ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
陽電子砲の光が夜空に向かって駆け上っていく。綾波レイの攻撃は、確かに使徒を貫いていた。
周囲に響き渡る、使徒の断末魔とも取れる甲高い不協和音。貫かれた使徒のヒビ割れた全身、その頭上から噴き上がる爆炎。
だが──、
『目標、未だ健在ッ!!』
『外した!?』
使徒は身を捩らせながら、その態勢を整える。
致命傷のハズだが、使徒の戦意は喪失されていなかった。第三新東京市を貫くためのドリルは失ったようだが、いったい奴にどんな執念があるのだろうか。陽電子砲によって地盤を貫かれた第三新東京市にトドメを刺そうと、その身体を地面に向けて傾けていく。
『まさか!加粒子砲を撃ち込むつもりッ!?』
赤木博士の悲鳴。使徒の攻撃が地面に向かって放たれれば、第三新東京市の崩落とともにネルフは完全な敗北を喫するだろう。
『くぅ・・・ッ!第二射は・・・・・・ッ!!』
『ダメです!撃ち込めばジオフロントが崩落しますッ!』
『万事休す、か・・・・・・ッ!?』
だからこそ、『作戦通り』だった。
初号機が大地を蹴り、夜空に向かって飛び上がる。着地点はもちろん、『使徒の上』だ。
ズンッと腹にくる衝撃が僕とシンジ君に響く。足元には──、
「第五の使徒、で合ってたか?シンジ君」
「さあ?そうだったよーな気もするし、そうじゃなかった気もするよ・・・」
「ベネ。要するに、『どーでもいい』って事だな?どっちにしろ、コイツはもう『終わっている』んだからな」
ヒビ割れた死にかけの使徒。
『シンジ君!?ジョルノ!?』
「葛城さん。シンジ君が作戦を『二人がかり』でって言ったのはこーいう時のためだ。コイツのもう一つの死角である『真上』・・・陽電子砲を囮にすることで、ようやく辿り着くことができたな」
足元の使徒が焦ったように身を捩らせる。
だが、もう無駄なんだ。
「動くな!」
ガァン!とシンジ君が使徒に蹴りを喰らわした。途端、使徒の全身に入っていた亀裂が広がり、巨体が地面に押し付けられる。
「ここから先は一方的・・・・・・だよね?ジョルノ君?」
「ああ、死にかけの使徒が一匹。踏み潰してしまえば終わりだな」
《!!》
今回の使徒には顔が無いから解らないが、驚愕に目が見開かれた、ってところか。
初号機が足を振り上げる。
「「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!」」
僕とシンジ君の息のあった蹴りのラッシュを、足元の使徒に叩き込んでいく。使徒の全身のヒビがどんどんと広がり、使徒が悲鳴を上げる。
「もう遅い!脱出不可能だッ!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ────ッ!!」
地面に押し付けられた使徒がラッシュから逃げ出そうと必死でもがくが、それを許してやるほど僕たちは甘くは無いッ!!
初号機の両足で使徒を抑え込み、肘と拳のラッシュを叩き込んでいくッ!
ビキビキビキッと音を立てて亀裂の入っていく使徒。押し付けられた地面も衝撃を逃しきれずにヒビ割れていく!
「「ウリイイイヤアアアッ─ぶっつぶれろォォッ!!」」
『ダメよ二人とも!!それ以上攻撃したらダメッ!!』
「「!?」」
葛城さんの悲鳴に、咄嗟に攻撃を止めた僕たち。
その一瞬が、命取りとなった。
《────ッ!!》
「ッ!?しま──ッ!?」
「うわぁッ!?」
ヒビ割れた使徒が身体を独楽のように振り回す。その勢いに抗い切れず、初号機は使徒にしがみついていた手を離してしまった。
勢いよく弾き飛ばされた初号機がビル群に突っ込む。
「くう・・・!」
「くそッ、シンジ君!急いで立つんだ!」
ガバッと起き上がった僕たちの目に飛び込んできたのは、信じがたい光景。
『目標外周部に高エネルギー反応ッ!』
『ヤバいッッ!!』
撃ち抜かれた身体を垂直に倒して、無理やり『真下』に向かって加粒子砲を撃とうとしている使徒の姿。
「させるかァーッ!!」
シンジ君が初号機を突貫させる!今、第三新東京市に向かって加粒子砲を撃ち込まれるのはマズい!!
