ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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 さて、どうにかラングレーの怒りのラッシュによって使徒を撃退できたワケだが、やるべき事はたくさんありそうだ。

 

 使徒殲滅後、艦隊は海に落ちたエヴァ弐号機と使徒の死骸を回収した。その後、新横須賀(セカンドインパクト前は小田原と言ったらしい。僕はその辺り詳しくないのだが)に帰港したみたいだ。

 

 僕は空母の甲板に立って、その後のみんなの様子をなんとなく観察していた。葛城さんは迎えに来ていた赤木博士のところに今回の戦闘データを持って走っていき、そのまま何かを話し込んでいる。

 

 トウジ君、ケンスケ君はエスカレーター型のタラップで船を降りた。その後から続くように、誰かを探しているような様子のラングレーが、その後ろにはなぜかラングレーと同じ女の子用のプラグスーツを着ているシンジ君が、エスカレーターの流れに身を任せて船を降りていっていた。

 

 なんだか、シンジ君はトウジ君たちにからかわれてる様だがな。まぁ大方、ラングレーとお揃いのプラグスーツを着ていて、それをトウジ君やケンスケ君に指摘された、ってところか。

 

 そんな、ある意味で呑気な面々を見下ろしながらも、僕は眉間に皺を寄せて険しい顔を作らざるを得ない。

 

 今回の使徒戦。葛城さんの子供の遊びのような艦長とのマイクの奪い合いや、ラングレーの身勝手な行為など色々と文句を付けたい点はあるが、それらよりも優先して、やるべき事が僕にはある。

 

 すなわち、『加持リョウジとの接触』だ。

 

 使徒との戦闘時、彼が空母から逃げ出したことにより使徒の反応が目に見えて変わったのは明らかだ。使徒の、それも全ての使徒に共通するかもしれない目的ってヤツが僕には分からなかったが、今回の事で、その目的とやらも大分特定できそうだ。

 

 加持リョウジ。彼が何を持っていたのか、彼が何を船から持ち出したのかは今となっては分からないが、それでもあの油断のならない飄々とした男が、この『世界』における重要な情報を持っている事は明らかだ。

 

 『人類補完計画』。『碇ユイ』から教えてもらった情報は断片的だが、『全人類を一つ上の段階へ進化させる』というものだと聞いている。その具体的な方法などは、残念ながら教えてもらっていない。

 

 あの男から情報を絞り出す必要がある。そしてそれは、ネルフの職員の大半が知らず、ネルフの上層部だけが知っている、ネルフの『暗部』そのものなのだろう。

 

 それを知る術が、無いわけではない。ただ、僕の扱えるお小遣い程度の金銭では、ネルフの人員に賄賂を贈ったところで真実に辿り着く事は不可能だろう。この件については、恐らくだが、僕自身が出張らなくてはならない様な気がしている。

 

 

 

 それも、もしかしたら、僕の命を懸けて、だ。

 

 

 

 別段、僕にとっては悲嘆するべきことじゃあない。僕の所属するギャング組織の『パッショーネ』、そのボスへの裏切り。それを乗り越え、乗っ取った上での組織の粛正。この程度の難問は、僕は僕自身の手で出来うる限り解決してきた。もちろん、信頼している仲間たちの手を借りて、だが。

 

 だが面倒なことに、今、僕が面している組織は非公開とはいえ国連の組織だ。いや、非公開だからこそ、か。一国家にあるチンケなギャングのファミリーとは組織としての規模や完成度が違う。その事に、僕は自分の持つ能力が、太刀打ちできるのかを冷静に考えている。

 

 もちろん、僕は自身の輝ける『夢』に向けて突き進む事を全く苦だと思っては無い。だが単純に、僕の実力が国連という組織に対して足りているのか?という焦りのようなものは感じている。

 

 『碇シンジを助けてほしい』。僕が『碇ユイ』から受けた依頼は、気が付けばこの『世界』全体における問題になってきている感じがする。それに対して、『本当に僕なんかが役に立つのか』?そういった疑問が鎌首をもたげているのも事実だ。

 

 ただし、断じて言うが、僕からその『依頼』を反故にする事は絶対に無い。絶対に、だ。

 

 そうやって、この後に起きるであろうさまざまな問題に思考を費やしていると、いつの間にか僕の隣に人影が立っていた。

 

