ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
夜通しの飲み会コースになりそうなところをなんとか阻止し、僕とシンジ君は、鈴原兄妹とケンスケ君を家に送り届けた帰りだった。
時刻はとうに日を跨いでいて、あたりの住宅街の灯りもちらほらと見てとれる程度だ。夏の夜の虫がこれでもかと鳴いていて、周囲は若干うるさい。
「しかし、あれだな。シンジ君」
「え?」
「サクラちゃんは君に首ったけだな。アレは相当うまくやらないと、後々やっかいなことになりそーだな」
「そ、そんな事ないよ。サクラちゃんはいい子だし・・・」
「そーいう子ほど、愛情が憎しみに変わった時の反動はすごいって聞くぜ?まあ、将来的に刺されないように気をつけなくっちゃあな」
「大丈夫だよー。サクラちゃんに限ってそんな事・・・・・・」
シンジ君はそういうが、往々にして事件を起こす人間の第一印象なんてそんなモンだ。「まさかあの人が?」そんな知り合いのインタビューなんてテレビで見慣れているし、僕は直接手を下した覚えはないが、そういったいざこざは「パッショーネ」においても日常茶飯事だ。
「それより、ケンスケだけど」
「ん?」
「・・・・・・少しは、元気出た、かな?」
シンジ君はそう言うと、不意に空を見上げた。僕も釣られて夜空を眺める。
綺麗な星空だ。巨大なガラッシア、日本語で言うと天の川、だったか。それが夜空に架かる様は、川、というより宇宙の海に架かる光の橋、といったところか。
「さあな。そこんところ、正直言って僕にもわからん。酒が入ってたし、少しハメを外しすぎてた気もするが・・・」
不思議なものだ。こういった大自然の神秘に触れていると、自分の抱えている小さな悩みなんかがするっと口から出てくる。
うん。そうだな。僕もやはり、心のどこかでは不安だったんだろう。ケンスケ君を傷付けてしまったこと。その後に残った大きな、とても大きな心の傷。それをなんとかしたくて、でも僕一人では、どーしようもない事だともわかっていて。
だから、シンジ君が「退院祝い」をしようと言い出してくれた時、僕もそれに飛び付いた。ケンスケ君のこころが、少しでも軽くなるならば、と。
なにより、正直に言って、僕にはそんなアイデアは浮かんでこなかった。彼の心の傷は、彼自身がなんとかしなければならないと、心のどこかで決めつけていたんだと思う。
それは、いつの間にか僕の考え方が「強者の考え方」になっていたことが原因だろう。「きっと乗り越えられる」。その考えは相手を信じているからこそ出る言葉だが、どこか他人任せな考え方でもある。そこんところは、反省しなくてはならないな。
シンジ君のように、誰かの苦しみに敏感に、気を遣って寄り添ってあげる事は、僕にとっては少し苦手な事なんだろうな。
それを気付かせてくれたシンジ君には、感謝してもしきれない。
「シンジ君のおかげだ」
「え?」
「ケンスケ君がはしゃげた理由。それは、シンジ君が「退院祝い」をしようと言ってくれたおかげなんだ」
「・・・・・・」
シンジ君の目線が再び空へ。星屑の降りそうな夜空を見上げる。
「ふふ・・・・・・」
「ん?」
「それを言うなら、ジョルノ君のおかげ、だよ」
「どーいうことだい?」
シンジ君は夜空を見上げたまま、笑顔で言った。
「ジョルノ君に出会って、『人を信じる』って事の本当の意味を知れた気がする。きっと今までの僕だったら、「他人は他人」って切り分けてただろうから・・・・・・」
ふう、とシンジ君は笑顔で息を吐いた。
「そんな僕を信じてくれたジョルノ君。君がいたから、僕は少しだけど変われた気がするんだ。・・・・・・きっと、僕はジョルノ君みたいなスーパーマンにはなれない」
「スーパーマン?」
「スーパーマンだよ。ジョルノ君は。でも良いんだ。僕は僕のやり方で、ジョルノ君とは違うやり方で、『人を信じられる』ようになりたい。・・・・・・いまは、そう思えるよ」
難しいけどね、と。シンジ君は自分の頬をかいた。
「・・・・・・そうだな」
人には『個性』があり、『才能』がある。王には王の。料理人には料理人の。そしてシンジ君にはシンジ君の『才能』がある。それはきっと、僕では思いもつかない方法で発揮されるんだろーな。
僕はこの街にきて、シンジ君に会えて、本当によかった。
僕は夜空を見上げながら、黙って右拳をシンジ君に向ける。
シンジ君も、夜空を見上げながら左拳を。
僕たちの拳がコツンと音を立てる。
明日も早い。アルバイトとして朝イチでネルフに寄り、零号機のチェックを済ませてから、フツーの中学生として学校へ。
その後は問題の綾波レイの家に行き、カードを渡してまたネルフへ。
ふう。忙しい一日になりそうだ。
僕とシンジ君はゆっくりと歩き始める。星明かりの照らす夜の道を。
夏虫たちの鳴き声が僕たちを包み込む。真っ暗闇の道だが、怖くない。横には信頼できる友人がいるから、な。
家に帰ると、リビングに残っていたはずのツマミの残りが全て消えていた。
「ペンペン、か」
僕たちのもう一人、いや一匹の同居人。温泉ペンギンのペンペン。なんでも食べる超雑食性のペンギンだ。
「明日の弁当のオカズにしようと思っていたのにな」
「は、ははは・・・・・・」
僕たちの目の前では、いい歳してタンクトップから腹丸出しで寝転がるスタイルのいい女性と、その人とペンペンが食い散らかしたであろう様々なスナック菓子の袋が散乱している。
眠りにつくのは、もう少し後になりそーだな。これは。
つづく