ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
ズッ!ダンッ!
ズッ!ズッ!ダンッ!
僕とシンジ君、そして綾波さんの三人が、リズムに合わせてステップを踏む。
曲の名前はM・ジャクソンの「今夜はビートイット」。古い曲だが、この曲には聴いた者の身体が勝手に動き出してしまうほどのパワーがある。それを止められるのは、きっとよっぽどの変人だけだろーな。
三人の動きは最初はバラバラだったが、徐々に共鳴し始め、僕たちの動きが見事に統一されていく。それは、この曲に込められているパワーがそうさせているのだろう。
数秒もしないうちに、僕たち三人の動きは完璧なユニゾンを生み出していた。
「あーははははははは!良いわよジョルノ!シンちゃんにレイ!完璧なユニゾンだわ!!」
それを見て爆笑しているのは葛城さん。その横で、複雑な表情を浮かべているラングレー。さらにその横では、加持リョウジが苦笑いを浮かべている。
まぁ、ラングレーからしてみれば全く面白くない光景だろうな。ハッキリ言ってこれは、ラングレーに対する葛城さんの『嫌がらせ』でしかない。
シンジ君とうまくユニゾンが組めない、ラングレーへの当て付けでしかない。こんなやり方、僕は嫌だったんだがな。
まぁ、それとは別に、この曲に対するリスペクトが、僕の中にはある。そのリスペクトゆえに、身体が勝手に動いてしまうのは勘弁してほしい。
ラングレーには、悪いとは思ってるんだぜ?イヤ、ほんと。心の底からな。
◇
「第7使徒の弱点は1つ!分離中のコアに対する二点同時の荷重攻撃、これしかないわ!」
惣流・アスカ・ラングレーが葛城邸に越してきたその日の夜。もう夕飯の時間ということもあって、葛城さんと僕たちエヴァのパイロットの四人は、とりあえずラングレーの荷物で散らかっていた葛城邸ではなく、隣の僕の部屋に集まっていた。
超特急で僕が作った娼婦風パスタ。それをシンジ君、ラングレー、綾波さん、葛城さんの四人に振る舞いながら、僕たちは葛城さんの作戦を聞いている。
「そのためには2体のエヴァの協調、完璧なユニゾンが必要なの!」
葛城さんがパスタを啜っていたフォークをビシィッと、シンジ君とラングレー、そして、僕に突き付けてきた。
どーでもいいが、めちゃくちゃ行儀が悪いぞ、葛城さん。日頃から綾波さんに礼儀作法を叩き込んでいる僕からすると、今の行動は文句を付けたくて仕方ない。
だが葛城さんは、僕の咎めるような視線などどこ吹く風で続きを口にした。
「そ!こ!で!シンジ君、アスカ、それにジョルノ!あなたたち3人には、これから一緒に暮らしてもらうわ!」
突然の爆弾発言。それに対する反応は──、
「「えぇーーーーッ!!?」」
まぁ、妥当な叫びだったな。
「嫌よ!昔から男女7歳にして同衾せず、ってね!」
「そうですよミサトさん!アスカは女の子なんですよ!?僕とジョルノ君の二人と一緒に暮らすなんて・・・・・・」
「アタシの貞操がどうなってもいいっつーの!?」
シンジ君の紳士的な答え方を、身も蓋もない言い方で台無しにするラングレー。だが、正当な叫びだな。僕からは何もツッコむ事はできない。
だが、葛城さんにとっては些細な問題だったらしい。
「使徒は現在自己修復中。第2波は6日後の見込みよ。時間が!ないの!」
冷徹に、任務遂行を僕たちに強要する葛城さん。この場で平常心を保っているのは僕と、パスタに夢中になっている綾波さんくらいだろーな。
「そ、そんな無茶な・・・・・・」
自身の貞操を心配するラングレーをスルーして、葛城さんは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「そこで!無茶を可能にする方法!!」
葛城さんが僕らをよそに、思いっきり胸を張る。
「三人の完璧なユニゾンをマスターするため、この曲に合わせた攻撃パターンを覚え込むのよ!6日以内に!1秒でも早く!!」
葛城さんが手にしたカセットテープを高々と掲げる。そのカセットテープが部屋の照明を反射して、キラーンと輝いた気がした。
6日以内で。
曲に合わせて攻撃パターンを覚え込む、ねぇ。
「なるほど、完璧な作戦、ですね。不可能という点に目を瞑れば、だがな」
ゲームじゃあないんだ。相手が曲に合わせて、こちらに合わせて動いてくれるなんて事、まず無いだろう。
しかも相手は使徒だ。僕たち人類とは違った思考回路で動く生命体相手に、曲で動きを合わせるなんてナンセンスだ。
ハッキリ言って『できるわけがない』。初号機に初めて乗った時もそうだったが、ネルフは不可能を前提にした作戦を立てるのが好きなのか?
