだよな。残っても明日の弁当とかに入れればいい。

 

「イタリアンよ。本場の、ね」

 

 赤木博士の横で勝ち誇ったような顔で頬杖をついている葛城さんは、ワイングラスを傾けてご満悦だ。

 

「ジョルノ君の料理、本当に美味しいんですよ?週一回くらいしかやってくれないのが玉にキズ、ですけど」

 

 僕の料理を褒めつつも、さりげなく苦言を混ぜてくるのはシンジ君だ。シンジ君はブルスケッタを一切れ口に入れると、コップに入ったオレンジジュースでグビッと流し込んだ。

 

「さて、とりあえずはこんなところ、ですかね。葛城さん、僕もワイン頂きますよ」

 

「ぐらっつぇージョルノ!改めて乾杯しましょ!」

 

 葛城さんが掲げたグラスに、チンッと軽くグラスがぶつかり、楽しい楽しい夕食の時間が始まった。

 

 

 

 

 

 僕の名前はジョルノ・ジョバァーナ。日系イタリア人。15歳の中学生だ。

 

 出身はイタリアの『ネアポリス』。好物はあっつあつのピッツァマルガリータ・・・なんだが、流石に葛城さんの家にピザ窯なんてないので、そこは我慢だ。一度、日本の配達ピザなるものでマルガリータを頼んでみたが、悪い。僕の中ではアレをマルガリータと認めるわけにはいかないな。

 

 さて、そんな僕だが、奇妙なことに今は『2015年の異世界の日本』に来ている。何を言っているのかと思われるだろーが、正直、僕もなぜこうなったのか詳しくはわからないんだ。

 

 一つだけわかっているのは、僕がこの世界の日本に来たのは『ある依頼』を受けたから、だということだ。

 

 それは僕の横でパスタを頬張っている碇シンジ君の母親、『碇ユイ』からの依頼だった。彼女は僕の『スタンド能力』の発現中に僕と接触し、『息子を助けてほしい』と依頼してきたってわけだ。

 

 僕はその時に『貴女が思っている以上に僕に借りを作ることになる』と伝えたのだが、ハッキリ言って、僕が想像していた以上の貸しになっていると僕は思う。

 

 なぜなら僕はこのシンジ君と一緒に、『エヴァンゲリオン』と呼ばれる巨大なロボットに乗り込んで、『使徒』と呼ばれる人類破滅を目論む怪物たちと日夜戦っているんだからな。

 

 ・・・・・・うん。自分でも頭おかしいんじゃあないのか?と問い掛けたくなるが、残念ながら全て事実だし、僕の頭はイカれてはいない。

 

 まぁ、そんな数々の紆余曲折を経て、僕は人類を怪物から守るための組織、ネルフに勤める女性、葛城ミサトさんのお宅に居候させてもらってるってわけだ。

 

「ミサト・・・アナタ、こんな良いものを週一で・・・・・・?」

 

「へっへーん!いいでしょ〜!?あ、ジョルノは渡さないからね!ついでにシンちゃんも!」

 

「僕はついでですか・・・・・・」

 

「凹むなよ、シンジ君。僕は君が作ってくれる日本食、結構好きなんだぜ?」

 

 これは事実だし、なによりシンジ君の家事スキルはとても、とても高い。掃除洗濯風呂掃除、どれ一つとっても僕では足元にも及ばない。寮の一人暮らし程度しか経験したことないからな、僕は。

 

 それに、葛城ミサトさん。彼女の部屋を汚くするというある種の『才能』に対抗できるのは、世界広しといえど君だけなんだ。

 

 絶対に、逃してたまるものか。

 

「ええ!碇さん、料理もできはるん!?なにそれ、かぁっこええわぁーっ!」

 

 そんなシンジ君の隣にちゃっかり座って腕に抱きついているのは、僕たちのクラスメートである鈴原トウジ君の妹、サクラちゃんだ。

 

「くぉらサクラ!シンジにベタベタとくっつくんやない!お兄ちゃんは許さへんで!」

 

 その横で騒いでいるのが、当の本人であるトウジ君。必死にシンジ君から妹ちゃんを引き剥がそうとしているが、サクラちゃんはシンジ君にへばりついたままだ。

 

