ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
土曜日の早朝の事だ。葛城さんからいきなり電話がかかってきた。
内容は「ドイツのエースパイロットが来るのは土曜日だと言ったな。すまん、ありゃウソだった」というもの。
正確には日曜日だったらしい。つまり明日でよかったワケだ。
すでに綾波レイの三食分の料理を、朝の5時から仕込んでようやく完成させたところで、葛城さんは平然と宣ってくれたワケだな。
「葛城さん、貴女・・・『覚悟してきている人』・・・ですよね?人のスケジュールを無駄にしたって事は、逆に貴女自身がその報復を受ける危険を、常に『覚悟してきている人』ってわけですよね・・・・・・」
僕の電話越しの凄みを感じ取ったんだろう。電話はガチャンと一方的に切られた。
だが僕は、通話機を置くとすぐに家を飛び出して、お隣の葛城邸のドアを叩いた。僕自身の心の安寧のため、葛城ミサトにはきっちりと『報復』してやらなければならない。その点において、僕は必死だ。
シンジ君に無理やり扉を開けてもらい、葛城邸内にあった一切のアルコール類を僕は強奪した。葛城さん、今日は早番らしいからな。帰ってきたら酒が全て無くなっていた、ってのは相当堪えるはずだ。
余談だが、葛城邸からのアルコールの運び出しは、シンジ君が苦笑しながらも手伝ってくれた。本当、ありがたいよ。シンジ君の存在は。
そうやって全てのアルコールを僕の部屋に没収して、部屋のリビングまで帰ってきた僕がソファに倒れ込み、せっかくだからこのまま二度寝してしまおうかと目を瞑ったのは朝の8時だった。
「ジョルノ・ジョバァーナ・・・・・・お腹が空いたわ」
腹ペコ青娘が目を覚ました。
「・・・・・・綾波さん。まずは『おはよう』だ。朝の挨拶は大事だからな」
そう言いながらも、僕は味わえるハズだった二度寝を断念して、すでに作っておいた朝食を温め直す。
・・・・・・くそ。本当に、今日はついてない。
◇
その翌日。
輸送ヘリコプターのプロペラの音がバラバラバラバラ・・・・・・とうるさい。
だがそれ以上にうるさいのは、僕やシンジ君、ましてや一緒に搭乗しているトウジ君でもなく、その横で騒いでる相田ケンスケ君だった。
「Mi-55D輸送ヘリ!こんなことでもなけりゃあ、一生乗る機会ないよ。まったく、持つべきものは友達って感じ!なぁ、シンジ!」
両脚を一時的にとはいえ失った少年は、心に大きなトラウマを抱えていたハズだが・・・この喜びようには流石に苦笑する。以前は死相が出ていた顔もすっかり元気になり、白髪も目立たなくなってきているな。
まぁそれは喜ばしい事なんだ、ホント。ただ、僕は眠たい。マジで眠気がすごい。土曜、日曜と二日連続で綾波レイのご飯のためにてんやわんやだったからな。できればヘリの移動中くらいは寝ていたいってのが本音だ。
「毎日同じ山の中じゃ息苦しいと思ってね、たまの日曜だから、デートに誘ったんじゃないのよ♪」
デートの誘い方が間違ってるんじゃあないのか?男子中学生を四人も連れて、デートもへったくれもありゃしない。
「ええっ!それじゃ、今日はほんまにミサトさんとデートっすか?この帽子、今日のこの日のためにこうたんです~!ミサトさ~ん!」
・・・・・・ケンスケ君とどっこいどっこいのテンションのトウジ君だが、気付け。残念ながらこれはデートではないんだ。エヴァンゲリオンの第二のパイロット、セカンドチルドレンのお迎えなんだから、な。
てゆーか、ホントなんで民間人なんか連れてきたんだ?葛城さん。
僕のジトーッとした視線に気付いたんだろう。葛城さんは僕に視線を送り、軽くウィンクを返した。
なるほど・・・何か意味があるってわけだな?それならばまぁ、一応は信用しよう。
「・・・・・・で、どこに行くの?」
シンジ君が退屈そうに葛城さんに聞いた。それに対して葛城さんも、余裕のある大人の女性を演出しながら答えた。
「豪華なお船で、太平洋をクルージングよ♪」