「君・・・・・・君の名前を聞いていなかったな。名前は?」

 

 その唐突な問いに、僕は視線だけをその人物に向けて答えを返す。

 

「ジョルノ・ジョバァーナです」

 

 隣に立った相手は、この空母の艦長だった。考えてみれば、彼にとって僕は騒ぎのドサクサに紛れてブリッジに紛れ込んだ異物だ。隣の彼からすれば、得体の知れない、真っ先に排除したかった人物であっただろう。

 

 今更ながらにその事実に申し訳無さを感じつつ、僕は隣の彼に意識を向ける。

 

 その人物は、そんな不審人物であるはずの僕の答えを聞いた途端、自分の帽子を脱いで厳かに胸に当てた。

 

「感謝する・・・・・・ジョルノ・ジョバァーナ。君の怒りが、私の心を救ってくれた。私の部下達を無駄に死なせたわけではないと、彼らの魂に私は言い訳ができる・・・・・・」

 

 その艦長の言葉に、僕の心に僅かに過ぎったのは動揺。しかし僕は、その動揺を無理やりに押し潰した。それは僕の隣で、死んでいった部下たちに対する責任を負う艦長に対して、最も失礼な行為だと思ったからだ。

 

 エヴァンゲリオン弐号機が踏み潰した戦艦の数々。それに乗っていたはずの彼の部下。無意味に、なんの意義も無いままにその命を散らしていった、彼の部下へ言い訳ができる、と。

 

 僕の横の彼は、自身の責任を立派に謳ったのだ。

 

「・・・貴方が貴方の心のうちを素直にぶち撒ければ、貴方の葛藤は随分と軽くなる気がしますが?」

 

「・・・・・・ふふ。君は凄い男だな。まだ成人もしていない身で、この世の理をとても、とても深く理解している。確かに君の言う通りだろう。・・・・・・だが、私がどれだけ死者のために怨嗟の声を上げたとしても、それが死者の魂の慰めになる事は決して無い」

 

 艦長は僕の横で、手にした帽子をくしゃりと握り締めた。

 

「そして、それを理解できない少年少女に押し付けるほど、私は、大人げない行動を起こすつもりはないんだ・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 僕はそれに対して、なんの答えも返す事ができないでいた。僕の眼下で、葛城さんは赤木博士と。ラングレーはシンジ君と何事もない日常的な会話を繰り広げている。

 

 ここから見える彼らの行動に対して、無責任だと思う気持ちは、確かにある。だが、去ってしまった者たちは戻ってこない。過ぎ去った時間は決して戻らない。

 

 それは、僕の『スタンド』を以ってしても、取り返しのつかないものだ。

 

 だからこそ、全ては『尊い』のだと、僕は理解している。

 

「貴方の・・・・・・」

 

「ん・・・・・・?」

 

「貴方の意思は、僕が引き継ぎます。僕は必ず、あの子供達に伝えます。去ってしまった者達の、心を、必ず・・・・・・」

 

「・・・・・・本当に」

 

 艦長の目に、キラリと光る何かが浮かんだ。

 

「本当に、君は凄い男だ。ジョルノ・ジョバァーナ」

 

 

 

 

「ねぇ!?加持さんはぁ!?」

 

「先にトンズラ!もう本部に着いてるわよ、あのブワァーカ!!」

 

 タラップを降りた僕の耳に聞こえてきたのは、軍用車に乗っていた葛城さんと、それに気安く話し掛けるラングレーの何気ない会話だった。

 

 その二人の後ろで、シンジ君が女の子用のプラグスーツを身に纏ってモジモジしている姿が見える。

 

 なんとも緊張感の無い光景だ。ついさっきまで、使徒という怪獣と命懸けで戦った事など吹っ飛んでいるんだろうか。・・・・・・吹っ飛んでいるんだろーな。

 

 僕はその光景に僅かに苛立ちを覚え、気が付けばラングレーの頭にチョップを見舞っていた。

 

「いったぁッ!誰よ!?・・・ってジョバァーナ!?」

 

「何を呑気してるんだい?」

 

 僕に対して、ラングレーが無邪気な敵意を向ける。それに対し、僕は本気の邪気を纏った視線をぶつけた。

 