と、いうか。
「葛城さん。貴女はいま初号機と弐号機を前提にした話をしているが、零号機はどーなんだ?綾波さんは今日の戦闘、無傷で離脱していただろう?」
N2爆雷、だったか?あの核爆弾もかくやという超威力の爆弾で、あの二体に分裂する使徒は動けなくなっているんだろ?
そこに零号機で近づいて、パレットライフルかなんかで同時にコアを撃ち抜けば解決するんじゃあないか?
僕の抱いた当然の疑問に、しかし葛城さんは首を振った。
「確かに、その案も考えられたけど、それはリツコから却下されたわ。零号機はレイとのシンクロにまだ若干の誤差がある。それを解決しないままでは、使徒のコアの二点同時荷重攻撃は難しいそうよ」
葛城さんはそう言うと、娼婦風パスタをずるずると啜った。葛城さん、せめて音は出さないでくれよな。
まあ、そうなると、必然的に初号機と弐号機の出番というわけか。
だがこの作戦(とはとても呼びたくないが)、ふと思ったんだが──、
「僕の出番は無いんじゃあないんですか?」
「え!ジョルノ君!?」
シンジ君が驚きの声をあげる。
「どおして、そう思うのよ?」
「いや、葛城さんの中で初号機に乗るのがシンジ君と僕なんだろーというのは予想できたんだが、これには、実際にエヴァを動かせる人間二人の完璧なユニゾンが必要なんだろう?だとしたら、サブパイロットの三人目である僕の思考は、シンジ君とラングレー、その両方のユニゾンにとっては邪魔なノイズ、なんじゃあないかと思ってな」
「あ〜・・・、うん、そうねぇ」
葛城さんは困ったように頬を掻いていたが、
「確かにジョルノの言う通りなんだけど、一応、初号機の最大シンクロ率はシンちゃんとあんたの二人乗りだし、できるなら三人でユニゾンやって貰いたかったんだけど・・・・・・」
「とはいえ、ユニゾンの協調は、三人の方が難しいと思うぞ?僕とシンジ君でユニゾンするなら今まで一緒にやってきたんだ。多分楽勝だが、ラングレーと三人となると、途端に難易度が跳ね上がるからな。シンジ君に合わせようとしながら、ラングレーとも同じ動きをするのは、ハッキリ言って無理があると思う」
「むむむ・・・・・・」
「三人より二人のほうが合わせやすい。少なくともこの6日間て短い時間でやるならば、やはり二人でやるほうがまだ成功率は上がるだろーな」
悩む葛城さんに助言した僕に続くように、珍しくラングレーが正論を口にする。
「あ、アタシも、やるならせめてシンジとがいいわ。難易度的に、だけど。アタシの貞操問題は、ちゃんと対策してもらった上で、だけど・・・・・・」
珍しく、弱々しい提案の仕方だ。
「ん〜〜〜・・・、まあ、仕方ないわね。ジョルノの言い分もわかるし・・・・・・シンジ君、アスカ。それで行くわよ。いい?」
「は、はい・・・がんばり、ます?」
「何をどう頑張ればいいのか、ハッキリ言ってわかんないけどね」
「よろしい!」
シンジ君とラングレーの返事を聞き、葛城さんが満足気に頷く。残っていたパスタをズボボボッと音を立てて啜った後、椅子から立ち上がってシンジ君とラングレーに指示を出す。
「とにかく、食べ終わったらアスカとシンちゃんは私の部屋に来て!今日はもう寝るわよ。明日の起床は6時半!いいわね」
「はい・・・・・・」
「わかったわ・・・・・・」
明らかに乗り気ではない二人だが、ここまで来れば腹を括るしかないだろーな。
二人もパスタを食べ終わると、力無く「ごちそうさま」と食事の礼を言って、葛城邸に帰っていった。
