ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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 シンジ君が素っ裸の綾波レイを押し倒している。その状況を目にした途端、僕の頭は思考を失った。

 

 な、なんだ?これは、新手のスタンド使いの仕業か?

 

 かたかたかたかた、と部屋のエアコンが小さく音を立てている。外からは工事の音と、時折ジジジジと遠くで鳴く蝉の声。

 

 よく見れば、シンジ君の周りには女の子の真っ白な下着が散らばっている。

 

 ま、まさか、シンジ君・・・・・・、

 

「『物色』・・・していたのか?この状況で、『女の子の下着』を・・・・・・?」

 

「な!?ちが・・・ッ!」

 

「どいてくれる?」

 

「うわぁ!?ごめんなさい!」

 

 慌てたシンジ君が咄嗟に綾波レイから退いた。綾波レイはゆっくりと立ち上がると、手にしているのは壊れかけのメガネか?それを丁寧にベッドの枕の横に置いた。

 

 もちろん、素っ裸で、だ。

 

 ・・・・・・どーでもよくないがシンジ君。女の子のおっぱいを触っていた左手。なんでワキワキと動かしているんだい?

 

 綾波レイはベッドの上に置いてあったショーツを無造作に履き始める。僕はそこでシンジ君の肩を叩いて綾波レイに背を向けた。

 

 シンジ君もようやく気付いたようで、僕と一緒に綾波レイに背を向ける。

 

 僕たちの背後で、しゅる、しゅると衣服の擦れる音が聞こえる。

 

 そこでようやく、僕は部屋の中を見回した。もちろん、裸の綾波レイを視界に入れないように、だ。

 

 コンクリート打ちっぱなしの壁や天井。土足で上がっているらしい床のタイル。血のついた包帯が無造作に入れられている段ボールは、もしかしてゴミ箱、か?

 

 小さな冷蔵庫の上には何かの薬と、ビーカー?水が入っているが、コップの代わりだろうか。

 

「なに?」

 

 突然、僕たちの背後から声がかかった。シンジ君の肩がビクッと震える。

 

「え!?・・・・・・あ、いや、僕は、その・・・」

 

「落ち着け、シンジ君」

 

「ぼ、僕は頼まれて、つまり、・・・なんだっけ?・・・・・・カード!カード新しくなったから、届けてくれって・・・・・・」

 

 シンジ君の喉がゴクリと鳴る。

 

「だから、そんなつもりは・・・・・・」

 

「シンジ君シンジ君」

 

「え!?」

 

「彼女、あまりというか、ほとんど気にしていないみたいだぞ?」

 

「へ?」

 

 背後で服の布ずれの音が収まったのを確認し、僕はゆっくりと背後に振り返った。

 

 僕の視線の向こうには、学校の制服を着終わった綾波レイが、何か興味深そうに僕の方をじっと見ている姿があった。

 

「悪いね。勝手に家に入って」

 

「いい。気にしてない」

 

 ・・・・・・・・・なるほど、ね。

 

「まあ、シンジ君がほとんど言ってくれたんだが、僕たちは赤木博士から頼まれて、君のカードを届けに来たってわけだ。シンジ君、ほら」

 

「え、あ!こ、これ、新しいカード・・・」

 

 言われたシンジ君が慌てた様子でバックから新しいカードを取り出す。

 

「は、はい。どうぞ・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

 恐る恐るカードを差し出すシンジ君に対し、ほぼ感情といったものが見えない綾波レイは、そっけなく、差し出されたカードを受け取った。

 

「そ、それじゃあ僕はコレで・・・!」

 

「待った、シンジ君。・・・・・・綾波レイさん、だったか?僕に何か聞きたいことがあるのかい?」

 

 さっきから僕の事をジッと見つめ続けている綾波レイに、水を向けてみる。向けられた綾波レイはこくんと頷いた。

 

「あなた、初号機のときに・・・・・・」

 

「うん」

 

「・・・わたしを、治してくれた・・・・・・」

 

「ああ、そうだな。ちゃんと挨拶するのは初めてだった。僕はジョルノ・ジョバァーナ。日系イタリア人の15歳で、君の学校のクラスメートだ。一応、な」

 

「そう。ジョルノ・・・ジョバァーナ・・・・・・」

 

「言いづらいかい?まぁ慣れない名前だとは思うが、よろしく頼むよ」

 

「それは、命令?」

 

 ・・・!

