ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
突然の大きな衝撃に、空母が揺れる。
「今のは?」
「水中衝撃波、ね・・・・・・ちょっちマズいかもしんないわ」
葛城さんの顔に緊張が走る。葛城さんは飲みかけだったコーヒーをぐいぃっと一気に飲み干すと、ガタンと席を立ち上がった。
「ブリッジへ行くわよ。ジョルノも付いてきて」
「了解。しかし、まさかとは思うが使徒ってところか?」
「それも、たぶん水中から攻撃できそうなタイプね。海の上では厄介な相手よ」
緊張感を持ちながらも、葛城さんは食堂の外へと飛び出していく。僕もその後に続くが、なぜかトウジ君やケンスケ君まで付いてきた。
「君たちは食堂にいた方がいいんじゃあないか?」
「冗談言うなよジョルノ!モノホンの戦闘が間近で見れるんだぜ?これはビデオに残して家宝にしなくっちゃ!」
「まぁワシは、ケンスケが前みたいにバカやらかさんよう、見張りっちゅーわけやな」
それを聞いた僕は流石に呆れてしまった。ケンスケ君、あれほど文字通りに痛い目を見たっていうのに、まだこの状況ではしゃげるのか。
まぁ、好きなものをとことん突き詰めていくその姿勢は嫌いじゃあないが。
「安全を第一に考えるんだ。それが絶対条件だ。いいね?ケンスケ君」
「ああ、もちろんだよ!」
笑顔で返事を返しながらも、その手が微妙に震えているのがわかる。どうやら彼の中のトラウマは消え去ったわけではないらしい。が、それでも大好きなものを追い求めたくなるってんなら仕方ない。
「トウジ君、ケンスケ君を頼むよ」
「よっしゃ!任しとき!」
二人が強く頷いたのを見て、僕は再び葛城さんの後を追った。
しかし、マジに使徒が来ていたとして、どうする?今この場にあるエヴァといえば、輸送中の弐号機だけだ。活動時間もそんなに無いだろーし、相手は水中だ。時間内に倒せるとは到底思えない。
そもそも、なぜ、使徒はこの艦隊を襲ってきた?
使徒がなぜか第三新東京市を狙ってやってくるのは知っていたが、この船を狙う理由がわからない。たまたま通りすがりに見つけたから、で襲ってきたというのも考えられなくはないが。
とにかく、現状把握が必要だな。
◇
『シンベリン沈黙、タイタス・アンドロニカス、目標、確認できません!』
「くそぉ、何が起こっているんだ!!」
ブリッジでは無線を通して、戦闘指揮を執っている艦長の姿があった。今まで体験した事のない戦闘を前に、頭に血が上っているっぽいな。
「ちわー!ネルフですがぁ、見えない敵の情報と、的確な対処はいかがっすかぁ〜?」
「戦闘中だ!見学者の立ち入りは許可できない!!」
まさに火に油を注ぐがごとく、葛城さんが艦長を煽る。
「これは私見ですが、どう見ても使徒の攻撃ですねぇ〜」
「全艦、任意に攻撃ッ!」
艦長が葛城さんを無視して指揮を執る。
「なあ、葛城さん」
「あら、何よ?ジョルノ」
「さっきブリッジで艦長と会ってたんだよな?・・・・・・もしかして喧嘩でもしたんですか?」
「嫌ぁね!別に喧嘩なんかじゃないわよ!ただ、ちょこーっと艦長としての権限を振り翳されて、マウントを取られたって事くらいかしらぁ?」
葛城さんの額に僅かに青筋が浮かんでいる。なるほどね。葛城さんのふざけた態度は先ほどの意趣返し、ってところか。
「しかし、なぜ使徒がここに・・・・・・まさか、弐号機?」
葛城さんはブリッジに堂々と入っていきながら、懸念している事柄を呟いた。どうやら、僕と同じ疑問を抱いているって感じだな。
そうこうしている間も、艦隊は水中の敵に向けて魚雷や砲撃を撃ち込んでいく。ただし、そんな火力じゃあATフィールドを打ち破れないのは当然だがな。
「なぜ沈まん!?」
「やっぱエヴァやないと勝てへんなぁ〜」
「ぐっ!」
何気ないトウジ君の一言に、艦長と副長の顔が真っ赤に染まる。
「葛城さん、どうする?動かせるエヴァが無い以上、このままじゃあ全滅だが・・・・・・葛城さん?」
僕は葛城さんに指示を仰ごうと話しかけた。だが、葛城さんは何かを考え込んだように手に口を当てて黙り込んでいる。
「変ね・・・・・・まるで何かを探してるみたい」
何かを、探している?