ん〜。何か、僕が手伝える事があればいいんだが。今のところ、これはシンジ君とラングレーの問題だ。どう手伝えるのかは見当もつかないな。
そんな風に考え事をしていたからだろう。僕のパスタの皿は、横にいた青い髪の獣に掻っ攫われてしまっていた。
◇
さて、そんな経緯を経て今に至るわけだが。
場所は葛城邸。目の前で、まるで『ツイスターゲーム』のようなシートの上で手足を動かしているシンジ君とラングレー。
しかし、二人の動きは全くと言っていいほど一致しない。というのも、ラングレーがシンジ君に合わせようとしないからだ。
二人の特訓を見学しているのは僕と綾波さん、葛城さん。それともう一人。
「う、う〜〜〜〜ん・・・題して、鶴と猿の小躍り・・・・・・」
この作戦と、ダンスの選曲と振り付けを考えたらしい加持リョウジが、顎に手を当てて唸っている。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」
「ふぅ、ふぅ、ふぅー・・・・・・」
特訓を続ける二人は、目も合わせない。汗を拭きながら、呼吸を整えるのに必死だ。
まだ初日だ。協調なんてする訳がないのはわかっているだろう。
それでも、お互いの間に空いた溝はかなり大きいという事を、二人とも実感したようだ。
「ん〜、埒が開かないわねぇ」
葛城さんがイタズラを思いついたように顔をニヤつかせながら、僕と綾波さんに視線を向けた。
「なんですか?」
「ちょっとアスカは休憩してて。それで、ものは試しなんだけどさぁ。ジョルノとレイとシンジ君、一回なんでもいいから踊ってみてよ」
なんだその無茶振りは。
「それ、意味があるんですか?ミサトさん」
ほら見ろ、シンジ君が嫌な顔してるぞ。僕の横の綾波さんは、なぜか鼻息を荒くしてやる気満々だが。
「ちょっとした休憩の余興よ〜。なんでもいいから、リズムに乗って踊ってみるだけだからさぁ〜」
僕は葛城さんの横で顎に手を当てている加持リョウジに視線を送った。彼はそれを受けて、軽く肩をすくめるだけ。
仕方ないな。だが。
「こんなダサい曲で踊る気にはなれないな。せめて僕の指定する曲でやらせてくれないか?」
「お!曲のリクエストがあるのね!楽しみにしてるわよ!ジョルノッ!」
はぁ。綾波さんは無駄にやる気だし、シンジ君は不安げな顔をしてるし、ハッキリ言ってあまりいい気分ではないな。もし仮に、僕たち三人がうまい具合に揃ってダンスできたら、流石にラングレーも気分を害すだろう。
まぁ、あり得ないだろーがな、と思いながら、僕はシンジ君と綾波さんの前に立った。それを合図に曲が流れ始める。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「なんで踊れているんだぁーーーッ!?」
僕は一曲踊り終わったあと、叫ばずにいられなかった。
「え?だって、ジョルノ君が前で踊ってくれてたし、それを見本にして後はリズムに乗れば・・・・・・」
「簡単、だった・・・楽しい。胸がポカポカする」
く、くそ!まさか僕が後ろの二人にとってインストラクター的な立場になっていたとは!
僕らの様子を見ていた葛城さんは爆笑しているが、その後ろで休憩を取っていたラングレーの表情は確実に曇ってきている。
まだ初日だが、僕はそれを見た途端、この特訓が波乱に満ちたものになるだろう事を予感していた。
つづく