ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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32.

 

 作戦開始の約一時間前くらいだろうか。日本全国で大規模な停電が起きる。

 

 街の明かりが全て消えた。全ての電力を、使徒撃破のエネルギーに転用するために。

 

 ネルフやポジトロン・スナイパーライフルへの供給設備に必要な最低限の電力を残し、日本全域が、暗闇に包まれた。たぶんだが。

 

 なにせ確認のしようがない。僕もシンジ君も、すでにエヴァ初号機に乗り込んでしまっているからな。

 

「ふう・・・・・・」

 

 横の操縦席で、シンジ君が軽く息を吐く。息は水泡となってLCLの中を登っていった。

 

「緊張してるのかい?」

 

「まあ、多少はね・・・・・・何度やっても、慣れるってことはないんだろーけど」

 

 まあ、そうだろーな。エヴァに乗っての戦闘。敵の形状が毎回違う以上、作戦も戦い方も毎回違う。

 

 特に今回の敵は強敵だ。なんせ、僕達の得意な近接戦闘に持ち込めないからな。

 

 だが、それでも僕たちはできる事をやらなくっちゃあならない。『スタンド』を使った戦闘でだってそうなんだ。自分の『スタンド』ができる事や自分の周囲の利用できそうなもの。全ては配られた手札で、勝利を目指さなければならない。

 

 それに、今回の作戦は僕たちが言い出した事、だからな。

 

『いい?シンジ君。ジョルノ君』

 

 通信から葛城さんの声が聞こえてくる。

 

『アナタ達、初号機の装備したナックルだけど、それも一応、超電磁コーティングを施した素材を使ってあるわ。敵の加粒子砲を照射され続けても、2、3秒はもつハズよ。・・・・・・本当にそんなんでよかったの?』

 

「十分ですよ、葛城さん」

 

 僕たちだって黙って撃たれ続けるつもりはない。要所要所で両手が怪我しない程度に敵の攻撃を弾ければ十分だ。

 

「大丈夫だよ、ミサトさん。僕たちだって、やられっぱなしでボーッと突っ立ってるようなことはしないよ」

 

 シンジ君も苦笑混じりに葛城さんに答えた。

 

『・・・・・・そう、わかったわ』

 

「葛城さん。ここまで来て、作戦に変更は無いよな?この土壇場で、碇司令がめちゃくちゃな変更とかねじ込んできてないよな?」

 

『それは安心して。そもそも、作戦開始までもう時間も無いわ。今からの作戦変更なんて自殺行為、流石に碇司令も出してはこないわよ』

 

「だといいんだがな」

 

 まあ、もっともこのタイミングであれば、何か言ってきてもこっちで勝手に無視するがな。

 

『・・・作戦開始まで、まだ少し時間があるわ。何か話しておきたい事はある?』

 

「いや、僕は特に。シンジ君は?」

 

「僕も。後は、やれる事をやるだけだからね」

 

 そう言って、シンジ君は深く息を吸うと目を閉じた。横の僕もそれに倣う。

 

「葛城さん」

 

『なに?ジョルノ君』

 

「少し目をつぶってます。時間が来たら起こしてください」

 

『・・・・・・やっぱ、あんた図太いわ。シンジ君もそれに似てきてんのかしらね』

 

 クスッと、葛城さんは笑って通信を切った。

 

 

 

 

 10分。20分。30分と時間が過ぎていく。

 

 LCLの満たされたエントリープラグ内で、僕とシンジ君の深い息遣いだけが水音ともに響く。心地の良い時間だ。とてもリラックスできた、と思う。

 

 そして──、

 

『ただいまより、0時0分0秒をお知らせします』

 

 その時が来た。

 

『作戦、スタートです』

 

『レイ』

 

 葛城さんが、綾波レイに向かって緊張した声音で話しかけた。

 

『日本中のエネルギー、アナタに預けるわ』

 

『了解』

 

 綾波レイの返答は、実に端的なものだった。

 

『シンジ君、ジョルノ君』

 

「はい」

 

「・・・・・・」

 

『・・・・・・厳しい戦いだと思うけど、お願い』

 

「わかりました」

 

「無事終わったら、葛城さんには何か奢ってもらわないとな」

 

 通信の向こうで葛城さんがふふっと笑った。少しは緊張が解けたかな?

 

『ええ、いいわよ。食べたい物、ちゃんと考えておいてね』

 

「了解」

 

『ヤシマ作戦、スタート!』

 

 葛城さんの号令と共に、ネルフの発令所が慌ただしくなった。

 

『第一次接続開始!』

 

『第一から、第803管区まで、送電開始!』

 

『電圧上昇中、加圧域へ!』

 

『全冷却システム、出力最大へ!』

 

 超高火力である陽電子砲発射に向けて、着々と準備が進められていく。

 

 シンジ君が操縦桿を握り直す。その肩に、僕は軽く手を置いた。

 

「さて、やるか」

 

「そうだね」

 

 その言葉を合図にしたかのように、初号機を乗せたリフトがガクンという軽い振動とともに移動を開始する。

 

 綾波レイはジオフロント内、ネルフ本部直上から使徒を狙い撃つ。

 

 その囮となる僕らは、いつも通りの射出口から。

 

 もちろん、昼間にやられた様に、なんの対策も無しに飛び出したりはしない。そのあたりも葛城さんと打ち合わせ済みだ。

 

 初号機が所定の位置に着く。

 

『最終安全装置、解除!』

『撃鉄、起こせ!』

 

