ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
・・・・・・本当に短い、儚い夢だったな。この世界において、僕にはちょっとした安息の時間を楽しむ事すら許されないらしい。地味に悲しい事だな。
ネルフ内に警報が鳴り響いている。このタイミングで使徒のお出ましか。少しは空気を読んで欲しいものだ。
僕は読んでいた小説をパタンと閉じると、ゆっくりとストレッチを始めた。どうせ、もうそろそろ僕たちを出撃させるために、誰かがこの独房を訪れてくるんだろう。今のうちに、できるだけコンディションを整えておかなくっちゃあな。
一通りのストレッチを終えて、スーッと息を吸い、ふぅーっと息を吐いて、全身に酸素を取り込んでいく。
果たして、独房で謹慎中の僕らを迎えに来たのは──、
「加持さん!!」
「よ!」
僕の中では警戒度MAXの、あの胡散臭い男だった。
「・・・・・・どーも」
僕は格子に寄りかかりながら、軽く挨拶する。もちろん目を合わせたりはしない。この男の前で、無駄な隙を晒したくはないからな。
「葛城さんから聞いたんですが、たしか、弐号機の引き渡しは終わったハズ、ですよね?なんでまだ、ここに居るんです?」
「おいおい、そんなに俺と仕事するのが嫌かい?」
「嫌とかそういう以前に、何故っていう単純な疑問ですよ」
僕からの冷たい応対に、加持さんは苦笑した。せざるを得ないだろーな、この場合。
「ちょっとジョバァーナ!!加持さんになに失礼な態度とってんのよッ!」
「まぁまぁ、アスカも落ち着けよ。・・・さっき辞令を渡されてね。出向ということでネルフに居残りさ」
それより、と加持リョウジが僕にだけ聞こえるように声を潜めた。
「俺に聞きたいことがあるんじゃないのかい?」
む・・・・・・。
「聞けば教えてくれるんです?」
「いやぁ、ダメだな。君とはもっと『仲良く』ならなくっちゃあ」
「そうですか。まぁ僕としては急いではいないんで、そのうち聞けたらって感じですよ」
「そうかい?寂しいな。俺としては君とは早い段階で『仲良く』しておきたいがな。なんならこの後にでも・・・」
「ちょっと!何を二人でコソコソ喋ってんのよ!」
良い感じに、ラングレーが会話を断ち切ってくれたな。僕としても今はこの男に構っていたいとは思わない。無駄話は好きじゃあないんだ。優先すべき事は他にあるからな。
「か、加持さーん!使徒が来てるんですよねぇ!?僕たち、どうすればいいんですか?」
シンジ君が加持リョウジに呼びかける。言われた本人は「おっと、忘れてた」なんて拍子抜けするような間抜けな声を出しちゃあいるがな。最初からそんな重要なこと、忘れちゃあいないだろう。
「葛城からの伝言だ。3人ともプラグスーツに着替えてケージにて命令あるまで待機、だそうだぜ?ほら、今、鍵を開けてやるよ」
ピピッと何かの電子音が響き、ゴファッという音を立ててドアが開く。ワイシャツを着崩した男が僕の前に立っている。
「・・・・・・・・・・・・」
僕はそんな男の顔を僅かに見上げた。余裕たっぷりとこちらを見下ろす顔が、妙に癪に触るな。
「君のその顔。熱い視線だ・・・・・・照れるね」
「ジョバァーナ!?まさか、あんた加持さんを!?」
「そんなワケがないだろう。何を言ってるんだ、ラングレー」
「び、ビックリした。ジョルノ君、もしかして男の人が好きなのかと・・・・・・」
「世界にそういう人がいるのは否定しないがな。頼むからシンジ君も変な勘違いはやめてくれよ」
僕はため息を吐いて、慣れ親しんだ廊下を歩き始めた。
「ジョルノ君」
僕の背後から、加持リョウジが呼びかける。
「なんです?」
「俺のケータイの番号だ。君ならいつでも、歓迎だよ」
そう言って、手渡したのは手書きの小さなメモ。
この男。どうあっても僕と一度話がしたいらしいな。
いいだろう。乗ってやろう。ただし、今来てる使徒をやっつけた後だったらな。
僕が浮かべたアルカイックスマイルの意図を、この男なら正確に読み取るだろう。案の定、加持リョウジの顔に笑みが広がった。
「ちょ、ちょっとぉ!加持さん!?なんでジョバァーナのヤツには教えて、アタシには教えてくんないのよ!?」
「アスカはもぉ少し色気を磨いてからかな。大人の色気って点では、ジョルノ君の方が数段上だ」
「な、何よソレぇ〜〜〜!」
うーん。なんだか、だな。この加持リョウジっていう男の隙のなさと、隙だらけのラングレーという組み合わせが僕はなんとなく苦手だ。こう、調子を崩されるというかなんというか、自分の中の歯車が空回りする感覚って言えばいいのか?