「いいんだよ、トウジ。僕は大丈夫だから」

 

 そーゆーことを言っているんじゃあないと思うんだがな。シンジ君はやはり天然のタラシといったところか。それを聞いたサクラちゃんの目がとろんと恋する乙女のソレになってるぞ。

 

「まぁまぁトウジ君、そんなにカリカリするなよ。今日はせっかくの『退院祝い』なんだから。な?」

 

 そう言うと、僕は自分の隣に座る少年の肩を軽く叩いた。

 

 相田ケンスケ君。先の戦いで両足を失う大怪我をした少年。僕のスタンドである『ゴールド・エクスペリエンス』ですぐに治療し、一命を取り留めた少年である。

 

 その様子は、ハッキリといって『良い』とは言えない。顔はやつれきっており、本当ならもう少し入院した方がいいんじゃあないか、といった感じだ。

 

 だが、僕が彼の怪我を治してしまった以上、肉体的な異常は見られない。精神的には大きなトラウマを抱えてしまったが、病院側が退院可能と判断した事で、たった数日の入院で彼を追い出してしまったのだ。

 

 その病院には、後でキッチリと文句を言わせてもらう。必ずな。

 

「ジョルノ・・・・・・」

 

 ケンスケ君の力のない目が、僕に向けられる。

 

「君が僕にどんな感情を抱いているのかは、なんとなくだが、わかる。だが、今はとりあえず料理を口にしてみてくれないか?僕の作ったものだから、味は保証できないがな」

 

 僕はそういってグラスに入ったワインを一口飲むと、彼の前にペンネアラビアータの皿を差し出した。ケンスケ君はその皿をじっと見つめると、渋々といった様子でその皿を受け取ってくれた。

 

 聞いた話ではあるが、ケンスケ君の家は父子家庭らしい。そのお父さんもネルフに勤めていて、なかなか家に帰れないそうだ。今のケンスケ君の状態で、一人で家で過ごすのはかなり酷な話だ。

 

 そんな彼を見捨てておけない。そう言ったのはシンジ君だった。もちろん、僕もそれに同意した。

 

 そして二人で葛城さんに対して『お願い』したってわけだ。

 

 その際、夕食のビールの量を増やそうと交渉してくるとは思わなかったがな。葛城さん、そんなことで子供と交渉なんてしないでくれよ・・・。

 

 さて、ケンスケ君だが、彼はフォークを手に取るとペンネを突き刺す。そのペンネを、恐る恐る口に運んだケンスケ君の目が驚きに見開かれた。

 

「辛ッッ!!」

 

「おっと、すまない。ほらケンスケ君、これでも飲んで」

 

「うあ、ありがとうジョルノ・・・・・・」

 

 そういって僕の渡したグラスに口をつけたケンスケ君が、ゴホゴホとむせる。

 

「じょ、ジョルノ!これワインじゃないか!なんで酒を飲ませるんだよ」

 

「お?すまん、マジだった。だが、意外とイケるだろ?」

 

 言われたケンスケ君が目を丸くする。

 

「・・・・・・ホントだ。酒と辛みがいい感じに混ざり合って・・・・・・」

 

 ケンスケ君の目に、涙が浮かぶ。

 

「でも、さ。やっぱ(から)いよ。ジョルノ・・・・・・」

 

 ベネ。そんなジョークが言えるなら、食事は楽しんでもらえそうだな。

 

 彼、ケンスケ君の受けた心の傷はとても大きい。こんな事で彼の傷が癒えるはずもないが、「退院祝い」というくらいだからな。

 

 お祝いは、何より楽しんでこそ、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガガガ!ガガガ!ガオガイガーッ!」

 

「ぎゃーはっはっはぁ!け、ケンスケェ!なんやねん、そのケッタイな歌は!?」

 

「失礼な!トウジ!この歌詞の熱さがわかんないのかッ!?」

 

「今どきのアニメって、よく分からない歌を歌うのね・・・・・・」

 

「あっはははははははは♪いい〜じゃなぁ〜い!これくらい何も考えないですむ歌、私は好きよ〜?」

 

 ・・・酒を入れたから、だろうか。

 

 僕の予想に反して、「退院祝い」は大盛り上がりしてしまった。

 