「「ウオオオオオオオッ!!」」
大地を踏み鳴らし、初号機が疾走する!一瞬で使徒に肉薄した初号機が、使徒を真下から蹴り上げた!
《!!?》
蹴り上げた使徒の光線が、第三新東京市の地表から夜空にかけて空間を切り裂くように下から上へと横切った。地表を爆炎が舐めるように飲み込んでいく。蹴り飛ばされた使徒は、背後で地面に突き刺さっていた、半分溶けかけた初号機用の盾に激突して動きを止めた。
どうにか、ネルフに向けての加粒子砲の攻撃を阻止することはできた。
だが、その代償は大きい。
「あああああああああ・・・・・・ッ!!」
「うおおお───ッ!?」
夜空へと横切った加粒子砲。その直線上に、初号機もいた。蹴り上げたと同時に僕らを襲った加粒子砲を、僕たちは防ぐ事ができずにマトモに食らってしまった。
初号機を横切った光線は一瞬。だが、それだけで初号機の脇腹から首元までの特殊装甲が、飴を熱した焼きごてでなぞるように溶かされてしまっている。
激痛が、僕とシンジ君を襲う。
「うああ・・・み、ミサト、さん!?」
「く、くそッ・・・何が!?」
『ダメ、ダメなのよ!さっきの状態で攻撃を続けていたら、初号機の攻撃でジオフロントが崩落していたのッ!!』
!?
クソ・・・そういう事か・・・!
使徒を地面に押さえ付けての攻撃。その衝撃が、陽電子砲によって脆くなっていた地盤に大きな負荷をかけたんだろう。
あのままラッシュを叩き込んでいれば間違いなく使徒のコアも叩き割ってやる事ができていた。
だが、それよりも先に地盤が崩れてしまえば、第三新東京市の真下にあるネルフはペチャンコだ!それじゃあ意味がない!
『アンビリカルケーブル切断!』
『ッ!?予備の電源は!?』
『第三新東京市の電力が戻っていません!それまでは、予備のケーブルは・・・!』
『しまった!電力復旧を急いでッ!』
『初号機活動時間、残り4分37秒!』
エントリープラグ内を流れる発令所の慌てた様子を尻目に、僕たちは無言で立ち上がる。
「シンジ君・・・・・・」
「だ、大丈夫だよジョルノ君・・・」
立ち上がった初号機がふらりと揺れる。後ろに倒れそうになる身体を、つま先に力を込めることで必死に耐える。
使徒からしたら、初号機がつま先立ちのままのけ反ったように見えるだろーな。溶け落ちた装甲から上がっている煙が、僕たちを死にかけの虫ケラのように見せている事だろう。
だが!シンジ君の心は折れていない!
「『覚悟とは暗闇の荒野に進むべきを切り開く事だ』か・・・。ジョルノ君・・・僕にも確かに進むべき道がッ!暗闇に見えたよッ!」
ふらつきながらもつま先立ちで初号機が!使徒に人差し指を突き付けるッ!
「叫ばせてもらうよ・・・『ゴールド・エクスペリエンス』!!」
途端、使徒がぶつかっていた大きな盾が『巨大な樹木』へと姿を変える!樹木から伸びた太い枝が、使徒を絡め取って縛りつけた!
「ゴールド・エクスペリエンス・・・・・・さっきお前の光線を盾で受け止めたとき、盾に『生命』を与えておいた。お前を蹴り上げたのはお前をその『盾』に誘導して、動きを止めるためだ・・・!」
僕の言葉に、シンジ君が続く。
「あとは僕たちが、活動限界までにお前に辿り着くことができるか、それともお前が僕たちの歩みを止めることができるか・・・それだけだッ!それだけで、この勝負は決まるッ!!」
途端、使徒の外周部が光り始める。
またあの光線をしてくるつもりか。
だがな。
「無駄だよッ!!」
シンジ君が初号機の両手のナックルを使徒に投げつけた。勢いのついたナックルが使徒のヒビ割れた箇所に当たり、亀裂が更に広がった。
敵のチャージが止まると同時、初号機が駆け出した!
