ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
芦ノ湖の対岸から、エヴァンゲリオン初号機が姿を現す。
まあ、正確には、初号機にめちゃくちゃ似せて作られたダミーバルーンなんだがな。
ダミーの持つパレットライフルが火を放った。が、射程距離ではないので、当然目標には当たらない。
目標──使徒は、それに反応してビーム(加粒子砲、というらしい)を撃ち返してきた。
途端に消滅するダミーバルーン。
「敵、加粒子砲命中!ダミー蒸発!」
「次ッ!」
葛城さんの指示に伴い、山のトンネルからレールを通って自走式の大砲が攻撃を仕掛ける。
大砲の射程距離は十分だ。砲弾は目標である使徒まで一直線に飛んでいったが──、
「ダメね」
可視化されるほど強力な使徒のATフィールドが、砲弾を弾く。お返しとばかりに撃ち込まれた加粒子砲によって大砲は跡形もなく消し飛んだ。
「12式自走臼砲消滅!」
「・・・・・・なるほど、ね」
葛城さんがボールペンを回しながら、ニヤリと笑った。
「『なるほどね』じゃあないんだがな。葛城さん」
「ミサトさん・・・」
僕たちエヴァンゲリオン初号機のパイロットからの冷たい視線から逃げるように、葛城さんは毅然とした態度で僕たちに背を向けて、モニターに向かって腕を組んでいた。
ダミーバルーンか。良いものがあるじゃあないか。あれを最初から使っていれば、僕たちが無駄に負傷する事もなかっただろーな。
僕とシンジ君は両手に包帯を巻いている。シンクロの影響によって火傷のような症状が出ているので、念のための処置というヤツだ。
だから最初に、威力偵察はしないのか?と聞いたのに。しかし、まあ今回は、一番上が無能な判断を下したからな。
「中間管理職も辛いな?葛城さん」
「わかってるんならちょっとくらい放っといてよ!こっちだってねぇ!初めからやっとけばよかったなぁ〜って反省してるんだからッ!!」
◇
「これまで採取したデータによりますと、目標は一定距離内の外敵を自動排除するもの、と推測されます」
「エリア侵入と同時に加粒子砲で100%狙い撃ち、エヴァによる近接戦闘は、危険過ぎますね」
葛城さんをはじめ、ネルフのオペレーター陣や作戦立案に関わる人たちが一堂に会している。
ほらほら、葛城さん。他のメンバーからも言われているぞ?エヴァによる近接戦闘は危険だったそうだぞ?
葛城さんが目線だけで「やかましい!」とガンを飛ばしてくるのが面白い。
「〜〜〜ッ、ふう」
葛城さんが自分の中の怒りを抑えるために、大きく息を吐き出した。
「ATフィールドはどう?」
「健在です。相転移空間を肉眼で確認できるほど、強力なものが展開されています」
「誘導火砲、爆撃などの生半可な攻撃では、泣きを見るだけですね、こりゃあ」
「攻守ともにほぼパーペキ・・・まさに空中要塞ね。で、問題のシールドは?」
「現在目標はわれわれの直上、第三新東京市ゼロエリアに侵攻。直径17.5メートルの巨大シールドがジオフロント内、ネルフ本部に向かい穿孔中です」
シールドと言われるとわかりづらいが、要は巨大なドリルのことだ。第五の使徒はここ、ネルフ本部の真上に来たところで件のドリルを体から真っ直ぐに伸ばしているってことだな。
いや、結構頭いいんじゃあないか?今回の使徒は。エヴァやらなんやらと戦り合うよりも、ネルフを直接潰した方が楽だもんな。
「しゃらくさい!んで?敵の到達予想時刻は!?」
「明朝午前0時06分54秒。その時刻には22層全ての装甲防御を貫通して、ネルフ本部へ到達するもの、と思われます」
あと10時間足らずか。それだけあれば、色々とできそーなもんだが、ネルフの面々の顔色は良くない。
コーヒーでも配ってやるか?