◇
まぁ、こーなるだろうとはわかっていた事だが、な。
輸送ヘリの窓から遥か眼下に見えた、旧式(といっても、僕にはそんな違いはわからないのだが)の空母の艦隊を目にした瞬間、トウジ君ががっくりと肩を落としていた。目の前には、どう見ても豪華クルージングではない船が海の上に浮かんでいるからな。
「まさにゴージャス!さすがは国連軍が誇る正規空母、オーバー・ザ・レインボー!!」
ケンスケ君の方は大はしゃぎだ。とても良い事だな。僕の眠気が限界に達していなければ、だが。
「よくこんな老朽艦が浮いていられるものね〜」
「葛城さん、一応はウブな男子中学生四人をデートに誘ったなんて言ったんだ。少しくらいはロマンチックな演出の一つでもしてくれてもいいんじゃあないか?」
「あら?ジョルノ〜?私とデートしたかったの?可愛い所あるじゃない♪」
「こっちから願い下げだな、心底マジで」
「キッツぅッ!?なにコイツ!いつもより態度悪く無い!?シンちゃん!」
「綾波のお世話とかでかなり疲れてるようですよ、ミサトさん・・・」
シンジ君の変わらない苦笑。それが僕にとっては何よりの癒しだった。変わらない日常を生きているんだなと、無駄に感動を覚えてしまう。
しかし、もうすぐそんな時間も終わる。輸送ヘリは、なんだっけ?オーバー・ザ・レインボーだったか?そんな名前の空母に向かって徐々に高度を下げていき、とうとうその甲板に着艦した。
窓の外の光景を見る限り、船の上は風が強そうだ。
「トウジ君、その帽子、大事なものなんだろう?風が強そうだ。ヘリの外に出る前に、しっかり押さえておいたほうがいいぞ」
「お、ホンマか?そんなとこまで気ぃ使ぉうてもろて、すまんのぉジョルノ」
トウジ君が帽子を手で押さえながら、ニカッと笑ってヘリを降りていく。裏表の無いカラッとした性格。僕は結構好きだぜ?トウジ君。
トウジ君に続いて、興奮し切ったケンスケ君がヘリから飛び出していく。
「おぉーっ!凄い、凄い、凄い、凄い、凄い、凄い、凄い、凄すぎるーッ!男だったら涙を流すべき状況だね!これは・・・!」
その、はしゃぎまくるケンスケ君の後に続いてヘリを降りようとしているシンジ君に、僕は声をかけた。
「シンジ君」
「ん?どうしたの、ジョルノ君?具合でも悪い?」
「いや、ちょっと寝不足なだけさ。それよりケンスケ君なんだが、シンジ君のほうで抑えておいてくれないか?この船は旧式とはいえ軍用艦だろう?どこで兵士の虎の尾を踏むかわかったもんじゃあない」
「あ、なるほどね。それは確かにまずそうだ。でも大丈夫?ジョルノ君、ちょっと顔色、青白いよ?」
「問題ない・・・と言いたいが、綾波さんの食事で結構疲れていてね・・・・・・僕の方でケンスケ君を抑える元気はないんだ。悪いけど頼むよ・・・・・・」
「そんなのお安い御用だよ!ジョルノ君は、ヘリで休んでたら?」
「いや、流石にセカンドチルドレンのご登場だろう?それくらいはしっかり顔を出すさ」
ギャングの世界は面子が物を言う時もある。別にセカンドチルドレンに対してマウントを取りたいとかは無い。無いが、一応の礼儀としてしっかりと応対するのはマナーだろう。
僕はシンジ君の後に続いてヘリを降りる。その後ろから葛城さんが、風に美しく長い髪をたなびかせながら降りて来る。・・・・・・絶対口にはしないがな。葛城さんはすぐに調子に乗るからな。
僕らからちょっと離れた場所ではしゃいで写真を撮りまくるケンスケ君を、シンジ君が必死に羽交締めにして抑えてくれている。そんな光景を潮風の香る看板の上で見ていると──、
「ハロゥ!ミサト。元気してた?」
突然、活発そうな少女の声が僕たちに投げかけられた。
その声に振り返れば、黄色いワンピースに、首にはオシャレなチョーカー。足元のパンプスは真紅。髪は赤に近い金髪。その色合いは少女自身の肌の色と程よいコントラストを生んでおり、とても魅力的に僕の目には映った。
「まぁねー!あなたも背ぇ、伸びたんじゃない?」
