ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
僕の横でオーバー・ザ・レインボーの艦長が、目深に被った帽子のツバを大きく下げた。時に人は、目の前に突如として現れた残酷な現実に耐え切れず、その目を逸らすこともある。
だが、僕は決して逸らしはしない。
僕が今、目の前の現実を直視して思い出すのは、あの『じいさん』だ。彼の人となりを、僕は知らない。だがあの『じいさん』が僕の心の中から消えることは決してないだろう。
人懐っこい、その笑顔も。
重い荷物を両手に持った時の、困り顔も。
そして、その魂を無為に奪われたときの、死に顔も。
僕の中に根付いている。それが消えることは決してない。
ギャング入団のための試験。僕はそこで初めて『無関係な人を死に至らしめた』。
ライターの『再点火』は僕の行動が原因だった。あのじいさんはどうしようもなかった。すごく、イヤな気分だ・・・・・・自分の行動は正しいと信じているが、とてもドス黒い気分なんだ。
だが、それでも。
このジョルノ・ジョバァーナには正しいと信じる『夢』がある。今も辿り着けず、しかし追い続ける、黄金に輝く『夢』がある。
その輝きがあるからこそ、出来上がったのが僕という人間だ。そこに後悔はない。なんの汚れもないと、いや、汚れていてもなお輝き続けると言い切れるだけの『夢』が僕の心の中にはある。
だが、この世界で。僕とは違う世界で。エヴァンゲリオンや使徒というものが存在する世界で生きている人たちは、僕の価値観とは全く違うものを持っているのかもしれない。
人類を守る、というのは途方もない事だ。僕個人の持つ『夢』なんぞ糞の役にも立たないと、そういう人間もいるのかもしれない。
だからこそ、僕は聞きたい。
『いったい何人の生命を、その目的のために吸い取った?』
きっと答えはこうだ。
『お前は今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?』
そこまではいい。それは普通の反応だ。何も間違っちゃあいない。
だが、次の質問にも答えてくれないか。
『今まで食ったパンの枚数を数え直した時、お前の魂は耐えられるのか?』
大きく頷くのか?
それとも泣き喚くのか?
どうなんだ?惣流・アスカ・ラングレー。そして、巻き込まれたとはいえ、その道を経てしまった、碇シンジ君。
君たちの『心』は、果たして、写し出された景色を面と向かって受け入れられるのか?
それを、僕に教えてほしい。
◇
戦艦が踏み潰された瞬間、幾つもの悲鳴を聞いた気がした。
弐号機はそこから屈んで、さらに跳躍。この空母、オーバー・ザ・レインボーに向けて、近くの戦艦に次々と飛び移ってくる。
巨人に飛び掛かられた戦艦は、遠くから見ていても分かる。沈みこそしないものの、確実に船の内部を踏み潰されていた。
「葛城さん。教えてほしい」
「あ?何よ、ジョルノ?」
「これは『必要な犠牲』というヤツ、ですか?」
「!」
葛城さんの顔が、一瞬だけ凍った。本当に、一瞬だけだったが。
「・・・人類を守るため、よ。それに、今エヴァを動かさないと、私たちは全滅するわ・・・・・・それくらいは、分かるわよね?」
「後半はな。前半は、同意しかねるが・・・・・・」
僕は両手を握りしめて、唇を強く噛んでいた。唇が切れて、少しだけ、血の味がした。
『エヴァ弐号機!着艦しまーすッ!!』
ラングレーのどこか陽気な声とともに、空母の滑走路にエヴァンゲリオン弐号機が着地した。
そこに至るまで計4度。エヴァンゲリオン弐号機は戦艦を踏み潰した。
「目標!本艦に急速接近中!!」
『来るよ!左舷9時方向!』
『外部電源に切り替え!・・・・・・切り替え終了!』
シンジ君とラングレーの声が艦内にアナウンスとして響き渡る。海に目を向ければ、エヴァンゲリオン弐号機を明らかに「敵」と見なした使徒が空母に向かって突っ込んでくる。
僕は、その一連の流れを、黙って聞いていた。聞いていることしかできなかった。
今、目の前で起こった惨劇を、当の本人たちは気付かずに状況は進んでいっている。
今、彼らがこの空母に乗り移ってくるまでに、いったい何人の人間がその命を踏み潰されただろう。なんの目的も崇高な意思もなく、無惨に命を散らされた人たちが何人いるだろう。
子供の遊びに付き合わされて、最後は嬲り殺される蟻と何も変わらない。そんな人生の終わりを味わった人が何人いるんだろうか。
その命を惜しむ声は、今この場にはない。より大きな目的のために、『使徒殲滅』のために動いている人たちがいるからだ。
この艦隊に乗っている人たちもそうなのだろうか。セカンドインパクト。使徒襲来。そういった現実を目の当たりにし、いつ命を落としてもおかしくないのだと、この世界の人間は『覚悟』を決めているのだろうか。
怒りも悲しみもない。僕の胸にはただ、空しさだけがあった。
きっと、あの少年少女は気付かないだろう。誰かに指摘されなければ、一生気付くこともないのかもしれない。
『でもアスカ、武装が無いよ!』
『プログナイフで充分よッ!!』
その子供の遊びのような会話に、苛立ちを覚えなかったと言えば嘘になる。
だが、その現実を踏まえた上で尚!この『世界』が人類存続のために戦い続けると叫ぶのならば!