『活動限界まで、3分52秒ッ!』
「おおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
雄叫びを上げて突っ込む初号機!それを押し留めるように、敵の加粒子砲の連続弾が雨霰と撃ち込まれる!それをシンジ君は、ナックルをしていない両拳で弾き飛ばしていく!
「うぐッ!?」
敵の攻撃が激しい・・・!脇腹に何発か食らった!
だが、シンジ君は止まらない!
「うぬああああおおおああああ・・・ッ!!」
次々に撃ち込まれる攻撃を、嵐の雨の中を突き進むように、拳で弾きながら初号機が進む。
弾き損ねた弾が顔に、肩に、胸に、腰に、足に命中し、初号機の装甲が次々と弾き飛んでいく。その度に初号機から赤い血飛沫が吹き出していく。激痛が僕らを襲う。
だが、シンジ君は止まらない・・・ッ!!
『活動限界まで、残り1分59秒!!』
両拳があまりの超高熱に溶け始める。激痛が僕らの両手に走る。
だがそれでも!初号機は徐々にその距離を詰めていく!
『ダメよ、シンジ君!!アナタの方が保たない!!』
「突っ切るしかないよ、ミサトさん!真の『覚悟』はここからだッ!ジョルノ君!悪いけど付き合ってもらうよ!」
「もちろんだ!シンジ君!」
▼△▼△▼△▼△
使徒は、目の前の存在に恐怖を抱き始めていた。
最初は、自分と似ているようで、どこか違う雰囲気を醸し出していた巨人に興味を抱いていた。
だが同時に、自分よりも先に目覚めたはずの個体たちが、恐らく目の前の巨人によって屠られただろう事も、なんとなくだが理解していた。
故に、使徒はこの巨人を真っ先に処理すべき敵と認識していた。自分たちが目指す、我らが最初の同胞、その道を妨げる障害として。
太陽が高く昇っていた時は、鬱陶しい小虫のように感じた。自分の最大の攻撃を躱された時には驚いたが、それ以降、紫色の巨人は自分から逃げ回るだけだったからだ。
月が昇った後もそうだった。あと少しで目標まで到達できると確信した瞬間、巨人が再度目の前に立ち塞がったのは少々意外だったが、やっていた事は昼間の行動と何も変わらない。全く恐るるに足らない。
そう油断していた瞬間、激痛が自分を貫いた。
何が起きたかはわからない。だがどうでもいい。残りの力を振り絞って、不遜にも自分に乗っかってきた小虫を弾き飛ばし、自分の最大火力を叩き込んでやった。
なのに、小虫は息絶えるどころか、その身を削りながらも迫ってきている。
使徒は理解していた。巨人が眼前にまで迫った瞬間、自分の命は終わると。その事実に心底恐怖した。
だから、恐怖を振り払うように、目の前の傷だらけの巨人にめいいっぱいの光弾を浴びせていく。全身から血を吹き出しながら迫る小虫を、さらに削って息の根を止めるために。
巨人の膝が折れる。が、その目にはまだ力が宿っている。
だが明確な、致命的な隙だった。即座に使徒は、光弾を目の前の巨人の頭に叩き込んだ。
巨人の頭が跳ね上がる。その目から力が失われる。
勝った!使徒は確信した。
自身の真横から、ジャキリ、という音が聞こえるまでは。
「碇くん。それに、ジョルノ・ジョバァーナ・・・・・・」
使徒が意識を向ければ、そこには山吹色をした巨人の姿。
その手に、パレットライフルを握ったエヴァンゲリオン零号機の姿があった。
「あなた達の『覚悟』は、この仄かな月光よりも明るい輝きで『道』を照らしている」
零号機が、銃を構える。
「そして、わたしがこれから『向かうべき・・・正しい道』をも・・・・・・」
なんだってエエエエェェェェ──ッ!!?
「無駄」
使徒の不協和音のような悲鳴が響き渡ると同時に、銃弾がヒビ割れた体に撃ち込まれる。
「無駄、無駄、無駄、無駄・・・・・・」
非情に、無情に、冷徹に。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄・・・・・・ッ!!」
使徒のクリスタルのような身体が砕け散り、コアが撃ち抜かれると同時に、使徒の意識は暗闇へと堕ちていき・・・・・・、
「さようなら」
そして、二度と戻ってくることはなかった。
つづく