ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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第四章 アスカ、来襲!
35.


 

「最初にキノコを食べた者を尊敬する・・・」

 

 毒かもしれないのにな。

 

 ただの幸運なバカがたまたま食べたら大丈夫だったのか・・・・・・?

 

 それとも・・・・・・飢えで追い詰められた必死さが切り開いた発見なのか?

 

 そんな他愛もなく、しかし物事の本質を突いているよーな、どーでもよい思考遊びに興じていた僕は、手にしたフォークで、皿の上に盛られたリゾット・ネェロ(イカ墨のリゾット)に入っていたキノコを突き刺した。

 

 僕の額から冷や汗が流れる。白状しよう。僕の思考遊びは単なる現実逃避だ。

 

 目の前の飢えた『獣』の眼光を前に、僕は冷静さを保とうと必死に思考を巡らせていた。その思考の連想ゲームの末、冒頭のキノコの話題を口にしてみた、ってワケだ。

 

 だが、『獣』に言葉が通じるのだろうか?

 

 僕の用意した夕食。イカ墨のリゾットの皿を空にして、こちらを睨んでくる獣の瞳に、室内の空気がゴゴゴゴ・・・とうねりを上げていく。緊張に、手にしたフォークが微かに震えている。

 

 緊張?僕が緊張しているというのか?もしかしたらそうなのかもしれない。僕の腕の筋肉が僕の意思に反して、いつでも動けるように極限の状態の中で備えているのかも・・・・・・。

 

「ジョルノ・ジョバァーナ・・・・・・」

 

 目の前の『獣』が、『綾波レイ』が、スゥッと椅子から立ち上がる。

 

「そのリゾット・・・・・・『どうするつもり』なの?」

 

 ゆらりと綾波レイの体が揺れる。身体から無駄な力を抜いて、いつでも襲い掛かることができるように。

 

 僕は緊張に顔を引き締めながら、淡々と答えた。

 

「綾波さん。何度も、それこそ食事の度に何度も言っていることだ・・・・・・『おかわりはない』ッ!僕は今夜、『5人前』を用意した!すでに君はそれを平らげている・・・4人分だ!僕は1人分!君は4人分!」

 

「質問に答えて・・・・・・あなたは『そのリゾットをどうするつもりなの?』」

 

「悪いが僕も譲れないッ!この夕食を無事に切り抜ける!僕の思考にあるのはそれだけだッ!このリゾットは僕が食す!それだけは譲るワケにはいかないッ!」

 

 その答えを聞いた綾波さんが、ゆっくりと、静かに椅子に座った。

 

 しかし次の瞬間!

 

 綾波レイの身体が宙を舞った!

 

「なっ!?座ったままの姿勢!膝だけでそんな跳躍を!?」

 

 飛び掛かってきた綾波レイが、手にしたスプーンで僕のリゾットを狙ってくる!

 

「「無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!」」

 

 僕は手にしたフォークで迫り来るスプーンを迎撃する。恐ろしいほどの突きの速さだ!本当に人間かッ!?

 

「うおおおおおおお・・・ッ!?」

 

 綾波レイがテーブルを、その向こうにいた僕自身を飛び越えて、ダイニングの床に着地した。

 

「はぁーっ!はぁーっ!はぁーっ!はぁーっ・・・・・・!」

 

 一瞬にも満たない攻防だったが、なんとか防ぐことができた。僕の顔に自然と笑みが広がっていく。どうやら今夜の勝負は僕の勝ちのようだ。

 

 だが。

 

「な、何ィィィイイイイイイイイ!!」

 

 テーブルに、リゾットの皿がないッ!?

 

「貧弱貧弱ゥ・・・・・・」

 

 僕は驚いて背後を振り返る。そこには僕のリゾットの皿を片手に、スプーンを忙しなく口へ運んでいる綾波レイの姿があった。

 

「猿が・・・もぐ、人間に追いつける、もぐ、かしら?・・・・・・あなたはわたしに、もぐ、とってのもぐもぐ、モンキーなのよ。ごくん・・・ジョルノ・ジョバァーナ」

 

「口の中にものを入れながら喋るんじゃあない!!」

 

 僕は急いでテーブルの上のナプキンを取ると、綾波レイの口もとの汚れを丁寧に拭っていた。

 

 

 

 

 

