ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
ふぅ・・・・・・流石に大人気がなかったな。
いくら疲れていたからって、あの態度は我ながらナンセンスだったと言わざるを得ない。どうしてあそこまで冷たく当たってしまったのか。初対面の少女に対して、かなり失礼な態度を取ってしまった。
今、僕はこの空母の食堂に来ている。一人で、だ。僕の態度を見かねた葛城さんが、「休憩も含めて頭冷やしてこぉい!」と言ってくれたので、お言葉に甘えているってワケだ。僕は顔にハンカチを当てて目を瞑り、椅子にもたれかかっている。このまま寝てしまえそうだ。
それにしても、あのシンジ君のフォローはありがたかったな。
僕と惣流・アスカ・ラングレーとの初対面は最悪に近かったが、シンジ君とラングレーの出会いはなかなか好調な滑り出しを見せた。
ラングレーのビンタを防ぎ、あくまで優しく、自己紹介と気遣いの言葉を忘れない。ラングレーも毒気を抜かれたんだろう。「冴えない顔してるくせになかなかやるじゃない」なんて言っていた。
たぶんプライドが高そうな彼女は、同じエヴァのパイロットとして実力の上下関係を作りたかったんだろう。
そんな彼女に、シンジ君はお伺いを立てるように下の立場から優しく彼女に接した。実に紳士的な態度だ。初めて男の子に手を握られたのかな?ラングレーの頬が少し赤みを帯びていたのも印象的だった。
まあ、過ぎたことはしょうがない。今頃葛城さん達は、この船の艦長にエヴァの予備電源ケーブルの受け渡しを行っているだろう。
せっかく貰えた休憩時間だ。この際、仮眠でも取らせてもらうか。
僕は鼻から大きく息を吸って、体内に酸素を取り込んだ。少し息を止めてから、ふうーーーっと口から吐き出す。これを繰り返すと、心がだんだんとリラックスしてきて、気持ちよく眠れるんだ。
これであったかいミルクでもあれば完璧なんだが、まぁ無い物は仕方ない。
僕の意識がゆっくりと微睡に沈んでいく。
「よっ!随分とお疲れみたいだな」
それを遮ったのは、どこか色気のある男の声だった。
知らない声だ。一体誰だ?随分と馴れ馴れしく話しかけてきたが。
僕は顔にかかったハンカチを摘んで持ち上げる。テーブルの向こうに、長い髪を襟足で結んで、ワイシャツを着崩した軽薄そうな男が立っていた。
「君がジョルノ・ジョバァーナ。エヴァンゲリオン初号機専属にして、ネルフ史上初の"サブパイロット"か」
男はズボンのポケットに左手を突っ込みながら、右手で無精髭の残る顎をさすっている。
「戸籍なし、マルドゥック機関の登録なし。第三の使徒襲来に合わせて、ネルフに突如として現れた問題児。ネルフに身柄を拘束されるも、二週間でその内部をほぼ掌握せしめた、悪魔のような手腕を持つ中学生・・・」
「アンタ、誰です?」
「おっと、こいつぁ失礼」
男は全く悪びれた様子もなく、着崩したワイシャツの胸ポケットから、よれよれの名刺を差し出してくる。
「俺は加持、加持リョウジっていうんだ。ま、これでも一応ネルフの職員だ。仲良くしてくれると嬉しいね」
差し出された名刺を、僕は受け取らずに見つめる。
なんともはや、胡散臭さのすごい男だ。あの碇ゲンドウとは違う。目の前の男は、一見ひょうひょうとした態度を取っているが、その身のこなしに隙がない。見た目のだらしなさも、それをカモフラージュするための装いのようだ。
「葛城さんの知り合いですか?彼女なら今はブリッジにいると思いますがね」
「お?葛城たちと一緒じゃないと信用できないかい?それまでは俺とはあまり話したくないか」
「ええ、まぁ」
「なるほど?噂に違わぬ人物のようだ。なんでまたネルフになんて来たんだ?君ならどこでも上手くやってけるだろーに」
「それ、答えなくっちゃあダメです?」