「な、何よ・・・・・・?」

 

 僕の視線に込められた想いに、なんとなくだが気付いたんだろう。ラングレーは身じろぎながらも、その性格のプライド故か、僕に噛み付くように凄んでみせた。

 

 まあ、下らない見栄だがな。

 

「28人」

 

「・・・・・・・・・・・・は?」

 

「28人。この数字に、何か心当たりはあるか?」

 

 僕はあくまで静かに、本当に静かに、ドス黒い感情を言葉に乗せていた。

 

 それに対し、ラングレーは僕の言葉に込められた感情は読み取りつつも、その意味を理解できないと言うように首を傾げた。

 

 だから、僕はなんの躊躇もなく、ただの事実をラングレーにぶつけた。

 

「惣流・アスカ・ラングレー。君が君の意志で、エヴァンゲリオン弐号機で踏み潰してしまった事で、何の罪もなく死んでいった軍人の数だ」

 

「!!?」

 

 ラングレーの両目が驚愕に見開かれる。それはその横で、僕たちの会話の成り行きを見守っていたシンジ君も同様だった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 僕の言葉を受けて、ラングレーの血の気が見る見るうちに失せていく。だが、そんな個人的な感情、僕の知ったことじゃあない。僕はただ、起こった事実とその結果、ソレを口にしているだけなんだからな。

 

 だが、やがてラングレーは自分の意見に正当性を見つけたように、鬼の首を取ったかのように僕に凄んでみせた。

 

「はん!だからなんだって言うのよ!アタシが!自分の意思で、人を殺したって言いたいわけ?バッカじゃないの!?この世界で、人類の未来を守るためには必要な犠牲じゃない!!それをアタシのせいにして、あんた何が言いたいのよ!?」

 

 その言葉に、僕の心は急速に冷めていった。

 

 僕はべつに、惣流・アスカ・ラングレーという個人が嫌いな訳ではない。ただ単に、自分の取った行動の結果を、彼女自身が受け止められるのか、それを確認したかっただけだ。

 

 まぁ、無駄だったようだがな。

 

 僕はシンジ君をチラッと見やった後に、葛城さんに視線を向けた。

 

「この結果を、理解した上で、指示を出したんですよね?葛城さん」

 

 その僕の怒りの籠った視線を、流石だな。葛城さん。彼女は真正面から受け止めていた。

 

「犠牲は覚悟の上よ。その上で、私はエヴァを使う事を選んだ。後悔はないわ」

 

「そうですね。貴女は『覚悟している』人だ」

 

 僕の視線は、次にシンジ君へ。

 

「ジョルノ君・・・・・・」

 

 僕は黙って、シンジ君の顔を見つめ続ける。

 

「28人の、名前はわかるのかな・・・?」

 

「!」

 

「刻みたいんだ。僕達が使徒に勝利できたのは、その人たちのお陰だ。だから、忘れたくない。その人たちが確かにいた事を、魂に刻みたい・・・・・・」

 

 シンジ君。君の言う通りだ。過去は戻らない。だが、その去ってしまった人たちを誰かが覚えていてくれれば、その意志を継ぐものが、さらに先に進めてくれるだろう。

 

「ああ。後で、僕も一緒に教えてもらうよ」

 

 それを聞いたシンジ君は強く頷き、僕の後ろで顔を逸らしていたラングレーに近付いた。

 

「アスカ・・・・・・」

 

「なによ!あんたまでこのアタシに説教しようってわけ!?このバカシンジ!」

 

「そうじゃないよ。言ったろ?僕もバカをやったんだ。あそこに居るケンスケ、メガネの男の子なんだけど、僕は彼を踏み潰した事があるんだ」

 

「・・・・・・え?」

 

「ケンスケは助かった。その前は、あの隣にいるトウジの妹のサクラちゃん。それも大怪我をさせてしまった。そして今日は・・・・・・」

 

「やめてッ!!」

 

 ラングレーの振り上げた手が、シンジ君の頬を張った。

 

「あ・・・・・・っ」

 

 思わず手を出してしまったラングレーを、シンジ君は真っ直ぐに見つめ直した。

 

 そして、その張った手を自分の両手で優しく包み込んだ。

 