 

「いや、なんだろーな?挨拶だ。ただの」

 

「そう」

 

「綾波レイ・・・・・・、綾波さん、と呼んでもいいかい?」

 

「いい」

 

「ありがとう」

 

 僕はお礼を言うと、改めて部屋の中を見回した。

 

 さっき僕はここに来る途中、冗談半分に「浮浪者がいるかも」なんて言ったが。

 

 この生活状況は、それに近いものがあるな。

 

「綾波さんは、いつからここに?」

 

「・・・・・・・・・?」

 

「ああ、分かりづらかったか。すまない。いつからここに住んでいるんだ?」

 

「・・・・・・・・・?」

 

 目の前の青い髪の少女は、その可愛らしい顔を不思議そうに傾げた。

 

 ・・・・・・やっぱり、な。

 

「君の、失礼な質問かもしれないが、君のお父さんとお母さんは?」

 

 またしても首を傾げる綾波レイ。

 

 僕の腹の中に、何かドス黒いものが溜まっていくのがわかる。

 

「ありがとうな。変な質問に答えてくれて」

 

「いい。気にしてない」

 

 そーだろうな。君のこの状況を見れば、なんとなくだが、判る。

 

「これからネルフで再起動の実験だろ?よかったら、僕たちと一緒に行かないか?」

 

 目の前の少女は、今度はこくんと頷いた。

 

「ありがとう。じゃあ、僕とシンジ君は外で待っているとしよう」

 

「え?え?」

 

「ほら、行こう。シンジ君」

 

 僕はシンジ君を連れて、綾波レイの部屋を後にする。

 

 なにか不思議なものでも見るかのように、綾波レイは僕たちが部屋を出ていく姿をずっと見ていた。

 

 

 

 

 僕とシンジ君はマンションの外にあった自販機でジュースを買うと、二人してそれを一気飲みしていた。

 

「し、心臓が止まるかと思ったよ・・・」

 

「そういやシンジ君。なんで綾波レイを押し倒していたんだ?何があった?」

 

「・・・・・・机の上に、壊れかけのメガネが置いてあったんだ。それをなんとなくかけてみたら、お風呂場から、裸の綾波が出てきて・・・」

 

「そ、そうか。それでつい、というワケだな?」

 

「違うよ!?何言ってるんだよ!綾波がいきなり僕に近付いてきて、メガネを取ろうとしたんだよ!それで慌ててるうちに二人して倒れ込んじゃってッ!」

 

「ムキになるなよシンジ君。ジョーダンだって」

 

 僕は飲み干した缶を近くのゴミ箱に放り捨てる。ベネ。一発で入ると気持ちがいいな。

 

「ねぇ、ジョルノ君・・・・・・」

 

「なんだい?」

 

「・・・・・・綾波の部屋、どう思う?」

 

 やはり、シンジ君も気になっている、か。

 

「率直な意見を言わせてもらえれば、人の住んでいる家ではないな」

 

「やっぱり、そうだよね・・・・・・」

 

 そう。前に葛城さんの家に初めて来た時に口にしたかもしれないが、「家」というのは住む人間の「個性」が現れる。それは人間には誰しも「個性」があるからで、その性格にそって、家具や間取りなんかを考えるものだからだ。

 

 まぁ、葛城さんの場合はゴミ屋敷になるが。

 

 だが、綾波レイは違う。あの家からは「個性」を感じ取れなかった。中学二年生にもなって、「個性」がないなんてのはあり得ない。

 

 上手く言えないが、綾波レイはあの家に「住まわされている」という風に感じる。家を与えられた、というべきだろーか。

 

 だが、それだって普通はそこから綾波レイの個性があの部屋に出るはずなんだ。それがないって事は。

 

 生まれてこのかた、『個性』を育む事をしてこなかった。または、そういった教育をされなかった、ということ。

 

 僕は大きく息を吐き出した。

 

 ネルフという組織の性格上、あり得ない話ではない。また「人類を守る」ために多少の倫理観は無視するのを、僕はエヴァの生体部品製造の現場で既に目の当たりにしている。

 

「・・・・・・あ。綾波」

 

「ん?来たか」

 

 マンションの玄関口から綾波レイが出てくる。僕たちは彼女と合流すると、ほとんど口も開かずにネルフへと足を向けた。

 

 これはまだ、僕の推測の域を出ない。だから、まだシンジ君には言わないほうが良いだろう。

 

 世界でたった三人しか動かせないエヴァンゲリオンのパイロット。見つかったからよかったものの、もし見つからなかったらどうなるか?人類が破滅する未来を前に、人間はただ必死にパイロットとなり得る人物を探し続けるのか?

 

 ネルフの性格からして、マジのゲスどもの巣窟が、そんな悠長なことをする筈がない。

 

 見つからなければ、『造ればいい』。

 

 彼女、綾波レイは。

 

 恐らく、試験管(フラスコ)ベビーだ。

 

 

 

つづく

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