僕はケンスケ君の持っていた双眼鏡を借りると、使徒が起こしたと思われる波飛沫の動きを追った。確かにヤツの動きは、何かを探すように水中でぐるぐると回っており、時折、意を決したように船に突っ込んでくる、という動きの繰り返しだ。
依然、使徒の被害は出続けている。だが、葛城さんが感じた疑問点は僕も気になる所だ。無視していいような問題では無いと、僕の勘が警告している。
「葛城さん。ヤツの目的は不明だが、どのみち被害は出続けている。どうするつもりだ?」
「・・・・・・そうね、弐号機を起動させたいわ。でも弐号機の乗ってる船に電源は無いから、こっちの本艦にどうにか持ってきたいんだけど」
だろーな。それが妥当か。
「そうだな。じゃあ弐号機の乗ってる船に、この空母を近づけるしかない。移動の進言は、葛城さんから艦長へ。頼めますか?」
「もちろん。ジョルノは悪いけど敵の観察を続けて。何か変化があればすぐに教えて」
「了解」
さて、ある程度作戦の方向が決まったところで、僕は再び双眼鏡で使徒の観測を続ける。
敵の動きは単調だ。前の使徒みたいにビームをぶっ放したりはしてきていない。体当たりだ。それしかやってこない。これなら対処は難しくはないだろう。普通ならな。
ただ、使徒特有のコアが見当たらない。体内にあるのか?厄介な。
それにしても、使徒の目的が分からない。第三新東京市を目指さず、執拗に艦隊を攻撃する様は、確かに何かを探しているようだ。
つまり、『使徒の目的となるものが、この艦隊のどこかにある』、ということだ。
さっき葛城さんが『エヴァ弐号機がそうなのか?』と思案していたが、不思議な事に、使徒はその弐号機が乗っているはずの船を何度か見逃している。単純にエヴァが起動してないから、とも考えられるが・・・・・・。
いや、違うな。
『弐号機が起動してないから、弐号機を狙わない』。それではおかしい。辻褄が合わない。
使徒は『弐号機が起動してようがしてまいが艦隊を狙ってきた』のだから。ここが重要だ。
つまり、弐号機は使徒の目的では無い。推測だが、たぶん合っているはずだ。
じゃあ次は、『使徒の目的とはなんなのか』だ。だがこれは、今の僕たちでは推測のしようがないな・・・・・・。
そこまで考えを巡らせた、その時だった。
『オセローより入電、エヴァ弐号機起動中!』
「な、何ィィイイイイイイッ!?」
「なんだとぅ!?」
「ナイス!アスカ!!」
僕と艦長からは同時に悲鳴が、葛城さんからは歓声が上がった。
「待て!起動が早すぎるッ!まだ空母は弐号機の船まで近づけていないぞ!?」
「いかん!起動中止だ、元に戻せ!」
「構わないわ!アスカ、発進してッ!!」
「フザケるんじゃあないぞ!!?葛城さんッ!」
僕の怒声に、葛城さんの動きが一瞬止まる。その隙を見て、艦長が艦内マイクを葛城さんからもぎ取った。
「起動中止だ!エヴァ、およびパイロットは我々の管轄だ!勝手は許さん!」
「ッ!何言ってんのよ、こんな時に!段取りなんて関係ないでしょ!?」
「やめろ葛城さん!!死人が出るぞ!!」
僕の叫びを聞いたブリッジの面々が、一斉に口をつぐんだ。視線が僕に集まってくるが構っている暇はない!
僕は艦内マイクを使い、エヴァンゲリオン弐号機に呼びかける。
「おい!そこにいるのは惣流・アスカ・ラングレーか!?何をやってるんだ!勝手にエヴァを動かすんじゃあない!」
『あ、ジョルノ君?』
!?
この声・・・・・・!
「まさか、シンジ君が動かしてるのか!?シンジ君、今すぐエヴァを止めるんだ!」
『いや、僕は・・・・・・』
『シンジはアタシのゲストよ!アタシの華麗な操縦を特等席で見せてあげんのよ!』
・・・ッ!?くそッ!やっぱりか!!この娘は・・・!
