ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
ボロボロになったアルピーヌルノーを、僕ら三人は力を合わせてひっくり返した。
本当は僕の『ゴールド・エクスペリエンス』を使えば簡単だったんだが、この二人の前ではまだ僕の『能力』を見せたくなかった。
きっと聞いてくるだろ?「今の何?」って。それを説明するのはメンドーだ。少なくとも安全な場所に行くまでは、わざわざ二人にワケのわからん『能力』を見せる必要はない。
「あーあー・・・まだローンが33回もあんのに〜・・・・・・」
葛城さんはボロボロになった愛車を前に涙目だ。なんとかしてやりたいとは思うが、僕にそこまでしてやる義理はないな。
それよりシンジ君だ。『碇ユイ』の依頼である『息子を助けてほしい』というお願い。受けたからには完遂するつもりだが、正直に言えば、命の危機という意味でなら既に結構な修羅場を越えていると思う。
これだけ、じゃあないのか?まさか彼には、もっと過酷な『運命』が待ち構えているとでもいうのか・・・?
「これ、動くんでしょうか・・・?」
「うう・・・、ちょっち待っててね・・・・・・」
葛城さんを心配したシンジ君が、慰め半分に車を気遣っている。葛城さんは車が動くかどーか確認中だ。
その間、僕は爆発のあった市街地を見張っている。とゆーか、もはや街なんか無くなっていた。アレだけの爆発だったからな。
だが、僕はそんなことより、爆心地と思われる場所に立っている『モノ』に目を奪われていた。
「ま、まさか・・・・・・アレだけの爆発でも死んでいない、というのか・・・ッ!?」
驚きを隠せない。街一つを犠牲にしているにも関わらず、あの黒い巨人は立っている。今はダメージがデカいのか動いていないが、あの存在感が僕に「ヤツは死んでいない」という実感を叩きつけてくる。
正直、あの怪物をどーにかしろと言われても、僕には手に負えない。流れてくる冷や汗を僕は拭った。
「よっし!大丈夫!動くわ!」
「やったぁ!」
僕の背後でシンジ君と葛城さんが歓声を上げた。どうやら車は無事なようだ。
「さあ、シンジ君もジョルノ君も乗って!今からネルフまで飛ばすわよ!」
「ちょっと待ってほしいッ!葛城さん」
車に乗り込もうとしている葛城さん達を、僕は声をあげて止めた。
「・・・・・・」
「な、なによ?ジョルノ君?なんか問題でもあるわけぇ?」
「問題なら、ある。それも山ほど。葛城さん。僕は今、全てにおいて疑問を抱かなくっちゃあならない。・・・・・・葛城さん。貴女、『覚悟している』人、ですよね?」
「・・・・・・はぁ?」
「『命を捨てる覚悟ができている』。貴女の行動は、それに基づいて行われているようにしか思えない。これは僕の推測だが、葛城さん。貴女は『軍人』だ」
「え!?」
僕の推測に声を上げたのはシンジ君だ。そりゃあそうだろう。いきなり目の前にいる美しい女性が『軍人』だと言われたら、誰だって驚く。
だが言われた当の本人は、まるで驚きもしていない。いや、驚いてはいるだろう。だがその驚きは──、
「・・・なんでそう思ったワケ?」
という疑問だ。葛城さんは僕の推測を正しいと認めた上で、僕に問い返してきている。
「根拠はない。だが、貴女はこの状況に適応しすぎている。僕も相当な修羅場をくぐったという自負があるが、情けない事に、今は状況についていくのが精一杯だ」
無礼とはわかりつつも、僕は葛城さんに指を向ける。
「だが、貴女はそうじゃあない。貴女がシンジ君を迎えにきたこと。そして、その後の行動。あの巨人に対する反応や、車の運転や双眼鏡による観察。先ほどの爆発についてもそうだ。貴女は『爆発が起きる前から』あそこで何が起きるのかを瞬時に判断していた。だからこそ、僕とシンジ君を車に押し込み、結果として僕らは助かっている」
「・・・・・・」
「貴女はあそこで何が起こるかを知っていた・・・いや、もっと言えば、シンジ君を迎えに来ていた時点で『あそこで何が起こるのかを知っていた』ッ!あれはどー考えても軍事行動だ。それを知っているのは、同じ軍に所属している軍人ッ!」
「・・・・・・いや、仮にそうだとして何か問題ある?私はあなた達を助けただけだけど」
「大いにある!葛城さん。貴女が軍人であるということはすなわち、『貴女の所属している組織は軍事組織』だという事だ。確かネルフ、と言ったか。そこにシンジ君を連れて行こうとする理由を、僕は知りたいッ!!」
軍事組織。その言葉を聞いたシンジ君が青ざめている。
「・・・悪いけど、民間人に教えてあげるわけにはいかないわね」
「・・・・・・シンジ君」
「は、はい!?」
「これは僕の勘だが、君がこのまま葛城さんについて行くのはマズい気がする。僕はそれを見過ごすわけにはいかない。だから教えてほしい。君はなんと言われて、あそこで葛城さんと待ち合わせをしていたんだ?」
「そ、それは・・・・・・」
シンジ君が口籠もる。
「これも僕の勘だが、君は何も知らされてないんじゃあないか?」
「!」
「もしそうなら、僕の勘は確信に変わる。君は何かヤバい事に巻き込まれようとしている。それだけは避けなくっちゃあならない」
「・・・・・・・・・・・・」
シンジ君は少しの間迷ったあと、背負っていたリュックの中からくしゃくしゃになった紙切れを出して、僕に手渡してきた。
僕はそれを広げて中を見る。
「・・・ッ!な、んだ、これは・・・・・・ッ!」
それは何かの書類だった。だが問題はそこじゃあない。問題は誰かがデカデカと殴り書きした『来い!』という一言。
「ま、まさか・・・シンジ君!君が来た理由はコレかッ!?たったコレだけの事で!君はこの街に来たというのかァッ!?」
「碇シンジ君のお父さんは、私たちネルフの総司令官よ」
僕の驚きに対し、葛城さんが冷静に告げてくる。
「碇司令がご自分のご子息を安全な場所に呼び寄せた。それが理由よ。これで満足?」
葛城さんが肩をすくめる。だが──、
「いいや、ソレは違うッ!シンジ君!君はここに来る前、どこにいたんだ?この街の近くに住んでいたのか!?」
「え、いや、それは先生のところで、第三新東京市からはかなり離れているけど・・・・・・」
これで確定だ。確信した。『碇シンジ』は避難とはまた別の思惑で呼び出された!そーでなければ、わざわざこんな危険な場所に呼び出す理由が無い!そしてソレは十中八九、あの巨人にまつわる軍事行動に関係している!