 僕の名前はジョルノ・ジョバァーナ。日系イタリア人。15歳の中学生だ。

 

 出身はイタリアのネアポリス。鶏肉がちょっぴり苦手な、どこにでもいるフツーの中学生。

 

 ただし、僕はイタリアの『パッショーネ』と呼ばれるギャングのボスも兼任している。というか、ぶっちゃけると本職はそっちなんだが、まぁ、そこんところは今は重要でないので、覚えてくれなくて構わない。

 

 さて、今の僕の目の前で起こっている奇妙な状況を説明させてほしい。といっても、何から説明したものか・・・・・・。

 

 まず僕は、ある女性から奇妙な依頼を受けて『2015年の異世界の日本』に来ている。といっても僕が自分の力で来たのではなく、依頼者の女性『碇ユイ』の持つ不思議な力によって、来させられた、と言うべきか。

 

 その女性『碇ユイ』さんの依頼は、彼女の息子であり、僕の家のお隣さんでもある『碇シンジ』君を助けてほしい、というものだった。

 

 そんな依頼を受けて、僕はシンジ君と共に『使徒』と呼ばれる人類の滅亡を目論む怪獣たちから、『エヴァンゲリオン』と呼ばれる巨大なロボットに乗って、地球の平和を守っている、というワケだ。

 

 ・・・・・・・・・だんだんと頭が痛くなってきた。僕の言っている事は全て事実なのだが、これを信じてくれと言われても、そう簡単には信じてもらえないだろう。僕だって同じ説明を受ければ「イカれてるんじゃあないのか?」と真顔で返すだろーな。

 

 だが事実は事実。そこんところは「そーいうもんか」と思って受け止めておいてほしい。

 

 さて、そんな僕の私生活なのだが、これもハッキリ言ってかなり厄介な事になっている。

 

 今、目の前で僕の夕食を掻っ攫っていった、青い髪に赤目の美少女。同じ学校のクラスメートなのだが、名前を『綾波レイ』と言い、この娘もエヴァンゲリオンのパイロットの一人だ。

 

 前回現れた『使徒』との戦いで、僕やシンジ君と一緒に戦ってくれた戦友でもある。

 

 そんな少女と、僕は一つ屋根の下で一緒に暮らしている。

 

 ・・・・・・待て。待ってくれ。別に僕と彼女が恋仲にあるとか、そんな意図は一切無い!断じて言うがマジに無い!

 

 この少女は恐らくだが、エヴァンゲリオンを運営、指揮する国連の非公開組織ネルフによって造られた、試験管ベビーなんだ。

 

 両親は存在しておらず、ボロボロの廃墟同然のマンションに一人暮らしをしていたのだが、あまりにも人間らしからぬ生活をしていたので、シンジ君と僕とで引き取った、というのが事の経緯だ。

 

 もちろん上官であり、シンジ君と一緒に住んでいる葛城ミサトさんの許可も得ている。そうだ。本来なら綾波レイは、葛城さんとシンジ君と3人で暮らすはずだったんだ。

 

 なのにいざ同居を開始しようとした途端、綾波レイは突然(今でも頭を抱えたくなるが)「僕に興味が湧いた」とか言い出したってワケだ。

 

 もちろん僕は全力でこれを阻止しようとしたが、『個性』が芽生え始めた綾波レイは殊の外に強情だった。「もう決めたから」。そんな一言で、僕の部屋に無理やり上がり込んできた、という次第だ。

 

「けぷ・・・・・・ごちそうさま。ジョルノ・ジョバァーナ」

 

 目の前で僕の食べるハズだったリゾットの皿を空にした美少女が、満足したように空の皿を僕にずいと差し出してくる。

 

「綾波さん・・・食べ終わったあとの『ごちそうさま』を言えるようになったのはいいが、その後、食器は台所まで持っていって、水で軽く流しておいてほしい。できるよな?」

 

「わかったわ」

 

「それと、一応お風呂も沸かしてある。食器を片したらしっかりとお風呂に浸かって暖まって、風呂から出たら歯磨きをして早めに寝るんだ。・・・・・・あ!間違っても裸のまま出てくるんじゃあないぞ!?ちゃんとパジャマを着てから出るんだ!」

 

「わかってるわ・・・・・・でも、ジョルノ・ジョバァーナ・・・・・・」

 

「なんだい?」

 

「わたし、今日は10時から見たいテレビが・・・」

 