「くくっ。いいや、大丈夫だ。後でこっそり教えてくれるんなら嬉しいが」
そう言うと、男、加持リョウジは踵を返した。
「まぁまた後で会うと思うが、これからよろしくな。なんせこれからは同じ職場で働くんだ。あんまり堅苦しいのは好きじゃない」
「奇遇ですね。僕もですよ」
男はくくくっと含み笑いをすると、手を振りながら食堂を出ていった。
・・・・・・・・・さて、なかなか厄介そうな男だ。ネルフの上層部に蔓延っている、無能なゲスのような雰囲気じゃあない。優秀だ。彼は僕の事を独自に調べ上げ、その上で僕に接触してきた。
優秀であるが故か、何を考えているのかは、今はまだ掴みきれない。こんな人物があの碇ゲンドウとかの配下として存在するならば、それは一番に警戒すべき事だろう。あの無能の無理難題を押し通すためにああいった人材が存在するならば、ネルフ運営の要はいまの加持とかいう男なのかもしれないな。
まあ、警戒するに越した事はないが、警戒し過ぎても仕方ない、か。
僕はハンカチを顔に落とすと、再び息を大きく吸い込んで、今度こそ微睡の中に落ちていった。
◇
ワイワイ、がやがやと騒がしい連中が食堂に入ってきた。どうやらシンジ君達が休憩のために食堂に来たみたいだな。
僕の寝ているテーブルの隣に、加持さんとやらにラングレー、シンジ君。その向かいに葛城さん、トウジ君、ケンスケ君と並んで座る。
さりげなく僕の隣に座れるような位置に陣取った加持さん、か。可能なら僕も会話に巻き込みたいってところか。
「今、付き合ってるやつ、いるの?」
「ジョルノ〜?いい加減頭冷めたぁ?」
「・・・えぇ、ご迷惑をお掛けしました」
「ナチュラルに無視かよ!?つれないなぁ」
僕が顔にかけていたハンカチを取ると、横では加持さんが苦笑しながら机に頬杖を付いていた。
どーでもいいが葛城さん。今の、無理やり僕を会話に巻き込んだな。
僕はため息を吐いて椅子に座り直した。
「ジョルノ君と、そっちの君は葛城と同居してるんだって?」
「え?えぇ・・・・・・」
僕はもう違うけどな。
「彼女の寝相の悪さ、直ってる?」
それを聞いた
「なっ、なっ、なっ、何言ってるのよ!?」
「相変わらずか?碇シンジ君」
悲鳴をあげた葛城さんを無視して、加持さんはシンジ君に喋り続けている。
「えっ、ええ・・・・・・あれ?どうして僕の名前を?」
「そりゃあ知ってるさ。この世界じゃ、君は有名だからね。何の訓練もなしに、エヴァを実戦で動かしたサードチルドレン・・・」
シンジ君の疑問に答えながら、加持さんは僕の方に向き直った。
「そして、突如として現れ、ダブルエントリーをしたにも関わらず驚異のシンクロ率70%を叩き出したサブパイロット、ジョルノ・ジョバァーナくん♪」
「はぁッ!?」
加持さんの向こうで驚きに固まっていたラングレーが、素っ頓狂な声を上げた。
「それは戦闘中の話だ。火事場の馬鹿力ってヤツですよ。初めて乗ったときは確か、50%くらいだったか?シンジ君」
「えっと、確かそうだったよね」
「50パーッ!?二人乗りで!?」
ラングレーの声が少し喧しいな・・・。そこまで驚くほどの数字でも無いだろうに。
僕の気持ちを察したのか、加持さんが苦笑いしながら説明してくれる。
「ジョルノ君。君が思ってるほど、エヴァのシンクロ率ってのは高くならないんだぜ?君たちのシンクロ率は文字通りの世界記録だ。・・・まっ!所詮はエヴァを動かすための指標の一つでしかないんだがな!」
加持さんは僕に話しかけながら、横でショックを受けているラングレーへの気遣いも忘れない。
やはり、この男のアンテナは全方位に向けて鋭く張り巡らされている。どこかの葛城さんとは大違いだな。良いか悪いかは別として、何か裏があるようで僕としては少しやり辛い。
「ねぇねぇ、惣流さんのシンクロ率はどのくらいなんだい?」
あ!?シンジ君!?