 リビングの端っこでは、疲れてしまったのか、サクラちゃんがシンジ君の膝枕で眠ってしまっている。シンジ君の足に腕まで絡めてしまって、絶対に離さないという強い意志を感じさせる。

 

 その頭を優しく微笑みながら撫でるシンジ君。サクラちゃんにとっては至福の時だろう。

 

 僕は空いた皿を片しながら、葛城さんに提案した。

 

「葛城さん、もう夜も遅いし、そろそろお開きにしませんか?」

 

「えぇ〜!?なによケチ臭いわね、ジョルノー。もう少しいいじゃない!明日は非番なんだしーっ」

 

「葛城さんは、ね。僕たちは学校があるんですよ。一応」

 

「んあ?めんどくさいわね!私はまだケンスケ君の歌が聞きたいのよ!」

 

「光栄であります!葛城一尉!」

 

「む、見事な敬礼ね相田上等兵!よし、その敬礼に免じてもう一曲歌うことを許すっ!」

 

「はっ!ありがとうございます葛城一尉!!」

 

 ダメだ。この調子だと徹夜コースだな、こりゃ。

 

 僕が諦めてため息をついていると、シンジ君が僕に声をかけてきた。

 

「ジョルノ君、僕の部屋からタオルケット持ってきてくれる?サクラちゃんにかけてあげたくて」

 

「ああ、わかった」

 

 僕はすぐにシンジ君の部屋からタオルケットを持ってくると、シンジ君に渡した。リビングに戻ってきた僕と入れ替わるように、今度は赤木博士が立ち上がる。

 

「さて、と。私はそろそろ失礼するわ。ジョルノ君、美味しいイタリアン、ごちそーさま」

 

「いえ、どういたしまして」

 

「そうそう、忘れるところだったわ」

 

 そう言うと、赤木博士はバッグからカードを取り出した。

 

「これは・・・」

 

「綾波レイの更新カード。渡しそびれたままになってて、悪いんだけど、本部に行く前に彼女のところへ届けてくれないかしら?」

 

「まぁ、それくらい構いませんよ」

 

「ありがとう。よろしくお願いね」

 

 僕は手元の綾波レイのカードをジッと見つめる。

 

 綾波レイ、か。僕がこの世界に来て、シンジ君と初めてエヴァに乗った際に、怪我を治した少女だ。思い返してみれば、彼女とちゃんと話した事はなかったな。

 

「どーしちゃったのー?レイの写真をじーっと見ちゃったりしてー♪」

 

 葛城さんがからかうように声をかけてきた。酔っ払ってるからな。嫌な絡み方をされそーだ。

 

「ひょっとして、ジョルノー?」

 

「なに?ジョルノ、そうなんか!?」

 

「マジか、ジョルノ!?いや〜んな感じ!?」

 

「もしそうだったら、どーします?」

 

 僕はニヤリと笑って三人に返した。

 

「む、つっまんない男!ねぇーシンちゃんはどーなのー?」

 

「ぼ、僕ですか?」

 

 声をかけられたシンジ君はビクッと肩を振るわせた後、恥ずかしそうに俯いた。

 

「僕はただ・・・同じエヴァのパイロットなのに、綾波のことよく分からなくて・・・・・・」

 

 それを見ていた赤木博士が、微笑ましいのかシンジ君に優しく声をかける。

 

「いい子よ。とても。あなたのお父さんに似て、とても不器用だけど」

 

「不器用とか、そーいったレベルじゃあないと思いますがね」

 

「アナタからしたらそりゃそうでしょうね」

 

「あの、不器用って、何がですか?」

 

 問われた赤木博士は、微笑みながらもシンジ君から目を逸らした。

 

「生きることが・・・・・・」

 

 なんかしみじみと良い感じに言っているが、悪いが僕にとってはなんの感慨もない話だ。あの男、自分の子供に何をしたのか、忘れてるんじゃあないだろうな?

 

 もし忘れてるなら、また思い出させてやるまでだが。

 

 しかし、綾波レイ。シンジ君よりも先にエヴァンゲリオンに乗っていた少女、か。

 

 これを機会に、少しは仲良くなっておくのも悪くはないかな。

 

 

 

つづく

 

 

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