 綾波レイの方も準備が整ったようだ。

 

『エヴァ初号機、発進準備よろし!』

 

『エヴァ初号機、発進!!』

 

 

 

「いくぞ!シンジ君!」

「うん!行こう!」

 

 

 

 エヴァ初号機を乗せたリフトがものすごい勢いで昇っていく。

 

 さて、昼間の借りを返しに行こうか。

 

 

 

 

 闇夜の第三新東京市に鎮座する使徒。その周辺の射出口が一斉に開いた。そこから一斉に飛び出したのは、初号機を模ったダミーバルーン計7体。

 

《!!》

 

 ダミーバルーン達に取り付けられたパレットライフルが一斉に火を吹く。もっとも、その銃弾の雨が効果を発揮する事はない。使徒の持つATフィールドが全て弾いてしまったからだ。

 

 だが、これでいい。

 

『目標円周部に高エネルギー反応!』

『敵の加粒子砲ね!来るわよ!』

 

 使徒から加粒子砲が放たれ、周囲を取り囲んでいたダミーバルーンが薙ぎ払われる。暗闇の第三新東京市を、爆炎が照らす。

 

 その隙をついて、僕たちは爆散したダミーバルーンの下から飛び出した。

 

《!?》

 

 驚いているようだな。まさか今消しとばしてやった敵と同じ姿のヤツが、まったく同じ場所から飛び出してくるなんて思ってもみなかっただろう。

 

 ついでにその加粒子砲、だったか?次弾を撃つのにどのくらい時間がかかるんだ?

 

「うおおッ!」

 

 シンジ君が雄叫びを上げながら使徒に突っ込んでいく。使徒はドリルを地面に突き刺しているので動きようがない。

 

「うおあああッ!!」

 

 エヴァ初号機の渾身の拳が、使徒に思いっきり叩き込まれた。途端、あまりの衝撃にグラつく使徒。

 

 だが、

 

「ッ!下がれ、シンジ君!」

「くッ!?」

 

 使徒の外周部に光が集まる。大出力の加粒子砲ではない。これは──!?

 

『避けて!』

 

 葛城さんの声に従うように、僕らは横っ飛びにソレを回避した。

 

 ソレは加粒子砲の連射だった。一撃一撃の威力は低いだろうソレは、しかしちょこまかと鬱陶しく動き回る敵に対応するための機関銃のようだ。

 

「葛城さん!盾を!」

『了解!』

 

 第三新東京市を駆け回りながら、僕は葛城さんに要請を飛ばした。敵の攻撃の威力はかなり減衰しているようだ。昼間の初撃のように、ビルを貫通するほどの威力は無い。ビルを盾にしながら、僕たちは使徒から距離を取る。

 

『シールド、射出!』

『打ち上げるわ!受け取って!』

 

 発令所からの通信の直後、ダミーバルーンを出した射出口の一つから盾は勢いよく飛び出した。宙を高く舞い、盾が轟音と共に地面に突き刺さる。

 

 使徒の意識が、一瞬だが盾に向いた。その隙をついて、エヴァ初号機は再び使徒に突進する。

 

「わあああーーーーッ!!」

 

 シンジ君が雄叫びを上げながら使徒に肉薄する。それを迎え撃つように、使徒の連続弾が雨霰と僕たちに降り注いだ。

 

「「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!」」

 

 初号機の拳のラッシュ。装備したナックルが良い仕事をしてくれている。威力の低い連続弾程度なら、このナックルで十分弾き飛ばせるようだ。弾き飛ばした連続弾は第三新東京市に降り注ぎ、再び爆炎が周囲を照らした。

 

 だが敵の予想以上の激しい攻撃に、初号機はこれ以上前に進めない。

 

「くそッ!」

「シンジ君!一度、盾のところに!」

「わかった!!」

 

 初号機が敵の攻撃を弾きながら、使徒を中心として弧を描くように、地面に突き刺さった盾に向かって移動する。

 

『加粒子砲よ!来るわ!』

「!?」

 

 使徒の外周部にエネルギーが集約していく!くそッ、間に合うかッ!?

 

 初号機が盾に向かって飛び込んだ。その瞬間、使徒の最大威力の加粒子砲が撃ち込まれる。

 

「シンジ君!盾を!」

「くうッ!」

 

 初号機の両手で必死に盾を支える。確か、この盾はこの攻撃に17秒ほど持ち堪えるんだったか。時間は十分だろうが、もう少し細工が必要だな。

 

「シンジ君!あと3秒だ!『上』から飛び出すぞッ!!」

 

「・・・!わかった!!」

 

「3・・・2・・・1・・・今だッ!」

 

 溶けかけた盾を踏み台に、初号機は盾の上から空中に飛び出した。敵の加粒子砲が初号機を追ってくるが、それよりも早く、初号機は使徒の頭上を飛び越えて反対側に回り込んだ。

 

「効くかどうかわからんが、念のため、だ!」

 

 初号機の右手にはアンビリカルケーブル。それをムチのようにしならせて、使徒に絡み付かせた。奴自身が地面に突き刺しているドリルに加えて、ケーブルで更に動きを固定してやる。

 

「今です!ミサトさん!!」

 

『レイッ!!』

 

『了解』

 

 綾波レイの声が通信を流れたと同時だ。

 

 使徒のドリルの真下から力ある光の奔流が溢れる。その瞬間、使徒の中心を貫く光弾が、まるで流星のように天上へと駆け上がっていった。

 

 

 

つづく

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