「あぁん!?それがあんたに関係あるわけぇ!?」
・・・・・・見え見えの地雷だったじゃあないか。なんでわざわざ踏み抜いたんだ、シンジ君。
「いや、僕さ・・・一人で乗る時は30パーから良くて40行くか行かないかくらいのシンクロ率なんだ。ジョルノ君が乗ってくれると、結構良い数値までいくんだけど」
「ふんッ!つまり、あんたはあのジョバァーナって奴がいないと何もできない凡人ってわけね!」
おっと、この女。さりげなくシンジ君を見下したな。プライドが高いのは大いに結構だが・・・・・・。
「下手に人を見下すと足元掬われるぜ?ラングレーさん」
「あぁん!?あんたには話しかけてないでしょうが!!」
狂犬か、こいつは。話しかけた相手誰にでも噛み付くんじゃあない。
「あはは。惣流さんの言う通りなんだよ。僕一人だと結構バカやっちゃって・・・・・・そうだ!惣流さんもジョルノ君と一緒に乗ってみたら?もしかしたら凄く良い記録が・・・」
「ぜぇったい、イヤッ!!」
だろーな。こっちも願い下げだ。
「そっかぁ・・・・・・じゃあ僕は?僕と一緒に乗るのはどうかな?」
・・・・・・んん?
「・・・・・・あんたがぁ?アタシと?」
「うん!もしかしたら、エヴァって二人乗りの方がシンクロ率が良くなるのかもしれないし・・・それに見てみたいんだ。惣流さんのエヴァンゲリオン!ダメ、かな?」
・・・・・・おいおいおいおい。随分とグイグイ行くなぁシンジ君。君、女の子に対しての距離の詰め方が天然ジゴロのソレだぞ?サクラちゃんに対してもそういえばそうだったが。
僕は葛城さんの方に何気なく視線を向けた。葛城さんは輸送ヘリの中で見せたようにバチコーンとウィンクを返してきた。
ああ、そう言うことか。葛城さん、やけに民間人も連れてやってきたって思ってたが、要はこの惣流・アスカ・ラングレーと気の合いそうな同年代の子を連れてきたかったのか。
まぁプライドの高い少女だ。これからのネルフでの活動に先駆けて、ラングレーの気持ちをほぐしてやりたかった、って所か。
「ふ、ふーん・・・・・・そこまで言うなら、エヴァを見せてやらない事もない、けど・・・」
そして、ラングレーは意外とチョロかった。
「本当!?ありがとう!惣流さん!」
「・・・・・・でいいわよ」
「え?」
「アスカでいいわ。惣流さん、なんて呼ばれ慣れてないし、アスカでいいわよ。その代わり、アタシもあんたのことシンジって呼ぶから」
「オッケー!わかったよ。改めてよろしくね、アスカさん!」
そういって笑顔で握手の手を差し出すシンジ君。それを、若干頬を染めながらもラングレーは握り返した。
「まっ!そうと決まれば善は急げ、ね!シンジ!アタシのエヴァを見してあげる!」
「本当?ミサトさん、行ってきてもいいかな?」
「ええ、ええ、いってらっしゃい!私たちはここでコーヒーでも飲んでるわ!砂糖なしでね!」
葛城さんがグッと親指を上げる。それを見たラングレーとシンジ君は、手を繋ぎながら食堂を出ていった。
「・・・わいもコーヒー貰うかな、ブラックで」
「僕もかな。いやぁ〜んな感じ・・・」
「いやはや、若いってのはいいね!こう、過去を振り向かないところとか、さ!」
トウジ君、ケンスケ君の後に続く形で、加持さんも席を立ってコーヒーを受け取りに行っている。
「・・・・・・で、葛城さん的にはどーなんですか?あの関係」
「正直ぶっちゃけると、ね。シンちゃんがあそこまでグイグイ行くとは思わなかったわ。シンちゃんのおかげね。アスカがあんなに他人に心を開くってあんまりないし」
「そういう意味では、葛城さんの目標は達成されたって事でいいんだな?」
「まぁ、初対面だし?あれくらいでちょうどよかったんじゃない?ジョルノはどう思う?」
うーん、僕としては彼女は苦手なタイプだったな。なるべく接したくないってのが本音だ。
しかしまぁ、これからネルフで一緒に訓練を受けていくんだろーが、そういった意味でシンジ君がラングレーを連れ回してくれる分には大丈夫だろうと思う。
そう。問題さえなければ、な。
問題が起きる時ってのは、いつだって今なんだ。
つづく