あの手紙とも呼べない『来い!』のメモ書き。アレからは何か、邪悪なものを感じた。
もしアレがシンジ君の父親が書いたものなのだとしたら、そして、ソレが何も知らないシンジ君を『利用』しようとしているものだったとしたら・・・ッ!
僕はそれを徹底して阻止しなくてはならない。イタリアのあの7日間。あの何も知らない『ボスの娘』を守った、あの時のように。
「シンジ君、悪いが・・・」
「ジョルノ・ジョバァーナ君!悪いけどこれ以上事態をややこしくしないで。今はここから避難する。今、最優先すべきはそれよ」
「避難は賛成だ。だがシンジ君を貴女たちの組織に連れて行かせるワケにはいかない!」
「ちょっと!本当にもう!なんなのよ君は!!」
「ミサトさん・・・・・・」
今まで黙っていたシンジ君が口を開く。
「父さんは、僕に何をさせようとしてるんですか・・・?」
「・・・・・・それは私にもわからない。というか、教えられないわ。シンジ君はともかく、ジョルノ君は民間人なんだもの」
葛城さんは僕を睨んだ。そりゃそーだ。軍事行動なのだとしたら、その全容を民間人である僕に教えるわけにはいかないだろう。
「ジョルノ君は・・・」
「ん?」
次にシンジ君は、僕に聞いてきた。
「君は、なんでそんなに僕のために必死になってくれるの?」
シンジ君がまっすぐに、僕を見つめてくる。
それをまっすぐに見つめ返し、僕は言った。
「このジョルノ・ジョバァーナには『夢』がある!」
「・・・は?」
「正しいと信じる『夢』がある。僕を救ってくれた恩人は、搾取され蔑まれるだけだった弱者である僕を救ってくれた。それが僕の『正義の心』で『信じる道』だ。僕もそれを受け継ぎたい・・・」
「・・・・・・」
「そして、君の母親からの依頼もある」
「・・・っ!?母さんからの!?」
「ああ。だがその内容を今、話すわけには行かない。僕は民間人だ。下手したらネルフの実態を知った僕は、ここに置いていかれるかもしれない。それを話すのは、僕と君が安全だと思える場所に着いてから、というのはどうだろうか?葛城さん?」
「〜〜〜〜ッ!?」
「ミサトさん!僕からもお願いします!ジョルノ君も一緒に連れて行ってください!父さんのことも気になるし、母さんのことだって・・・!」
「〜〜〜〜くぅッ!」
悩んでる悩んでる。葛城さんには悪いが、今ここでシンジ君と離れるわけにはいかない。『碇ユイ』は『僕に息子の救いを求めた』。それを見過ごせば、それは僕の『夢』に背いた事になる。それだけは見過ごせない。
葛城さんは両手を振り上げ、しかしそれをどこに振り下ろそうか悩み、そして自分の車にそれをぶつけた。
「あ〜!もうっ、わかったわよ!とりあえずジョルノ君もシンジ君も!知りたいことはあとで教えてあげるわよーッ!でも私にも分からないことがあるんだから、それくらいは勘弁してよ!?」
シンジ君の顔が明るくなる。
「ありがとう!ミサトさん!」
「もうっ!とりあえず車に乗って!早く避難しないとヤバいのは変わらないんだから!」
「そーですね。じゃあ早速・・・・・・」
「ジョルノ君てタチ悪いわねッ!?」
「よく言われます」
とにかく、いざこざはあったものの、僕たちは車に乗り込んだ。
少しだけ、今回の『依頼』内容が見えてきたな。ネルフ、そしてシンジ君の父親。これらがキーになりそうだ。
それと、これからだな。シンジ君と葛城さん。この二人に信用してもらうためには、僕も『行動』しなきゃあならない。
それが具体的にどーいったものになるのかは、まだわからないがな。
つづく