「僕も今日、アスカと一緒に人を犠牲にしてしまった。僕は絶対に忘れない。アスカも、一緒に覚えていよう。・・・・・・僕らはまだ子供だから、失敗をいっぱいするんだ。だから、それを忘れない様に、胸に刻もう」

 

 シンジ君の慈愛の籠った言葉に、一瞬だけラングレーの顔が苦しそうに歪んだ。

 

 そうだ。ラングレー。受け入れ難いだろう。すごく、イヤな気分だと思うハズだ。僕もそうだったからな。

 

 だが、目を逸らしてはダメだ、ラングレー。シンジ君は、君と一緒にその苦しい道を進もうとしてくれている。それを素直に受け止めるのは、とても難しいハズだ。

 

 現に──、

 

「うっさい!!アタシに指図すんなっつってんでしょ!バカシンジ!!」

 

 ラングレーは、シンジ君の握っていた手を乱暴に振り解いた。

 

「気分悪いったらありゃしない!ミサト!早く車出してよ!アタシは早く休みたいのよ!クタクタなんだから・・・ッ!」

 

 ラングレーは葛城さんと赤木博士の乗る軍用車に、まるで逃げるように乗り込んだ。

 

 僕の横まで歩いてきたシンジ君が、苦笑いを浮かべる。

 

「はは・・・・・・、やっぱり僕じゃあ上手くいかない、か・・・・・・」

 

「そんな事はないさ。シンジ君は優しいだけだ。その優しさってヤツを、彼女も理解できる日が来る。今のラングレーは、ただ、子供なだけなんだ」

 

 ・・・そう、だな。さっき僕はラングレーを無能と心の中で断定したが、文字通りの子供だった訳だ。そこを責めるのは、些か間違っていたかもしれない。

 

 人の成長は遅い。それはもう、どうしようもないほどに。だがら、僕らは彼女が自分のした事を受け止められるようになるまで、じっくりと待とう。

 

 今は、それで良いハズだ。

 

 

 

 

 翌日の月曜日。

 

 僕は『弁当箱のサイズを大きくしろ』とせがんでくる腹ペコ青娘の猛攻を掻い潜り、なんとかシンジ君と登校する事ができた。

 

 ちなみに綾波レイは朝食をしっかりと食べたにもかかわらず、なぜかこんがりといい具合に焼けた食パンを口に咥えて登校していた。真顔のままパンを口に咥えて猛スピードで僕らを追ってくる姿は、はっきり言ってかなりホラーだった。

 

 教室まで来た僕らはそれぞれの席に着く。のだが、弁当箱のサイズ変更を要求するように、僕の席の横に立って無言で僕を見下してくる綾波レイは、何かの怨霊か、もしかしたら自動追跡型のスタンドなんじゃないだろーか。

 

「ほーんま、顔に似合わず、いけ好かん女やったなぁ」

 

「ま、俺たちはもう会う事もないさ」

 

 綾波レイで見えないが、トウジ君たちとシンジ君が、ラングレーの事を噂しているようだ。

 

 だが、噂をすれば何とやら、だ。

 

 朝のホームルーム。その時に教師の後ろからついて入室してくる何処かで見た少女。

 

「惣流・アスカ・ラングレーです!よろしく!」

 

 皆には愛想の良い可愛らしい笑顔を送り、気付かれないようにさりげなく、シンジ君や綾波レイ、それに僕に素早くガンを飛ばしてくるラングレー。

 

(見てなさいよ!アタシ一人いれば、使徒の殲滅なんてヨユーなんだから!!)

 

 とでも言いたそうな顔だ。

 

 

 

 ・・・・・・よし!シンジ君。

 ラングレーの後の事は任せた!!

 

 僕は無言でシンジ君にサムズアップを送る。それを受けたシンジ君が、うへぇと顔を歪めたのは、ちょっぴり面白かった。

 

 

 

To Be Continued…

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございました!これにて第四章は終了になります。

アスカとジョルノはなんだか犬猿の仲って感じになりましたねぇ。書いていた私としてもびっくりです。まぁ、そのうちに打ち解けていくでしょう(丸投げ)

次章はLASの頂点、ユニゾンパートに入ります!果たして成長したシンジ君は、アスカにどのように寄り添っていくのでしょうか!?

それではみなさま、また次回お会いする日まで。
アリーヴェデルチ!
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