「明日も学校なんだから、早く寝るんだ!番組は僕の方で録画しておこう!」

 

「・・・・・・リアルタイムで観たかった」

 

 僕の指示に不満を抱いたように頬を軽く膨らませつつも、綾波レイは食器を片して風呂場へと消えていった。

 

 ・・・・・・・・・・・・なんで僕が、この娘の父親のような真似をしなくっちゃあならないんだ。

 

 僕やシンジ君との接触で彼女に『個性』が芽生え始めたのはいい。だが、ネルフの奴らは本当にまともな情操教育をしてこなかったよーだな。綾波レイは僕との共同生活を始めた途端、様々な出来事に衝撃を受けたようだ。

 

 他人との生活に必要な日々のルーティンは勿論のこと、テレビという娯楽にも疎かった彼女は、目に映るもの、体験する事全てに感動を覚えていった。

 

 特に、食事については本当に心の底から感動したようで、肉が苦手(というか嫌いだと言っていた)という点以外は、物凄い食欲を見せるようになった。

 

 おかげで僕は毎食3人前以上、下手したら5人前以上の食事を用意しなくてはならなくなった。これが地味にキツい。料理をする体力と、経済的に。

 

 僕は彼女が風呂に入っただろう事を確認すると、疲れた体をリビングのソファに沈めた。

 

 少し休んだら食器を洗って、彼女がちゃんと歯磨きを終えたか確認した後、「おやすみなさい」を言って彼女が自分の部屋に行くのを見届ける。それが終わってからよーやく、僕は自分の自由な時間を手に入れられる。

 

 はっきり言おう。これじゃあシンジ君と葛城さんとで3人暮らししていた頃の方が遥かにマシだった。全くもって本当に、なぜ彼女は僕なんかに興味を持ったのだか・・・・・・。

 

 僕は何気なく壁にかけてあるカレンダーに目をやる。明後日の土曜日。そこに書かれた「出張」の二文字。

 

 僕はそれを見て、深くため息を吐いた。なんでもこの日は、ドイツから世界で2番目のエヴァのパイロットが日本にやって来るんだとか。

 

 別に僕はそのパイロットに興味は無い。可能であればたまの休日に、家でゴロゴロしたかったってのが本音だ。

 

 まぁどの道、綾波レイの食事の世話でバタバタするんだろーが。

 

 ただその出張には、綾波レイは連れて行けない。ドイツのパイロットが来るのはなんと船でのご来航だそーだ。使徒防衛の観点からエヴァのパイロット全員で出迎えに行くわけにはいかないという事で、綾波レイはお留守番というワケだな。

 

 ・・・・・・一緒に連れて行けるんなら外食とかで済ませられたんだろーな。

 

 帰りが遅くなるかもしれないから、土曜日の彼女の三食分の食事を、僕は早起きして用意しておかなければならない。それが何よりも憂鬱だった。

 

 本当に、なんでこんな時期にやって来るんだか。葛城さんにちらっと聞いたが、ドイツのパイロットは勝気な少女らしい。メンドーな事にならなければいいが。

 

 まぁいい。僕は綾波レイのお世話で手一杯だ。その少女はシンジ君にさりげなく押し付けてしまおう。

 

 そんな事を考えていると、風呂場から素っ裸の綾波レイがリビングに入ってきた。

 

 僕はため息とともに、念の為リビングに用意しておいた彼女の下着を手渡すと、彼女を脱衣所に連れていってアコーディオンカーテンを閉め切った。

 

「頼むから服を着てから出てきてくれないか?」

 

「わかったわ」

 

 これはたぶんアレだ。幼い子がまだ生活の手順を覚えきれないよーな、本当に初歩的な教育の段階だろう。

 

 まるで幼い妹を持ったような気分だ。

 

 僕は再びため息を吐くと、台所に行って、最近ハマり始めているカップ麺を食べるため、水の入ったやかんを火にかける。

 

 どーでもいいが、なぜ綾波さんは太らないんだ?あれだけ食べておいて、その栄養分は一体どこにいくのだろう?

 

 そんな他愛もない事を考えながら、今日も夜は更けていくのだった。

 

 新生活への僕の不安は、どうやら当たってしまったよーだ。

 

 

 

つづく




すみません!後書きを修正致しました。ご指摘ありがとうございました!
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