「んで、リツコ。こちらの初号機の状況は?」
「両腕部が見事に融解。生体部品ごと取り替えるしかないわね。換装作業自体は3時間ほどで完了の見込みよ」
「了解。零号機は?」
「再起動自体に問題はありませんが、フィードバックにまだ誤差が残っています・・・」
「実戦は・・・・・・」
「まだムリ、か・・・・・・」
葛城さん含め、作戦室に集った全員がため息を漏らした。僕はさりげなく淹れておいたコーヒーを皆さんに配っていく。
「状況は芳しくないわね」
「白旗でも揚げますか?」
葛城さんと日向さんが、僕から受け取ったコーヒーを啜りながらジョークを交える。
「その前に、ちょっちやってみたい事があるの」
おっと。珍しいな。葛城さんの顔が、獲物を見つけた肉食獣のような笑みを浮かべている。
ありゃあ、何かを閃いた時、ついでに言えば勝利に食いつこうとした時に見せる表情だ。
「その作戦、詳しく伺っても?」
「いいわよ〜、ジョルノ。私の渾身の策に、恐れ慄きなさい!」
「目標のレンジ外、超長距離からの直接射撃、とは・・・・・・」
ときどき思うが、葛城さんの発想は度肝を抜いてくる時がある。近くじゃ危ないから遠くから。それも、相手のATフィールドを無理やりぶち破るほどの高火力での狙撃、とはな。
「MAGIの回答は賛成2、条件付き賛成が1。成功率は8.7%ねぇ・・・」
「なによリツコ?文句あるわけ?残り9時間とちょっとで実現可能!オマケにもっとも確実なものよ?」
「だけどそんな大火力の兵器を、一体どこから持ってくる気?うちのポジトロンライフルでは実現不可能よ?」
「決まってんじゃな〜い!借りるのよ、戦自研のプロトタイプをね♪」
そのあまりにも軽々しい葛城さんの物言いに、室内のあちこちで苦笑が起きた。
赤木博士は渋い顔でタバコを口に咥えて、火をつける。
「・・・・・・まぁ、やろうとするならソレしかないでしょうね。最低出力1億8千万kW。それで一応は使徒のATフィールドを破れる計算だけど、その電力は一体どこから持ってくる気なのかしら?」
「決まってるじゃない」
赤木博士の問いに、葛城さんは獣の笑みでもって応える。
「日本中からよ」
その一言に、作戦室全体から再びため息が漏れた。
「さぁってと、日向くん!狙撃地点として最適なポイントはどっかあるぅ?」
呼ばれた日向さんもため息を吐きながら、パソコンと睨めっこを始めた。やがて候補地が見つかったのか、
「ここ、ですね」
室内のモニターに、大きく映し出されたのは、
「二子山山頂、ね。やっぱソコが最適か・・・」
これで、一通りのピースは揃ったわけだな。この作戦なら、成功率は低いものの、使徒を殲滅できるだけの可能性はある。
葛城さんが立ち上がって、堂々と宣言した。
「作戦開始時刻は明朝0時、以後、本作戦を、ヤシマ作戦と呼称します!」
その指示に、作戦室の全員が力強く頷いた。
あとは──、
「あのぉ・・・・・・」
その作戦がまさに実行に向けて動き出そうとするなか、声を上げたのは、この場で存在感のほとんどなかったシンジ君だった。
「なんでそんな面倒くさいことするんです?」
その一言に、僕を除いた全員の目が点になった。
「あーははははははははは!やっぱりシンジ君もそう思うかい!?」
「え?僕、なんかおかしな事言ったかな!?」
「いいや、何も!全然おかしくないぜ、シンジ君!僕もちょうど声をあげようと思ってたところだからな!」
「ち、ちょっとシンちゃんにジョルノ!私の作戦にケチつけるわけぇ!?」
「ち、違うよミサトさん!作戦自体はいいと思うんだ!だけど・・・」
「もっとシンプルに考えればいいんですよ、葛城さん」
今にもシンジ君に掴み掛かりそうな葛城さんの前に立ち、僕は微笑みでもって葛城さんの作戦の改善点を指摘した。
「もっと『良い位置』があるじゃあないですか。より『確実』で、もっと『安全』な、そんな位置が、ね」
僕とシンジ君を前に、ネルフの面々は信じられないものでも見るように僕らを凝視していた。
つづく