それに応対する葛城さんも、見た目の凛々しさとは裏腹に、素直な感想を目の前の黄色いワンピースの少女に投げかける。
「そ。ほかのところもちゃんと女らしくなってるわよ!」
ワンピースの少女が自首満々に胸を張る。その横に葛城さんが立ち、僕たちに彼女を紹介してくれた。
「紹介するわ。エヴァンゲリオン弐号機専属パイロット、セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーよ」
葛城さんが彼女を紹介してくれた、その瞬間だった。
強い風が甲板を吹き抜けた。
その瞬間、巻き上がる黄色いワンピースのスカート部分。
だが、悪いな。僕は毎日綾波レイの裸を見慣れているせいか、はっきり言って初対面の少女のパンツなどにまるで興味はないんだ。そういった事態に対する耐性も既に出来上がってしまっている。
僕は咄嗟に少女のパンツを視界に収めない様に顔を逸らすことで、この後に起こるだろう事態を躱した。
さらに幸運なことに、トウジ君は強風に帽子のつばで目線を隠し、シンジ君ははしゃぐケンスケ君を抑えつけていてそれどころではない。
結果として、強風に巻き上げられたセカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーさんのパンツは誰にも見られなくて済んだ、ってことだ。
穏やかな夏の陽気が降り注ぐ船の甲板に、不自然な沈黙が満ちた。
「・・・・・・ふぅん?意外とやるじゃない?」
明らかに不満げな少女の言葉。本音はパンツなんか見られたくなかっただろーに。しかし少女の声は「見られたなら見られたで対策は十分よ!」という余裕というか、計算高さを感じる。
・・・・・・その無駄に高そうなプライドに、日々の生活で余裕のない僕は、大人気なく突っかかってしまった。
「そうでもない。むしろ君如きの下着には興味が無い、と言った方がいいのかな?惣流・アスカ・ラングレーさん、だったか」
「ッ!?ジョルノ君!?」
シンジ君が驚いて声を上げる。考えてみればこんな風に、僕が誰かを挑発するような場面をシンジ君には見せていなかったかもな。
「・・・・・・なによ、あんた。あんたがもしかして、噂のサードチルドレンってわけ?」
「残念だったな。僕はその『予備』だ。その予備に、見下された気分はどーだ?惣流・アスカ・ラングレーさん?」
「ジョルノぉッ!?なんであんた、いきなり喧嘩売ってんのぉ!?」
葛城さんが悲鳴をあげるが知ったこっちゃあない。こっちは今にも瞼が落ちそうな眠気と戦っているんだ。はっきり言って、こんな下らないイザコザで神経を使いたくないんだ。
まぁ、喧嘩を売ったのは僕だというのは認めるけど、な。
その僕に対し、目の前の惣流さんが手を振り上げたのがわかった。別に、馬鹿正直にそれを受けてやる義理はない。僕は顔を顰めながら、僕の顔に迫ってくる手を睨みつけて──、
「ごめん!惣流さん!!」
その平手打ちの間に割り込んだシンジ君が、惣流さんの手首を優しく受け止めていた。
「はぁ!?何よ、あんた!邪魔しないでよね!!」
「うあ・・・・・・ご、ごめん!いや、ジョルノ君も悪気は無かったんだ!ちょっと最近、私生活で疲れていたみたいで・・・・・・」
「あぁん!?そんなの、アタシには関係ないでしょーが!!ていうか、あんた誰よ!!」
「あ、アスカ。その子はねぇ、サードチルドレンの・・・・・・」
「碇シンジ!よろしくね、惣流・アスカ・ラングレーさん!」
シンジ君が爽やかに、自分から名乗りをあげた。シンジ君は柔らかく受け止めた惣流さんの手を優しく下ろし、微かな微笑みで持って彼女に接した。
「来てくれて嬉しいよ。優秀なパイロットが仲間になってくれるって聞いてたんだ。・・・・・・初対面はこんなだけど、仲良くしてくれると嬉しいな」
シンジ君のその爽やかな対応に、目の前の少女は毒気を抜かれたように唖然としていた。
つづく
少しだけ、個人的なリスペクトが入っています。