僕はこの『世界の覚悟』に敬意を払おう!
その上で!!
このジョルノ・ジョバァーナには夢がある!弱者が虐げられる事のない!未だ見果てぬが故に、正しいと信じ続ける、輝ける『夢』がッ!!
「シンジ君ッ!!」
気付けば僕は、マイクに向かって叫んでいた!
「Lesson1だ!『覚悟とは』!?」
『ッ!!』
マイクの向こうで、シンジ君が息を呑んだのがわかる。そして意を決して、彼は叫んだ!
『暗闇の荒野に、進むべき道を切り開くこと!!』
『はぁ!?ちょっと、シンジ?何叫んでんの!?』
「ベネ!シンジ君!君は充分に学び、そして成長したッ!ここからは、君の『行動』が!暗闇の荒野を照らす光になるッ!」
『いや、待ちなさいよジョバァーナ!あんたもいきなり何を叫んでんのよ!?』
ラングレーの問いを、僕は無視した。シンジ君も同様に、僕に問いを投げかける。
『ジョルノ君!どうすれば!?』
「葛城さん!この使徒は、この場で倒さなくっちゃあダメな存在か!?」
シンジ君の問いを受けながらも、僕は葛城さんに問いかけた。葛城さんは僕たちの言葉に火が付いたように、即座に答えを返してきた。
「ここで仕留めなきゃ、私たちは終わりよ!蹂躙されて、海の藻屑になるわッ!」
「グラッツェ!ならシンジ君!」
僕はシンジ君に改めて呼びかける。瞬間、海面をぶち破って、鋭い牙の並んだ大きな口を開けて迫る使徒!
『!!』
『ちょっ!?シンジ!?』
ラングレーの驚愕の声とは裏腹に、ぶつかってきた相手にそっと手を添える弐号機!そこから、まるで柔術の達人のような動きで使徒の動きを逸らした!
「ベネ!その動きだ、シンジ君!今はそれで耐えろ!ヤツの動きはこちらで観察する!」
『わかった!信じるよ、ジョルノ君!!』
シンジ君の答えとともに、動きを逸らされた使徒が海面へと叩き付けられた!その反動で波飛沫が空母に降り注いでくる!
『ちょっとシンジ!アタシの弐号機を勝手に動かさないでよ!』
『痛ッ!いたッ!ごめん、つい・・・・・・』
通信の向こうが騒がしいが、そっちの事はシンジ君に任せておこう。
「葛城さん、敵のコアは見えたか!?」
「・・・!いや、一瞬だったから見えなかった・・・・・・いえ!口の中よ!一瞬だったけど、確かに見えたわッ!」
葛城さんの頬が獣のようにぎぃいッと上がる。どうやら僕と同じ『道』が見えたようだな!
その上で──、
「どこまで、だ?葛城さん。どこまでの被害なら許容範囲だ?」
葛城さんは一瞬だけ思案したあと、意を決した様に声を荒げた。
「二隻よッ!!」
「ベネ!ならばそれは『最後の手段』だッ!『
「ど、どういう事だ!?」
空母の艦長が僕たちの会話についてこれずに疑問の声を上げた。
「使徒を倒すには、近接戦闘がベストです」
「そうだ。それを踏まえた上で、ここからは一切の犠牲を出さないッ!それが『覚悟』だ!・・・・・・シンジ君ッ!!」
『わかった!』
僕の声に応える様に、エヴァ弐号機がプログナイフを再び構えた。
『アスカ!次で決めよう。次にヤツが来たら・・・・・・』
『・・・・・・・・・・・・はぁッ!?ウソでしょ!?』
「残念ながらマジだ、ラングレー。それがシンジ君の『覚悟』だ。お前も自分をエヴァのパイロットだと言うのなら、お前の『覚悟』も見せてみろ!」
『・・・ッ!!ずいぶんと、人を煽るのが上手ね、ジョバァーナ・・・・・・やったるわッ!!』
ラングレーの気合いの入った声が返ってくる。海を見れば、使徒の起こした波飛沫が旋回して、再び空母へと迫ってくる!
『いくよ!アスカ!』
『ナメんじゃないわよッ!』
『『来い!!』』
海面から使徒が飛び出す!エヴァの巨体すらも飲み込んでしまえそうな、その大きな口は──!
『どぉぉおおりゃああああああああッ!!』
ラングレーの裂帛の気合いとともに、エヴァ弐号機を飲み込んだ!!
「喰われとるじゃないかッ!!?」
つづく