とりあえず、エヴァに急ごう。僕はなんとなく釈然としないままに、エヴァのケージに向かって歩き始めた。
◇
『警戒中の巡洋艦、「はるな」より入電、「我、紀伊半島沖ニテ、巨大ナ潜航物体ヲ発見。データ送ル」』
『受信データを照合・・・波長パターン青、使徒と確認!』
『総員、第一種戦闘配置!!』
◇
『先の戦闘によって第三新東京市の迎撃システムは、大きなダメージを受け、現在までの復旧率は19%。実戦における稼働率はゼロといっていいわ』
初号機のエントリープラグの中で聞く通信。葛城さんが状況の再確認をしている。
『したがって今回は、上陸直前の目標を水際で一気に叩く!初号機、弐号機、並びに零号機は、交互に目標に対して波状攻撃!近接戦闘でいくわよ!』
「了解!」
「今回『も』、威力偵察はできないってことですね?葛城さん」
『あんたねぇ。先の使徒戦で第三新東京市は地盤をやられてんのよぉ?できると思う?』
「わかってますよ。ジョーダンですって」
『あ〜あ!日本でのデビュー戦だって言うのに、どーしてアタシ一人に任せてくれないの?』
「仕方ないよ。作戦なんだから・・・」
『言っとくけど、くれぐれも足手纏いになるような事、しないでねッ!』
ラングレーの不満気な声が、プラグ内に流れた。ラングレーはどうも自分の能力を過信している節がある。いつかのシンジ君みたいで、何かをやらかしそうで怖いな。
「大丈夫だよ。僕たちでフォローすればいいんだし」
・・・・・・ん?え?もしかして、シンジ君、僕の心の声に反応したのか?
驚いている僕に向けて、シンジ君が苦笑している。
『レイ?アナタもいいわね?』
『・・・・・・了解』
零号機に乗ってる綾波さんだが、その声にはどこか不満があるように思える。
たぶん、アレだな。おやつを食べれなかったって事と、見たいアニメがあるとか、そーゆー小さな不満を抱えてるんだろう。
『ちょっとあんた達ッ!緊張感なさすぎ!本当に足手纏いにならないでよね!』
ラングレーのイラだった声と共に、エヴァンゲリオン各機を空輸していた輸送機から、エヴァが投下された。
さて、と。
初めてだよな。エヴァが3機も並んで作戦に赴いたのは。
まぁ、敵の能力を見極める必要があるから、油断は絶対にできないが。
シンジ君、綾波さん、ラングレーの意思統率ができてないのが若干気になるが、ゴリ押しで行っても問題はないと思いたい。
とにかく──、
「は!?来たッ!!」
巨大な水柱を起こして現れたのは、ヒトデの成り損ないみたいな使徒。
「いつも通りだな、シンジ君」
「うん、やろう!」
僕たちはやるべき事をやるだけだ。
つづく