「今すぐエヴァを止めろ!!」
『はん!一人でエヴァも動かせないようなサブ如きが負け惜しみ?あんたはそこで、指でも咥えて見てろっちゅーの!』
「本気ですか!?」
僕とラングレーのやり取りに、艦隊の副長だろうか?それなりに権威のありそうな男が悲鳴を上げた。
「エヴァはB型(通常)装備のままです!海にでも落ちたら・・・!」
『落ちなきゃいいのよ』
その悲鳴に、事もなげに応えるラングレー。
「どうやって戦うつもりだ!そっちの船には電源ケーブルが無いだろうッ!!」
『あぁん?決まってんじゃない・・・』
一瞬の沈黙のあと、ラングレーは勝ち誇ったように宣った。
『飛び移んのよ!そっちの空母まで、ね!』
「〜〜〜ッ!!シンジ君!その馬鹿を止めろッ!殴ってでも止めるんだ!!」
『え!え!?ジョルノ君、なんで・・・・・・』
『ちょっと!サブパイロット如きが余計な口出ししないでよね!シンジはアタシの・・・・・・』
「そんなくだらない次元の話をしているんじゃあないッ!!ラングレー!君はこの空母まで、『どうやって』飛び移ってくるつもりだ!?その船からこちらの空母まではまだ相当の距離があるぞ!?」
『んなもん!『船をいくつか踏み台にする』に決まってんでしょーがッ!!』
その言葉を聞いた瞬間、僕の背筋が僅かに、だが、確かに凍った。
こ、こいつ・・・・・・!
『分かっていて』、やる、と言うのかッ!!
僕の中の怒りの沸点が一気に急上昇する。それに合わせて、僕の言葉に込められた温度が氷点下にまで一気に下がった。
「・・・・・・やるつもり、なんだなラングレー?今、ここで、それをやると、そう言うんだな?」
『あったり前でしょ!!いくらアタシと弐号機でも、電源が確保されていなきゃ戦闘は厳しいわ。見てなさい!今から華麗なアタシの操縦を・・・・・・』
「もう一度聞くぞ、惣流・アスカ・ラングレー。・・・・・・『やる』と、そう言うんだな?」
『ジ、ジョルノ君?』
僕の声音の変化に気付いたシンジ君が、僕に問い掛ける。その声に、僕の中の怒りは一瞬だけ和らいだ。本当に一瞬だが。
「答えろ。惣流・アスカ・ラングレー。お前は、僕たちのいる空母まで、『戦艦を踏み台に飛び移ってくる』と、そう言うんだな!?」
『な、何よ!!それがなんだって言うのよ!使徒を倒すためだったら、やって当たり前の行動でしょーがッ!!』
僕の中で、惣流・アスカ・ラングレーの評価がどんどんと下がっていく。これは僕個人の、極めて限定的な、ラングレーに対する評価だ。だが、僕はそれを改めるつもりはない。
はっきり言うぞ?
惣流・アスカ・ラングレーは、無能だ!!
「わかった。やりたければやればいい。だが、『理解』して言ってるんだよな?だったら、シンジ君は即刻そのエヴァから降りてもらおうか」
『!?はぁッ!?』
『ジ、ジョルノ、君・・・・・・?』
「僕はシンジ君を『人殺し』にするつもりはない。もしソレをやるというなら、ラングレー。『シンジ君を降ろすんだ』」
ラングレーの素っ頓狂な声と、何かを感じたシンジ君が声を上げたが、悪いが知ったこっちゃあない。
その時だった。
「輸送艦オセローに!敵影が急速接近中!!」
「!?・・・くっそ!」
『アスカ!後58秒しかないよ!?』
『わかってる!ミサト!非常用の外部電源を甲板に用意しといて!』
「ッ!わかったわ!」
葛城さんがその要請に応じると同時に、僕からマイクを奪った葛城さんが、艦内マイクを使って空母の人員に向かって適切な指示を飛ばしていく。
その声が全艦に届けられると共に、エヴァンゲリオン弐号機が自身の乗っている船から跳んだ。
ああ、ちくしょう・・・・・・。
僕は自分の無力さに、視界に知らず知らずの内に溜まった涙に、無力な自分を呪うように涙が溜まっていく。
エヴァンゲリオン弐号機は跳んだ。跳んでしまった。
そして、次の飛び移られた戦艦に目が行く。どう考えても、船の第一層、それを踏み抜いた巨人を前に──、
「ラングレー・・・・・・」
僕の声が、彼女に届いたかはわからない。だが僕はこの声を、彼女が聞いていようがいまいが、絶対に、届けなければならないと心の底から感じていた。
「いま、お前が踏み抜いた戦艦にいた人々は、まさしくお前が自分の意志で、その判断で以て、踏み潰して殺したのだ」と・・・・・・。
つづく